第12幕でございます。
アニメで言うところの第一話終了まであと2幕。
まったりとお付き合いください。
竈門兄弟による命がけの逃亡策。
それはこの場に居るのが冨岡義勇だけであったならば、確実に成功していた。しかし竈門兄弟は知るはずもなかった。鬼殺隊は任務に赴く際、必ず二人以上で向かうという仕来たりを。
「はい。そこまで~♪」
その声は、炭治郎や禰豆子には聞き覚えの無い。しかして冨岡義勇には何度も聞き覚えのある声だった。
少年を抱いたまま森の中へと飛びこんだ鬼の少女の身体が止まり、地へと落ちる。森の木々にようやく着地した義勇は森の奥から二人の少年少女を抱いて現れた隊士を見て、安堵と同時にイヤな表情を浮かべた。
「……カナエ、さん」
義勇がカナエさんと呼んだ隊士は、ニコニコと微笑みながら言葉を返してくる。
「ぎー君は相変わらず、心も爪も甘いわね。まあ、今回はこの子達の敢闘賞としておきましょうか。はい、妹さんはぎー君にお願いするね。変なトコ触っちゃダメよ?」
その言葉に義勇は複雑そうな顔を浮かべながら、木の上から竈門家の庭へと戻った。そのまま気絶した禰豆子を受け取り抱きかかえる。本来ならば今この瞬間にも首を跳ねた方が良いのだろうが、目の前の上官が許してくれそうにもなさそうだ。
「ぎー君はやめてください……」
「ええ~、なんでぇ? 可愛いじゃない、ぎーくん♪」
「それに到着していたのなら、……手伝ってください」
「だめよー。私はあくまで、お目付け役なんだから♪ それに今、着いたばかりだし~」
どうやらこれ以上の問答は意味がないらしい。
少なくとも、義勇はそう判断した。ならば仕事の話をする他ない。
「鬼舞辻 無惨が現れました……」
端的に報告する義勇の言葉に、カナエと呼ばれた隊士にも緊張が走る。
「……詳細な報告を聞かなきゃならないみたいね。でもその前に~、この子達どうしましょうか?」
「少年の方は人間ですが、この少女は鬼となっています。斬らねばならないかと」
「ん~。隊律ではそうなんだけどね……。この子達、お互いを守ろうとしたでしょ? しかもぉ、ぎー君を出し抜いて」
にっこりと笑ったカナエによる言葉のナイフは、義勇の隊服を貫通して傷を与える。
「しかも鬼に成り立てで飢餓状態にも関わらず、この子を食べようとしなかった。この子は他とちょっと違うのかもしれないわね」
「それでも……」
「鬼には変わりない?」
「……はい」
「う~ん……」
可愛らしく悩むカナエの姿を義勇はじっと見つめていた。次代柱候補の継子とはいえ、目の前の女性カナエは上官だ。その言葉には従わねばならない。後腐れなく斬れと言われれば、斬らねばならない。だがカナエは考えるのが面倒になったのか、一言「うんっ」と頷くと口を開いた。
「面倒だから、鱗滝さんに押し付けちゃおう♪」
「……………………」
義勇は、自分が出来る最大級のしかめっ面を作り上げて抗議した。
確かに自分としても、炭治郎という少年は先を見守りたい逸材ではある。先ほどの決死の策で自分を出し抜いたのもあるし、何よりこの子達は「鬼舞辻 無惨」と遭遇し、生き抜いたのだ。それだけでも賞賛に値する。
だが考えるのか面倒だからと、自分の育手である鱗滝さんに押し付けるのもどうなのだろうかと義勇は考えざるを得ない。
「ぎー君だって、もったいないと思ってるんでしょ?」
「…………まぁ」
「なら、決まりっ! えいっ♪」
カナエの手が、炭治郎の背中にバンッっと叩きつけられた。
