本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第三話八幕でございます。
ようやく共食い鬼「藤華」との戦闘へと突入します。
禰豆子の姿と重なる藤華へ、炭治郎は刀を向けられるのでしょうか?


第3-8話[藤華]

「あなたは、藤華のおにいちゃんなの?」

 

 ゆっくりと歩み寄ってきた炭治郎に気付いたのか、藤華と名乗った鬼の少女は食事を中断して先ほどと似た台詞を口にした。

 問い先が数手の大鬼から炭治郎へと移っただけの話だ。先ほどからの一連の光景を見守り続けたお陰で、この問いの結末は十分に理解している。

 しかしながら、炭治郎はこの問いを肯定するわけにはいかなかった。

 

「……違う。俺は君のお兄さんじゃない」

「ならっ……」

「でも君のごはんでもない。俺は、君の暴走を止める者だ」

 

 抜き身の日輪刀を少女の首元へ突きつける。

 

「ごはんじゃないの? あたしはお兄ちゃんとごはん以外はなにもいらないよ? もうこのお肉あきちゃった。い~らないっとっ!」

 

 藤華と名乗った少女の足が、かつて数手の大鬼の頭部であった箇所を踏みつぶす。

 もはや声を発することもできず、ただ痙攣(けいれん)するのみだった大鬼の命が今ようやく消え去った。その事実はある意味、炭治郎にとっても有益な情報となる。

 いくら鬼の再生能力とて無限ではないのだ。これまで摂取した肉の栄養が尽きた時も鬼の身体は消滅する。それはこれから先、妹と共に歩む炭治郎にとって欠かせない知識だった。

 

「君は……、人間をたべたことがあるのか?」

 

 その質問は、炭治郎の立ち位置を決める最後の悪足掻きだ。

 禰豆子のように鬼ばかりを食べていたのなら、この少女が生きるために必要な栄養だったのだとわりきれる。だがもし、人間をも喰らっていたのだとしたら……。

 

「にんげん? しらな~い、藤華は、ごはんをたべるだけだもの。おなかが、くーくーなるのはいやなの。かなしくて、さびしくて、いやなきもちになるの。だからたべるの」

 

 今は満腹なのだろう。満面の笑顔で藤華は炭治郎の問いに答えをかえす。だがその答えでは、望む真実は説明されていない。

 炭治郎の脳裏に、二年前の情景が思い浮かぶ。鬼舞辻 無惨によって鬼に変えられ、飢餓状態で泣き叫ぶ。兄の背中に担がれた妹の姿が。

 この鬼の少女も生き抜くのに大変な苦労を味わったのだ。その中で鬼ではなく、人肉を食べてしまったとしても不思議ではない。今の世の中、鬼を探すより人間を探す方が圧倒的に楽なのだから。

 

「なら君は……、俺の敵だ」

 

 炭治郎がまっすぐ少女の瞳を捉えて、そう宣言する。

 その言葉は藤華という鬼へと投げかけたと同時に、自分への覚悟を問う言葉だった。

 

 炭治郎が狩らない鬼はこの世で只一人。禰豆子だけなのだと自分に言い聞かせるために。

 

 ◇

 

 炭治郎が藤華に刀を突きつけたまま、しばらくのあいだ静寂がその場を支配した。

 先手必勝とばかりに斬りかかっても良かったのだろうが、相手は得体の知れない鬼だ。警戒するにこした事はない。その相手、藤華と言えば先ほどの炭治郎の言葉が理解できなかったらしく、ずっとうんうん唸っている。

 

「てき? てき、ってな~に? おいしいの?」

 

 まったく的外れな質問が返ってくる。

 お互いの空気差がひどくありすぎて、目の前に対峙している炭治郎でさえ拍子抜けしそうなくらいだ。

 炭治郎にとっても始めての、赤い敵意の臭いがしない鬼なのだ。

 

「でもでも、おにいちゃんじゃないなら、ごはんだよねっ!」

 

 目の前に居る藤華の言葉はことさらに子供だった。

 彼女の世界には兄か、食料か。その二つしか存在しない。安寧(あんねい)をもたらす兄か、生存をもたらす食料か。それ以外の選択肢がそもそも少女の心には存在しない。そして自分は彼女の兄にはなれないと拒否した。

 ならば二人の間に残るのは、どちらが生き残るかという結果しかないのだ。

 

 

 

「………………、――――――ッ!!」

 

 先に動いたのは炭治郎だった。

 首元へと突き付けた刀の先端を、重力に従うかのように倒れ込みながら前へと運ぶ。見た目で判断するなら藤華の玉の肌は、人だった頃と何ら変わらないようだ。で、あるならば藤華を斬るのに力は必要ない。

 

 狙いは(のど)

 

 鱗滝の教えにあった、鬼殺の剣士が狙うべき鬼の急所だ。

 戦闘において予備動作を行わず、相手の反射的な回避行動を起こさせない。それこそが狭霧山での錆兎との修行で培った「無の型」の基本理念である。鬼とて理性のある生き物である点は人と変わらない。

 

(……とった!)

 

 人を、鬼を殺すのに派手な技など必要ないのだ。

 ただ、唐突に。日輪刀が鬼に首に吸い込まれれば良いだけの話なのだから。

 

 炭治郎の思惑は半分が的中し、半分が的外れであった。

 なぜなら藤華の技もまた、炭治郎にとっての「無の型」であったのだ。もちろん鬼である藤華が「無の型」を習得しているわけではない。だが、炭治郎は鬼の動きを自慢の鼻によって知覚する。殺意のこもった赤い臭いを鬼がどのように動かすのか。それを読むことで相手と互角に渡り合えているのだ。だがこの鬼の少女には「悪意という臭い」がまるで無い。

 

「ひゃあっ! びっくりした~」

 

 まるで緊張感のない台詞で藤華は間一髪、炭治郎の倒れ込むかのような突きをかわしていた。

 これは藤華の実力というより、炭治郎の失敗だ。

 彼女の臭いを感知できない弊害でいつもの感覚が狂い、炭治郎が狙いを定められなかったと言う方が正しい。

 他の人間とは違う鋭敏な感情を読む嗅覚、それこそが炭治郎の生命線であり、弱点でもあった。

 

(……壱ノ型 間欠閃は使えない。この子だって鬼だ、他に鬼がいないなんて言う彼女の言葉は信用できない。一度使えば戦闘不能なんて、実戦じゃ物の役にもたたないじゃないか。……それに)

 

「ごはんがあばれちゃダメなんだよー。こんどは、こっちのばん!」

 

 元々小柄な身体を更に低くして、藤華は戦闘態勢に入る。

 その構えは狭霧山で毎日のように組手をした妹の構えに酷似していた。胸を地につけそうなほどの前傾体勢。両の腕を翼のように広げ、さながら獲物を狙う鷲のようだ。これで口に斧をくわえるなら禰豆子そのものである。

 

 藤華の姿に禰豆子の顔が重なって見える。

 先程の決意はなんだったのだろうか。炭治郎はこの正念場においても、自分の剣に迷いが残っているという事実にいらだっていた。




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