本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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 お待たせいたしました。最終章となる第八章をお届け致します。
 これまで起承転結のうち、起と結だけは原作に準処してきた本作ですが、この最終章だけはオリジナルのラストを予定しております。
 なるべく毎日投稿をしつつ、最後を迎えられるようやっていきますのでよろしければお付き合いください。よろしくお願いします。


最終章 新たな世を造るには
第8-1話「生きるために」


「まったく、どうして貴女まで許可が下りたのやら……。鬼殺隊としては炭治郎君と禰豆子さんさえ来てくれればよかったのに」

「だ~か~ら~。自分の姉へ会いに行くのに、なぜワザワザ許可がいるのよっ。それに私はあの二人のお姉さん役でもありますからね、保護者の同伴は当然です!」

「その保護者役だって私がいれば――」

 

 後方から、これまでの鬱憤を解き放つかのような言葉の応酬が聞こえてくる。

 炭治郎一行は現在、鬼殺隊本部へ向かう真っ最中だった。場所を告げられず、周囲は霧で何も見えず、とりあえず付いて来いとばかりに歩かされ数時間。今だ到着の兆しも見えない道程はなんとも疲れが溜まるものだ。これまでは一切無言の旅路だったことも要因の一つであったのだろうが、ふと前方から声をかけられた。

 

「お前ら、何者? なんで蟲柱様とあまね様の妹君が執着してんの?」

「……言いたくないです……」

 

 集団の先頭を歩くのは案内役の(カクシ)の男と炭治郎、そして兄の羽織の(すそ)を掴んで離さない禰豆子の姿がある。さりとて組織の末端と言っても差し支えのない隠の男にも、久遠の顔が知られていたことに炭治郎は驚きを隠せない。

 

「あの、もしかして久遠さんは鬼殺隊でも有名人だったりするんですか?」

「うんにゃ、お会いしたのは今回が初めてだ。だがなあ、なんというか雰囲気が似てるんだよ。御館様の奥方である あまね様とな、だから分かるとしか言いようがねぇな」

「はあ……」

 

 炭治郎の脳裏に双子の久遠像が思い浮かぶ。

 美人さん二人で実に絵になるといえば間違いないのだが、なんというかそれ以上に恐ろしい光景だ。

 

「しっかし、このさき鬼殺隊もどうなんのかね。まさか鬼を二人も本部へ連れて来いって命が下るとは思いもしなかったわ」

「……分かるんですか?」

 

 炭治郎の口調が少しだけ固くなる。鬼殺隊に所属する人にとって、鬼なんて存在は敵という認識しかない。それは那田蜘蛛山で骨の髄まで思い知った事実だ。だが口ではそう言っても、この隠の男から怨恨の臭いはしなかった。だからこそ炭治郎もそれくらいの感情の起伏だけで済んだのだ。

 

「そりゃあ、な。隠に所属する人間は呼吸こそ使えないが、感覚は鋭敏なんだ。言われれば密偵のような役割もするし、人間と鬼の区別くらいつかなきゃ敵地から生きて帰れん」

「……貴方も鬼は許せませんか?」

「いや? 俺は特に家族を殺されたりはしていないからな。鬼には鬼の事情があるんだろうし、それが俺達と相いれないから戦っているだけって割りきってる」

「……」

「こんなご時世だ。襲ってくる相手を(あわ)れんでいちゃあ、自分が生きてはいけないからな。……生存競争ってやつだ」

 

 一見すれば、隠の男が口にした言葉は冷めているようにも聞こえる。だが本当の真理とはそんなものなのかもしれないと、炭治郎は思い直した。自分が生きるには襲い掛かる外敵を排除しなければならない。それはどんな生き物にだって共通した摂理なのだ。

 例え鬼が絶対的捕食者であったとしても、ただの食料として生を全うするわけにはいかない。俺達は人間であり、牛や豚のような家畜ではないのだから。

 

 だがそれでも疑問は残る。

 

「じゃあなんで、鬼殺隊に……?」

 

 炭治郎が思う鬼殺隊とは鬼の恨みが渦巻く(かま)である。誰もが鬼に家族を殺され、復讐を誓う人としての鬼が集まる場所という想いを抱いていた。それは自分自身が仇討ちという地獄の道を歩むからこそ、感じたものでもある。

