本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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毎度お読み頂きありがとうございます。
第二章四幕でございます。

相変わらずグロイので、ご注意を。


第2-4話[始めての鬼退治(その4)]

「はぁ、はあ、はぁ、はぁ……」

「どうしたぁっ、もう終わりかぁ!? 人間のガキィィィ!!」

「――――ぐっ!!」

 

 鬼の膝蹴りが炭治郎の鳩尾(みぞおち)を貫く。臓腑がひっくり返るような衝撃に、炭治郎の意識が飛びそうになる。

 そもそもが、人の全力行動などもって数分。本格的な修練を積んでいない子供であれば尚更短い。身体中に乳酸が溜まり、斧を持つ手が酷く重い。

 

 力が足りない、致命的に鬼を殺す力が。

 

 炭治郎は、その事実をこの戦いで嫌と言うほど思い知っていた。

 

「――――――っ!!」

 

 斧を振り下ろした右手首を捕られ、背中の方へと()じ曲げられる。身体を地面に押し付けられ、自分の背中に鬼の全体重が圧し掛かっていた。

 ギリギリと関節が(きし)む嫌な音が頭の中まで響き、喉元(のどもと)まで悲鳴が込み上げてくる。だがそんな声を上げようものなら、この鬼を喜ばせるだけだ。誰がそんな真似してやるものか。

 

「そろそろ飽きてきたなあ……。逃げられても面倒だ、手足は食っちまおう」

 

 そんな声が炭治郎の耳に届いた。

 死への恐怖。そういうモノを普通の人間ならば、この状況で感じるのだろう。

 だが、その点で言えば。炭治郎は狂っていた。彼の中での優先順位で言えば、自分自身の命は三番目だった。

 一番は何よりも背中の禰豆子。二番目は家族の仇。自分の命はその後のことでしかない。

 

 だからこそ、炭治郎にとって自分の身体とは道具と同じ。

 

 どれだけ傷ついても、動きさえすれば良い。

 

「そんなに俺の手を食べたいのか? なら、くれてやるっ!!」

 

 唯一自由の身となっていた左手を、炭治郎は鬼の口の中へとねじ込む。

 鬼だって死なないだけで痛みは感じるはず。ならば、外は頑丈でも中はもろいのでは? そう考えた炭治郎は鬼の舌を握り締め、渾身の力をこめて引っ張った。

 

「てへえっ! ようもあっあああああああああ!!」

 

 舌を口に外に出している限りは噛み千切られる危険性もない。しかも口の方に意識が集中し、右手を拘束していた鬼の力も緩むのだ。

 

 これが最後の好機だった。

 

 狙うは鬼の頭。いくらコイツらが化物でも頭を潰されれば、暫くの間は動けなくなるはず。

 不安定な体勢からの一撃だ。確実に戦闘不能にできるかは分からない。

 それでも炭治郎は、この一撃に自らの命を賭けた。

 

「いいからさっさと、禰豆子のエサになれぇ――!!」

 

 ガツンと、鈍い音が周囲に響き渡る。

 炭治郎の起死回生の一撃は、確かに鬼の脳天に直撃した。

 だが頭蓋骨は固かった。更に言えば間合いが近すぎ、十分な遠心力を斧に伝えることができなかった。しかし結果的に言えば、この炭治郎の一撃が勝因となる。

 

 なぜなら、ここ数日。

 炭治郎の背中で眠り続けていた鬼が唸り声を上げながら目覚めたのだから。

 

 

 

「ウガアアアアアアァァァ――――――ッ!!!」

 

 籠をおおった布団が、宙に舞う。

 炭治郎が背中に感じていた妹の重みが無くなり、急に自分の身体が軽くなったかのような錯覚にとらわれる。今の状態ならば、もう少しまともに身体を動かせるような気がした。

 しかしもう、この戦闘に炭治郎の出番は無い。なぜなら、(かご)から飛び出した禰豆子は脇目も振らずに鬼の首元へと踊りかかって行ったのだ。

 

