本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第8-11話「疾風」

 曲者だあっ! と、その風は吼えたりなどしなかった。なぜならそれは風の(うわさ)ならぬ「風の知らせ」と呼ぶに相応しいものだったからだ。

 鬼殺隊の奥に存在する御館様の住居、そこにかつてない脅威がせまっている。その確信は決して荒唐無稽(こうとうむけい)なものでもなく、風柱だけが気付く微細な空気の乱れを敏感に察知した結果である。

 九人の柱にはそれぞれ、これだけは他の柱には負けぬという特徴があった。岩柱であれば常人ならざる怪力、炎柱であれば決して燃え尽きぬことのない闘志など。身体的なものや精神・頭脳的なものなどその種類は多岐にわたるが、その中で風柱が持つ特徴は「直感」である。

 風柱:不死川 実弥(しなずがわ さねみ)はたとえ、眠りについていたとしても周囲の異常を察知できる異能の持ち主だ。言動は乱暴そのものだが仲間の窮地(きゅうち)をいち早く察知し、誰よりも早く戦場に立ち、最前線にて日輪刀を振るう。誰よりも傷だらけの体がそんな彼の優しさを証明していた。

 

「いきなり本丸を落とせるなんて思ってるんじゃねえぞ……!」

 

 まるで鬼眼のような瞳を見開き、隠の隊士が曲者に襲われたという事実を「なんとなく」確信する。炭治郎一行の作戦は隠の男、後藤に見つかった時点で破綻(はたん)していたのだ。

 

 まさに風柱の名に恥じぬ、疾風のごとき速さだった。

 いくら広大な敷地面積を誇る鬼殺隊本部といえども、その規模は一部落程度、五十件ほどの家々が建つ規模である。あまり多くの施設を一箇所に集中させると万が一の時、鬼による被害は甚大なものとなるからだ。いくら結界をもって存在を隠しているとはいえ、大きければ大きいほど隠しづらい。それに加えて一番の理由は、実際に襲撃があった際、どこへでも迅速に駆けつけられる広さが望ましいという利点もあるためだ。

 

 時間にしてわずか数十秒。屋根という屋根を跳び、最短距離で現場に駆けつけた風柱が見たものは。

 朝の柱合会議で飼い慣らしたと思っていた兄妹と、かなり前に死んだという報告を受けていた花柱の姿だった。

 

「炭治郎君、禰豆子ちゃん。逃げなさいっ!」

 

 地上からは懐かしい声が聞こえてくる。

 風柱に再会の喜びはなかった。それよりも賊と化したであろう、かつての仲間への怒りが体中に満ちてゆく。屋根の上から飛来した勢いを若葉色の日輪刀にのせ、かつての仲間へ向けて振り下ろす。周囲に甲高い金属の激突音をたてながらもカナエはどうにか弾き、お互いに距離をとった。

 

「んあっ? これはこれは……、誰かと思えば花柱さんじゃねえか。黄泉の国からどうやって帰還したんだ?」

「ええ、この世に未練が沢山あってね。みーちゃんこそ、元気そうで何よりね」

「俺をその変な仇名で呼ぶんじゃねえ!」

 

 お互いが一瞬も目を離さず、次の一撃を警戒しあう。

 こうして真正面から対峙した時点でカナエ側は不利だった。花の呼吸は様々な幻惑を得意とするのに対し、風の呼吸はその名の通り何よりも速度を重視する。堂々と居場所をさらした幻術など本来の力の半分にも満たないのだ。

 

「提案なのだけど……ここはお互い、何も見なかったことにしない? みーちゃんだって、私達が御館様に害をなすつもりがないことくらい分かるでしょ?」

「ああ、そうだな。お前らが本当に殺意を持っていたのなら容赦なんざしていねえ」

「でしょでしょ? さっすがみーちゃん、話が分かるわ……」「けどな、テメエが隊律違反を犯した事実は明らかだ。……なぜ、死んだ風をよそおった? 仲間である俺達まであざむいてよぉ?」