 だがこの隠となった男性は、別段鬼に恨みはないという。ならばもっと良い職があったのではないか、そう思わざるを得ないのだ。

 

「ん? ああ、簡単な理由だわ。……飯が食いたかったし、食わせたかったんだ」

「……飯? ご飯ってことですか?」

「そそ、俺の生家は貧民街にあったからな。両親のやつ、食わせる米もないくせに俺も含めて四人も子供作りやがってよ。俺が早々に稼がないと下の兄弟達が飢え死んじまうような状況だった」

「……もっと、安全な仕事はなかったんですか?」

「んなもんねぇよ。四民平等なんて法律は、まともな生活を出来てる奴等が恩恵を受けるだけで、俺達貧乏人に何かあるわけじゃねえ。国の軍に入って飯を食うより、少しだけ鬼殺隊の方が米をもらえた。そんだけの話だ」

 

 もう炭治郎の口から出る言葉などなかった。

 貧しいと思っていたこれまでの山暮らしが、実は恵まれていた方なのだと痛感したからだ。竈門家は少なくとも商売の点から言えば失敗していなかったし、父から受け継いだ人脈のおかげで客には困らなかった。麓にあった村の皆が自分を我が子のように可愛がってくれていたからだ。竈門家は死しても父の慈愛に守られていた、その事実を今更炭治郎は痛感したのである。

 そんな二人の間に、久遠が身体ごと割り込ませてくる。

 

「…………ふーん。じゃあ組織としての鬼殺隊は、まあまあマトモな運営を行なっているようね。あまね姉さんもお元気かしら?」

「俺達下っぱがあまね様の顔をご拝謁する機会なんざめったにありませんが、別に病に倒れたなんて話も聞きやせんぜ」

「姉さんも昔は身体が弱かったから、少々心配していたのだけど……安心したわ。ほらっ、あの真っ白っぷりじゃない? 外に出るだけでも眩暈で倒れそうなくらいだったんだから。でもね……」

 

 それから久遠の姉自慢は永遠のように続いた。

 姉の話をする彼女はなんとも楽しく、嬉しそうで。一見、そこに姉妹のしがらみなど無いように炭治郎は思えたのだ。

 

 ◇

 

 それからまた、しばらくの時が流れる。

 どこへ行くかも分からぬ道なき道を、今も隠の男が先導し続けている。最初はまた来る時のため道順を覚えようとしていた炭治郎だったが、なぜかうまく頭が(まわ)らぬ違和感に襲われた。なぜか頭の中に霧がたちこめ、うまく思考が組み立てられないのだ。もはやここが街中なのか、それとも山中なのかさえ定かではない。

 ふと周囲の気配を探った炭治郎は、いつのまにか一行の人数が減っている事実に気がついた。

 

「……あまり深く考えるな。頭を空っぽにして俺について来い。大丈夫だ、お前も妹も俺が責任もって本部まで連れて行ってやるから」

「久遠さんは?」

「あっちはあっちで蟲柱様が先導してくれてる。心配ない、……はずだ」

 

 もはや頼りは隠の装束を身にまとった男の声のみ。炭治郎は手探りで禰豆子の手を探りあてると、決して手放さぬよう力を籠めた。もしここで迷えば、そのまま地獄の底へと落ちてしまいそうな錯覚に捕らわれたからだ。

 

「禰豆子、お兄ちゃんの手を離すなよ」

「……う」

 

 天地の感覚さえも無くなりそうな違和感に、鬼である禰豆子さえも不安そうであった。ここでは炭治郎自慢の嗅覚も意味をなさず、無心で足を前に出すほかない。

 

 やがて前方の霧が薄くなり始め、己の意識がハッキリと自覚できるようになってくると、そこには桃源郷があった。

 まるで神が住まう地であるかのような管理されつくした日本庭園。松葉に一本の乱れもなく、池の水は底まで透明で、敷き均された砂利には砂汚れ一つさえもない。その中心にはこれまた見事な日本家屋が立ち並ぶ。東京浅草でお世話になった西洋風な神藤邸とはまた違う、純和風の威厳が炭治郎達の視線を釘付けにしていた。

