本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第8-6話「暗躍する九本の柱と御館様」

「あのっ、……ひさしぶり!」

 

 年頃の女の子と対面で話す緊張感に包まれながらも、炭治郎は久しぶりの再会を喜びながら声をかける。

 だが久しぶりに再会した少女は、ボソリと一言だけ疑問の声をあげた。

 

「貴方……、だれ?」 

 

 冷たい一言だった。絶対零度もかくやと言う極寒ぶり、あまりの衝撃に心臓まで凍りつきそうだ。想像だにしなかった返答に、炭治郎はあやうく椅子から転げ落ちそうなほどの肩透かしを食らってしまう。

 まさかとは思うが、……もしかして。

 

「………………あの、俺のこと、覚えてない?」

「……(コクリ)」

「藤襲山での最終選別で一緒だった――」

「……? ああ、試験の終わりまで逃げ回ってたひと?」

「違うっ、それは善逸! アイツはあっちの病室で寝てるから!!」

「???」

 

 まるで表情を変えない、お人形さんのような少女が顔全体に疑問符を浮かべている。どうやら炭治郎のことなどまるで記憶にないらしい。

 

(確かに、あの時の俺は皆に比べて未熟だったけどさぁ……)

 

 そう思いつつも、せっかくの同期なのだから覚えていてほしかった。あの伊之助でさえ、この面貌を記憶していたというのに。

 

「この子は少し変わってましてね、どうか許してあげてください」

「はっ、はぁ……」

「??」

 

 会話にならないという以上に、言葉にもならない返事しかよこさない少女を前にして炭治郎は脱力する。これでも言葉を話さない人物との会話には慣れていたつもりだったのだ。他でもない、鬼となった禰豆子という存在が常に隣に居たのだから。

 

「俺の名は竈門炭治郎。君と同じく、今年の最終選別で鬼殺隊士になったんだ。……よろしく」

「……? っ、私は栗花落(つゆり) カナヲ」

 

 少しの間があったものの、炭治郎が自己紹介を交わそうとした意図は伝わったらしい。小さく静かな声で返事を返してくれたカナヲは、これで用は終わりとばかりに再び口を閉ざす。

 

「………………」

「………………(かっ、会話が続かないっ!)」

「はぁ、カナヲは相変わらず無口さんですね。もうここはいいですから、引き続き調合をお願いします」

「……(コクンッ)」

 

 しのぶの言葉に従ったカナヲはそのまま踵をかえし。カラカラ……、ピシャ! という音を残して再び戸の向こうへ消えてしまった。

 

「ごめんなさいね、炭治朗君。悪い子ではないのだけど」

「いえ、そういえば前に会った時もあんな感じでしたから」

 

 別に嫌われているといった印象ではない。どちらかと言えば、炭治郎自身に興味がまったくないといったところだろうか。

 

(あれっ? それってもっと悪くないっ!?)

 

 心の中で自分自身にツッコミを入れる程度にはショックだったらしい。ガタンと、今度こそ炭治郎は椅子から転げ落ち、両手を床へとつけた。

 

「あの、……炭治郎くん?」

「俺って、人付き合いが得意な方だと思ってたんだけどなあ……。久遠さんも好いてくれたし」

「あの人もかなり特殊な人? だと思いますけど。……色んな意味で」

「うぐっ、確かに……」

 

 炭治郎のすぐ傍に、しゃがみ込んで追い討ちをかけてくるしのぶの言葉。

 別に自分が万人の女性に好かれるほどの男だとまでは思っていないが、それでも炭治郎の心に傷が付いたのは間違いのない事実だった。

 

 ◇

 

 炭治郎達が鬼殺隊本部に到着した日の夜。

 鬼殺隊本部にて生活するすべての者が寝静まった丑三つ時に、数本のロウソクだけが明かりを(とも)している部屋が存在した。周囲に響くは初夏を告げる虫の音のみ、だがその部屋だけは無言の熱がこもっているような雰囲気をかもし出している。

 上座に座るは鬼殺隊の頭、全ての隊士から羨望(せんぼう)を受ける産屋敷耀哉(うぶやしき かがや)。そして下座にて膝をつき、礼をつくすは九人の柱。事実上の鬼殺隊首脳会議であった。

 

