本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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おはようございます。
朝っぱらからホラーな話ですみませんです、はい。
でも読んで(笑

追記:色々と試してみたいので、しばらくの間AM7:00投稿を継続しようと思います。


第3.5-6話[兄弟の絆]

 股間から生暖かい不快な感触を覚える。

 下着を越え、(はかま)を越え、黄色い液体がもわもわと湯気をあげながら地面に池を作り出す。

 

 自分が懸命に育て上げた娘に喰われる。それはいったい、何の悪夢だろうか。

 しかしもはや、父に尋ねることなどできようはずもない。藤華に襲われる前にもう、父は鬼となり言葉を失っているのだから。

 

「アアアー……、あああぁ……」

 

 まるで身体中の空気を全て吐き出すかのように声を漏らし、父の身体からすべての力が抜けた。

 きっと、鬼でなければここまで生きながらえなかっただろう。首を、腕を、臓腑を。藤華が喰らい尽くしてなお、父は声を上げ続けていた。

 

「……おなか、すいたの」

 

 父と同じく鬼と化した藤華からは、その言葉しか聞こえてこない。

 周囲からは家々の木材が燃えるパチパチとした音だけが響き、少し前まで聞こえていた悲鳴もすっかりなりを潜めていた。それはもはや生き残っている人間が自分以外いないという証明のようで、なおさら藤斗の恐怖を加速させる。

 

「やめろ……、藤華。俺を喰わないでくれっ!!」

 

 半ば諦めに近い感情が身体を支配しつつも、今だせる精一杯の声を張り上げる。

 

 死にたくない。

 自分はまだ十五だ。このさき父のように立派な庭師となり、心から愛せる嫁をもらい、子を育み、暖かい縁側で孫に囲まれて余生を楽しむのだ。

 そんな人として当たり前な人生さえも自分は許されないのだろうか。

 

 生きたい。生きて、この日の本の国で藤斗という人間が生きたのだという軌跡を残したい。

 

 そんな想いが妹に届いたのだろうか。

 

 父の身体を粗方辛い尽くした妹は、不思議そうな表情を浮かべて視線をむけ、口を開いた。

 

「…………ふじと、おにい、ちゃん?」

 

 血がべったりとこびり付いた小さな唇を少しだけ動かして、確かに藤華は自分の名を口にした。

 生まれた瞬間から先ほどまで、毎日のように聞いていた声だ。一緒に庭の草をむしり、木々を剪定(せんてい)し、疲れたとおんぶをねだっていた妹の声だ。

 

「藤華……、俺のことが……分かるか?」

「ふじかの、……だいすきな、おにいちゃん」

 

 奇跡がおきた。

 父には起こせなかった、奇跡が自分に起こせた。無心で父であった残骸から妹を取り上げ、両腕を背中にまわす。意外なほど妹の身体は暖かかった。その感触も、以前となんら変わることはなかった。

 自分の胸にある妹の顔に、ぽたりぽたりと水滴が跳ねている。それが自分の眼から涙だと気付くのにしばらくの時間を要した。

 

「そうだ……、お兄ちゃんの、藤斗だ。ふじかぁ……」

「むぎゅっ!」

 

 今の自分が持てる力を全てこめて妹を抱き締める。もしかしたらやり直せるのではないか? という期待感と共に、だ。

 妹の犯した罪はけっして許されるものではないだろう。けど一番悪いのはおそらく、あの男だ。このやさしい藤華が、こんな地獄を作り上げられるはずがないじゃないか。

 

「藤華。もう、大丈夫だから。お兄ちゃんが守ってやるからな?」

「…………」

 

 妹を安心させるためにかけた言葉だったのだが、当の妹は意味が分からないようで瞳をまんまるにしている。

 このまま、全てが切り替わるような気がした。自分が愛情を注ぎ込んでいけば、いつの日か元の妹に戻るような気がした。

 

 なんとも、淡い期待ではある。

 けど妹が鬼のまま暴れ続けるよりはいい。自分がこんな状態の妹を残して死ぬよりはいい。

 今はただ、この感触を信じるだけなのだから。

 

 

 

 しかして、一家の地獄絵図はまだ終了していない。そんな奇跡が起きては困る人物がそこにはいたのだ。藤斗にとって、諸悪の根源である商家の青年。

 

 鬼舞辻 無惨が二人の前に迫っていた。

 

 ◇

 

「それは……困りますねぇ。藤斗くん?」

 

 感動的な兄弟のシーンに無粋な声が割ってはいる。

 藤斗の肩がビクンと跳ねる。今もっとも会いたくもあり、会いたくない相手でもあった。この男が普通の人間ではないことは、今の街を見渡せば語ることなどない。

 だが実際に、この男がどんな手段で街を炎獄に変貌させたのか。男はいったい何者なのか。そのあたりの詳しい事情を藤斗は何一つしらない。

 

「お前。全部、お前の仕業なのか!? そうなんだろっ!!?」 

 

 答えの分かりきった質問を口にする藤斗。だがまず、それを確認しないことには始まらない。

 

「……ふふっ、何を今更。まさか今だに察しがつかない愚物であるとは言いませんよね?」

「全部……、ぜんぶ嘘だったのか!? 妹に、藤華に一目惚れしたと言った言葉も! そばに居てほしいだけだという心も!!」

「当然でしょう。私に幼女好きな趣向はありません……。生まれながらに、この街で藤の花に包まれてきた最高の少女。私が欲しいのは彼女の心ではなく、……藤色に染まりきったその身体なのです」

 

 身体が目当てだった。

 普通に聞いても最低な言葉だが、この狂者が言うと更におぞましく聞こえてしまう。

 

「藤色の、身体?」

「君たち子供に知らされていないのも無理はありません。この街はね、ある組織との繋がりが深い街なのです。我々、鬼という存在を長年斬り殺してきた怨敵。鬼殺隊という組織の」

 

 どうせ殺すのだから、機密も何もないとばかりに。

 

 声高々に男、鬼舞辻 無惨は真実を語りだした。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 この外伝に救いはありません。
 本編で藤華が鬼になっているのだから、当たりまえっちゃその通りです。絶望のどん底までおっこちる兄弟の結末はどうなりましょうか……。

 また明日の投稿も7:00にするか、元通り18:00にするか。本日の夕方~夜に追記しますので確認をお願い致します。
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