鬼藤華、大暴れっ♪
※告知:明日の投稿時間ですが、実験的にAM7:00にしてみようかと思います。通勤、通学の合間に読んで頂ければ嬉しいです。よろしくお願い致します。
藤の花に囲まれた風光明媚な庭師の街。
藤華がこれまで生涯のすべてを過ごして来た街は今、花の赤とは違う真紅の血花で彩られていた。
溢れるは
争いに巻き込まれて火の手が多くの家があがり、屋根の下では灼熱の炎、青空には夜空へと変貌しそうなほど黒煙が立ち昇る。
無残が街人を斬り、鬼を作り、それを藤華が食べる。
なぜか藤華の飢えは終わりを迎えることがなかった。
どれだけ食べても食べても、お腹がくーくー鳴って仕方がない。藤華本人は知るよしもないが、実は人間にくらべて鬼の肉は栄養価が極端に少ない。だからこそ他の野良鬼は共喰ではなく人間を襲うのだ。
食べても食べても、どれだけ食べても。
藤華の食欲が満たされることはない。
それは鬼舞辻 無惨によって演出された、死の演目の始まりだった。
一刻前までは、この街には威勢の良い笑い声に包まれていた。年中吹き荒れる花吹雪の中、人々は人生を謳歌していた。それが今ではどうだ、もはや街人の殆どが鬼舞辻 無惨によって鬼へと変えられ、次々と鬼化した藤華の胃の中へ収められてしまっている。今はもはや、パチパチという家の残骸が燻る音しか聞こえてこない。
「たりない、たりない。ねえ、ごはんもっとちょうだい?」
まるで生きた屍のように、藤華は
もはやこの街に生きている人間はおろか、鬼さえもほとんどいない。他でもない藤華が喰らい尽くしてしまったからだ。
「さあ、この演目もそろそろ。終幕へとまいりましょうかねぇ。藤華、メインディッシュのお時間です!」
地獄の演出家となった鬼舞辻 無惨が、燃え盛る民家の屋根から少女の行く末を見届けている。
もはやこの街の生き残りは二人。
最後の獲物を狩るため、藤華は十年もの月日を共にした家へ戻るのだ。
今日の朝まで暮らしていた家へと戻り、もはや何度くぐったか分からない門へと吸い込まれるように入ってゆく。その玄関口には、鬼と化した父が暴れないよう必死の形相で押さえ込んでいる兄、藤斗の姿があった。
「ふっ……藤華?」
藤斗の視界に藤華の姿が入り込む。この小さき家で何年も見続けてきた妹の顔。それを誰が間違うものか。
「おにいちゃん……。おなかがすいたの、ねえソレ。……たべさせて?」
泣きそうな表情で、兄に助けを求めるかのように。藤華は藤斗に語りかける。
無論、この場に人間の食事などありはしない。居るのは鬼と化した父と人間の兄だけである。瞳は赤く充血し、血の涙を垂れ流し。凶器となった赤く長い爪が藤斗の顔へと近づいてゆく。
(殺されるっ!?)
思わず目蓋に力を入れ、せめて人生最後の恐怖を味わないよう、藤斗は暗闇の中へと逃げ込んでしまった。だが藤斗の人生最後となる瞬間は、いくら待ってもやってこない。一瞬で終わるにしても、何か痛みくらいはありそうなものなのに。今だに意識はハッキリと保たれ、思考も安定している。
藤華は人の頃から「大好きな食べ物は最後に食べる」子だったのだ。
「いただきま~す」
幸せだった頃の、毎日の食卓に響いていた声だった。
嬉しそうに、楽しそうに。飯を口に運ぶ前の藤華の声だ。
藤斗は思う。
一体、どこから間違えたのだろうと。心当たりなんか一つしかない。あの青年だ、俺の藤華を横からかすめとり攫っていこうとした、あの男だ。だがソレに気付いたとして、もはや遅いにもほどがある。
藤華の夜食が始まった。
そう、まずは前菜たる鬼と化した父の肉からだ。どちらにしろ主食たる兄は身体が痙攣し、身動きが取れないらしい。ならばお楽しみは後にとっておこう、まだまだ夜は長いのだ。
「ぐえあ……、あああああぁ……」
ぐちゃ、もりっ、ぺきぺき。
まるで喘ぐような声色が聞こえてくる。聞きなれているような、もしくはまったくの別人であるのかのような。でもやはり、この声は父だ。厳しくも優しく、父として、庭師の師匠として自分を導いてくれていたあの父の声だ。
藤斗はおそるおそる目蓋を開く。
いつの間にか、自分の腕に一切の力は入っていなかった。鬼となって暴れまわる父を必死の思いで抑え付けていたはず、なのに。その姿形が藤斗の前から消え去っている。
現実はすぐそばにあった。
わざわざ探すまでもない。自分のすぐ横で、その残虐な食事は行なわれていたのだ。
「藤華……。お前、一体なにを……」
「ん? ごはんのじかんなの。たべてもたべても、おなかいっぱいにならないの。おにいちゃん、なんでかしってる?」
妹の問いに答えることなど、藤斗にはできるはずもない。知らないという答えも勿論だが、それ以上に目の前の光景が信じられなかったのだ。
再び奇怪な音が藤斗の耳に飛び込んでくる。
ぐちゃぐちゃ、はむ、……ぶちっ。……もりもり。
「おとうさん、……おいしくないの」
味噌を吸い、腹を裂き、臓腑を取り出す藤華。
それらは全て、兄弟が愛する父の身体からはみ出ていた――。
最後までお読み頂きありがとうございました。
あの時、禰豆子が本能のままに兄弟達を喰らっていたら。もしかすると藤華のように、無惨様の操り人形となっていたのかもしれません。
更に言えば禰豆子と同じように、藤華の意識は肉を喰らっても混濁したままです。それもまた禰豆子と同じく、意志の回復より最優先した「何か」があるからです。
一つは藤の特性をいち早く体得するため。あとは……。
今後のお話をお待ちください(笑
※告知:明日の投稿時間ですが、実験的にAM7:00にしてみようかと思います。通勤、通学の合間に読んで頂ければ嬉しいです。よろしくお願い致します。