第三話伍幕にございます。
週末の三連休でどれだけ書き溜められるかが、今後の毎日更新存続に関わっている気がします……。
「………………」
「なんだ? あれだけ吼えておいて戦わねえのか? なら,まん前に陣取ってねえでどきやがれ。代わりに、俺様が。……行くぜええええええええええ!!」
一向に動きださない炭治郎に業を煮やしたのか、後ろから乱暴な声が投げかけられた。
その声の主は、一緒に最終選抜へと挑んでいる猪頭の少年だ。
「きっ、さっ、まっ、がっ!! この山での最初の獲物だああああああああっ!!!」
猪の被り物をしていても見て取れるほど鼻息を荒くした少年が、腰に収めた二本の日輪刀の柄を握る。
自身の落下速度を斬撃に乗せて、異端の二刀居合いが数手の大鬼へと迫った。
「バカか、お前。自分から跳んだんじゃ、いい的になるだけだぁ!」
そんな敵の姿を見上げながら、数手の大鬼はニヤリと笑った。
いくら「全集中の呼吸」を会得しようと、人間は翼を持てるわけではない。空中から飛来する猪頭の少年は、速度はあっても方向を変えることは出来ない。
大鬼からすれば、動かぬ敵を仕留めるに等しい難度だ。身体中から生える腕が伸び、少年の視界を無数の拳が埋め尽くす。その数は、明らかに二本の刀で対処できる領域を越えていた。
それでも猪頭の少年は止まらない。
最終選別に参加するに足るだけの力を手に入れたからこそ。この時、この場に居るのだ。
鬼殺隊士が鬼殺隊士である理由、特権。
それを得ようとしているのは何も、炭治郎だけではない。
「ああぁ!? 邪魔くせえぞっ! 獣の呼吸 弐の型 切り裂きぃ!!」
眼前に延び迫る、数手の大鬼の腕。
その脅威を真っ向から切り裂くべく、大空を跳んだ猪頭の少年は二本の日輪刀を抜き放つ。
鞘から抜いた二刀を一度、天高く振り上げた少年は。
自身の落下速度のすべてを籠めて十文字に斬り下ろす。斬ったのは最初の手だけ。だが二本の日輪刀を十字に組み、腕を切り裂きながら本体へと突貫してゆく。それは最早、斬撃ではなかった。刀を盾にした突貫だ。
「ぎゃははははぁっ! 猪突猛進!! ちょとつ、もおしんんんん――――――ッ!!!」
猪頭の少年が狂い笑う。
その技に、技巧や戦略などという小細工は一切なかった。ただ目の前の敵をぶったぎる。その一点のみに集中された呼吸である。だがその分、一点に突き詰められた突破力はとんでもなかった。まるで鉈で薪を割るがごとく、大鬼の腕を四散させながら猪頭の少年が突撃する。その予想外の事態に、数手の大鬼は慌てふためいた。
「うえっ? ……なんだ、何なんだコイツはあああああああ!?」
身の危険を感じた大鬼が、反射的に倒れ込んだ。武器であり、盾でもある腕に全幅の信頼をおいていたのだろう。まさかこんな乱暴な方法で斬り裂かれるとは思ってもいなかったのだ。
先ほどまでの強気はどこへいったのか。
数手の大鬼は、目の前の少年が信じられないとでも言いたいように恐れ始めた。
「今の腕はぁ、オレの腕の中でも一番固い腕だったんだぞぉ? なんでそんなに簡単に斬れるんだぁ!?」
「はっ、この程度の固さなら大熊の毛皮の方がなんぼか丈夫だぜ? てめえみたいな、つるっつるの皮しか持ってないヤツに。俺の斬撃が効かないわけがないだろうがあ!!」
数手の大鬼にとって、この少年の言動は未知の世界から来た言語だった。
あろうことか異端の存在である鬼の皮膚より、大自然の熊の方が手ごわいとのたまったのだ。数十年もこの山に捕らわれていた大鬼からすれば、この少年こそ怪異と呼ぶに相応しい。
ずしり、ずしりと。大鬼の腕から下に伸びる足が後ろへと身体を追いやる。身体中から手汗が垂れ落ち、瞳は恐怖の色を彩らせていた。もはや、戦意などあろうはずもない。
そして、そんな驚愕の表情を浮かべているのは何も数手の大鬼だけではなかった。
(……なんだ? なんだそれっ!? この大鬼はあの、錆兎や真菰でさえ叶わなかった化物なんだぞ? 同じ、最終選別に挑む鬼殺隊候補者のはずなのに。この実力の差はなんなんだ!??)
