第2話最終幕でございます。
妹に追い抜かれ、自信を無くしてしまった炭治郎君。ですが彼だって……。
「……炭治郎はきっと、水より炎の方が適正あるよ。自分でも分かってるよね?」
禰豆子が御魂岩を両断せしめた日の夜。
今日も錆兎に良いようにあしらわれてしまった炭治郎は狭霧山の山頂で一人、刀を振り続けていた。いつもと何ら変わりのない夜。鱗滝さんから最終試験を言い渡されて、錆兎に修練をつけてもらうようになってから続けている日課だ。
自分に才能はない。
それをこれでもかと見せつけられた炭治郎に出来ることと言えば、「継続は力なり」を地でいく地道な反復練習のみだった。
努力に勝る才なし。
炭治郎はひたすらその言葉を掲げて、今日も自分を限界まで追い込む。鱗滝に教わった呼吸を乱すことなく、振るい続ける刀に同期させるように。
そんな時だった。
何時もなら誰もいないか、もしくは近くで遊ぶ禰豆子がいるぐらいの山頂に、真菰が姿を見せたのだ。
「……鱗滝さんにも言われたよ。それでも俺は、水の呼吸を体得したいんだ」
「どうして?」
嫌味でもなんでもなく、心底不思議そうに真菰は頭をかたむける。その純真無垢な疑問に一度、炭治郎は答えに
それでもこれはおそらく、今の自分が乗り越えなければならない壁の一つなのだろう。真菰が真正面で見つめるなか、炭治郎はゆっくりと口を開いた。
「俺は、下の兄弟達を殺した鬼舞辻 無惨が許せない。……最終的に兄弟達の首を跳ねて殺した富岡義勇とかいう鬼殺隊士も、だ。必ずこの手で仇を討つ。そう、墓前で誓った」
炭治郎の告白に、真菰は寂しげな表情を浮かべながらも耳を傾ける。
「でも同時に、俺は何としても禰豆子を人間に戻す方法を探さなきゃいけない。……けどっ!」
「復讐という負の感情と、妹の救済という正の感情。二つの両極端な感情が君の心の中で同居してる? そして炎の呼吸を修得してしまうと正の感情が負の感情に負け、只の復讐鬼になってしまいそうで怖い? そんなところ?」
「――――っ」
たったこれだけの言葉で、真菰は炭治郎の心の中をすっかり
「……君の心は、かなり危うい状態にあるんだね。今もちょっとしたきっかけで、暴走してしまいそうなほどに……燃えている」
だからこそ、水の呼吸を体得して心の均衡を保ちたいのだ。炭治郎の中で燃え盛る怨嗟の炎を鎮めるために、なんとしても水の型を修得したい。
「君は、……自分には素質がないと思ってる?」
真菰は、ささやきかけるような声で心の中に入ってくる。
「それは……、そうだよ。これだけ鱗滝さんに教えてもらって、錆兎に稽古をつけてもらっても。俺は……」
「違う。そこが、そもそもの間違い。炭治郎は強いよ。反則的な今の私達について来られるんだから」
「……?」
真菰の口調には決して自慢げな意味は含まれていない。むしろ、反則行為を行なったかのような罪悪感さえ
「私と錆兎はね。……もう、人間じゃないんだ。炭治郎にも分かりやすく表現するなら……幽霊って言葉が一番近いと思う」
「えっ、ええっ!?」
突然の告白に混乱する炭治郎。けれど真菰の告白はゆっくりと、夜の満月を見上げながら続けられた。そして視線を最終試験の課題である御魂石へと向ける。
「私と錆兎はね。数年前、炭治郎や禰豆子と同じように鱗滝さんの元で修行に励んでいた。……実は義勇君も一緒だったんだよ?」
「義勇君って……、富岡義勇?」
「……うん。私達三人、皆で鬼殺隊士になろうって此処でがんばってた。でも、最終選抜を乗り越えられなかった。……生き残ったのは、義勇君だけ」
昔の楽しかった記憶を想い起こすかのように、真菰の独白は続く。
「あの御魂石にはね。今まで此処で、鱗滝さんの下で修行して、最終選別を生き残れなかった子達の魂が宿ってる。私と錆兎はね、その子達全員の力を借りているんだ。反則っていうのはそういう意味」
それは一体何人分の力なのか、炭治郎は想像もつかなかった。けどここまで真菰が改まって言う以上、それなりの人数であることは容易に想像がつく。
