本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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本日投稿二話目
第四幕でございます。

ようやくオリジナルな要素が入ってくるお話に突入していきます。
明日もまた2話更新でいく予定ですので、のんびりとお待ちください。


第1-4話[平穏の終焉]

 冬山を登るにつれ吹き付ける風に雪が混ざり、炭治郎の全身に吹雪が襲い掛かってくる。だが今の彼には毎日のように変化する風向きに文句をつけている余裕などなかった。

 この強烈な吹雪に混じった血の臭いは、竈門家に近づくにつれ濃くなってゆく一方なのだ。

 

「母ちゃん、竹雄、茂、花子、六太……、禰豆子!」

 

 炭治郎は必死に山道を駆け上がりながらも、暖かな家族の顔を思い浮かべる。この道の先に昨日までと変わらない笑顔が咲いていると信じて。

 しかし、そんな少年の悲痛な願いは数発の銃声で打ち砕かれた。

 

 タァ――ンッ、………ダタァ――――――ン。

 

 吹き付ける吹雪に混じって、昔きいた記憶のある音が微かに耳へと届く。それは間違いなく三郎爺さんが猟銃を二度、発砲した音だった。

 

 つまりは。

 

 自分の家で、家族に。――やはり何かが起こっている。

 重くなった足の疲れなど忘れて、炭治郎は歩を速めた。もう頭の中はぐしゃぐしゃで、まともな思考など出来るはずもない。

 

 ただただ、間違いであってくれ。夢であってくれ。嘘だと、言ってくれ。

 

 そう、仏様に祈る事しかできなかった。

 薄暗かった山道を登りきり、朝日が指す空間に出る。此処こそが竈門家、炭治郎が愛してやまない家族の暮らす土地だ。

 一見、家の周りは何時もどおりの静かな空間が保たれているように見えた。だが、それはあくまで家の周囲だけ。竈門家の玄関たる引き戸にはなにやら赤黒い汁が垂れている。

 炭治郎の視界がその汁を定めるのと、先ほどまで聞いていた声の主による叫びが届くのは本当に、同時だった。

 

「炭治郎っ、逃げろ!!」

 

 一体、何から逃げなければならないのか。

 炭治郎は最初、三郎爺さんの叫びが何の意味をもたらすのか理解できなかった。

 税を取り立てに来た役人だろうか。それとも、冬篭りを忘れてしまった熊だろうか。それとも、冬山には無い食料を求めて来た野犬だろうか。

 一瞬のうちに頭の中がぐるぐると廻り始める。十三歳の少年がこの事態を受け止めるには余りにも幼く、無力だ。

 

「……に、にげろ……」

 

 そんな声が、また聞こえた。

 だから、一体全体何から逃げろっていうんだ! と叫びたかった。三郎爺さんの忠告に従おうとしても自分の足が震え、固まり、一向に言う事を聞いてはくれない。

 だが次に仕事を始めた嗅覚の示す現実によって、炭治郎の脳は更に大混乱を引き起こす。

 

「ハア、はぁ、ハァ…………。……ハァ」

 

 ただ、ひたすらに空気が足らない。

 どれだけ息を吸い込もうと、炭治郎の脳は更に酸素を要求してくる。なぜ自分の身体はそんなに空気を所望するのか。そんな事は決まっている。決して身体が望んでいるわけではなく、少年の心が現実を受け止めるために必要としていたのだ。

 住み慣れた我が家の中から臭う、鉄のような金臭さを漂わせた嫌な臭い。これまでも極僅かなものであれば、炭治郎とて嗅いでいた。それは茂が転んで膝を擦りむいた時、又は禰豆子が料理中に指を切った時。

 

 だが今。

 家の中から鼻の中へと漂ってきた匂いは、それとは比べ物にならない程の激臭だ。炭治郎は何度も矢継ぎ早に呼吸を繰り返し、現実を脳に認識させる。

 

 炭治郎が三郎爺さんの小屋から必死で追ってきた血の臭いが描く川の流れ。

 

 その奔流の元が自分の家の中からあふれ出している、という現実を。

 

「おやおや、またお客さんですか。この猟師といい、竈門家は千客万来なお家ですね」

 

 家の中から聞き覚えのない声が聞こえてくる。

 血の池地獄の入口たる竈門家の玄関から、ぬいっと顔を出したのは。人ではありえないほどに白い肌をした男だった。この辺りでは見たこともない西洋風の服に帽子。そして何より、身体中の血がそこに集まっているかのような充血した瞳が印象的な男だ。

 額には三郎爺さんが放った猟銃の後であろう真っ黒な大穴があき、そして右腕には……。手も足も、頭さえもダランと力なく垂れ下げた、愛する妹の姿があった。

 

「ねっ、ね……禰豆子?」

「ああ、この子ですか。……中々、見所がありそうなのでね。こんな山奥で一生を終わらせるには勿体ない『稀血(まれち)の子』だ」

 

 この気味の悪い人物が何を言っているのか、炭治郎は理解できなかった。足元で倒れている三郎爺さんはもう、ピクリとも動かない。もしかして、死んでしまったのだろか? なぜ? 誰に? そんなの、決まってる。

 炭治郎が呆然としていると、相手の方から声を掛けてきた。

 

赫灼(かくしゃく)の子……、ということは君もこの家の子か。あの男の血を十分に受け継いでいるのはこの娘だけではなかったか。……これは、良い」

 

 一体、何が良いというのか。

 

「他の兄弟は期待はずれでしたからね。私の血肉になってもらうとして……。一度に『稀血(まれち)の子』と『赫灼(かくしゃく)の子』が手に入るとは、これは期待以上だ」

 

 期待以上? 炭治郎にはこの男が話す言葉の何もかもが理解できない。『稀血の子』『赫灼の子』などという言葉は言うに及ばず、他の兄弟が……何だって? 血肉?

 いや、今はこんな狂人の相手をしている暇などない。この男の腕に抱えられた長女を取り戻し、あの家の中に僅かな希望を望む他ないのだ。

 

 己の鼻は残酷な現実を指し示している。

 だが、それでも。炭治郎は自分の眼で確かめなければ到底、これから迫り来る現実を受け入れることなどできなかった。




最後までお読み頂きありがとうございました。

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