本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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お待たせしました。
第三話六章をお送りします。
先日は日刊15位というランクに押し上げて頂いて本当にうれしかったです。おかげで沢山の方にも読んでいただけたようですしね。これからも拙作を宜しくお願い致します。



第3-6話[共喰鬼]

「さいごのおに、…………みぃ~つけたっ」

「ね……、ねずこ?」

 

 その姿を見るだけならば、父親の肩に抱きつくような愛らしい少女にしか見えなかった。

 

(い、いや。違う、禰豆子じゃない。同じような年頃ではあるけれど……)

 

 更に言えば。

 その姿は兄である炭治郎が一瞬、見間違うほどに似通っていた。

 少女が鬼であるという事実も一因であるだろう。だがさらりとした黒髪も、桃色の瑞々(みずみず)しい瞳も、血を浴びたような真紅の着物も。その全てが妹を彷彿(ほうふつ)とさせる。そんな鬼の少女はにっこりと満面の笑みを見せながらも、口元からは鬼の証である牙がはっきりと見て取れた。よほどお仲間である数手の大鬼を発見できたのが嬉しいのだろうか。笑顔を絶やさぬまま、鬼の少女は口を開いている。

 

「ねえ、あなた。……藤華のおにいちゃん?」

「…………はぁ?」

 

 突然意味不明な言葉を投げかけられた相手は炭治郎ではなく、少女の乗り物となった数手の大鬼だ。ぎょろりとした目玉をまん丸にして自身の肩に腰掛けた少女へと視線を移す。

 

「あたしのおにいちゃん、ふたりいるの。……さがしてるの。ねえ、あなたは藤華のおにいちゃん?」

「……いっ、いや……」

 

 咄嗟に、数手の大鬼は少女の問いかけを否定してしまう。

 たら・ればの話ではあるが、もしここで嘘でも「自分が少女の兄だ」と言えば大鬼の命は助かったのかもしれない。だがその少女はあまりにも小柄で、自分より強大な力を持つ鬼だとは気付かなかったのだ。

 

「な~んだ……。藤華のおにいちゃんじゃないのか……。じゃあ、あなたは藤華のごはんだね?」

 

 数手の大鬼の返答に残念がる鬼の少女。

 ある程度は察していたのだろう。ひとしきり残念がると、気を取り直すかのように再び明るい声を発した。だが、その言葉が大問題だったのだ。

 

「……へっ? いやっ? ごはん?」

 

 少女の言葉の意味が理解できずに混乱する数手の大鬼。しかし藤華と名乗った鬼の少女は待ってはくれなかった。

 

「いただきま~す。――あむっ!」

「――――――――ッ!?」

 

 なんとも穏やかな声色で、鬼の少女は大鬼の首筋に噛み付いた。いや、噛み付いたなんて生易しい表現では事足りない。喰らいついたのだ。

 まるで目の前の好物にかぶり付く幼子のように、みどりがかった大鬼の皮膚を突き破り、肉を噛み千切る。

 

「ぎゃあああああああああああああ――――――――っ!?」

 

 数手の大鬼の大口が開かれ、口内にあるそれまで犠牲になった子供達の顔を見せつけながら絶叫する。

 その小さな体格からは想像も出来ないほどの咬合力だった。炭治郎とて二年前、狭霧山の(ふもと)で禰豆子が始めて鬼の肉を喰らった際の食欲を見届けている。あの時は鬼の再生能力によって盛り上がる肉を一晩中、喰らい続けていた。その量は明らかに禰豆子の体格から考えれば異常なほどの食事量だ。

 あの時は、飢餓(きが)状態となっていた妹を救わなければと無我夢中だったのだ。

 

 しかし今。

 自分の身内ではない存在が同様の行為を見せ付けて、始めて。

 炭治郎は、その異常性に気付いたのである。

 

 ◇

 