「フーッ、フウウウウゥゥ――――ッ!!」

「テメッ……、なぜっ、同じ鬼がっ、俺を……っ」

 

 まるで獣が獲物の息の根を止めるかのように、鬼の首へと喰らいついた禰豆子は鼻で荒く呼吸を繰り返している。噛み付かれた鬼の方も呼吸を止められているためか、まともな言葉を口に出来てはいない。

 炭治郎の知識では鬼も呼吸が必要なのかどうかは分からない。けど今、目の前の鬼は確実に酸欠状態に陥ろうとしていた。

 (かご)の中に入っていた時は、六太くらいの身体に縮んでいた禰豆子だったが、今では人間だった頃の大きさにまで成長し直している。

 

 ブチィ……っと、禰豆子の牙が皮膚を裂く嫌な音がした。

 禰豆子が鬼の喉仏を喰いちぎったのだ。太い血管も切れたらしく、鬼の首から大量の血が流れ出す。

 

「うぅ――っ! あぁ――――――っ!!」

 

 鬼も何やら必死に叫ぼうとしているが声にならない。どれだけ息を吸い込もうと、首に空いた大穴から空気が漏れ出すだけにしかならない。

 それでも鬼の再生力はさすがの一言だった。次々と肉が盛り上がり、首に空いた大穴を塞ごうと足掻いている。

 しかし、それさえも。

 禰豆子にとっては、無限に湧き出てくる最高の食材に過ぎない。盛り上がってくる肉を喰らい、千切り、飲み込む。久々のご馳走を、禰豆子は存分に堪能していた。

 

 つい先ほどまで、グチャグチャと人間と喰らっていた鬼が、今は禰豆子の牙によって同じような音で喰われている。

 まるっきり人間をやめたかのような禰豆子の姿に、炭治郎は不思議な高揚感を覚えた。

 もしかしたら自分は、狂い始めているのかもしれない。

 一瞬、そんな人間らしい感情が炭治郎の脳裏をよぎった。しかしすぐさま、そんな自分の甘えた感情を振り払う。こいつら鬼は、俺たち竈門家を滅茶苦茶にした張本人なのだ。なにを遠慮する必要がある。

 炭治郎はゆっくりと立ち上がり、かたわらにあった愛斧を拾い上げた。

 

「――――禰豆子。ちょっと活きがよすぎるだろ? お兄ちゃんが〆てやる……」

 

 そう語りかけると、ほんの少しだけ禰豆子が視線を向けて了承の意を送ってきた。

 

 炭治郎は鬼の髪を掴み、狙いが外れないように頭を固定する。

 般若のような顔を浮かべ、月明かりに反射する刃を光らせながら、斧を天高く振りかぶる。これなら毎日のようにやりなれた作業の形だった。

 (まき)が、鬼の頭に変わっただけの話なのだ。

 

「ヒィ!? ……やめろ、やめてくれぇ! 分かった。もうここらじゃ、人間を喰わねえよぉ。縄張りもそっくり全部、アンタらにやるぅ。……だから、だからぁ――――――ッ!!!」

 

 禰豆子が口を止めたお陰で喉が塞がったのか、鬼が必死の命乞いを口にする。

 しかしそのどれもが、今の竈門兄弟には必要のないモノだ。この兄弟は、鬼の居ない場所に用などない。

 

「どうか、あの世でも。……この鬼が地獄に落ちますようにっ」

「ひゃあああああああああああああぁぁぁ――――――――っ!!!」

 

 最後まで泣き叫ぶ鬼を黙らせるため、炭治郎は容赦なく斧を振り落とした。




最後までお読みいただき、有難うございました。

とうとう禰豆子さんが鬼の肉を喰らいました。
原作との大きな分岐点となりますね。このさき道は同じくとも舗装道路と砂利道くらい違っていくと思いますので、よろしければお付き合いください。

よろしければ感想・評価など頂ければ執筆スピードが早くなります(笑

ではでは、また明日~。
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