本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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お待たせしました。
第二幕にございます。

昨日の夜は「原作の台詞はNG」の一文字に今まで気付いておらず、慌てて修正した慌しい夜となってしまいました。

ですが直してみれば、なるほど。この先へと続く物語の伏線にもなったようで満足しています。

2000文字程度の短いお話に分けて投稿していきますので、今後ともチラリと覗いてみてくださいね。


第1-2話[炭治郎の鼻]

「あんれまぁ、炭治郎ちゃん。こんな寒い日に山を降りてきたのかい?」

 

 顔なじみの女将さんによる、大げさながらも優しい言葉が炭治郎の耳に届く。それは自分が無事、(ふもと)の村に到着した証のようなものだった。

 

 決して短くない宿場町として栄える麓の村への道のり。

 毎日のように山を下り、そして山を登る。それは決して楽ではない日課だった。

 だが、麓の村に下りれば沢山の人達が声を掛けてくれるのが炭治郎は嬉しかった。本業である木炭を求めてくれる女将さんもいれば、親父さんからは荷車押しを手伝ってくれなどの力仕事。更には家庭のいざこざの仲裁役として抜擢(ばってき)されることすらあった。

 日頃から見せている真面目さや優しさのお陰か、それとも亡き父が作り上げてくれた人徳か。麓の村人達は、家族のように自分を迎え入れてくれる。炭治郎はそんなこの村が大好きだった。

 

 

 

 楽しい時間というものは、あっという間に過ぎ去ってゆくものだ。

 どれだけ売れ行きが良かろうが、麓の村から自宅へと戻る頃には日も沈む。日の短い冬の時期なら尚更だ。村の大人達はしきりに「ウチに泊まって、明日帰りな」と心配してくれたが、炭治郎はその言葉に感謝しつつも帰宅の途についた。

 何せ、今日持ってきた木炭も大盛況のうちに完売してしまった。明日は朝から山に入って木を切らねば、売る物が無くなってしまいかねなかったからだ。次男の竹雄も最近は手伝ってくれてはいるが、一人で仕事をさせるにはまだまだ危なっかしい。

 

「うん、近くに熊の臭いはしない。これなら鈴を鳴らしてさえいれば大丈夫だ」

 

 誰も居ない真っ暗な山への入口でそう呟くと、炭治郎は月明かりを頼りに山道を進み始めた。

 

 チリンッ、……チリーン。

 軽い鈴の音色が腰の鈴から道端の木へ、そして山の奥へと響いてゆく。

 正直、こんな音で熊避けになるなんて炭治郎も本気にしてはいない。父から炭造りの仕事を受け継ぎ、山へ木を切りに行く際に心配症な母が持たせてくれたもの。それを習慣的に使い続けているに過ぎない。お守りみたいな物なのだ。

 何よりも、炭治郎には他の人にはない特技があった。

 

 鼻である。

 

 炭治郎はなぜか、犬のような鋭い嗅覚を持って生を受けた。幼い頃は皆、自分と同じぐらい鼻が効くと思っていたのだが、暫くしてそれは間違いであるということに気が付く。

 というのも昔、父と交友のあった猟師の狩りに同行した時だった。当然、その当時の炭治郎では山の獲物を見つける術など持っているわけもない。だが猟師が鹿や猪の足跡を見つけると、そこから続く臭いの足跡が伸びていくのが見えたのだ。

 近ければ臭いの幅が広く、遠くに行ってしまえば糸のように細いその線は、いくら炭治郎が主張しても猟師は信じてくれなかった。けど毎度のごとく「この足跡は遠いよ」「この足跡は近いよ」などと言っていれば、猟師も試しにと子供の言葉に耳を傾けてみたくもなったのだろう。

 果たして、その的中率は驚きの結果となって表れた。

 猟に関して何も教えていない子供の言葉が、自分の猟師としての長年の知識とぴったり重なり始めたのだ。

 

「炭坊。お前さん、なぜ足跡の見分けがつくんだい?」

「なんでって、『近い』足跡には臭いが沢山残っているじゃないか」

「……臭い? 足跡が残った土の柔らかさや、新しさじゃなくてかい?」

「うん、足跡は『臭いの池』なんだよ。そこに溜まった池から流れた川の行き先が、近ければ川幅が広いし、遠ければ細い。おじさんだって分かるでしょ?」

 

 そう言い返した時の猟師の顔は今でも覚えている。

 何か不気味な生き物を見ているかのような、それとも好奇な存在を見つけたような、そんな表情だった。次の日から、炭治郎は猟に同行するのをやめた。それまでとても優しい黄色の臭いを発していた猟師から、赤い欲望の臭いを感じ始めたからだ。

 その当時はその臭いの色をハッキリと言葉にする事は出来なかったが、今なら理解できる。あれは「欲」という感情を持った人間の臭いだったのだ。

 そしてその時、炭治郎はこの特技が異能の力であるという事実に気が付いた。無理矢理連れて行かれたとしても、ワザと臭いの先を間違い「自分の言葉が子供の戯言である」と証明してみせたら、猟師は悪態をつきながらも自分を猟へと連れて行こうとはしなくなった。

 自分では自覚していなかったが、この時炭治郎は「普通の臭い」だけではなく「感情の臭い」を嗅ぎ分けられるようになっていたのだ。

 

 この特技は、これからの生活で十分すぎるほどに役にたっていくことになる。

「黄色い臭いは良い人」「赤い臭いは騙そうとする人」と、初対面で嗅ぎ分けられるようになったからだ。

 幸い、麓の村の人達は「黄色い人」ばかりだった。そして最近になって理解したが、赤い人も常日頃から「赤い」わけではなく、「黄色い」事も多々あるという事実でもあった。逆を言えば「黄色い人」だって「赤く」なる事もしばしばだ。

 

 それは、炭治郎が「人間という感情の生き物」を理解する良い教材となったのである。

 




最後までお読み頂きありがとうございました。

少しづつ、原作とは違う設定へと移行しはじめております。
物語としてはまだまだ「起」の部分。
竈門家は一体、どうなってゆくのでしょうか?

また明日、18時に更新予定ですのでよろしければお付き合いくださいな。

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