「その点については黙秘します」

「んな戯言(ざれごと)で、この俺が納得するとでも思ってんのか」

 

 風柱と花柱の間に、静かな戦いが繰り広げられていた。

 状況は膠着状態。お互いがお互いの技を熟知している柱同士の殺し合いなど、不毛の二文字につきる。だからこそ、この状況を動かすのは自分だと炭治郎は決意した。

 カナエの隣に陣取り、日輪刀を構える。炭治郎とて自分の実力でどれだけ戦況を変えられるか分からない。それでもここで、カナエを置いて逃げるなどという選択肢はありえないのだ。

 

「なんだぁ、小僧。もう、朝のような仲良しこよしな関係じゃあねえぞ」

「不死川さん、でしたっけ。俺達はこの先で拘束されている大切な人を取り戻したいだけなんです! ですからお願いします、見逃してください!!」

「……知らねえわけねえだろ。あまね様の妹君ではあるが、鬼舞辻 無惨の娘だって言うじゃねえか。つまりは鬼だ、鬼は殺す」

「久遠さんは今までアンタ達が戦ってきた鬼とは違う。人間と鬼、両方の未来を想う優しい人ですっ!」

「テメエの戯言を、いったい、誰が、どうやって証明するっていうんだ? 鬼は鬼だ、人間が生きるかぎり鬼の存在は許さねえ。結局は生存競争の一環だ、人間か鬼、そのどちらかが滅ぶまでこの戦は終わらねえんだよ」

 

 釈迦に説法、馬の耳に念仏。

 まるで会話にならない風柱を前にして、ついに炭治郎も覚悟をきめた。そして更に隣には頼もしい相棒()の姿もある。

 

「……やっぱり、俺達は鬼殺隊に居られない。こんな殺人鬼の集団に、禰豆子も久遠さんも預けられるはずがない。――久遠さんを返せっ!」

「そうしてぇなら今、この場で俺を斬り捨てるんだな。そもそも俺は、あまね様の妹君ばかりかテメエの妹も本部に入れる事じたい、反対だったんだ。御館様は一体何を考えて……」

 

 裏切りを働いたカナエへの怒りが、これまでの無間地獄(むけんじごく)を知らぬ炭治郎への苛立ちが、風柱の本心をあばき出す。もはや甘い言葉で竈門兄妹を懐柔する必要などないのだと、それよりも現実を思い知らせることで甘い考えを捨てさせるべきだと風柱は決断したのだ。

 それはお互いが腹芸など出来ぬと割り切った、炭治郎と風柱らしい直情的な考えだ。

 

 だが二人の考えは決して、鬼殺隊の総意ではない。

 

「それはね、『すべての鬼を滅ぼす』という考えではお互い、滅亡の道しか見えないからだよ。……実弥(さねみ)

 

 突然響いた、透き通るような声。

 風柱は混乱した。この塀の向こうにいらっしゃる事は百も承知だ。だが今のお体では外へ出ることさえお辛いはず。なのに、どうして――。

 

「まあ、こんな所ではなんだね。四人とも中へおいで、真夜中ではあるがお茶でも飲みながらゆっくりと話そうじゃないか」

 

 この場に居る誰もが無言をつらぬいた。

 隣接する建物によって作られた影が消え去り、目の前に現れた人物に月明かりが照らされている。朝と変わらぬ青ざめた顔、しかしてその顔には朝の柱合会議にはない笑顔があった。炭治郎はその時に嗅いだ臭いとは別の、本当に人間らしい臭いを御館様、産屋敷耀哉から感じ取っていたのだ。

 

 ◇

 

「……なんで胡蝶がここに居る?」

「寝所から炭治郎君が抜け出していることに気付きまして。……直感が優れているのは不死川さんだけじゃありませんよ。……それに」

「あらあら、久しぶりの再会だというのに浮かない顔ね。……しのぶちゃん」

「……姉さん」

 