普通、それだけのことで気絶した人間が意識を回復させるとは思えない。しかしそれもこの女性隊士の力なのかもしれない。義勇は黙ってその光景を見つめ続けていた。
「――がっ!? …………げほぉっ! げほ……」
相当の衝撃だったのか、意識を覚醒させた炭治郎が盛大に咳き込んでいる。
「はいっ、おはようございます♪ 私の名は胡蝶カナエと申します。あっちの朴念仁は冨岡義勇ね。君と妹さんの名は?」
その言葉に反応する前に、炭治郎は状況を確認するため素早く視線を動かした。彼にとっては禰豆子さえ逃がせれば勝ちなのだ。しかし、冨岡義勇によって禰豆子が拘束されていることを確認すると大人しく言葉を返した。
「竈門……、炭治郎。妹の名は、禰豆子です」
「うん。じゃあ、たん君だね♪ ……意識を回復したと同時に脱出策を練る。その姿勢はお姉さんキライじゃないよ? でもその前に話を聞いてくれないかな、ね?」
「………………」
「素直で良い子だねっ♪」
義勇の目から見て、まだこの少年は諦めてはいない。ただ、策を弄する時間が必要だと判断したのだろう。こちらの会話に応じる判断をしたようだった。
「まず、最初に。これまでの鬼殺隊における歴史で、鬼が人間に戻ったという例は存在しない。あっ、鬼殺隊っていうのはね。鬼を取り締まる警察みたいなものって考えてくれて良いよ?」
「……警察? 鬼を見れば即、殺すような殺人鬼集団が? 警察?」
炭治郎の言葉には、吐き捨てるような嫌悪感があった。何があったのか事情も聞かずに刀を抜く連中の、何が警察かと顔に書いてある。
それでもカナエは笑顔を崩さなかった。
「うん、そうだね。君の意見はもっともだと私も思う……。その理由はね、一匹の鬼が平均しても数十人の人間を喰ってきたという過去があるのよ」
「だから、死ね。と?」
「基本的にはそう。でもね、君の妹さんは何かが違う。普通の鬼なら君は今頃、真っ先に喰われている筈だから」
カナエの腕に抱かれながら、炭治郎の視線が義勇に抱かれる禰豆子へと移った。
「でも妹さんは君を食べずに、守った。それは今までの鬼の常識からしたら信じられないことなの。だから私は、妹さんを直ぐ斬るという結論には反対する」
その言葉に、ピクリと炭治郎の身体が反応した。
「人間っていう生き物は臆病でね。敵意を向けられるかもしれない、殺されるかもしれないって思うだけで相手を殺せる。そんな、悲しい生き物なの。……残念だけど、鬼殺隊の頭である柱でも鬼を見たら即斬るっていう人達が大半。それだけ、私達は。……悲劇を見てきた」
「……禰豆子は、人を喰いません。俺が食べさせません」
「うん。君は、それを証明しなきゃいけない。だから……ね?」
と一度、話を区切らせたカナエは。
目の前の炭治郎にビシッと人差し指を突きつけ。
こう、のたまったのである。
「You、鬼殺隊に入っちゃいなよ♪」
最後までお読み頂きありがとうございました。
場所は違いますが、原作と一緒の「義勇対炭治郎」の一幕でした。
ウチの炭治郎君は、原作の炭治郎君ほど天性の才に恵まれておりません。
「今まで争いとは無縁の世界に生きてきた炭治朗が、戦闘のプロである義勇さん相手に戦いで出し抜く」
なんて奇跡はおこせません。
やるならば策を必死にねり、油断させ、勝てないまでも逃げ切る。
それが限界です。
誤算はカナエさんの存在でした。
無口な義勇君に代わり、炭治郎へ未来を提示してくれる役割を行なってもらいました。
こんな良いキャラを回想だけしか使えないなんて、もったいない! と思ったからです。
今後カナエさんが更に活躍するかどうかは……、未定です(笑
それではまた、明日お会いしましょう!