本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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お待たせしました、第14幕でございます。
このお話でアニメ第1話分が終了になります。好き勝手に改変した鬼滅の刃、いかがでしたでしょうか?
とりあえずストックがなくなるまでは突っ走ろうかと思いますので、今後とも宜しくお願い致します。


第1-14話[飢え]

「どうすれば、……強く、なれますか?」

 

 炭治郎が発した言葉に、ニッコリと。お日様のように微笑みながらカナエは口を開いた。

 

「焦らない、あせらない。まずは、たん君に最初の試練がありますっ!」

「……試練?」

「うん。たん君さっき言ったよね? 妹ちゃんに人は食べさせないって」

 

 カナエの言葉に、炭治郎は深くうなずいた。自分の妹に人肉など絶対に食べさせたくはない。

 

「その気持ちはすごく分かる。でも今、妹ちゃんはかなりの飢餓(きが)状態にある。鬼の食料は人間、それ以外の獣肉に食いつくとは確認されていない。じゃあ、たん君はどうする?」

「…………」

 

 そんなこと、分かるわけがないじゃないか!

 炭治郎はそう言い返したかった。しかしそれは妹を見捨てるのと同じだ。「ならば諦めろ」と言われ、今度こそ禰豆子の命は無い。

 

「……代わりの食料を、探します」

「人間以外の獣肉には喰いつかないって言ったよね? 妹ちゃんは飢餓(きが)状態だとも。どうするの?」

「…………」

 

 炭治郎の口が再び止まる。

 言葉は慎重に選ばなければならない。このカナエという人物に「自分達は人間に危害を加えない」と証明し、信用を勝ち取らなければならない。

 先ほどの答えには何の信用も、実現性もないのだ。

 

 ならば、他の誰も犠牲にせずに禰豆子の腹を満たさなくてはならない。

 炭治郎は、覚悟を決めた。

 自分の左手をぎゅっと握り締め、決意と共にカナエと名乗った剣士へと腕を突き出す。

 

「これが、禰豆子の最初の食料ですっ!!」

 

 

 しばらくの間、その場に静寂が訪れた。

 炭治郎も、対面で向き合うカナエと義勇も。みな、口を開くことなく沈黙している。その場の音といえば、相変わらず山の頂上から吹き降りてくる吹雪の音だけ。

 

 幼いながらも炭治郎は、この「答えの存在しない質問」の真意を見抜いていた。この女剣士が求めているのは「明確な答え」などではない。鬼殺隊という鬼斬り集団でも至っていない答えを、自分が提示できる筈もないのは百も承知。ならば「覚悟」を示すほかない。

 

「自分を喰わせて時間を稼ぎ、それでも駄目ならば妹と共に地獄へ行く」という覚悟を。

 

 やがて……。ポツリとカナエが口を開いた。

 

「うん。それ以外の選択肢は無いよね。でも、は・ず・れっ!」

 

 ゴンッ!

 

「ぐえっ!?」

 

 そんな打撃音と共に、カナエの拳が炭治郎の脳天に襲いかかった。脳からの衝撃が手足の先にまで伝わるかのような、そんな一撃だ。反射的にたんこぶの出来そうな頭頂部を手で抑えたくなるが、痺れで手足を動かすことさえ出来そうもない。

 カナエは炭治郎の面前で膝を折ると、ささやくように語りかけた。

 

「たん君は今、自分の覚悟を私達に示そうとした。その事に関しては十分に評価できるし、私達も信用したい。でもね、私達鬼滅隊は鬼を斬り、この国の民を守らんとする組織。君が自分を犠牲にしてまで鬼である妹さんを守ろうとするなら。……私達は今、この場で、妹さんを斬る。なぜなら君は、私たち鬼殺隊が守るべき人間だから――」

「……そんなことは、そんなことは頼んでないっ!」

「頼まれなくても私達はするの。たとえ誰から恨まれようとも、憎まれようとも。それが、私達の『覚悟』」

 

 なんだその理屈は。と思いつつ、炭治郎は納得もしていた。こんな悲劇が、自分達意外の家族にも及ぶようなことがあってはいけない。もし禰豆子が鬼として衝動のままに暴れ、他の家族をも悲劇におとしめるような事態を起こすのであれば……。

 

 結局。禰豆子は、死ぬしかない――――。

 

 

 ようやく痺れが治まってきた全身から、今度は力が抜け落ちる。

 なんだ、つまりは自分達の道なんか最初から無いんじゃないか。先ほどまでの張り詰めた感情が一気に冷め、炭治郎の心に無気力感が襲い掛かった。仮にこの剣士達から逃げ延びたとしても、数々の災厄を振り撒きつつ自分達は殺される。

 

 ならば、いっそ。

 

 炭治郎の視界が真っ黒な雲から、真っ白な雪面へと切り替わった。絶望が押し寄せる。憎しみが押し寄せる。全ては、何の力も持たない自分自身へ。

 ごめんな、禰豆子。兄ちゃん、どうしようも……。

 炭治郎の思考は地の底へと落ちてゆく。どうしようもない現実に潰されるかのように。

 

 そんな炭治郎を見かねたのか、ポツリと口を開いたのは仇である義勇だった。

 

「そういえば……、鬼舞辻 無惨が言っていたな。鬼にとって「鬼の肉も珍味」だと」

 

 その言葉は、炭治郎にとって地獄に垂れ下がってきた救いの糸だった。

 読みかけの物語をネタバレされたかのように、カナエは後ろに立っている剣士へと口を荒げる。

 

「ぎーくぅん? 余計な口出しは禁止だよぉ?」

「……口が滑った」

「どう見ても確信犯でしょ!」

「……カナエ様、性格悪い」

「なんですってぇ!?」

 

