本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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エピローグその3。
今回は長めです。普段の二話分くらいあります。時間のある時に読んで頂ければうれしいです。


第3-14話[水の継子と玉鋼]

「ええぇ――――!? ぎー君に、たん君まで取られちゃったぁ!!」

 

 まさかの言葉に、炭治郎の心臓は飛び出そうなほどに衝撃を受けた。

 この人達はいったい、何を言っているんだろうか。

 

 そもそも、たん君って誰だ?

 

 混乱した脳内が、先ほどカナエが口にした合格者達の名前を必死に思い出す。

 その中に「たん」という文字が入っているのは自分しかないと気付くのでさえ時間を要した炭治郎は思わず、叫ばずにはいられなかった。

 

「何言ってんだアンタはっ!!」

 

 炭治郎の口から飛び出た言葉は、決して喜びの色を含まない激怒の叫びだ。

 普通の鬼殺隊士なら振って沸いた誘いに歓喜しただろう。それほどまでに柱に見初められた継子という存在は特別なのだ。もしカナエに指名されたのであれば、炭治郎も喜んだのかもしれない。

 だがこの、冨岡義勇という存在は竈門兄弟の中では特別な意味を持つ。

 

 この男は鬼となった竹雄や茂、花子や六太の首を跳ねた、いくら憎んでも憎み足りない仇敵なのだ。

 

 もはや柱に対する礼など炭治郎の頭からは消え去っている。

 身体からは気熱の蒸気が立ち昇りはじめ、首から上は怒髪天という表現が当てはまるほどの憤怒を見せていた。

 

「……この中で水の適正が僅かでもあるのが、お前だけだった。というだけの話だ」

「ふざけるなっ!!」

 

 あくまで冷静な表情を保ち続ける義勇に、炭治郎が暴言をもって食って掛かる。その余りの剣幕に、頭を下げさせた弦弥も呆然と見守るしかなかった。そもそもが柱を怒鳴りつけるなどという考えが彼の中にはなかったのだ。

 無遠慮に義勇に近づいた炭治郎は、胸倉を両手で握り締め、持ち上げる。

 

「俺を近くに置いてみろ、いつか必ずその首を跳ね飛ばすぞ?」

「……今のお前には、まだ無理」

 

 炭治郎の剣幕にも、一切の同様を見せない義勇。その余裕じみた無表情顔が更に炭治郎を激高させた。

 

「んだとぉっ!」

「はい、は――――いっ。たん君、どうどうっ! 仲が良いのは分かったけど、兄弟喧嘩は後でやってね?」

「……兄じゃない」

「誰が弟だっ!」

「ほらっ、息ぴったりじゃない二人とも♪」

「………………」

「……ちっ」

 

 完全に論破されてしまった二人は口をふさぐ他ない。

 無駄な抵抗と知りつつ怒りの視線をカナエへと向けるが、本人はニコニコとした顔を崩す気配さえなかった。まるで弟達の喧嘩を見守る姉のような表情だ。

 カナエの笑顔に毒されたのか、あるいは拍子抜けしてしまったのか。舌打ちをしながらも義勇から手を離すと、炭治郎の耳にカナエの口が近づいてきた。

 

「たんくんたん君、継子になっておくとお得だよ? ぎー君の首を狙えるのはもちろん、禰豆子ちゃんの正体も隠しやすくなるから」

「…………え?」

「君達の事情は今だ、私達二人だけの秘密にしてるの。他の柱に話そうものなら最終選別どころじゃないからね。それでも鬼殺隊士として活動していくうちに、隠し切れない場面が出てくるかもしれない。その時にこそ、私達の継子であるという立場が必要になるわ」

「…………」

 

 相変わらずカナエの臭いは黄色い。欲も殺意もなく、心底竈門兄弟を心配してくれているようにしか思えない。

 だからこそ理解できないのだ。

 こいつ等は人殺しの集団だ。鬼になった人が居たら「もう人間ではない」と冷徹に判断し、涙の一つも見せないで首を狩る殺人鬼だ。

 どう足掻こうが今の竈門兄妹はこの二人に敵わない。

 本来ならば、何の弁解をする間もなく身体と頭が離れているはずなのだ。

 

 なのに、なぜ。

 義勇はともかく、胡蝶カナエという女性は自分達の運命を見守り続けてくれるのだろうか。

 

 竈門炭治郎、十五歳。

 竈門禰豆子、十四歳。

 

 この先、姉と慕ったかもしれない女性の心を見透かすには。

 