「さて、みんなご苦労様。それぞれの近況は後にじっくりと聞かせてもらうとして、明日に柱合会議を控えた今、話し合うべき議題は承知しているね?」

「うむっ、水柱となったばかりで敵に捕らわれ、左腕を失った大馬鹿者の処遇を決定するっ!!」

「それに今年の最終選別に合格した(みずのと)に鬼を連れた、わっぱが居るというものだ。……信じがたいが、真なる日の呼吸に目覚めたと……」

 

 御館様である耀哉の問いに、必要以上の大声で炎柱が、舐めつけるような陰湿さで蛇柱が答えた。

 

「本当か? 派手に嘘ついてんじゃねえだろうな?」

「間違いありませんよ宇髄(うずい)さん、私がこの目で見届けましたから。もっとも、今一度やってみせろと言われても難しいようですが。……なにより」

「鬼から人間に戻った子が蝶屋敷で治療されているのよね? もと下弦の伍だった少年だとか?」

 

 音柱の疑問に蟲柱が答え、恋柱が補足する。

 

「なぜ、わざわざ治療する? 殺しちまえばいいじゃねえか!」

「貴重な情報源である、ということだろう。かわいそうに、全ての尋問が終った後に優しく成仏させてやらねばなるまい……」

「………………」

「………………」

 

 風柱が声を荒げ、岩柱がジャラジャラと数珠をこすりながらも答えを口にする。無言を貫いているのは水柱と霞柱だ。

 この鬼殺隊本部に全ての柱が集まった。通常、柱は東西南北どこに鬼が出没しても対応できるよう、各地に分散して配置されている。那田蜘蛛山討伐隊の大将に蟲柱であるしのぶが任命されたというのも、元花柱であるカナエの担当区域をそのまま受け継いだからだ。

 柱はよほどの事態が発生しない限り、その持ち場を離れることはない。鬼舞辻 無惨は勿論のこと、配下の十二鬼月でさえ消息が一切つかめない現状ではこうする他ないと言った方が正しい。つまりは今が、それほどの異常事態であるということを差し示している。

 

「事前に集まってもらったのは他でもない、その癸の子が隊士を目指したキッカケが無惨と出会ったことであるらしいんだ」

「なんですとっ!!?」

 

 耀哉の話に声を上げたのは炎柱だけだが、驚愕に目を見開いているのは他の柱も同様だ。例外が居るとするなら、竈門兄妹と密接な関わりをもった水柱だけである。

 

「では、姿形や能力なども判明したのでしょうか!?」

「そこは直接目にした冨岡義勇から説明してもらおう。……義勇、お願いできるかい?」

「……御意。ですが御館様、無惨は新米隊士一家を鬼化して以降、我等の前にはこれまでどおり一切姿を見せておりません。この目が見たのは二十台前半の白い洋服を着た男であり、恐ろしいほどの赤さを誇る鬼眼だったということ以外は」

 

 義勇の言葉は、それほど貴重な情報源とはなりえなかった。そもそも無惨が人を鬼へ変えるという技は鬼殺隊にも代々伝わってきた周知の事実である。

 

「なぜその場で斬り伏せなかったっ!?」

「……人命救助を最優先させた結果だ、炎柱殿。それが件の竈門兄妹なわけだが、正直刺し違えたとしても俺だけでは無惨の首を獲れなかっただろう」

「その場にはわが姉であり、今は亡き花柱も居たとのことですが」

「あの人は無惨が去ったのちに到着した。……それが故意かどうかはしらん」

 

 淡々と、事実のみを答える。

 だがせっかく振って沸いた好機を逃した義勇に、他の柱から送られる視線は冷たかった。ここでどれだけの弁解を重ねようとも意味がないのは、自分自身が一番理解している事実だ。

 その場にいる柱の殆どが義勇を睨みつけるなか、最年長の岩柱:悲鳴嶼 行冥(ひめじま ぎょうめい)が言葉を発する。

 

「過ぎてしまったことを悔いていても仕方ない。それで、水柱殿の見立てでは『何人の柱が犠牲になれば』、鬼舞辻 無惨を討伐できると感じた?」

「………………」 

 

