本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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毎日読んでいただき、ありがとうございます。
第二章八幕となります。

禰豆子、大活躍の始まりです。


第2-8話[錆兎と真菰]

 なんとも不思議な雰囲気をもった二人だった。

 男の方は獅子のたてがみのような朱色の長髪をたくわえた、炭治郎より若干年上の少年に見えた。

 つづけて少女の方へと目を移す。歳の頃は禰豆子とそれほど変わらないかもしれない。赤い着物を着込み、肩に届くか届かないかくらいの黒髪が顔と一緒にユラユラと左右に揺れている。なんとも可愛らしい少女だ。

 そして二人に共通しているのは、鱗滝と似た狐のお面で顔を隠している点だった。

 鬼か人か、もしくはそれ以外の存在か。見た目だけでは判断できない。それ以前に炭治郎達の敵か味方さえも分からない。

 先ほどの一撃だって自分達に斬りかかって来たところに偶然、助けた形になったのかもしれない。

 

「鈍い、非力、未熟。……そんなものは男ではない。妹の信頼を裏切るような兄であれば尚更だっ!」

 

 狐の仮面の裏から怒気が流れてくる。

 

「そのような剣では誰も守れぬ、生かせぬっ! 今の自分を思い知るがいい――――っ!!」

 

 そう宣言した瞬間、目の前に居た少年の姿がかき消えた。

 次の瞬間、炭治郎の脳天に衝撃が走った。無慈悲なまでに一瞬で意識を刈り取る必殺の一撃。

 

「水の呼吸どころか、全集中の呼吸さえもその体たらくとはな。鱗滝さんに今まで何を教わっていたのやら……」

 

(この面野郎、鱗滝さんを知ってる――?)

 

 「ウウウゥ――――――っ!!」

 

 炭治郎の視界に真っ黒な幕が落ちてゆく。かろうじて横の禰豆子が露骨に威嚇(いかく)の唸り声をとどろかせているが、それすらも段々と小さくなってゆく。

 

「禰豆子……、にげ、ろ」

 

 その言葉を最後に、炭治郎の意識は真っ黒な幕が降り切ったように暗転した。

 

 ◇

 

 禰豆子は不思議そうに、目の前の光景を見つめていた。

 いつも自分に優しくしてくれる兄が意識を刈り取られ、土の上で寝転んでいる。その原因は他でもない、同じく目の前にいる人間のせいだ。

 

 鬼は人間の敵で、私達家族の仇。

 それは十分に理解していた。じゃあなんで、目の前の人間は、同じ人間である兄を傷つけるのだろう?

 

 鬼は敵。人間は味方。

 

 兄が師匠と呼ぶお爺さんと遊んでいる間、禰豆子もそこに混ざりたくてたまらなかった。かけっこ、チャンバラごっこ、水遊び。せっかく遊んでいるのに笑顔を浮かべない兄が不思議だったけど、決して無理もしていないし強制されてもいないのは理解できる。

 

 それに禰豆子は兄が山の中で歩を止めて、深呼吸している時間がお気に入りだった。

 何しろ、お面のお爺ちゃんはひたすら布団の中へ入っていろと言っているようだし、兄も兄で自分だけが遊びたりないとばかりに外へと行ってしまう。

 昼間はなぜかお日様の光が焼けるように熱いので我慢するが、夕方からだったら外へ出られる。禰豆子だって遊びたいのだ。

 兄が大きく息を吸い込み、吐き出す。兄の胸やお腹がポッコリ出てきたり、ペコリとしぼんだりする動きが可笑しいと共に懐かしかった。それは昔、禰豆子の記憶の片隅に残った父との毎朝の日課と一緒の動きだったのである。

 

「ウウウウ……、すぅ――。……はぁ――」

 

 その時間だけが、兄が自分と一緒に居てくれる時間だった。

 一年半の間、禰豆子はそんな兄を見かける度に自分も真似していた。意味なんて当然分からない、理解していない。ただ、元気が湧いてくるのだ。

 

 その結果、今の自分の身体がどうなっているのか。

 禰豆子はこの時。初めて自覚する。

 

 鬼は敵。人間は味方。

 

 でも目の前の二人は……、最初は人間に見えたが何か変だ。

 ならば、兄に危害を加えたこの二人は。――敵でいいのではないか?

 

 禰豆子とて本能的ではあるが理解している。

 

 この二人は、自分達よりも強い。

 

 ならもっと、身体の中に元気を送り込まなくては。

 

「すぅ――――……、はあぁ――――――――――………………。ウ、ウウウウウ……。ウアアアアアアアアアアアァァ――――――――ッ!!!」

 

 よし、もう身体の中は元気でいっぱいだ。

 よくわからないけど、兄を傷つけるヤツは敵。今考えることなんて、それだけで十分っ!

 

 禰豆子は倒れ伏した炭治郎の前へと出る。

 この世で唯一残った家族()を助けるために――――。

 

 

 

 その動きは獣のようだった。

 いや、これはもはや獣そのものだと言ってもいい。

 

 肉食獣のような爪や牙。桃色に光る眼光。

 

 そして、額の左側だけにちょこんと生え出した突起物。

 

「ウアアアアアアアアアアアァァ――――――――ッ!!」

 

 獣が威嚇するかのような咆哮が、狐面の二人に叩きつけられる。

 

「……やはり、ただの鬼か?」

 

 獅子髪の少年がボソリとつぶやく。

 

「錆兎が悪いよ、いきなり襲い掛かったんだから。……怒って当たり前」

 

 隣に居た黒髪の少女が非難めいた口調で口を尖らせる。

 

「それは、……そうだが」

「今も、お兄さんを守ろうと威嚇(いかく)してる。……この子、良い子だよ? 傷つけちゃ、ダメ」

「……女の傷は後が怖いか。任せる」

「うん、任された」

 

