本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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毎日お付き合いくださり感謝の言葉もござんせん。
第2章第7幕でございます。

禰豆子ちゃんを動かすのが楽しいです。下手をすると主人公が交代しそうなほどに……(笑


第2-7話[最終試験]

「……もう、何も教えることはない」

 

 この狭霧山に炭治郎と禰豆子が来てもう、一年の月日が流れていた。

 最近の日課であった打ち合い稽古を炭治郎が終えると、鱗滝はボソリとそう呟いた。

 

「俺も……、禰豆子も。……ですか?」

「……ああ」

「じゃ、じゃあっ! 最終選別に行けるんですか!?」

「う――っ!」

 

 荒く息を乱しながらも、炭治郎は喜びを全面に押し出して顔をつき出してくる。となりに居る禰豆子も嬉しそうにその場で飛び跳ねる有様だ。

 そんな笑顔の兄弟とは裏腹に、鱗滝は目の前の兄弟とは間逆の心持ちでただずんでいた。

 もう、これ以上。自分の弟子が、子供達が死ぬのを見送りたくはない。

 

「早まるな、次の課題が最後だ。後はお前達が、儂の教えたことを消化できるか否か。……ついて来い」

 

 この兄弟を、最終選別には行かせたくはない。

 鱗滝は、そんな育手にあるまじき想いを胸に秘めていた。

 

 

 

 炭治郎と禰豆子が連れて来られた場所は、いつもの修練場となっていた狭霧山の頂上だった。

 日々の鍛錬では山の中腹にある広場を中心にしているため、炭治郎には頂上まで来た経験がない。その頂上は入口に木製の鳥居があり、その先にはしめ縄で飾られた大岩が鎮座していた。

 

「これは御魂石(みたまいし)と呼ばれる狭霧山の御神体だ。……もはや、岩と言った方が良いほどの大きさとなったがな。この岩が斬れたら、最終選別に行くのを許可する」

 

 岩って刀で斬る物なの? 御神体って斬っても、いいの?

 自分の背丈よりも大きな岩を、炭治郎は混乱しながら見上げている。その隣の禰豆子も瞳をまん丸にしながら同じように見上げている。

 そんな二人を暫く見つめると、鱗滝は無言でその場を立ち去った。それはこれ以上何も教えぬという二人への意思表示だった。

 

 右腕を胸のあたりまで持ち上げ、その手に握る刀を見つめる。

 刀で岩なんか斬ろうとしたら良くて刃こぼれ、悪ければ刀が真っ二つに折れてしまう。炭治郎は修行の最中、鱗滝に言われた言葉を思い返していた。

 

(刀は折れやすい。縦の力は強いが、横の力には弱い。刀に対して真っ直ぐ力を乗せ、引き斬る……!)

 

 炭治郎は元々、木を切る斧や薪割の(なた)を日常的に使っていた。刃に対して真っ直ぐ力をのせる点は同じだが、斧や(なた)は押し斬るものだ。決して引き斬るものではない。

 今でこそ刀の扱いには多少慣れて来た炭治郎だったが、最初の頃は斧の癖が抜けず大変な思いをしたのだ。

 

「……よしっ!」

 

 なにはともあれ、やってみなければ始まらない。

 そう思いなおした炭治郎は、正眼に刀を構える。イメージするのはあの時の光景だ。自分の家族を鬼へと変え、せせら笑っていた憎き「原初の鬼」鬼舞辻 無惨。己の中で燃え盛る恨みを、決意を。常に斬撃へと乗せられるように。

 炭治郎は常に宿敵を眼前に置きながら刀を振るう。

 それはあの時の悲しみを、決して風化させぬためでもあった。

 

「でりゃああああああああぁぁ!!」

 

 今の自分が出来る精一杯の気合と技術を詰め込んだ一撃。

 毎日のように動作を繰り返した、面打ちだ。この型だけは、けっこうマトモになったと自負していたのだが……。悲しいことに現実と妄想は一致しないのが世の常だ。あの時の宿敵と同じように、炭治郎の刀は両手に伝わる痺れと共にあっさりと跳ね返されてしまった。

 

「ううう~……」

 

 痺れる両手を押さえながらうずくまる炭治郎。空の上ではカラスがせわしなく鳴いている。それが「バーカ、バーカ」と言われているような気がして、無性に腹が立ってしまう。

 炭治郎は自分の無力を嘆きつつも、長期戦を覚悟した。

 

 

 今の自分では御魂石(みたまいし)を斬れない。

 そう自覚した炭治郎は今まで鱗滝から教授された事柄を振り返り、一から自分の身体を鍛え直す決意を固めた。鱗滝が提示した課題ならば、斬れないわけがない。悪いのは自分が未熟なためなのだ。

 その中で一番注力したのが「全集中の呼吸」から繋がる「水の呼吸の型」。

 以前にも悩んだが、炭治郎は「水」という属性に適正がない。

 自分の中に燃え盛る恨みの炎が水への適正を阻害しているためだ。だからと言って、恨みの火を消してしまうなど論外。これこそ炭治郎の原動力であり、不屈の精神となる源でもある。

 