 義勇の口がなかなか開かない。

 この場に集まった柱達はそもそも、鬼の討伐に命を投げた死人達だ。己の死さえも数字として考え、目的を達成するためには手段を選ばない。それこそが柱として必要とされる心構えだ。だがその上で義勇が口を紡ぐということは、それ以上の被害を想定していることに他ならない。

 ゆっくりと、耀哉が義勇という沈黙の扉を開く。

 

「義勇、聞かせてくれるかい?」

「……はっ。おそらくは柱全員が命を賭したとて、それでもまだ足りないかと……」

 

 上段の間に座る耀哉を始め、全ての柱達の間に緊張が走った。

 義勇は竈門家での一件を始めから見届けていたわけではない。炭治郎と鬼となった禰豆子だけが生き延び、他の兄妹が自我を失ってから飛び込んだにすぎない。あの場にいた鬼舞辻 無惨の手を全て見届けたわけではないのだ。

 それでも感じるあの威圧感。それは義勇が今まで対峙した全ての鬼を足したところでまだ足りぬ、圧倒的な力の差を感じた。今思い返せば、なぜ自分達は死ななかったのか不思議なくらいである。

 

「……怖気づいているわけじゃあ、ねえよな?」

 

 風柱が苦し紛れに言葉を放つが、その声色は本当に疑っているというものではない。いくら柱に成り立ての義勇とはいえ、その力を洞察眼を認められたからこそ、この場に居るのだ。義勇の言葉を疑うということは、他の八本の柱は勿論、柱の任命権を持つ耀哉まで疑うことに他ならない。

 

「さてさて、それは困ったものだね。今の我々では無惨に対抗できない、ならば新しい力を取り込む他にない」

「それが真なる日の呼吸に目覚めた、鬼子連れの新米隊士だというわけですなっ!!」

「そうだね、杏寿郎(きょうじゅろう)。今の鬼殺隊に残された手段は数少ない、ならば我等も変革を求められているのかもしれない……」

 

 耀哉の言葉は、これまでの鬼殺隊の常識をひっくり返すような案だった。

 よりにもよって、怨敵であるはずの鬼を味方に引き入れる。そんな事態はこの千年、決してありえなかった決断だ。

 

 誰にも正解など分からない。もしかしたら、取り返しのつかない惨劇を生み出してしまうかもしれない。

 

 皆が自らの考えに埋没するなか、最後に言葉を発したのはやはり、御館様と敬愛される産屋敷耀哉だった。

 

「明日の柱合会議にて、その二人を見定めることにしよう。我々人間の味方か、それとも身内に巣くわんとする悪鬼か。この場に居る全員で見れば、間違いないだろうからね」

 

 ふぅ、小さく息を吐き。だが一切の表情を変えることなく、耀哉は歴戦の柱達の意見をまとめた。

 鬼殺隊にとって、明日は間違いなく重要な一日になるだろう。それでも耀哉は笑みを絶やさない。物事は希望をもって望まねば、たとえ明るい未来があったとしても得ることなどできなはしない。

 そんな耀哉だからこそ、九人の柱達は無条件の敬愛を捧げているように思われた。

 

 前日の打ち合わせとは思えないほどの綿密な会議が続く。

 次の議題は何だろうか。どうしても話題は、那田蜘蛛山に関連する十二鬼月の動向が中心となっていた。

 

「今現在、保護している元下弦の伍であった少年ですが。上弦の弐:童磨から炭治郎君が聞いた話では花柱であった姉の頭を喰らい、下弦の壱へと格上げされたと言っていたそうです。ですが……」

 

 夜闇が周囲を支配するなか、御館様と柱達の会議は続く。

 明日の柱合会議を完全な形で終わらせるために――。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 もしかしたら自分って女性にモてる? と心ならずとも思っていた炭治郎君の挫折と、明日の柱合会議の方向性を議論する御館様と柱達でした。

 会議なんてものは、事前にどうなるか決まっているようなもんです。その場で最適な答えなど早々出ませんからね。
 そういえば原作の義勇さんはこの柱合会議でどんな罰を受けたのでしょうか? なんか、なぁなぁで誤魔化されたような気がするのですが……。

 ご存知の方、いらっしゃいますかね?(汗

 さて、次回はいよいよ柱合会議が始まります。裏で暗躍する御館様と柱達は、竈門兄妹にどんな裁きを下すのでしょうか?
 明日の更新をお待ちください。
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