 そう言うと黒髪の狐面少女が一歩前へと出る。

 両腰に差すのは二本の小太刀。自分の体格に合わせた最適な長さが小太刀だったのだろう。その一本とスラリと逆手で抜きはなつ。

 

真菰(まこも)お姉ちゃんが、……いい子いいこしてあげる」

「ウガアアアアアアアァァ――――――――ッ!!」

 

 まるで自分の声を聴いていない鬼の少女を前にして、感情を表に出さない少女の口元が少しだけ上向きに伸びた。

 

 

 

 左右の手には鋭く伸びた爪。

 口には、炭治郎愛用の斧。

 

 三つの刃が真菰と名乗った狐面の少女に襲いかかる。

 禰豆子と真菰(まこも)は年齢が近く、体格はほぼ変わらない。

 その立ち振る舞いは、小柄で身軽な身体を最大限活用した速度重視型。対する禰豆子も鬼の力を利用した脚力を重視している。

 通常の立ち合いで考えれば小太刀の間合い分、真菰(まこも)が優勢になるはずだった。禰豆子が懐に入るか、それとも距離を空けられたまま力尽きるかの二択である。

 

 それなのに。

 

 真菰(まこも)は時折、禰豆子の間合いを図り損ねていた。

 

(まただ。この子の爪は、当たる瞬間に伸びてくる……っ!)

 

 自分の疲労は最小限に、そして相手の疲労を最大限に。真菰(まこも)は必要最小限の動きで攻撃を回避するよう、身体が無意識に動いている。とは言っても、特別な能力というわけではない。長い修練の果てに、身体が反射的に動くよう叩き込まれているのだ。いわゆる「見切り」と呼ばれる境地である。

 だが禰豆子に対しては、その境地が災いした。

 頭でもっと間合いを取らねばと思っても、身体の反射が優先されてしまう。意識と無意識、二つの感情を制御するのは困難きわまるのだ。

 

「……錆兎(さびと)。この子、手が伸びてるように見える?」

「見えんな。伸びるというより、成長していると表現した方が正しい」

「……成長期?」

「鬼となっても身体が成長するとは聞いたことがない。が、一つ確かなのは。この鬼は『全集中の呼吸』を使っているぞ?」

「……」

 

 真菰(まこも)が変な人物を見るかのような視線で錆兎(さびと)凝視(ぎょうし)する。明らかに「何を言ってるの?」とでも言いたげな目線だ。

 

「俺とて信じられん。が、理性のある鬼ならば不可能とは断言できんはずだ」

「……それはそうだけど」

 

 その真菰(まこも)の疑問に答えるかのように、うつむいた禰豆子の口が開いた。

 

「ウウウウウふゥ――――……っ。…………ハアァァァ――――ッ!」

 

 禰豆子がゆっくりと長い深呼吸を繰り返す。

 その肺活量もまた、人間の肺が許容できる量をはるかに超えていた。それと共に、禰豆子の身体からパキ、……ペキという骨の鳴る音が二人の耳に届く。

 

「……? なんのおと?」

 

 真菰(まこも)が頭をかたむけて疑問の声を漏らす。

 

「おそらく、だが。……信じられんが、成長する身体に骨がついていけずに鳴っているのだ。成長痛というやつだな」

「……鬼ってこんな短い間に成長するの?」

「するわけがないだろう。だからわざわざ、おそらくだの信じられんがだのと前置きを入れたのだ」

 

 そんな二人の会話をよそに禰豆子の身体は成長を続ける。

 腕や足がスラリと伸び、身体も少女から第二次性徴を終えた乙女の身体へと変化してゆく。まるで彼女の周囲だけ、この一瞬で六・七年近く年月が早回ったかのような光景だ。

 

「――ガッ、……オ、ニイチャ、ン……ノテキ!」

 

 一瞬で十代後半の身体にまで成長した禰豆子が、片言ながら言葉を口にする。だが精神までは成長できていないようで、その言葉使いは十二歳のソレである。

 

「……二人がかりでいくぞ。真菰(まこも)、構えろ」

「――っ! でも、でも!」

「こいつが俺達の存在を敵として認識しているなら致し方ない。それに……、もう手加減なんぞできる相手でもなくなった。……抜くぞ!」

 

 もはや問答無用とばかりに錆兎(さびと)は木刀を投げ捨て、腰の真剣に手をかける。悲しそうな顔を浮かべながら、真菰ももう一本の小太刀を順手で引き抜いた。

 

 緊迫した空気が狭霧山の頂上に満ちてゆく。

 正に一触即発という言葉がふさわしい状況だが結局、この戦いが始まることはなかった。

 

 両者の間に立つは他でもない。

 

 天狗の面をつけたこの場に居る全員の師匠、鱗滝左近次がこの戦いに待ったをかけたのである。




最後までお読み頂きありがとうございました。

禰豆子、自覚せずに「全集中の呼吸」を使うの巻。

もし炭治朗が二年もの時を修行に費やし、そのあいだ禰豆子が寝ていなかったら。
きっと、禰豆子も炭治朗の傍にいたと思うのです。

そうしたら、もしや? というのが発想の根源です。

禰豆子の能力って不明な部分が多すぎるんですよね……。飢餓を克服したのもそうですし、血気術を突然使えるようになるなど。
原作の方では太陽も克服したようですしね。

この作品ではある程度、分かりやすくいこうと思います。
さあ、鬼を喰らい続け、鬼滅の修行を見届けた禰豆子はどんな力を手に入れるのでしょうか?

今後をお待ちください。

PS.評価を頂きました! 何点であろうとも貰えるだけで嬉しいものです。ありがとうございました。
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