 もうどれだけの時間が経過しただろうか。

 鬼の少女による夕餉の時間は、炭治郎達の前で今だ続いていた。

 周囲には粘液のような大鬼の血が池のように溜まり、その真ん中で着物を真っ赤に染めながらも肉を喰らい、脳髄をすすり続けている。

 鬼は死なない、死ねない。今も鬼の少女に喰われながら、数手の大鬼は再生し続ける自分の身体を呪いながら悲鳴を上げ続けていた。

 

 ぐちゃぐちゃ、にちゃにちゃ。ずずずず~。

 

 肉を咀嚼し、ぐちゃぐちゃにかき混ぜた脳ミソを勢いよくすする。

 なんとも、炭治郎が兄なら行儀が悪いぞとでも言いたくなる食べ方だ。

 その咀嚼音(そしゃくおん)はもはや人間ではなく、獣のそれである。鬼になると獲物を仕留めるために牙が発達し、口を完全に閉じられないのだ。観客の視線など鬼の少女は特に気にすることもなく、炭治郎達の前で食事に夢中になっている。

 

 ふと、……キンッと後ろでコインが上空に弾かれた。

 それは無口無表情な鬼殺隊候補生の少女が、唐突に行なったものだ。その行動に何の意味があるのかは理解できないが、コインを再び手の中に戻ると始めて少女が口を開いた。

 

「あの子は危険な鬼。……満腹になる前に斬った方がいい、と思う」

 

 なんとも要点だけを言葉にした、簡素な台詞だ。これほどの時間放置しておいて今更だも思うが、それだけにこの状況の危険性が伝わる言葉である。それを感じ取ったのか、モヒカンの少年も猪頭の少年も戦闘体勢に入る。

 そんな中、炭治郎だけが日輪刀をだらんと下げたまま立ち尽くしていた。

 

 目の前の光景が、二年前の光景とだぶってうつる。

 家を追われ、神社の境内で禰豆子が初めて鬼を喰らった。あの二年前の光景に。

 この少女だって、自分が生き延びるために食事をしているにすぎないのだ。この世は所詮、弱肉強食。人間以外の誰もがその法則に従って生きている。

 今、この少女を斬れば。

 自分は禰豆子の生きる手段さえ否定してしまうのではないだろうか? そんな考えが、炭治郎の脳内を荒れ狂っていた。

 

「ありゃぁ、鬼だ。……鬼は斬らなきゃならねえ」

 

 それまでの粗暴さからすれば、意外なほど猪頭の少年が冷静な言葉を吐く。

 無口無表情の少女も鞘から日輪刀を抜き、モヒカン頭の少年もそれに習う。その場の誰もが、鬼殺隊を志望する者として当然の結論に達している。

 そんな至極当然の理屈を受け入れられないでいるのは、この場では炭治郎だけだ。

 

 今なら鬼の少女は食事に夢中で、隙だらけ。

 千載一遇の好機だ。抜き身の日輪刀をひっさげ、首を刈るためにゆっくりと近づいてゆく。

 

 日の光による浄化の力を秘めた刀。

 この凶器をただ振り下ろすだけでいい。この少女は「数手の大鬼がこの山に居る最後の鬼」だと言った。つまりは、この一閃で、自分達は鬼殺隊士となれるのだ。

 

 何を迷うことがある。

 

 この少女の首をはねれば、目的は達成される。

 

 わざわざ七日間も、時間を拘束されることもない。

 

 ならば、鬼殺の剣士としてやるべきことは決まっている。

 

 そんなことは子供でも理解できる理屈で、人間側で言うところの正義だ。

 

 だけど――――。

 

 

「てめえ……、何の真似だ?」

 

 妹の影が重なるこの少女の首が、とぶ光景など見たくはない。

 そう思った。思ってしまったのだ。

 

 炭治郎は日輪刀を構える。

 

 狩るべき鬼の少女へ向けてではなく、仲間であるはずの鬼殺隊候補生達へと向けて――――。




最後までお読み頂きありがとうございました。
初の新キャラ「藤華」の投入でドキドキしております(笑

どうか皆さんに気に入って頂けますように……。
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