本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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本日より第2章開幕でございます。
アニメでいうところの第2~3話のところです。

ストックの関係上、本日18時から一話更新。
毎日更新は続けますのでよろしくお願い致します。


第二章 ○○の呼吸
第2-1話[始めての鬼退治(その1)]


「くそっ、鬼なんて何処にも居ないじゃないかっ!!」

 

 夕暮れの山道。

 炭治郎は一人、そう愚痴りながら山道を歩いていた。標高の高い自宅に降り積もっていた雪も此処では見る影もない。まだまだ冬の始まりである年明け前。平地では秋の終わりから冬の始まりに移ったという景観だ。

 

 結局、毎日通いなれた麓の村では長居もできなかった。

 当然だ。鬼となってしまった禰豆子を連れて行けば、どんな迷惑がかかるかも分からない。もちろん、事情を話せば(かくま)ってくれる優しい人も居ただろう。けど、人の臭いを嗅いだ禰豆子がどんな行動にでるか炭治郎は不安で仕方なかったのだ。

 森の物陰に禰豆子を隠し、前の日に木炭を売って稼いだ金で旅支度を整え、二人は早々に旅立った。

 

 決して禰豆子を「日の光に当ててはならない」。

 

 炭治郎は鬼殺隊の二人から、そんな忠告を受けていた。生まれ育った山を降りる際に三郎爺さんの小屋から炭を入れていた籠と布団を回収し、その中に禰豆子を入れて移動している。炭だって(かご)へ満タンに入れればかなりの重さになる。重さという点で言えば、大量の炭より禰豆子一人の方が軽かった。

 

 だが肝心要(かんじんかなめ)の鬼は、どこを探しても見つからない。

 そもそもが鬼とは迷信として語り継がれるような存在だ。山に住む熊や猪、鹿のように姿を現すのであれば、もっと大騒ぎになっている。

 飢餓状態となっている禰豆子が何時までもつのかも、炭治郎は分からない。

 

 日に日に、焦りだけが(つの)っていった。

 

「もしかしたら、この鱗滝という人の所に行けば鬼が居るのかもしれない……」

 

 炭治郎は半ば疑いながらも、カナエの書いた地図の通りに進んでいた。

 あの時は気が動転していたので言葉を鵜呑みにしていたのだが、今となって思い返してみれば良い様に言いくるめられたという感も否めない。

 誰を信じ、誰を疑えば良いのか。今の炭治郎には何もかもが分からなかった。

 

 道中にあった優しい老夫婦に道を聞き、あと二日ほど歩けば狭霧山だと教えてもらえた。

 炭治郎はぺこりと頭を下げ、歩みを再開させる。人間の臭いにつられて、背中の禰豆子が暴れ出さないように、人との関わりは最小限にしなければならない。

 

「禰豆子~、大丈夫かぁ~? 狭くないか~?」

 

 時折、こうして声をかけてはいるが返事はない。

 山を降りる際にはあんなにも泣いていたので無償に不安になってしまうのだ。もしかしたら、次に(かご)を開けた時には息をしていないのではないか? と。

 それでも旅を開始してからというもの、幸か不幸か天気の良い日が続いている。あの二人をそこまで信じているわけでもないが実際、禰豆子は日の当たる場所へは決して行こうとはしない。

 大事な妹を守ると誓った炭治郎ではあったが、実のところ鬼に関しての知識が圧倒的に不足しているのだ。

 

 一刻も早く、育手と呼ばれる鱗滝という人物に合わねばならない。

 

 炭治郎は己の足に力を籠めて先を急いだ。

 

 ◇

 

 いくら急いでいるとは言っても、なんの明かりもない夜間まで歩き通しというわけにはいかない。

 だからと言って、宿に泊まるような金銭の余裕もない。これが夏であれば野宿するという選択肢もあるのだが、残念ながら今はもう冬が始まろうかという季節だ。医者にもかかれないのに、風邪を引いてしまっては一大事である。

 今日も日が沈み、常闇が炭治郎達の周りを支配する時刻を迎えてしまった。

 

 では、どうするかと言うと。

 

「あ、今日は明かりが着いているぞ。住職さんかな? それとも同じ旅人さんかな?」

 

 各地の神社やお宮様にご厄介になっているのだった。

 年号はすでに大正。

 とはいえ東京などの都会とは違い、このような山間の地域では今だに江戸時代のような暮らしが基本だ。宗教に関してもそれぞれの地域に特色があり、また信仰心も強い傾向にあった。

 

 つまりは、何を言いたいかと言えば。

 

 地元住民の力で管理された雨漏りもしない立派な神社の中で、炭治郎達は今夜も宿を借りようというわけである。

 

 散々探し回ったあと、炭治郎達は今夜の寝床を見つけることができた。

 十段ほどしかない石で作られた階段を登り、山間にある神社の敷地内へ入ってゆく。まだ正月はおろか、年末までにも日数があるため人気は殆どない。ないのだが、ならばなぜ神社の中には明かりが灯っているのだろうか。

 大きな不安と、僅かな期待感が炭治郎の心に舞い込んだ。

 木製の板で作られた戸の前にまで来る。先ほどから見えていた明かりは、この戸の隙間から漏れていたものだ。

 

「すいま……せ」

 

 炭治郎がそう声をかけようとすると、神社の中からムリッ、バキッ、ボリッといった咀嚼音(そしゃくおん)が聞こえてきた。ほんの数日前にも聞いた、この独特な音。正直思い出したくも無い音だ。

 だがその音をたてている正体こそ、炭治郎が禰豆子のため、ここ数日探し回っていたモノだった。

 

 (……鬼だ、鬼が、人を喰っているんだ)

 

 もはや疑う余地さえもなかった。

 炭治郎の鼻に、懐かしくも嫌な思い出のある強烈な血の臭いが飛び込んでくる。自分の食欲を満たそうとする欲望の赤い臭いもだ。もし普通の人間が調理をしているなら、こんな匂いなんてありえない。

 そっと、音をたてぬように右手を腰の後ろへと回す。護身用にと持ってきた、薪割用の斧をゆっくりと引き抜く。鬼舞辻 無惨と戦っていた時に使っていた、あの斧だ。

 本当なら、三郎爺さんの遺品である猟銃や刀を拝借してきた方が良かったのかもしれない。だが炭治郎は毎日の薪割りで使い慣れていた、この愛斧を選択した。そもそもが既に世は大正なのだ。銃や刀の規制も厳しくなっているのは言うまでもない。

 炭治郎の敵は鬼だ。それ以外のトラブルは避けるに越したことはなかった。

 昔の武士や侍じゃあるまいし、正々堂々と決闘。なんて考えはこれっぽっちもない。

 戸の隙間から覗き込んでみれば、一人の男が此方に背を向けながらも夢中で何かに喰らいついていた。人間の臓腑から香る臭いが更に強まり、炭治郎の鼻に襲い掛かってくる。冗談でも比喩でもなく、鼻が曲がりそうなほどの異臭だった。

 

 理想は一撃で鬼を昏倒させ、頭部を破壊する。

 それは旅にでる前、鬼滅隊の隊士である胡蝶カナエから聞いていた鬼の急所だった。




最後までお読み頂きありがとうございました。

ようやく炭治郎と禰豆子の旅が始まりました。
今後この兄弟はどうなっていくのか。更新をお待ち下さい。
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