本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第二話九幕でございます。
昨夜は評価や感想を頂き、興奮冷めやらぬ夜となりました。
今一度、あつく御礼申し上げます。
これからもよろしくねっ。


第2-9話[鬼の呼吸]

 とっくに夕日は姿を隠し、月明かりが狭霧山の頂上を照らしている。

 炭治郎は意識を失い地に伏せ、御魂石の前で三人の少年少女が対峙していた。いや、少なくとも一人はすでに少女とは呼べない姿へと変貌している。

 その少女だった者の名は竈門 禰豆子。

 つい先ほどまで十二歳の少女だったはずが、今は成人前の女性となって唸り声をあげている。獣のように両手を地につけ、獣が獲物に飛び掛かるかのような四足獣の構えだ。

 それに対して錆兎が真剣の(つば)を切りながら腰を落とし、真菰が二本の小太刀を握った左右の手を広げ、胸を地につけるかのような低姿勢で構えをとる。 

 

 この戦いに開始の合図を出す審判など居なかった。お互いの神経が緊張に耐え切れずに途切れた瞬間、始まりと終わりが訪れる。そんな暗黙の了解をお互いが理解していた。

 

 だがそんな緊張感に包まれた狭霧山の山頂に、もう一人の乱入者が現れる。

 

「……そこまでだ」

 

 双方の耳に、周りの木々の中からそんな声が聞こえてくる。

 この場に居る全員が、聞き覚えのある声だった。真っ赤な漆塗の天狗面をかぶり、夜には目立つ水色の着物。まごうことなきこの山の主、鱗滝左近次その人だ。

 

「ウアアアア……。――――っ!」

 

 状況が理解できない禰豆子が再び唸り声をあげている。そんな彼女の前へと、鱗滝がゆっくりと近づいてゆく。そして、トンッという首への打撃音と共に、禰豆子の意識が刈り取られた。決して、目の前の少女への害意を籠めた手刀ではないことは明らかだ。

 

「お前達の妹弟子は、少し事情があってな。……暖かく見守ってやってくれ」

 

 禰豆子をゆっくりと抱き上げながら、錆兎と真菰へと顔を向けて鱗滝が口を開く。

 枯れ枝と落ち葉が敷き詰められた地面の上を、何の音もたてることなく立つその姿は威厳に満ち満ちていた。

 

「……分かりました」

「錆兎が乱暴してごめんなさい……」

 

 鱗滝の言葉に、二人は静かに頷く。

 

「……お前達の顔が見れただけで、儂はうれしかったぞ」

 

 ボソリと、小さく発したその言葉は。確実に二人の耳へと届いている。

 その事実を理解しているかのように鱗滝は頷き返すと、ゆっくりと狭霧山の闇の中へと消えていった。

 

 ◇

 

 囲炉裏の灯りだけが支配した自宅の中で、鱗滝は少女へと戻った禰豆子を床へ寝かせていた。

 別に何時もと変わりない。修行に疲れ果てた炭治郎を、遊び疲れた禰豆子を、親代わりのように一年半前から続けてきた行為だった。

 

 それでも、今日だけは。

 

 (とこ)の感触に身体を任せた禰豆子に布団をかける鱗滝の手が、震えていた。

 それが何故なのか。そんな疑問は考えずとも重々に承知している。先ほどまで鱗滝が目に焼き付けていた真菰と禰豆子の手合わせ。その中で鬼である禰豆子が、炭治郎でさえ習得に苦戦している「全集中の呼吸」を使いこなしていたからだ。

 

 鱗滝は直接、禰豆子に教えを授けた記憶などない。

 それでも、記憶をさかのぼれば。

 

 確かに禰豆子は、炭治郎が全集中の呼吸の訓練を行なっている場所に居た。

 まるで幼い妹が兄の行動を真似して遊ぶかのように、禰豆子も深呼吸を繰り返していた。

 まさか、この子は。兄の見よう見真似だけで鬼殺隊の秘儀である「全集中の呼吸」を身につけたのだろうか?

 

 鱗滝の震えた手が、なんとか禰豆子の首にまで布団をかけ終える。

 

「……全集中の呼吸とは、こうも容易く身に付けられるものなのか?」

 

 誰に聞かれるでもなく、鱗滝は二人の子を見守りながら独り言を口にする。

 非政府組織である鬼殺隊という組織が結成されて、決して短くない年月が流れている。その中で鬼殺隊士になれず、命を落とした子のなんと多いことか。

 柱としての実績は長くも、まだまだ育手としての経験が長くもない鱗滝でさえ沢山の子を見送り、そして失ってきた。己の罪深さに耐え切れず、胡蝶カナエの紹介がなければ子を預かる気さえ無くなっていたのだ。

 

 鱗滝は改めて目の前に眠る少女へ視線をうつす。

 なんと年相応の寝顔だろうか。その眼光を見なければ、長く伸びた爪や牙を見なければ。何処にでもいる、蝶よ花よと愛でられる少女となんら変わることもない。それなのに、この少女は。これまでの鬼殺隊の歴史ではありえない偉業を達成してしまっている。

 

「儂は、この世の希望を育てているのか……? それとも……」

 

 厄災を育ててしまっているのか? とは、とても口にする勇気が鱗滝にはなかった。

 本来「全集中の呼吸」は人間にはとても(あらが)えない鬼という存在に対抗するため、千年もの昔に鬼殺の開祖が編み出したものだ。この大正の世に至るまで、この技法が決して悪用されぬよう産屋敷家が守り続けてきた。決して鬼には漏らしてならぬ、人々の希望なのだ。

 

 もし、鬼が全集中の呼吸を覚え。

 人類に喰らいつくのなら……。

 

 

 この世は。

 

「炭十郎……。そなたは儂に、何をせよというのだ……」

 

 無論、その言葉を返す人間など居るはずもない。

 他の誰にも相談できるはずもない。

 

 この事実が漏れたなら、確実に。

 

 鱗滝が見守る、鬼と成り果てた少女の命はないのだから――――。




最後までお読み頂きありがとうございました。

鱗滝師匠、自分が何者を育ているのか恐怖する。の巻。

前話のあとがきでも書きましたが、原作でも(アニメ知識がメインですが)禰豆子さんの才能はヴェールに隠されている部分が殆どです。こればっかりは原作者の先生でなければ分かりません。

仮説は立てれますが「ここは少年漫画らしくいこう!」というわけで、禰豆子さんにも呼吸を覚えてもらいました。
この作品は炭治郎・禰豆子のダブル主人公でいこうと思います。

禰豆子が強くなるのは兄である炭治郎にとっても歓迎すべきことなのは間違いありません。

しかして、炭治郎は「お兄ちゃん」なのです。

次回「第2-10話 兄の威厳」は明日18時投稿です!
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