「けど炭治郎は、そんな私達との打ち合いについて来てる。錆兎だって表面上は余裕ぶってるけど、最近の炭治郎相手だとかなり厳しくなってるよ。付き合いの長い私が言うんだから間違いないよ」
「……それは、ちょっとは自信を持っていいってこと?」
「ちょっとどころじゃなくて、大いに自信を持っても良いと思う。もう、私達との修練だって残りは最後の一つだけだしね」
そう言うと、真菰は炭治郎の真正面に近づいてきた。それも鼻と鼻が触れるかのような至近距離だ。
「まっ、まこもさん!?」
これまでの人生でまったく恋愛経験のない炭治郎の顔が真っ赤に染まってゆく。それぐらいに、もしかすると接吻でもするのではないかという近さだ。
真菰は両の手で、炭治郎の両肩を掴んだ。
「もう、十分に身体は仕上がってる。あとは、炭治郎が悩んでいる通り、呼吸の型を身につけるだけ」
「…………そんなことはっ」
何よりも自分自身が理解している。そう言いたげな炭治郎に、真菰は更に言葉を重ねた。
「炭治郎はこれまで、身のうちに荒れ狂う憎しみの炎を理性という水で隠そうとしていた。……それが間違い。憎しみの炎だって炭治郎の一部なの。……受け入れて、炎を」
「炎の呼吸を、……受け入れる」
「そう、かといって理性の水も失っちゃだめ。『水を炎という熱で受け入れるの』」
まるで禅問答のような真菰の言葉。
しかし炭治郎は不思議と、その言葉が身体中に染み渡るのを感じていた。水で炎を消すのではなく、水を炎で熱するのだ。それはやがて、炭治郎の中で沸騰し、蒸気となって体外へ噴出される。
「まるで……、自分の身体がヤカンになったみたいだ」
「そう、それこそが炭治郎の、炭治郎だけの呼吸。水でも、炎でもない『気熱の呼吸』だよ」
まるで全身が蒸気によって吹き上がるような感覚を、炭治郎は感じていた。
今なら、これまで考えもしなかった技を使える気がする。そんな高揚感を覚える。そんな炭治郎と御魂石の間に、錆兎がいつの間にか姿を現していた。
「……最終選抜は、もう近い。これを逃せば、また来年だ。俺とて付き合う気はないぞ」
「…………はいっ!」
「この一戦が、俺達の最後の手向けだ。遠慮も
炭治郎に向かって吼える錆兎の手には、今までの木刀ではない鋼の刃のついた真剣が握られている。
文字通りの真剣勝負が、これから始まるのだ。炭治郎は自分の身体が勝手に動くような錯覚にとらわれていた。自然と蒸気の渦に包まれた刀を頭上へとあげ、最大の一撃を放つべく上段の構えをとる。
もう、迷いはなかった。
ここまで導いてくれた二人の兄弟子に自分の成長を見てもらうため、この「気熱」に包まれた刀を全身全霊で振り下ろすのみだ。
チャキンと、錆兎が鯉口を切る。錆兎の最大の得意技、居合いだ。これまで膨大な時間を自分のために費やしてくれた兄弟子の、本気の一閃。この一閃を越えてこそ、次の新たな自分の姿が見えるのだ。
『気熱の呼吸 壱の型 ……間欠閃っ!!』
自然と考えたこともない技の名前が、炭治郎の口から放たれる。自分の中にある気熱を、この一閃にすべてを籠めて。
「うおおおおおおおおおおおおおおぉ――――――――ッ!!!」
炭治郎は身体の導くまま、全力で日輪刀を振り下ろした。
最後までお読み頂きありがとうございました。
このお話で炭治郎君独自に「気熱の呼吸」を習得しました。
なぜ素直に「水の呼吸」のままでいかなかったのか?
それは「主人公独自の呼吸法」が欲しかったというのが一番の理由となります。
「日の呼吸があるじゃん?」ごもっともです。
ですが日の呼吸も「炭治郎が初めての使い手ではありません」。
おそらく家系的に代々受け継がれてきた最強の呼吸なのでしょう。それは開祖が編み出した呼吸なのであって、炭治郎君の呼吸ではないんですよね。。。
やはり主人公の力は唯一無二。それが鉄板というものでしょう!!
さてさて。
明日18時の更新から第3話「最終選別編」へと突入していきます。
とはいえ、当然ながら原作のままではありません。
この作品で初のオリジナルキャラが登場します。それでもよろしければお付き合いください。
追記:沢山のPV・評価ありがとうございます! 煮詰まった時の励みとなっております。