 まだまだ、あまりにも幼すぎたのだ。

 

 ◇

 

「ではでは、私はこの場にいない禰豆子ちゃんを。ぎー君はたん君を継子として抜擢します! カナヲちゃんには私の妹が付いてるし、弦弥クンにはお兄さんがいるもんね?」

「…………(コクリ)」

「………………、まぁな」

 

 その場をまとめ始めたカナエの言葉に、カナヲは小さく頷き、弦弥はしぶしぶながらも肯定しているといった風に了承していた。

 問題は伊之助と善逸だが、元々が伊之助は誰かの命令を聞くような性格ではないし、善逸は修行のしなおしが言い渡された。どうやら最終選別において鬼の一匹も狩れずに逃げ回っていた事が見透かされたようだ。

 

「えええ……。またあの地獄の日々が続くのぉ!? 俺もカナエさんみたいな美人さんに教えてもらいた~い!!」

 

 まるで身体中の骨が軟体になったかのようなくねくね具合で、善逸がカナエに擦り寄っていく。

 

「ダメダメ。君って、自分から苦しみに飛び込もうとしないタイプだから。……私が指導したら多分、イライラして首をねじ切っちゃうよ?」

「え?」

 

 善逸の骨が鉄になった。

 まさかこのニコニコしたお姉さんからそんな過激な言葉が出てくるとは思いもしなかったのだ。花柱の裏顔を知った善逸は哀れ、身体が震えて止まらなくなっている。

 

「「お話は終わりましたでしょうか?」」

「ああ、ごめんゴメン。かなたちゃん、輝利哉クン続きをどうぞ~。私達の用件はもう終わりだから」

 

 その場を荒らすだけ荒らして、突然の乱入者となった二人の柱は舞台から降りたのだ。

 

「とは言っても私達からの用事は一つだけでございます」

「鬼殺隊士の証。日輪刀の原料となる玉鋼をお選び頂きます」

 

 鳥居の下に設置された木製のテーブル。

 その上にかけられた絹布を双子が取り去ると、凹凸の激しい鉄鉱石が姿を見せた。

 

「鬼を滅し、己を守る大切な相棒」

「それは、皆様自身でお選びください」

 

 相変わらずの淡々とした口調で紹介された玉鋼は、見た目ではどれも同じようにしか見えない。炭治郎だけではなく、他の四人もどれを選べば良いのか困惑していた。

 だが、どうでも良い選択をわざわざ選ばせようとするとも思えない。炭治郎はなんとなく、その理由に察しがついていた。

 

(視覚で判別がつかないのなら、他の感覚で選べば良い。……これもまた、そういう試験なんだ。自分の命を預ける相棒をきちんと見抜けるかどうかの)

 

 視界など邪魔だと言わんばかりに、炭治郎は玉鋼の前で瞳を閉じた。続いて両手で耳を塞ぎ、聴覚をも否定する。これで頼りにするべきは「嗅覚」のみだ。

 

(……なんだろう。目ではまったく見わけがつかなかったけど、この石。どれもまったく違う色の臭いだ!)

 

 黄色く光る石もあれば、暗く淀んだ石も。水のような瑞々しさを含んだものも、燃え盛る溶岩のような石や、落雷でも落ちたかのようなビリビリした石さえもある。見た目ではなく、そういう臭いなのだとしか説明のしようがない。 

 

 その上で、炭治郎は悩んでいた。

 もちろん、自分の属性を考えれば「火」か「水」か。究極の二択となるだろう。身体の水を心の火で熱する、「気熱の呼吸」を操る炭治郎には二つの選択肢以外ありえない。しかしてバランスを崩してまで片方の属性を優先させることに意味があるのか? とも思ってしまう。

 残された時間は長くない。この玉鋼の選択は早いもの勝ちなのだ。迷っている間に他の人に取られようものなら、それこそ最悪の事態となる。

 

 ふと、炭治郎はその中で一際黄色く輝く玉鋼に心を奪われた。

 黄色くも白く、例えるなら日の光を直接見上げているような陽光の輝き。気が付けば他の誰よりも一歩先を歩み、手に取ってしまっていた。

 

「……ふ~~ん」

 

 感心しているような、それでいてからかっているいるかのような声が耳に届く。その声は間違いなく、胡蝶カナエのものだ。

 

「……何か?」

「なんでも~」

 

 意味深な笑みを隠しもせずに、カナエは問いを投げ返した炭治郎をいなしている。

 もうこの人の言葉に惑わされるのは沢山だとばかりに、炭治郎は元の立ち位置へと戻ろうとした。

 