 本当にこの世の光景かと疑う竈門兄妹を尻目に、隠の男が口を開く。

 

「鬼殺隊本部は文字通り、鬼狩りの中枢だ。ここだけは決して鬼に知られてはならないし、入ることも許されない。……人にとって最も安全な、天上の地と言ってもいい」

「俺も妹も、来たくて来たわけじゃないんですけどね……」

「だろうな、表情を見ればわかる。だがお前等を案内することが俺が受けた指示だ。何を言おうが連れて行くぜ」

 

 そう言って更に誘導しようとした男であったが、後方から呼び止める声があった。

 

「案内はもうここまでで結構ですよ、炭治郎君達は私の蝶屋敷に滞在してもらいますから。分かりづらいでしょうが、もう日が暮れるところです」

「しのぶさん!? ああ、だから禰豆子が外に居られるわけですね」

「その辺りもきちんと考えていますよ。少なくとも私は、禰豆子さんに危害を加える意志などありませんから」

 

 そのしのぶの口調には若干の含みがある。

 自分は危害を加えないが、他は保障できないと案に諭しているようでもあったのだ。

 

「その半年に一度という柱合会議というのが明日、ここで行なわれるんですね」

「ええ」

「そこで俺達の処遇も決まる、と」

「……そういうことに、なりますね」

 

 炭治郎の声にも、そしてしのぶの声にも緊張感が溢れている。一応まだ鬼殺隊士という扱いではあるが、この先どうなるかは予断を許さない状況だ。もしかしたら妹と一緒に処分されるのではないかと疑っても仕方がない。

 

「あの、久遠さんは? 貴方と一緒だったはずじゃあ」

「……自身の姉である、あまね様に会いに行ったわ。安心してもらっていいですよ、いくら鬼の血を引いているといっても奥方の妹君ですから。いきなり刃傷沙汰にはなりませんし、させません」

「信じて、いいんですね?」

「ある程度は信じたからこそ、大人しく付いてきたのでしょう?」

 

 しのぶの声は冷静だった。だがそんな言葉の中にもう優しさの臭いを感じたからこそ、炭治郎はこの蟲柱を信じたのだ。おそらくは、あの那田蜘蛛山の人を数としか見ない策も本意ではなかったのだと思えたから。それに先ほどの楽しげに姉自慢を語る久遠の表情から見ても危険はなさそうだ。

 

「鬼だろうが人間だろうが、良い人もいれば悪い人もいるんだよな……」

 

 ボソリと、誰にも聞こえない声で呟く。

 誰も彼もが鬼に憎悪を向けているわけではない。先ほどまでの隠の男との会話で、そんな事実を再確認したことも炭治郎には大きかった。

 

 それに、

 

(まあ、あの久遠さんだしなあ……。俺が心配するまでもないか)

 

 なんて本人が聞いたら激怒しそうな考えを持ちつつも、禰豆子の手を握りつつ、炭治郎は本日の宿へと案内されてゆく。

 

「二人とも那田蜘蛛山の傷が完治したわけじゃないのですから、今日は精密検査の後にゆっくりと休むこと。明日は無理にでも、柱合会議に出席してもらわねばなりませんからね」

「……分かってます」

 

 しのぶの言葉に炭治郎はゆっくりと、覚悟をきめるように頷いた。

 勝負は明日だ。

 明日、炭治郎はなんとしても、妹を守るため己の意思を貫き通さなくてはならない。それは東京の神藤邸へと帰還した本当の母、紗枝とかわした約束でもあるのだ。




 最後までお読みいただき有難うございました。
 竈門兄妹にとって、ある意味鬼よりも怖い鬼殺隊本部が今章の舞台となります。

 原作では御館様の一声で終わった炭治郎の裁判ですが、このお話においては神藤久遠の存在と、日の呼吸の覚醒が関わることで別の方向へと脱線していきます。(実はもう一つの要素もあるのですが、それは本編にて)
 
 なるべく毎日投稿を欠かさぬように続けていきますので、最後にもう少しお付き合い頂ければ幸いです。

 ではまた明日っ!
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