 それまでの緊迫した空気はどこへやら。まるで兄弟のように口喧嘩を始めた二人を炭治郎は呆然と見上げていた。鬼殺隊の、人間の敵である鬼を殺すなら、禰豆子は生きられる!? それまで病人のように青い顔をしていた炭治郎は今、顔を真っ赤にしてカナエへと迫るべく立ち上がった。

 

「そうだ、俺も聞いた。あの鬼は、禰豆子に竹雄達を喰わせようとしていた。禰豆子は死なない、人間の中で、生きてゆける!! そうですよねっ!!!」

 

 まるで胸へと飛び込むような勢いで、炭治郎はカナエへとせまる。

 

「……まったくもう。ええ、そうよ。鬼は共食いをする習性がある。この日本という国には決して少なくない数の鬼が隠れ潜んでいるけれど、政府が表立って「鬼」を公表せず、軍に討伐をさせていないのは共食いによって数が抑えられているからだ。と、鬼殺隊内では言われているわ」

 

 カナエは(ふところ)から一枚の紙を取り出し、サラサラと何かを書いている。

 

「だからね、たん君。妹さんを、禰豆子さんを殺したくないのなら、君は鬼殺隊に入るしかない。鬼を御する術を身に着け、殺し、禰豆子さんに食べさせる。貴方の望みはこの道でしか叶えられない……!」

 

 そう言って差し出された紙を、炭治郎はしっかりと両手で受け取った。彼女が書いていたのはどうやら地図だったらしい。この場から一日も歩いた距離にある、狭霧山へという場所への道のりが書かれていた。

 

「その狭霧山という山の麓に、鱗滝左近次という名のお爺ちゃんがいるわ。胡蝶カナエと富岡義勇の紹介で来たと告げなさい。たん君、今の貴方は弱い。だから強くなりなさい。妹さんだけでなく、この日の本の国から。誰もこんな悲劇を二度と引き起こさないように、強くっ!」

 

 雪にまみれた炭治郎の手を、カナエは両手で握り締めた。

 つい先ほどまでは敵だと思っていたのにその手は大きく、そして暖かい。唐突に炭治郎は思い知った。この人達だって、好きで鬼を斬っているわけではないのだ。誰かがやらねば、自分のような人間が際限なく生まれてしまう。ならば今、自分に出来ることをやらねばならないのだ。

 謎は多い。なぜあの鬼舞辻 無惨という鬼が自分の家に襲来したのかも、なぜ見逃されたのかも分からない。奴が言っていた「稀血(まれち)」「赫灼(かくしゃく)の子」という言葉も、今の炭治郎には何の事か理解さえ出来ない。

 

 ならば前へと進もう。前にさえ進んでいれば、いつか。

 

 希望の光が見えてくると信じて――――。

 

 

 ◇

 

 

 しんしん……、ふわふわ……。

 

 そんな表現が似つかわしい綿雪が、山肌に舞い散っていた。

 昨日までなら、それも穏やかな日常の一幕としてのんびりと眺めていたはずだ。

 

 そう。……昨日までなら。

 

 そして今、この時。

 朝から吹雪き続けている寒波は、今だおさまる気配がない。

 それでも炭治郎は必死に山を下っていた。山の中より麓の村の方が天候も安定するからだ。いくら住み慣れた山とは言っても、自分はともかく薄着の妹は凍傷の危険があった。

 炭治郎には鬼が寒さに強いかどうかさえも分からない。ならば、今できることは頭に浮かぶ不安要素を一つずつ消し去っていくだけだ。

 先ほどまでの騒動で身体中が悲鳴をあげている。それに加えて頭上の木々に降り積もった雪が吹雪に飛ばされ、炭治郎の前方を真っ白におおい隠してしまう。行きとは違って、地面の泥が凍りついていることだけが唯一の幸いだった。

 

「アアアッ、ヴォアアアアアァァ――――!!」

 

 背中に担いだ妹が、獣のような咆哮をあげながら暴れまわる。

 それがどんな意味を持つのか、下に五人もの兄弟を持つ炭治郎は理解していた。鬼となってしまった禰豆子は人の言葉を話せない。ならば自分の意思を伝える手段も限られているのだ。まるで赤ん坊だった頃、泣くことによって自らの意思を伝えるかのように。

 禰豆子は、自分の意思を必死に炭治郎に伝えている。

 

 寒いのだろうか? 寂しいのだろうか? どこか痛いのだろうか?

 

 多分、この泣き方はそのいずれでもない。

 

 ……お腹が減っているのだ。

 

 だが、今の自分に禰豆子を満足させてやれる手段はない。

 

「禰豆子……。絶対に、絶対に兄ちゃんが人間に戻してやるからな!!!」

 

 今の禰豆子にしてやれることは数少ない。

 妹を安全な場所にまで連れて行き、食料となる鬼を探し出す。

 

 だが自分がやるべきことは数が少なくとも、地の果てまで伸びていそうなほどの長い道のりだ。

 あの二人の前で大見得をきったはずなのに心が挫けそうになる。けど自分までが諦めてしまったら、本当の終わりだ。

 強くならなくてはならない。禰豆子を守り、人間に戻し、家族の仇を討つのだ。

 

 冬山を転げ落ちるように下る、一組の兄弟。

 この兄弟が乗り越えるべき苦難の物語はまだ、第一話が終わったにすぎない。




最後までお読み頂き有難うございました。
これにて第一章完結となります。

明日から引き続き第2章を投稿予定です。
もし面白いと思ってくだされば、今後ともご付き合いください。

よろしくお願い致します。

みかみ。
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