本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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今週より第三話へと入っていきます。
色々と実験を行なった話ともなりますので、感想やツッコミを頂ければありがたいのです。


第三章(前編) 妹鬼
第3-1話[最終選別の舞台へ]


「うおおおおおおおおおおおおおおぉ――――――――ッ!!!」

 

 狭霧山の山頂に、裂帛(れっぱく)の気合が木霊した。

 炭治郎の振り下ろす刀から立ち上る蒸気が向きを変え、あるはずのない山から流れ落ちる鉄砲水のように錆兎と御魂石に迫る。そのあまりの勢いに錆兎の居合いも勢いを殺され、形のない濁流に飲まれてゆく。

 この勝負。どちらに軍配が上がったかは、縁の木々に姿を隠していた鱗滝にも一目瞭然だった。

 

「……見事」

 

 ポツリと鱗滝が、自分だけに聞こえる大きさで賞賛の声を漏らした。

 この子達は。

 この兄妹は。

 自分の教えるもの以上の技を手にいれた。

 それが誇らしくもあり、恐ろしくもあった。この兄弟はこの先、一体どのような道を歩むのだろうかと。この日の本の国から鬼を一掃する英雄となるのか、それとも……。

 

 不安を消し去るかのように一度だけ鱗滝は頭を振り、目の前の光景に視線を戻した。

 炭治郎の放った蒸気によって濃霧のように視界が遮られていたが、狭霧山の山頂に吹きつける風によって飛ばされてようやく全体を見渡せるようになってくる。

 

「はあっ、はぁっ、ぜぇ…………」

 

 始めて使った「気熱の型」に身体が追いついてこなかったようで、炭治郎は今にも倒れこみそうなほど疲弊(ひへい)しているようだった。もはや四肢に力が入らず、頭部もふらつき、ただ地面に突き刺さった刀を杖のようにして身体を支えている。

 だが、それも限界だ。

 その場で気絶するかのように倒れ込む炭治郎。その身体を支えたのは他でもない、先ほどまで木々の上で高みの見物を決め込んでいた鱗滝左近次の腕だった。

 

「最終試験……、合格だな」

「うっ、鱗滝さん? 俺、一体……」

 

 どうやら炭治郎は、自分の一撃がどんな結果を生んだのか今だ理解していないらしい。

 

「ゆっくりと、目の前の光景を見てみろ」

「……えっ?」

 

 自身の師匠に促され、顔を上げた炭治郎。

 その瞳がとらえたのは誰もいない荒廃した広場と、無数の小岩となって散乱する御魂石(みたまいし)の残骸だった。

 

「もう一度言おう。……合格だ。おめでとうっ」

 

 ようやく覚醒した意識の中で、炭治郎は鱗滝の言葉の意味を噛み砕いてゆく。この二年、どれだけ渇望した言葉だろうか。どれだけ聞くことが叶わないと諦めかけただろうか。

 何度も絶望し、それでも諦めなかった結果がここにある。自然と炭治郎の瞳から、歓喜の涙が溢れ出た。

 いつの間にか、二人のすぐそばには禰豆子の姿がある。鬼となって言葉は話せずとも、その声からは喜びの色が(にじ)み出ていた。

 

「うああ……、ああああ……」

 

 人目を憚らず膝をつき、感涙にふける炭治郎。その頭を禰豆子の小さな手が優しく撫でていた。

 

 ◇

 

「では、禰豆子をよろしくお願いします」

「ああ……。必ず、生きて戻って来い。」

「……はい」

「先日の忠告も、ゆめゆめ忘れるでないぞ?」

「……っ、はい」

 

 新たな門出の朝だった。

 育手である鱗滝から最終選別へ向かう許可を得た炭治郎は一路、会場である藤襲山へと向かうこととなる。だがその背中に禰豆子の姿はなかった。

 修行開始当初、鱗滝は炭治郎だけを鍛えるつもりだった。だが禰豆子は修行の間にも狭霧山の周囲に居る鬼を喰らい、遊び半分で修行に付き合った結果「鬼の呼吸」まで修得してしまった。これは炭治郎はもちろん、育手の鱗滝でさえ予想できなかった事態だった。

 結果的にとはいえ、「全集中の呼吸」を会得してしまった禰豆子に道は一つしかなかった。なぜなら、「呼吸法」は鬼殺隊士の秘儀である。それを修得した者は鬼殺隊士となる権利があると同時に義務でもある。間違っても鬼殺隊外部に漏洩するわけにはいかないのだ。もし禰豆子のような「全集中の呼吸を覚えた鬼」が繁殖したら、この国は滅亡の一途をたどることになる。

 

 だが、それでも今。

 禰豆子という鬼の存在を内外に公表するのはあまりにも危険すぎた。鬼という人間の敵が「全集中の呼吸」を会得したという事実は、鬼殺隊のこれまでの考え方を根底から覆す大事件なのだ。もしこの事実が「柱」に聞こえようものなら、間違いなく禰豆子は殺されてしまう。そんな確信めいた未来が、鱗滝には容易に想像できた。

 間違っても、最終選別という鬼殺隊士候補ばかりの会場へと連れて行くわけにはいかなかったのだ。

 

 この二年で、竈門兄弟の性格も変わっていった。

 特に炭治郎は、自分以外の存在に妹を預けられるほどに鱗滝を信用してくれている。この狭霧山に来たばかりの炭治郎ならば、けっして禰豆子の横からは離れなかっただろう。それは一見、妹の身を案じる優しい兄の姿のように映る。だが本当に依存していたのは、「妹を守る」という使命に(すが)る兄の方だった。

 

 兄は強くなった。

 自分だけではなく錆兎や真菰の教えをもらったとはいえ、身の内に潜む感情と向き合い「気熱の呼吸」という独自の型まで編み出してみせた。 

 

 だがそれ以上に、妹の成長は異常だった。

 この二年の間、生きるためとはいえ鬼を喰らって成長を続けた禰豆子はもはや、鱗滝でさえ止められるか不安になるほどの強さを手に入れていた。

 

 だからと言って先が明るいかと言われれば、否と言わざるを得なかった。

 まだまだ竈門兄弟の未来は闇に閉ざされている。ようやく光明の灯火が一欠けら、僅かばかり見えたに過ぎないのだ。そしてもう、育手である鱗滝がしてやれることなど何もない。

 

 炭治郎の姿が小屋から見えなくなるまで、鱗滝は微動だにせず見送り続けた。

 何も知らない禰豆子はもう、朝日を避けるために布団の中へと逃げ込んでいることだろう。兄が居なくなったと知れば泣き叫ぶかもしれないが、此処より安全な場所など何処にもないのだ。

 

 鱗滝は静かに、胸の前で手を合わせた。

 

 まるで、幼き少年の無事を仏に祈るかのように――。




最後までお読み頂きありがとうございました。

鱗滝師匠、竈門兄弟の未来を心配するの巻。

原作の炭治郎くんは心優しい少年ですから、鱗滝師匠が心配することはないでしょう。
しかしこの作品の炭治郎くんは、言うなれば重度のシスコンで、しかもヤンデレです。

妹と一般人、どちらの命を取るかという判断に迫られた時。
普通の隊士なら一般人を選ぶのでしょうが、このお兄様は迷いなく妹を選ぶのではないか?
それにより、隊律違反として処断されてしまうのでないか?
そんな感じに心配しているのですね。

そしてこれが、この第3話のテーマでもあります。

気になった方はまた明日18時に投稿しますので、よろしければお付き合いください。
ではではっ!
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