 それは耀哉の先導でゆっくりと本部へと招かれる途中の出来事だった。

 謁見の間へと至る廊下の道中に、一つの人影がある。どうやら炭治郎達の隠密行動に気付いたのは風柱だけではなかったらしい。寝床を提供していた蝶屋敷の主、胡蝶しのぶも異変に気づき駆けつけていたのだ。しかしてその先で死んだはずの姉との再会が待っているとは思いもしなかっただろう。

 死んだとばかり思っていた姉を前に、しのぶは手放しで喜べない。本当なら号泣して、その豊満な胸に飛び込みたかった。だが目の前の姉は明らかな隊律違反を犯した罪人である。カナエは那田蜘蛛山にて上弦の弐:童磨との戦いで死んだと報告されていた。生きていたという事実は喜ばしいが、それは童磨との戦いの途中に逃亡したという意味でもあったのだ。

 例えどのような理由があろうとも敵前逃亡は重罪だ。柱によっては明確な裏切り行為だと怒り、この場で切り伏せられても決して文句は言えない。

 

 そしてその意味を明確に悟り、断罪役となろうとしているのが風柱だ。

 

「いくら実の姉妹であろうとも、罪の軽減なんざ願い出られるわけもねえぞ。……それともお前が断罪役をやろうってのか?」

「……………………分かっています」

 

 当然とばかりに話す風柱の現実に、しのぶは何の反論も返せなかった。

 しのぶが知りたいのは真実だ。昔からカナエにはよく理解できない行動が多かった。数年もの間、行方をくらましていた時期さえあった。いくら問いただそうとも、うやむやのうちに誤魔化されるのが常である。それは鬼殺隊の頂点である柱の地位に至った今でも変わりない。

 風柱が問いただしても姉は口を割ろうとはしなかった。しかし御館様のお言葉なら……。

 

 そうしのぶが考えついた時。

 

 夜の(とばり)が降りきった鬼殺隊本部に、少年の怒声が轟いた。

 

「お、ま、え、らあああああああああああああああああ――――――――っ!!!」

 

 全身から立ち昇る蒸気を身に纏い、赤と青のコントラストがなんとも鮮やかな日輪刀が二人の柱に襲い掛かる。日輪刀の色は基本、背が黒色で刃の部分に持ち主の特色が現れるものだ。しかして上段から振り下ろされた日輪刀は刃の部分が烈火の如き灼熱色に輝き、背の部分にあるはずの蒼穹が烈火に侵食され見る影もない。

 この二つとない日輪刀を持つ人物を、しのぶは一人しか知らなかった。元々、この場に居る人間は少数であり、考えるまでもない。

 

 だが突然の逆上に風柱は少年が何をもって怒り狂ったのか理解できず、蟲柱の顔面は蒼白に染まる。

 

 炭治郎は久遠から贈られた耳飾りごしに見たのだ。

 縄で拘束され、神社の巫女であるかのような白衣がはだけ、手首には紫色の液体が流れる管が埋まり、まるで帝王切開でもしたかのように腹部が開かれた。

 

 そんな、まるで虫の標本のような扱いで石壁へ(はりつけ)にされている、

 

 自分を愛していると言ってくれた少女の、無惨な姿を。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 今回の文章には支離滅裂な箇所が存在しますが、もちろん伏線です。
 それに加え、柱の皆さんの能力にも改変が加えられています。原作では柱で一番の速さを持つのは蟲柱さんですが、この座を風柱さんにお譲りいただいています。
 だって風ですもの。速くなきゃ嘘ですよ。

 更に、攻撃技が目立つ型の中に幻惑などといった関節技もあるように描写しています。カナエさんの「花の花粉」なんかがそうですね。その方が物語に幅が出来ると思っての改変です。

 そして感想を頂いたとおり、胡蝶姉妹が奇跡の再会を遂げましたが百面相どころか悲しみ一辺倒の再会となってしまいました。
 妹には姉が何を考えているか理解できず、その隣に居る少年には罪悪感で目も向けられません。
 それでも少年は自力で気づいてしまいました。

 さてさて、この先どうなってしまうのでしょうか?

 明日の更新をお待ちください。
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