しっかし、話が進まないなあ。。。アニメで言えばまだ4話ぐらいか(汗
「あれま、どうしたんだい藤華ちゃん。忘れ物でもあったのかい?」
つい先ほど、幸せそうに藤の花洞窟で彩られた街の正門をくぐり抜けていった少女がゆっくりと戻ってくる。
二人の門出を祝福しようと集まってきた人々はその大半がすでに散ってはいたのだが、これ幸いとばかりに井戸端会議を始めた奥様方が残っていたのだ。
まるで何かに絶望したかのような。顔を伏せたまま街の中へと戻ってくる藤華を見て、勘の良い奥様方は何かが起こったのだと察している。
今の藤華を見て想像することなど、一つしか有り得ない。
もしかして。先ほどまであんなに幸せそうな雰囲気を振りまいていた二人が。もう仲たがいをしてしまったのだろうかと。
「ちょちょちょ、……あんた、ちょいと知らせに走ってよ!」
「えええ~っ!!?」
藤華本人よりもこの光景が信じられない奥様方のほうが慌てている。
一人が父の元へと慌てて駆け出し、もう一人はなんとか藤華ちゃんを落ち着かせなくてはと抱き締めた。
「藤華ちゃん? 一体、何があったん? おばちゃんに話せる!?」
「…………」
必死に話しかけるが、当の本人からの返答はまるでない。
その事実が更に奥様を慌てさせた。まさか嫁入り前に実家帰りなど前代未聞だからだ。そんな状況の藤華にどんな言葉をかけてよいものか。
「うう……ううっ」
藤華の口から
奥様はそれを泣いているのだと判断して、優しく自分の胸の中へと導いた。
「かわいそうにね……。だいじょうぶだよ、もうすぐお父さんとお兄ちゃんが来るからね?」
とりあえずは落ち着かさなくてはと、優しい言葉をかけ続ける。頭をなで、背中をさすり。せめてこの子の父が到着するまでは自分が母代わりを勤めなくてはならないのだ。
そんな奥様の優しさに包まれながら、肩越しに藤華の口が開かれた。
年相応の少女らしい小さな口。
だが口の中には、今までの少女と決定的に違う箇所が一つだけある。犬歯が太く長く、獲物に喰らいつく猛獣のような牙へと変化していたのだ。
藤華を抱き締めた奥様は気付いていなかった。
今、この瞬間。
自分が捕食者に襲われ、命を刈り取られる獲物となっている現実を。
◇
かぷり。
まるで大好物の甘柿にかぶりつくかのように、藤華の牙が首元へと突き刺さった。
「…………へっ?」
藤華を抱き締めていた奥様の口から、そんなまぬけな声がでる。まさか自分の身体が捕食者の標的になっているとは考えもしなかったからだ。
痛みよりも熱さが先に身体中の神経に行きわたる。そして自分がどんな存在を抱き締めているかを理解するに至り、奥様は激痛で嬌声をあげた。
「ぎゃああああああああっ!!」
「おなか、……おなかがすいたの」
どれだけ泣き喚いたとしても、首に噛り付いた藤華の表情に変化はない。
無表情のようでいて、どこか悲しそうな。ただ、助けを求めているかのような。そんな表情だ。
「あ、ありゃあ。今日、嫁に行くって言っていた藤華の嬢ちゃんか?」
「たしかにそうだが……、なんじゃありゃあ?」
「人間を、くっちまってるのか!?」
これだけ悲鳴をあげれば周囲の人間も尋常ならざる事態が起きたと理解できる。
首元への一撃に耐えきれず、その場に倒れ込んでしまった奥様は精一杯の声で助けを求めるのみだ。
「かんにん……、かんにんしてえ……。だれか、だれかぁ……」
必死に助けを求めて声を振り絞るが、誰もが一瞬この異常な光景を前にして動けずにいた。
その中でただ一人、何の驚きの表情を見せずに立っている男がいる。
「……すばらしい。藤の花による厄除の効果をまったくもって受け付けないとは。ここまで苦労したかいがありましたね。さて、では次の検証に移りましょうか」
花洞窟で飾られた正門の反対側から歩いてきた男が、淡々と言葉を放つ。まるで劇団員かのように役者めいた言葉を放つその姿は、明らかに今までとは違いすぎる。
「あんた……、藤華ちゃんの旦那さん?」
「そのお芝居はもう終幕しましたよ。ここから先は、私の単独公演となります。さあ、皆さん。私と共に地獄を顕現しましょうっ!!」
自らの舞台が開始されたかのように声高々に宣言した男の指から、真っ赤な爪が伸びてゆく。
一年という月日を通い続けた結果、男はこの街の有名人となっていた。だが姿形は同じでも、その表情は先ほどまでの藤華を想う男性とはかけ離れた形相だ。
人にはありえない紅玉のような瞳がゆらゆらと燃え盛り、温和だった口元も狂気の笑みが支配する。
もはや藤華の夫となるべき青年はそこにはいない。
人の皮を捨て、新たに鬼の皮をかぶった死神。
鬼舞辻 無惨による狂気の宴が今、始まりを告げたのだ。
第一の演目は街人達の出番であった。
ゆっくりとした歩きで、呆然と立ち尽くす街人達とすれ違うたびに血しぶきが起きる。逃げるだけの胆力がある男衆もいたが、なぜか数歩でその動きを止めてしまい悲劇の犠牲となった。
だが致命傷と思われた街人達は、決して倒れたりなどはしない。それどころか狂ったような叫び声を上げ、手当たり次第に周囲の人へと襲いかかってゆく。
男、鬼舞辻 無惨の言った通り。藤の街が地獄絵図になるのにさほど時間はかからなかった。
惨劇の始まりから、わずか一刻後。
鬼が支配する街に残った人間は、もはや一人しか存在しない。
藤華の去った家の玄関口。
鬼と化した父を必死に押さえ込む兄のもとへと、妹の魔の手が刻一刻と近づいていた……。
最後までお読み頂き有難う御座いました。
生まれながらに藤の花と共に過ごした藤華の身体は、足の先から頭のてっぺんまで藤色に染まっております。
なら他の家の娘さんはどうなん? と思われるでしょうが、本来は男仕事である庭師の手伝いを毎日のように行なう女の子は藤華しかいなかったのです。
普通なら母と共に家事や内職に精を出していることでしょう。早くに母をなくし男手一つで育てられた藤華は、みごと無惨様に見初められたのでした。
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ではまた、明日の18時にっ!