本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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昨夜は沢山の感想を頂くと共に、主人公の漢字を間違えているという致命的なミスが発覚した日でした(汗
自分ではまったく気付いていなかったので、指摘して頂かなかったら、あのままずっと突っ走っていたかもしれません。
本当に有難う御座いました。


第3-4話[人食い鬼(前編)]

「そっかぁ……、今日は選別の日かぁ。子供の肉は美味しいなあ。やわらかくて、味わい深くて。さいこうだぁ」

 

 恐慌状態となった鬼殺隊候補生達が逃げ出した暗闇の先。

 無数の悲鳴が鳴り終わり、ぬいっと姿を現したのは。無数の手が身体中から生えた、見上げるほどの大鬼だった。

 

 いや、体と言える部分は存在しているのだろうか? その身体の殆どが何本もの腕で巻かれており、身体と呼ばれる部分を確認することは出来ない。腕以外の箇所といえばギョロリとした目玉と、歩行するのに必要な足ぐらいなものだ。

 そして無数の手、一つ一つに、つい先ほどまで一緒に行動していた鬼殺隊候補生達の死体が握られていた。身の丈七尺八寸もありそうな大鬼が、ニヤニヤと笑いながら炭治朗達を見下ろしている。

 その姿は正に、異形(いぎょう)であった。

 

「ん? お前ぇ……もしかして。鱗滝の弟子かぁ?」

 

 ギョロリと、腕の間から覗くまん丸の目玉が炭治郎の方へと向けられる。

 

「……そうだ。でもお前、なんで鱗滝さんのこと知ってるんだ?」

「ふひひひ……。そうか、やっぱりなぁ。何時もの面を付けていないから、見逃すとこだったよぉ……。その臭いはやっぱり、あの鱗滝だよなぁ」

 

 その巨体ゆえに、決して動きが俊敏(しゅんびん)というわけではなさそうだ。ゆっくりと、追い詰めるかのように。数手の大鬼は炭治郎との距離をつめてくる。

 

「どうして知ってるかってぇ? 当然だ、おれの大好物は鱗滝の子供だからなあ! たくさん、……沢山食べてきたぁ。もう何人になったっけなぁ?」

 

 唇代わりとなっている大腕が開き、喉元まで大鬼の口内が見える。

 その中には、数多くの子供の顔があった。

 

「…………? ――――っ!?」

 

 なんとおぞましい光景だろうか。

 しかも無数の顔の中に、炭治郎は見つけてしまった。鱗滝に課された狭霧山での最終試験。その半年間で毎日のように対峙した顔を。

 

 その顔は、間違いなく。

 

 あの、錆兎と真菰の顔だった。

 

 ◇

 

 ――私達はね。幽霊なの――。

 

 炭治郎の脳裏に、狭霧山で(くじ)けそうになったあの時の記憶が去来する。

 禰豆子との実力の差をこれでもかと痛感し、自分の才に絶望しかけたあの時。自分をどん底から救い上げてくれた真菰の優しい笑顔。

 半年もの間、水の呼吸を会得できない自分の相手を厳しくも付き合い続けてくれた無愛想な錆兎の顔。

 

 その二つの見知った顔が、なぜそこにあるのか。

 

 答えなど一つしかなかった。

 

「お前っ、おまえぇ!! お前が、あの二人を、喰ったのかあ!!!」

「ふたりぃ? 誰のことだぁ? ……ああ、この獅子髪のガキと黒髪のチビかぁ? 中々強かったから覚えてるぞぉ? この口を見せたらガタガタ震え始めてたけどなぁ!」

 

 ギャハハハと口の中を指差しながら、大鬼の下品な笑い声が周囲に木霊する。

 

「何十年も、オレをこんな山に閉じ込めやがってぇ……。コレはアイツの罪なんだよぉ、鱗滝の子はみ~んな、オレのエサになる。誰一人、鱗滝の元には帰さないぃ。苦しんでいるだろうなぁあ? 鱗滝のヤツ、ぐふふふふ……」

 

 もうこれ以上、声を聞くのも我慢ならない。とばかりに、炭治郎は日輪刀を抜いた。

 身体から沸騰するかのように蒸気が立ち昇る。あの二人との過酷な修練の末に編み出した「気熱の呼吸」だ。額のアザから血が垂れ流れ、炭治郎の怒気は頂点に達してゆく。

 

「ふっざっ、けるなあああああああああああ――――――!!! 」

 

 そう叫びながら、飛び掛かろうとした。その時。

 

 ――だめ。炭治郎、鱗滝さんの忠告を思い出して。

 

「――――――っ!」

 

 炭治郎の沸騰した脳内に冷や水を浴びせるがごとく。どこからか、真菰の声が届いた。

 

 それで思い出したのだ。

 この最終選別に赴く前、鱗滝が炭治郎に諭した「気熱の呼吸」の弱点。

 

 今だに自分が、何も変わってはいないことに。

 

 ◇

 

 今より一週間前。

 