 その時。

 

「竈門炭治郎様はもう一つ、玉鋼をお選びください」

「え?」

「特例ではありますが、この場に竈門禰豆子様がいらっしゃいませんので。……代理ということで」

「……そう言われても。……禰豆子の玉鋼を、俺が?」

「はい」

 

 かなたと言う名の白髪人形からの突然の依頼に、炭治郎は慌ててしまう。

 確かに、この場で禰豆子を一番知るのは炭治郎以外にはいない。だが、禰豆子は鬼だ。鬼に見合う日輪刀なんて長い時を経た鬼殺隊の最終選別でも異例中の異例だろう。それを突如選べと言われても参ってしまう。

 

「禰豆子に……、禰豆子に似合う色……」

 

 周囲から見れば、完全に愛する妹への贈物に悩む兄の姿である。

 アレでもない、コレでもないと炭治郎の眼は明らかに目の前の玉鋼ではなく、頭の中の可愛い妹の姿を見続けている。

 

 そして何時しか炭治郎の視界が現実へと戻って来た時、目の前には。……一つの玉鋼しか残ってはいなかった。

 

「悩んだって、もうソレしか残ってないんだから早くとれよ」

 

 頭の後ろから、イライラしたような玄弥の声が耳に届く。

 

「いやっ、でもっ。これは……」

 

 炭治郎が慌てた理由は、その一つだけ残った玉鋼の臭いの色だった。

 他の合格者達とて何かしら感じるものがあったのだろう。コレだけが、なんとも言えない赤紫色の、毒々しくも怪しい臭いを放っていた。だからこそ最後まで選ばれずに残ってしまっているのだ。

 

 こんな物を贈ったのでは、禰豆子が泣いてしまうかもしれないではないかっ! 

 それどころか、兄からの愛情に疑問を持たれても不思議ではない。

 

「あの……、他の玉鋼は……」

「ありません」

「この玉鋼は日の光を浴び続け、鉄自体に陽光の温もりと力を溶け込ませた希少な物」

「採掘自体も、鬼に見つからぬよう極少数を必要な分のみ採取するのです」

 

 そんな最後の抵抗に、かなたと輝利哉は一切の感情を籠めずに斬り捨てた。

 

 竈門炭治郎。長男として、そして新しい相棒として最初にして最大の失敗である。それでも持って帰らないという選択肢はもっとありえない。慌てて周囲に交渉しようにも、炭治郎の心は誰しも理解しているのか誰も視線を合わせようとはしなかった。

 それでも一縷(いちる)の望みを賭けて黄髪の少年、我妻善逸へとすがりつく。

 

「なあ、頼む! コレと交換してくれよお!?」

「いやだよっ!? なんか呪われそうな音してるもん、その石!!?」

「いいじゃん? どうせすぐ死ぬって諦めてたじゃん!?」

「お前、生きろって言ってたくせに早くも殺意満天かあああああ――――!!!」

 

 必死の交渉も空しく、さすがの善逸でも交換はしてくれなかった。

 もはや、炭治郎の残された道は一つしかない。これまでの人生でも数少ない妹への贈り物は、赤紫色の毒々しい臭いを放つ最悪の贈り物となってしまったのである。

 

 

 

 何はともあれ、こうして炭治郎の最終選別は終わりを告げた。

 もはや自分が義勇の継子に選ばれた事実など疾うの昔に彼方へと飛び去っている。

 帰る前から妹の悲しい顔が目に浮かぶようだった。いつになく足が重い。鱗滝から借りている日輪刀を杖代わりにし、引きづるかのように足を前へ運び続ける。

 

「禰豆子……、ごめんなぁ。お馬鹿な兄ちゃんで、ホントごめんなぁ」

 

 ブツブツとそんな言葉を呟きつつ、炭治郎は自分の失敗をひたすら悔やみながらも帰宅の途についたのであった。




最後までお読み頂き、ありがとうございました。

最後の行に「南無」の一文字を入れるかで10分ほど迷ったのは内緒です(笑
たまにはこんなギャグテイストも良いですよね。

大体は予想が付いているかとは思いますが。
炭治郎も、そして禰豆子もオリジナルの日輪刀を持つ事になります。それがどんな色か、そして最終的にはどのような結末となるのか。

そして義勇の継子となった炭治郎はどうなるのか。

明日から開始する四章をお待ちください。

今後ともお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
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