本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第三話八幕をお届けします。
今回は少々短めです。がっつり読みたい方は明日の更新を待ってからでも良いかもしれません。
読者様が細かく栞を挟めるよう、2000~3000文字で一話としております。ご了承ください。


第3-7話[兄としての決意]

 俺は今、いったい何をやっているんだろうか。

 

 炭治郎は、そう思わずにはいられなかった。

 なぜ兄弟の仇である鬼へ背中を向け、将来の友となるべき鬼殺隊候補生達に刀を向けているのか。

 

 単純な理由ならばすぐにでも思い至る。

 背中を向けている鬼の少女が、妹の禰豆子みたいだったからだ。

 けど、理由なんてそんなものでしかない。

 

 この鬼の少女は決して、妹の禰豆子ではない。

 一目見た時には年頃や背格好が似通っていたので勘違いしてしまったが、木々の間から僅かばかり漏れた月明かりでも妹ではないことは明らかだ。

 

 ならばなぜ。

 殺しても飽き足らないほどに憎んでいるはずの、鬼をかばっているのだろうか。

 

 ◇

 

 心なしか、藤襲山に吹き付ける風が冷たくなったような気がした。

 

「てめえ、何の真似だ?」

 

 鼻息荒く、猪頭の少年が糾弾する。

 今やっている行為は鬼殺隊への裏切りに他ならない。そんなことは炭治郎自身が一番理解している。モヒカンの少年も、無口無表情の少女も厳しい視線を向けていた。

 それでも炭治郎はその場から動かない。

 なぜなら頭の中で必死にこの状況の打開策を考えていたのだ。

 

(どうする……、どうする!? 今更、妹に似てたからなんて言えるわけがない。それに不用意な発言は禰豆子が鬼であると悟られる可能性だってある。それに俺はこの少女を斬れるのか? きっと自分の意思で鬼になったわけでもない、禰豆子に似た境遇の少女を!?)

 

 もちろん鬼の少女と炭治郎は初対面である。

 それでもこんな年端も行かない少女が自分の意思で鬼になるなど、炭治郎には考えられなかった。

 人間が鬼となる原因は今のところ、一つしか確認されていない。他でもない、あのにっくき鬼舞辻 無惨によって鬼化させられるしかないのだ。ならば、この少女とて禰豆子と同じ境遇の被害者ということになる。

 

 炭治郎の心情としては、助けてやりたいというのが本音だった。

 しかし現時的な問題として自分が赤の他人の運命まで背負う余裕がないというのもある。

 

 ならば、今。現実的な案を出すとするならば。

 

 ……これしかっ、ない!

 

「この鬼は俺が斬る。……邪魔するなっ!!」

 

 ◇

 

 無音の空気がその場を支配していた。

 

 いや、炭治郎の背中からは今だに鬼の少女がぐちゃぐちゃと咀嚼音(そしゃくおん)をたてている。だがそんな不気味な音さえも今の鬼殺隊候補生達の耳には入っていない。

 

「なんだあ? 獲物を独り占めする気か? ……それに、てめえ一人でやれんのかよ?」

 

 猪頭の言葉はもっともだ。

 この中で一番実力が不足しているという事実は、炭治郎とて自覚している。

 

「だからこそ、だよ。俺はこの中で一番弱い。このままじゃ、最終選別で何もしないまま合格してしまいかねない」

「それもむかつくが……、楽でいいんじゃねえのか?」

「俺自身が納得できないと言っているんだ! ……悔しいけどアンタ達の強さは臭いで分かる。本来ならこの最終選別に参加するまでもなく、鬼殺隊に入れるだけの実力があるんだろう。ただ、体裁を整えるためだけに参加しているにすぎない」

 

 突然飛び出た炭治郎の弱気発言に、モヒカン少年と無口無表情少女は肯定的な沈黙を守っている。ただ一人、猪頭の少年だけが理解していないようで頭上に疑問符を浮かべているような気もするが。でもまぁ猪頭の実力は、先の数手の大鬼との戦闘で見せ付けられている。

 

「今、この場で。合格に値しないのは俺だけだ。……だから俺がやる。その後なら好きにしてくれて構わない」

 

 炭治郎は凄惨たる決意をもって周囲を黙らせた。

 その後なら。なんて言葉が出るのは炭治郎が命を賭けて一騎打ちをすると断言しているようなものだ。

 

「ふざけんじゃねえぞ。自分一人で勝手に納得して、勝手に死のうとしているだけじゃねえかっ!」

 

 炭治郎を心配してくれたのは、意外にもモヒカン頭の少年だった。

 まさかこの人物からこんな言葉が飛び出ようとは思わなかった。そんな表情を隠す事ができず、炭治郎はポカンと瞳を見開く。もしかしたら鬼のような見た目に反して、中身は心優しい少年なのかもしれない。

 

 思わず笑みがこぼれる。

 

 まさか妹以外に今の自分に笑みをくれる人が居るとは思わなかった。

 

「心配してくれてありがとう。……でも、これは俺自身の問題だから」

 

 炭治郎は不器用ながらもニッコリと笑うと、鬼の少女へ身体を向けた。

 

 ばれない嘘をつきたいのならば、真実を織り交ぜると良い。とは一体誰の名言であっただろうか。

 炭治郎は死ぬ気など毛頭ない。自分の死は、妹の死に直結することを誰よりも理解しているからだ。だからこそ、どれだけ同情しようとも目の前の鬼と成り果てた少女を斬らねばならない。

 

 この感情は、身内に鬼を持つ者でなければ理解されないだろう。

 

(やるしかない。……やるしかないんだっ!)

 

 身の内に巣くう迷いを振り払いながら、炭治郎は鬼の少女へと向かっていった。




最後までお読み頂きありがとうございました。

禰豆子が、もしかしたらこうなったかもしれない姿を模倣した鬼の少女。
そんな鬼を前にして心を惑わす炭治郎君です。

彼にとって鬼は仇です。害獣です。なんとしても処分しなければならない存在です。
ですが他でもない妹が同じ存在であるという矛盾が、炭治郎君の心を混乱させています。
さてさて、彼はこの少女を斬れるのでしょうか?
もし殺してしまったら、これまでと同じように妹を見守れるのでしょうか。

炭治郎君にとって、最初の山場が始まります。
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