 鱗滝によって課せられた最終試験を無事乗り切った炭治郎は、目前に迫る最終選別へとむけて調整を開始した。錆兎の「……最終選抜は、もう近い」という言葉どおり、ギリギリのところで「気熱の呼吸」に目覚めたのだ。

 

「『全集中の呼吸』あっての『気熱の呼吸』だ。しかも万全の状態でしか扱えないのであれば、鬼との戦いでは物の役にもたたん」

 

 久しぶりの鱗滝による教えの言葉を、炭治郎は一言一句聞き逃さないように聞き入っている。

 今はもう、狭霧山の頂上へ行ったとしても錆兎や真菰はいないのだ。炭治郎が粉々に破壊した御魂石、それこそが二人の住処であり現世に繋ぎとめる要石(かなめいし)だったのだから。

 

「本日より最終選抜までの一週間、儂はお前を殺すつもりで相対(あいたい)する。……殺すつもりでかかってこいっ!」

「はいっ!」

 

 この言葉は鱗滝による最後の親心だ。

 炭治郎は最終試験を突破してしまった。ならば鱗滝は育手として、この少年を最終選別へと送り出す義務が発生している。ならば少しでも生きて帰ってこれるよう導いてやらねばならない。これまで鱗滝による教えでほとんどの弟子が帰ってこなかった前例を覆すために……。

 

 年を重ね、鬼殺隊士を引退したと言っても幾多(いくた)の死線を生き延びた鱗滝の実力は本物だった。今の炭治郎ではまるで刃がたたないという事実は、誰よりも本人が理解している。

 だがそれ以上に、今の炭治郎には「致命的な欠点」が存在するということを本人は知る由もなかった。

 

 

 一年半もの間、鱗滝の教えを受け続けた狭霧山の中腹にある修練場。

 最近の半年間は錆兎・真菰の居る頂上で修練をしていたため、炭治郎は懐かしい気持ちで刀を構えた。

 

「まずは……、お前が覚えた気熱の力を見定めてやる」

「――――ッ、はいっ!!」

 

 無手であると言っても、鱗滝の実力は十分に理解している。

 敵わないまでも一度くらいは、その天狗の裏にある目玉をまん丸にしてやるっ! とばかりに炭治郎は全集中の呼吸を開始、身体中に気熱を溜め込み始めた。

 

 だが。

 

「遅い。準備が整うまで待っていてくれると思うな」

 

 鱗滝の声が、眼前で聞こえたことに愕然とした。驚く間もなくみぞおちに貫手がめり込む。全集中の呼吸に集中していた炭治朗はなすすべもなく吹き飛んだ。

 

「ぐえっ………、げほっ!」

 

 肺を潰され、いくら空気を取り入れようとも受け付けない。空気がなければ炭治郎は身体を動かすことさえできない。これが実践であれば、今この時点で確実に死んでいた。

 

「言ったはずだぞ。敵は準備ができるまで待ってはくれない、とな。相手と刀を交えながら呼吸を整えるのだ」

「……くそっ! 気熱の呼吸っ!!」

 

 吹き飛ばされたお陰で、炭治郎と鱗滝の間合いは大きく広がっている。

 今なら気熱の呼吸ができると炭治郎は判断した。そしてそれ自体は何も間違っていない。

 

 しかし。

 

「気熱の呼吸 壱ノ型 間欠閃っっ!!」

 

 炭治郎による渾身の気熱が、鱗滝に襲い掛かる。

 それに対して鱗滝が自身の手刀でとった対策は、真っ向からの打ち合いでも防御でも、ましてや回避でもなく。……受け流すという選択だった。

 

「……参ノ型、流流舞い」

 

 気熱の奔流を避けず、逆らわず。流れに乗りながらも受け流す。水の呼吸 参の型は攻防一体の型だ。そしてこの一発に全身の力を使いきった炭治郎は、鱗滝の一撃を甘んじて受けるほかなかった。

 

「お前の気熱の弱点……。それは一撃に力を籠めすぎるという点だ。どれだけ強い一閃であろうとも、弾が一発だけでは後が続かない。一匹の大鬼は滅せても、他の小鬼に殺される」

 

 地面にうずくまる炭治郎の頭上から、要点だけを簡略に伝える鱗滝独特の言葉が降ってくる。

 

「このままでは、『気熱の呼吸は実践で使えない』」

 

 ようやく手にした念願の呼吸。

 兄としての威厳を取り戻し、大切な妹を守るための力。

 

 しかしてその力は、炭治郎が渇望した万能の力ではなかった。




最後までお読み頂きありがとうございました。

気熱の呼吸 壱ノ型の弱点。
これは本来、錆兎君が指摘してあげる予定でした。ですが幽霊である錆兎君は、気熱を立ち上らせる炭治郎に近づけない理由があったのです。
鱗滝さんはそんな彼の事情を察し、本来なら身体を休めなければならないはずの本番直前まで代わりに指導してくれました。

原作を読んでいる方ならある程度、その理由は察して頂けるかと思います。
その辺りの説明も、今後どこかで取り入れていきたいですね。

ではまた明日、18時にお会いしましょう。

ばいちゃっ♪(歳がバレル
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