本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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今回は導入部となります。
特徴のない、原作を読んでいる方ならあまり面白くない回かもしれません。それでも書かないと、なんのこっちゃなお話になってしまうので(汗
次回からオリジナルの方向で動き出しますので、明日18時の更新をお待ちくださいです。


第3-2話[藤襲山]

 最終選別の会場となる藤襲山は、意外にも狭霧山から程近い場所にあった。

 これほど近所なのであれば、狭霧山の頂上からも見えそうなものだと炭治郎は不思議に思ったのだが、実際に目の前にあるのだから疑いようもない。そして更に不思議だったのは、藤襲山の季節違いな装いだった。お正月が目の前に迫る今、普通なら雪化粧を(まと)っているはずが藤襲山だけが鮮やかな紫の色彩に包まれている。

 

「なんで、こんな目立つ山に気付かなかったんだろう……?」

 

 炭治郎はひたすら首を傾げながらも、登山口の前に立った。

 

「それに……、すごい。ここだけ冬を飛び越して春が来たみたいだ」

 

 山肌から(そび)え立つ藤の木々のそれぞれが、樹齢数百年はたっているような巨木ばかり。それでいて日の光を遮るように、炭治郎の頭上には藤の花が垂れ下がっている。

 炭治郎は周囲を警戒しながら、石造りの階段を登り始めた。何しろ日の光が全く入ってこないのでかなり薄暗い。これなら昼間でも鬼が活動している危険性は十分にあるのだ。用心するに越したことはない。

 

 と、最初は思っていたのだが。

 

「なんだココ。藤の花の臭いばっかりで、まるで鬼の臭いがしないぞ? …………こんな所で最終選抜をやるのか?」

 

 炭治郎の頭上に疑問符がつきまくる。

 見た目だけで言えば、春のお花見会場のような光景なのだ。こんな華やかな場所でどんな選抜試験をするのか、想像もつかない。

 そう思っていた炭治郎だったのだが、階段を登るにつれ山頂の方角から不穏な臭いが流れてくる事実に気がついた。それまでは満開すぎる花の臭いに消されていただけだったのだ。

 

 この藤襲山の頂には、自分が予想もしないような相手が待ち構えている。そんな嫌な予感に襲われつつも、炭治郎は足を急がせた。

 

 ◇

 

「ふああぁぁぁ……」

 

 義勇やカナエから非政府組織だという話を聞いていた炭治郎は、目の前にたむろする最終選別候補者の多さを見て感嘆のため息をもらした。てっきり、多くても十人に満たないくらいだろうと考えていたのだ。それが蓋を開けてみれば、三十人は居るように見える。

 

(それでも手練れと呼べるのは……、四人ぐらいか。一人は意味不明に怯えてるけど)

 

 凶暴な臭いの少年が二人、何の色も見えない匂いの少女が一人、もう一人の少年は強い臭いなのにひたすら怯えている。そんな多種多様な臭いだ。

 だが強い。今の自分と同等か、もしくは禰豆子・鱗滝級の臭いを放つ者も居る。

 

「この中で合格できるのは、一体何人なんだ……?」

 

 炭治郎はボソリと、心の中に溜まりつつある不安を口にする。

 もちろん誰にも聞こえないように、だ。心まで負けてしまっては戦う以前の問題である。

 

 集合場所となっている藤襲山の中腹に位置する境内は、綺麗な石畳で舗装されている。その先には大きな鳥居までもが建立されているが、普通ならその更に奥にあるはずの神社が見当たらない。周囲に咲きほこる藤の花も含めて、なんとも不思議な空間を演出した境内だった。

 しかも鳥居の下には、日本人形としか思えない風貌の双子が無表情に立ち尽くしている。本当に驚くくらいの無表情っぷりだ。もしかして、本当に人間ではなく人形なのだろうか?

 そう炭治郎が疑い始めた時、双子の日本人形が口を動かした。

 

「「皆様、今宵は鬼殺隊最終選抜にお集まり頂きありがとうございます」」

 

 見事に一言一句、ズレのない双子の言葉が重なり合って参加者達の耳へと届けられる。

 

「この先、藤襲山の中腹から山頂にかけては無数の鬼達が閉じ込められており」

「鬼避けとなる藤の花もありません。」

「皆様の最終選抜試験はこの鬼の巣で七日間、生き抜いてもらうことでございます」

「自信の無い方、己の命が惜しい方はお帰り下さい」

「誰も、強制はいたしません」

 

 なんとも感情のない声が、黒髪と白髪の双子の口から交互に発せられている。

 もしかしたら腹話術で別の人が話しているのではないか? と疑いたくなるような声だった。

 

 無論、こんな忠告を頂いたからと言って逃げ出すような人物など……。

 

「じゃあ、やっぱり帰ろうかな~。……なんて?」

 

 いた。

 しかもよりによって、先ほど炭治郎が手練れだと感じたうちの一人。奇抜な黄色い髪をした、先ほどからガタガタと震えていた少年だ。

 この時、炭治郎は始めて自分の鼻に疑問を覚えた。なぜこんな臆病者の臭いを手練れだと感じたのだろうか? ちょっと自信を失いかける。

 

 まあもっとも、この少年とて本気で言ったわけではないらしい。

 他の参加者から軽蔑の視線が集中すると同時に、「やる、やりますよっ! やるからそんな目で見ないでぇ――っ!!」などと言って喚きたてている。しかも「逃げたら逃げたで、爺さんに殺されるし……」などとブツブツと愚痴を繰り返してもいた。

 

 そんな言動を不思議に思っていた炭治郎の脳裏に、天啓が舞い落ちる。

 

(もしかしたら、他に逃げ出す参加者がいないか試したのか? もう最終選抜は始まっているってことか……!)

 

 天啓によって事実に気付いた炭治郎は、大きく深呼吸しながらも再び気合を入れなおす。

 実はまったくの見当違いなのだが、ある意味常識人である炭治郎は変なところで純真だった。今だにガタガタと体を震わせる演技を続ける黄髪の少年の肩を叩き、はげましたのだ。

 

「やるな、お前。お互い頑張ろうぜっ!」

「えっ、だれ、お前。何言ってんの?」

「皆の緊張をほぐそうとしてたんだろ? 分かってるって!」

「いや、本心だけど?」

「わかってる、分かってるよ。候補生にもお前みたいな優しい奴がいるんだなあ」

「ぜったい分かってないだろ!?」

 

 実はこの炭治郎という少年。

 その精神年齢の高さから、同年代の友人という存在を持った経験がなかった。実家の麓にある村へ木炭売りに出ていた時にも、同年代の少年はいたのだがどうにも話題が合わなかったのだ。家業を継いで仕事に精を出す少年と、遊び盛りの少年とでは会話に差が出るのは当然の話である。

 逆に言えば、周囲の大人達が可愛がってくれたお陰で世間知らずのまま成長してしまった可能性も否めない。

 

 竈門炭治郎。十五歳の冬。

 もしかしたら、初めて友人が出来た瞬間かもしれなかった。 




最後までお読み頂き、ありがとう御座いました。
また明日18時に更新しますので、よろしければお付き合いください。

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