炭治郎の眼から見て、目の前に居る数手の大鬼は間違いなく強敵だった。
兄弟子二人の仇であるという事実に我を忘れそうになったが、あのまま狂気に任せて飛び掛っていればどうなっていたか分からない。ならば答えなど一つしかない。目の前の、猪頭の少年が強すぎるのだ。知略などという小ざかしい策を練らずとも鬼を滅する圧倒的な力。
それは炭治郎が喉から手が出るほど望んだ力、そのものであった。
◇
「そんな……、そんなはずはない。俺は今まで五十人は人を喰ってきた。そんな俺が、こんな小僧に負ける? そんなはずが、なかろうがあああああああああああっ!!」
命の
大鬼にとって、人間とは食料以外の何者でもなかった。その食料に今、牙を向かれている。そんな現実など受け入れられる訳がない。
上半身を隠すように巻かれていた無数の腕が伸び、鬼殺隊候補生達に襲い掛かる。
その腕の太さは千差万別だ。幸いにも炭治郎の元へと伸びてきたのは細めの腕。一瞬の全集中の呼吸で容易く斬り飛ばせる太さだ。
だがその細ささえも、今の炭治郎の精神をえぐる凶器となる。
周りを見渡せば。
猪頭の少年。モヒカン頭の少年。黒髪の無表情な少女。その誰もに迫る腕は、明らかに炭治郎のものより太い。しかもその腕を事もなく切り伏せる様を見て、炭治郎は鬼にさえも見下された気分におちいっていた。
(俺には、俺にはこの程度で十分ってことか!? 他の皆より俺が弱いからっ!!)
事実として言えば、恐慌状態となった数手の大鬼にそこまでの判断はつかない。たまたま、炭治郎の元には細い腕が来たに過ぎないのだ。
だが自分の実力が他者より劣っていると自覚した炭治郎には、そんな事も判断できない。
炭治郎は、自分で自分に刃を振り下ろしていた。
――落ち着け、炭治郎。お前は自分が思うほど弱くはない。それに……、本当の敵は。そいつじゃない。
今の炭治郎を心配するかのような錆兎の声。
だが今の彼に、その言葉を聞く余裕などなかった。
数手の大鬼の前に、三人の鬼狩りが近づいてくる。
猪頭、モヒカン、無表情。
全身が震え、涙の零れる瞳が死の恐怖に彩られた数手の大鬼にもはや抵抗の意思はない。
だがその巨体ゆえ、鬼狩り達から逃げることも叶わない。
そんな彼の肩に、どこからか現れた一人の鬼が取り付いた。
数手の大鬼とは正反対の、小柄で、可愛らしく、何の力も持っていなさそうな少女。
けど。
その少女の口には、正真正銘、鬼の牙が生えていた。
「さいごの鬼、…………みぃ~つけたっ」
花のように可憐で、愛らしく微笑む少女。
しかしてその声だけが、実に鬼らしく、残酷な声色であった。
最後までお読み頂きありがとうございました。
鬼殺候補生達の強さは著者独自の考えによって改変されています。
伊之助:育手の手を借りず「最終選別を突破した鬼殺隊員」をボコボコにして日輪刀を奪い、最終選別に殴り込みをかけた。
結論:強い。
カナヲ:胡蝶カナエと胡蝶しのぶの英才教育を受けている。
結論:それだけで十分強い。
玄弥:事前に鬼を喰らい、鬼の力を顕現させた上で最終選別に参加している。
結論:まあまあ強い?
善逸:藤襲山を必死に逃走中。あまりに鬼の姿が見えないので混乱なう。
結論:???
炭治郎:過去に亡くなった鱗滝の子供達の力を借りた錆兎や真菰と互角に渡り合える力をもっているはずが、自身のマイナス思考(2-10・11話参照)によって必要以上に数手の大鬼を恐れてしまっている。
結論:強いはずなのに力を発揮できていない。
こんな感じです。
さてさて、明日のお話からは最終選別に乱入した人物が登場します。
ここからが勝負や。。。
18時の更新をお待ちくださいな。
※追記:初めて日刊ランキング15位というとんでもない位置に表示されました! これも日頃読んでくださる皆様のおかげです。後書きで失礼ながら、御礼申し上げます。本当にありがとうございました!!