本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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お待たせしました。
このお話から第三章本格始動でございます。
キャラが一気に増えますね。どう動かそうか四苦八苦してました(笑


第3-3話[始まりの刻]

「「それでは、皆様のご健闘をお祈りしております」」

 

 どの角度から見ようが日本人形な双子の言葉を背に受け、候補者達は暗闇の中へと入っていった。

 その先にはもう、艶やかな藤の花は一本たりともない。炭治郎にとっては狭霧山と変わりない、見慣れた山の夜だった。もはや光と言えるのは月明かりしかなく、何時何処から鬼が襲ってきても不思議ではない。

 

 月光によって反射する藤の花の光が消え去り、候補者全員の視界が闇に閉ざされてから。

 一人の男が声を発した。

 

 他でもない、開始前から怯え震えていた黄髪の少年である。

 

「なあ皆、提案があるんだけど。……この試練を全員で生き延びないか?」

 

 その言葉は、炭治郎にとっては十分に予想できた提案だった。

 試験官であろう双子の少女は、この鬼だらけの山で七日間生き延びろと言っただけで他に条件など何も提示しなかった。

 つまりは、鬼を狩ろうが狩るまいが。

 候補者が集団で対処しようが問題はないということになる。

 

 たとえ一人では対処できない鬼が出現したとしても、複数人あるいは全員で戦うならば生存の確率は一気に跳ね上がる。

 誰もが損をしない当たり前の案なのだ。もし今此処で黄髪の少年が言わずとも、遅かれ早かれ誰かが言い出していただろう。それだけ当然と言えば当然の成り行きだった。

 

 だが、どの世界にも群れるのが嫌いだという一匹狼はいるもので。

 

「ふっざけんじゃねえぞ……。どいつもこいつもぉ、情けないツラしやがって。てめぇら鬼狩隊士になりに来たんじゃねえのか? てめぇのケツぐらい、てめぇでふけってんだ!!」

 

 そう言いながら姿を現したのは、なんとも奇妙な少年だった。

 上半身は裸。

 下半身はズタボロのズボンをはいている。

 そして何と言っても奇妙すぎたのは頭部。本物かどうかは知らないが、猪の被り物で頭部を覆い隠した少年だ。

 

「さっき、あのガキ二匹が言ってたじゃねえか。……自信がねぇなら帰れってな。てめぇら、何のために此処にいやがる」

 

 言葉は乱暴ではあるが、言っていることはこれもまた正論だった。

 たとえこの最終選別を戦わずに切り抜けたとしても、鬼殺隊士となれば鬼を狩る毎日が待っている。死ぬのが早いか遅いかの違いでしかない。

 

「で、でもよ。鬼殺隊士になっても一人で鬼狩りをするわけじゃあないんだろ? なら、絆を深めておくのも悪い案じゃあ……」

「ハアッ、ハッハ――ッ! それも、ナシだな。なぜならオレはお前らとは今後も共闘しねえし、できねえ」

 

 それでも共闘すべき、という声は上がった。だがその言葉を遮ったのは猪頭の少年ではなく、今度は脳天にしか髪を残していない鬼のような目を持った少年だ。

 

「なっ、なんでだよ!?」

 

 瞳に涙を浮かべながら、黄髪の少年が食ってかかる。

 

「それはな。……この場に居る殆どの人間は、この山で死ぬからだ。知ってるか? 毎年、最終選別での合格者が何人いるか」

「そんなの、知ってるわけないだろ!?」

「例年通りなら、一人か二人。全員が死んだって年もあるそうだぜ? 今年はどうだろうなぁ!?」

「――――――ッ、ヒィ!」

 

 物音一つしない静かな山奥で、黄髪の少年が漏らした悲鳴だけが妙に響いた。

 先ほどまでざわついていた場が、一人のモヒカン少年の言葉によって静まり返る。しかしそれだけではなかった。今ここに居る、殆どの候補生は死ぬ。そんな真実を知らされて平然としていられる者など殆どいない。更に言えば、この場に居る候補生は全員が十代半ばの子供達だった。

 恐慌状態になるなと言う方が無理な話なのである。

 

「いっ……、嫌だ。俺はまだ、死にたくなんてないぞ!」

「そうだ、まだ間に合う。俺は棄権する、今から戻ればまだっ!!」

 

 そんな声が、集団の中から聞こえてきた。

 一人、また一人とこの場に居る人数が少なくなってゆく。しかしそれと同時に、逃げたはずの方角が悲鳴が聞こえてくるのも早かった。

 

「ぎゃあああああああああああっ!!? こんな、こんなに巨大な鬼が居るなんて聞いてないぞ!!!」

 

 阿鼻叫喚の絵図とは、こんな光景を描いたものなのだろうか。

 あれだけの修行を積んできた炭治郎でも、しばらくその場から足が動かせなかった。まさか、この事態を予期した鬼が回りこんでいるとは思わなかったのだ。……ようやく炭治郎の身体からふるえが消え去った時にはもう、逃げ出した候補者の悲鳴は聞こえなくなっていた。

 

 もはや助けに行くにも遅すぎたし、他人の心配をしている余裕もない。

 

「お前、こうなることを知っていたな!?」

「なぁに、あのガキ共じゃ試験官の荷が重そうだと思ったんでな。ちょいとばかしお手伝いしてやったってわけよ。……どの道、今喰われた連中は死ぬ。鬼殺隊はそんなに甘くねぇ!」

 

 逃げ出した候補生の少年達に喰らいつく鬼。

 この事態の推移は、余りにも物語的だった。間違いないと炭治郎は確信しモヒカン少年の胸倉を掴み上げた。こいつは「知っていて仲間を鬼に喰わせたのだ」。

 

「おいっ、人間同士で喧嘩している場合じゃねえ。…………来るぜぇ」

 

 猪頭の少年が、両腰からボロボロの刃となっている刀を引き抜く。

 

「……………………」

 

 無口な黒髪の少女も、ゆっくりと腰から刀を抜いた。

 まるで巨大な獣が歩いてくるかのような地響きが、炭治郎達の足をふるわせる。

 

「そっかぁ……、今日は選別の日かぁ。子供の肉は美味しいなあ。やわらかくて、味わい深くて。さいこうだぁ」

 

 姿を現したのは、無数の手が身体中から生えた異形の鬼。

 その手には今まで一緒に行動していた候補生達の死体が握られている。

 

 そんな。

 身の丈七尺八寸もありそうな大鬼が、ニヤニヤと笑いながら炭治郎達を頭上から見下ろしていた。




最後までお読み頂きありがとうございました。

ちなみに原作でも一人で生き残れとは指示されていません。どうしてバラバラに散ってしまったんでしょうか。裏で指示があったのかもしれませんね。

大正ひそひそ話
玄弥君は他の鬼殺隊候補生達を死なせるつもりなどありませんでした。
実は逆。この最終選別の生存率が極めて低いことを知っていたため、合格する見込みのない人間を逃がすために事実を口にしたのです。
誤算は数手の大鬼が潜んでいたことでした。玄弥君は呼吸が使えないため、鬼の位置まで把握できなかったのです。
炭治郎君に向かって非情な言葉を口にしたのは、自分へと罪を突き付けるためなのでした……。

玄弥くんマジ真面目。
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