本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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本日から第四章のスタートです。
三章長かった……。全部外伝のせいです、ハイ。
心機一転、新しい物語を始めていきますので宜しくお願いします。


第四章 歓喜と絶望
第4-1話「義勇の誓い」


「…………歩くのが遅い」

 

 そう言いながら水柱は後ろを振り返った。

 もはや炭治郎に反論する力など残ってはいない。最終選別での激闘を潜り抜けただけでも疲労困憊なのだ。その上、妹へ贈るべき玉鋼があんな色では炭治郎とて足が重くなる。

 いっそ自分が最初に選んだ日の光のように輝く玉鋼を禰豆子に贈って、自分が貧乏くじを引こうとも思ったが義勇に止められた。

 

 曰く、「そんな玉鋼を渡して大事な妹を焼く気か?」と言われてしまったのだ。

 

 確かに人間にとっては心地よい色であっても、鬼にとっては死を告げる色だろう。

 炭治郎はこの毒々しい玉鋼が、鬼となった妹の感性に意外な形で適合しないものかと淡い期待を持つしかなかった。

 

「こっちは、疲れているんだよっ!」

「……この瞬間にも鬼に襲われたらどうする。弱った鬼殺の剣士なんて、鬼にとっては格好のご馳走だぞ?」

 

 そこまで言われては炭治郎とて奮起するほかない。

 ズリズリと重い足を引きずりながらも、炭治郎は必死で水柱の背中を追いかけていった。

 

 実は当初、義勇は継子を迎え入れる気はなかった。ただの物見湯山のつもりでカナエの我がままに同行したのだ。だが最終選抜会場で二年ぶりにあった少年は今だ、自分への憎悪を燻らせていた。

 鬼殺隊を憎みながらも鬼殺の剣士となった少年。

 こんな異分子がこれからの戦いにどう影響するのか分かったものではない。だからこそ、義勇は過去の行いを清算する心積もりで炭治郎を継子にした。

 義勇の選択が未来において、吉とでるか凶とでるか。それは誰にも分からない。

 

 「夜叉の子」であり「赫灼(かくしゃく)の子」である炭治郎。「鬼の子」であり「稀血の子」である禰豆子。

 

 この二人が鬼殺隊内で認められるのは、まだまだ先の話なのだ。

 

 ◇

 

 もう一山越えれば鱗滝の家に到着する。

 日も沈みかけ、夕闇から真っ暗闇へと移り変わる頃。何食わぬ顔をした義勇が炭治郎に声をかけた。

 

「……この山に入るぞ」

「はぁ? 迂回した方が近いだろ!? だってこの山は――――」

「そんなことぐらい百も承知だ。お前とて、礼を言わねばならない人物がこの狭霧山に居るだろうに」

「…………」

 

 披露で頭が朦朧とするなか、 炭治郎はなぜこの男が「あの二人」を知っているのかと問いつめる元気はなかった。

 だがすぐに、この男が知っていてもおかしくないと思いなおす。

 

 炭治郎が鱗滝に課された最終試験。

 半年もの間、御魂石を両断できずに苦しんでいた炭治朗を導いてくれた人の言葉の中に、確かにこの男の名前が出てきていた。

 

 錆兎、真菰。

 二人の恩人に結果報告をしないで、この山を素通りするわけにはいかないではないかとは炭治郎とて思う。だが、もう二度とあの二人の姿を見ることは叶わない。

 その原因を作り出したのは他でもない、炭治郎自身だ。二人を現世に留まらせる拠り所として狭霧山の頂上に鎮座していた御魂石は、気熱の呼吸修得と共に放った壱ノ型「間欠閃」によって粉々に破壊されてしまった。

 あの時点で既に、天上の世界へと旅立っているはずなのだ。

 

 義勇がどんなに望もうとも、二人と再会することはない。だが炭治郎はその言葉をどうしても口にはできなかった。口から、声として出してしまえば現実が確定してしまうようで。ありえない奇跡の可能性すら完全に消えてしまうようで。

 結局、炭治郎は何の言葉も発する事なく義勇と二人、狭霧山を登り始めた。

 

 ◇

 

 ようやくの思いで狭霧山の山頂に辿りついた炭治郎は、何かで作られた小山の前で膝を折り、祈りを捧げる義勇を発見した。

 数日前なら炭治郎の手によって粉々にされた御魂石の破片が散乱していただろうし、新たな御魂石が鎮座しているわけでもない。間近にまで近づいて見れば果たして、その正体が炭治郎の予想通りのモノであると確信できたのだ。

 

「……日ノ本の国の為に立ち上がりし、勇敢なる少年達。ここに、眠る……」

 

 それは、御魂石の残骸を使って造られた墓だった。

 炭治郎が壊した御魂石の残骸を一つ一つ集め、山にし、その天辺には木の板で作られた卒塔婆(そっとうば)が立っている。そこに達筆な文字で書かれた言葉を炭治郎は読み上げたのだ。

 更に裏に廻れば、今まで最終選別で命を失った鱗滝の大切な子供達の名前が何本もの卒塔婆に書き込まれていた。

 

「……錆兎、真菰」

 

 数ある名前の中に兄弟子であり、竈門兄弟の恩人である二人の名前もしっかりと書かれている。

 修行の最中ではなんとも実感しにくかったが、こうして墓標を立てられると実感する。二人は霊となっても後輩である自分達を導いてくれたのだ。そう思うと自然に涙が溢れてくる。

 

 炭治郎と禰豆子は修羅の道を歩んでいる。

 それは決して、母や兄弟達が望む道ではないだろう。むしろ心配症な母からすれば、平穏でいて幸せな人生を代わりにおくってほしいと願っているはずだ。しかし炭治郎は、どうしても最後の家族となった禰豆子を見捨てられなかった。僅かとはいえ、可能性があるのなら縋りたかった。

 

 禰豆子を人間に戻し、遠くない未来に居るであろう新しき家族との幸せを見つけるまでは。

 この足を立ち止まらせるわけにはいかない。

 

 炭治郎は墓標の正面に戻ると、義勇にならって片膝をついた。

 両手を合わせ、目蓋を閉じ。天上の世界に居るであろう二人に祈りを捧げる。

 

 厳しくも真摯に剣を向き合わせてくれた錆兎。

 

 炭治郎が挫けそうな時に優しい言葉をかけてくれた真菰。

 

 どれだけ感謝してもしたりない恩人の冥福を祈る。

 

 となりの義勇からも、小さいながらも何かを呟いている声が耳に届く。

 普通ならブツブツとしか聞こえないような小さなものだ。それでも炭治郎は聞こえてしまった。

 

「もう二度と、鱗滝さんの子を死なせない」

 

 という決意の宣言を――。




卒塔婆(そっとうば)とはなんぞや? と思った人、正直に手をあげましょう。
アレです。お墓の裏によく立っている木の板に筆文字で何やら書かれているアレ。正直、作者も調べるまで名称を知りませんでした。
バチ当たりですなあ……(汗

小説を書いていると、そんな自分の常識を疑う場面がいくつも出てきます。
よろしければ、一緒に勉強していきませんか?(笑

話を小説へと戻しましょう。
錆兎と真菰は御魂石をよりしろにして現世に留まっていました。原作に御魂石なる単語は出てきませんし、ただソレっぽい描写があるのみです。でも、結局は。そういうことなんだろうなあ……と思いついた設定です。
違和感はないと思うのですが、どうでしょうかね?
さてさて、四章の話が動き出すのは次のお話からです。一足先に戻っている禰豆子はどうしているでしょうか?

明日の更新をお待ちください。
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