 そして炭治郎にも、鱗滝でさえも意外だったのは。

 炭治郎の隣で遊ぶように修行へと参加していた禰豆子が、見違えるほどに変貌しているという点だった。

 元々、鬼へと変えられてしまった時点で基礎体力や回復力などが別人のように強化されているのは承知していた。だが炭治郎はもちろん、鱗滝でさえ禰豆子が修行に加わるなど想定していなかったのである。

 炭治郎達が鱗滝と出会うキッカケとなった鬼は、自分の鬼としての能力を過信して技を(みが)いてはいなかった。あの鬼舞辻 無惨でさえ、特に何か特殊な力を使っているようには見受けられなかった。

 後者では単に使うまでもなかったという考えにもなるが、禰豆子が最初に喰った鬼に関しては何も考えていなかったと考えても問題はないだろう。

 人間は鬼とは違い、腕が千切れても生えないしコロリと死ぬ。だからこそ知恵を、技を(みが)くのだ。ならば鬼はどうか。強き者が知恵を使い、技を(みが)くならば。それはこの世の理さえも変えてしまうかもしれない。

 

 ◇

 

「ううう――――――っ!!」

「はあああああああぁぁ――――っ!!」

 

 夕闇が始まる狭霧山の頂上に、二つの刃が交差する。

 禰豆子が走り、飛び。文字通り縦横無尽に炭治郎へと襲い掛かる。

 この最後の課題を提示されてから、鱗滝は炭治郎の組み打ちの相手すら買って出てくれなくなった。その代わり毎日のようにボロボロとなって帰って来る炭治郎と禰豆子を労わり、食事を作り、風呂を沸かしてくれる。

 

 そんな炭治郎の修行相手となってくれたのが、妹の禰豆子だった。

 狭霧山の山頂。御魂石(みたまいし)の前で、炭治郎の刀と禰豆子の斧が交差する。それぞれの武器の特性上、技の炭治郎、力の禰豆子という形になるのは必然であったし最適と言えた。

 鬼となって人間外の膂力を手にした禰豆子には本来、爪という武器がある。

 それは鬼の持つ最強で最適な刃だった。だが、決して最優で万能なわけではない。一番の致命的な弱点は、間合いだった。

 剣道三倍段。近代で言うならばこの言葉が有名であるように、間合いの長さは絶対的な優位を約束する。ならば間合いが広い時は斧を振るい、戦闘の最中に懐に入れたのならば爪を使う。これだけで禰豆子の戦闘力は段違いに跳ね上がる。

 それを禰豆子は自分で考えたのだ。誰に教わるでもなく、炭治郎の修行を真似する中で自然と。

 この修行の成果は今後の炭治郎にとって、絶大な効果をもたらすことになる。本来命がけであるはずの鬼との戦闘経験。それを毎日のように経験できるのだから。

 

 

 だが、事件はそんな修行の最中で起こった。

 先日の雨が泥となって跳ねる中での訓練。それでも禰豆子が宙を飛び、己の全体重を乗せた斧で振り下ろしてくる。本来であれば、炭治郎にも落ち着いて対処できる間合いだった。

 だがその余裕が油断となって炭治郎の足を襲う。一瞬、その一瞬だけ。炭治郎の足が乾いた地面を踏みしめるかのように動いてしまったのだ。

 ずるりと縄で編まれた草履が滑り、まるで足腰に力が入らなくなってしまう。

 

(――――しまった!?)

 

 時はすでに遅し。

 炭治郎の眼前には、禰豆子の斧が間に合わないタイミングで振り下ろされてきている。

 

(よっ、よけっ……。間に合わない!?)

 

 脳裏にそんな言葉が浮かぶ時間しか、炭治郎には残されていなかった。

 炭治郎の視界いっぱいに、斧の刃が迫り来る。成長したと言っても禰豆子はまだ手加減というものが出来ない。手加減とは、圧倒的強者にのみ許された余裕から生み出されるからだ。炭治郎と禰豆子の実力差は今現在、拮抗していた。

 いま禰豆子が心置きなく斧を振るえるのは、炭治郎が受けきってくれるという絶対的な信頼で成り立っている。

 炭治郎はその期待に、応え切れなかった。

 

(禰豆子……、ごめんっ!)

 

 炭治郎は心の中で詫びた。

 禰豆子の信頼に応えられなかったこと。そして何より、この世に大切な妹一人を残して逝ってしまうことに。

 もう視界は白銀の刃の色しか把握できない距離にまで迫っている。

 

 だが、その視界が唐突に。――――開かれた。

 

 キィン――――――。

 

 普段から聞きなれた。しかして自分達より数段鋭い金属音が間近で耳に飛び込んできたのだ。

 

「……修練中に生を諦めるとは何事かっ!」

 

 炭治郎は一瞬、鱗滝さんが助けてくれたのかと錯覚した。

 しかしその声は明らかに若く、自分の知らない声だった。だがもう修行を始めて一年半にもなるが、この山で自分達以外の人間など見たことさえない。

 何者なのか検討もつかない炭治郎と禰豆子の前に。

 

 見た事もない獅子毛の少年と、黒髪の小さな少女が刀を持って佇んでいた……。




最後までお読み頂きありがとうございました。
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