本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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とりあえず一週間ちょい続けてみた朝7時投稿ですが、夕方6時とどちらが良いでしょうか?
作者的には朝っぱらからホラー系なんて読む人が居るのかな? という実験のつもりでしたが。(あと昼更新の方がランキングに乗るかな?なんて下心もありました)
よろしければ感想でご意見を頂けると嬉しいです。



第4-2話「命の代償(前編)」

 狭霧山の周囲はもはや、夜闇の海へと落ちていた。

 恩人たる二人への鎮魂の祈りを捧げ終えた義勇と炭治郎は一路、今か今かと帰りを待っているであろう鱗滝の家へ向かうべく山道を降りている。

 炭治郎にとっては二年間通い続けた道だ。例え暗かろうとも、立ち並ぶ木々の数や道に飛び出た石の場所とて把握しているくらいである。

 

 その感情を胸に抱いたのは炭治郎だけではなかったらしい。

 前を歩く冨岡義勇がふと、さりげなく口を滑らせた。

 

「懐かしい。……何もかもが変わっていない」 

「そういや、アンタも鱗滝さんの教え子だったな」

「…………。誰から聞いた?」

「真菰」

「……そうか」

「ああ」

 

 二人の会話は決して、親しい者達が交わすような歓談ではない。

 炭治郎にとって冨岡義勇という男は、いずれ斬るべき仇の一人だ。その決意は何ら変わることはない。この会話は、共通の友人を持つ他人同士による最低限の会話だ。それでも、二人の思い出を持つ人間が自分達以外にも生きているのだ。そう思うと少しだけ嬉しい気持ちに炭治郎はなれた。

 

 狭霧山はそれほど標高の高い山ではない。

 炭治郎や義勇といった鬼殺隊士としての体力を持つ者ならば、麓へ行き着く時間もそれほどはかからなかった。

 あの小さくも暖かい明かりが、闇夜の中から視界に入ってくる。炭治郎や禰豆子にとっては第二の我が家とも言える場所だ。最終選別を合格し、生きて帰ってきたのだという実感が今更になって沸きあがってきた。

 

 ようやく帰ってきたのだと感慨深くなり、なぜだか涙が零れる。

 最終選抜が終わりを告げて、ちょうど一日が経過していた。

 

 ◇

 

 しかして事態は急変する。

 自身から発せられるのではなく、他人からこの臭いを嗅ぐのは随分と久しぶりだった。

 だからこそ義勇は反応し、炭治郎は遅れをとる。つい先ほど第二の我が家と評した鱗滝の家から僅かばかりの血の臭いが漂っている事実を、今更ながらに感知したのだ。

 

 見た目の上では出発前から何の変わりもないように見える。別に火の手が上がっているわけでもないし、鬼に襲われたような気配もない。

 だからこそ不気味で。

 何か異常な事態が起こっているのだと、炭治郎の第六感が警鐘を鳴らしていた。

 

 乳酸が溜まりきった足を焦りの感情が叱咤する。

 しかし炭治郎の身体は疲れきっていた。気ばかりがはやり、本人の意思とは反比例して歩みは速まらなかった。

 もうすでに義勇は鱗滝の家に到着している。

 

 一体何があったのか。

 

 炭治郎とて一刻も早く駆けつけたい。なぜなら、あの家には禰豆子も居るはずなのだ。

 

「禰豆子ぉ……。兄ちゃんが、今行くぞぉ……。待ってろよぉ……」

 

 鞘に収めた日輪刀を杖がわりにして、炭治郎は必死に身体をひきずり続けた。

 

 ◇

 

 遠目から見たとおり、狭霧山の麓にある鱗滝の家は以前の変わらぬ佇まいで存在していた。

 だが屋内からは強烈な異臭が漂っている。

 

 ……間違いない、人間の血だ。

 

 誰かの血が池のように、あの暖かい空間を支配しているのだ。

 

「鱗滝さんっ、禰豆子ぉ!!」

 

 最後の力を振り絞るかのように、炭治郎は玄関の壁に手をかけながら叫んだ。しかし玄関前で仁王立ちを決め込んでいる男のせいで現状が把握できない。

 

「お前っ、じゃ――――」

 

 邪魔だ。と、炭治郎が義勇に怒声を浴びせようとした時。

 

「慌てずとも問題ない。事は、すでに済んでいる。目をおおいたくなるほどの大ケガではあったが、……禰豆子は、無事だぞ。……炭治郎や」

 

 なんとも、覇気のない声が聞こえてきた。

 だがその声色は間違いなく炭治郎の師、鱗滝のものである。

 

「治療を――っ!」

「済んでいると言っただろう? 久方ぶりだな、冨岡義勇。……水柱になったと聞いたぞ? 儂も、鼻が高いわ……」

 

 鱗滝が力なき声で笑っている。

 それまで玄関先で硬直していた義勇の身体が、ようやく動き出した。炭治郎の視界にもようやく屋内の様子が飛び込んでくる、が。

 

「――――、え?」

 

 炭治郎は茫然と、変わり果てた屋内を見つめ続けていた。

 出発前と同じ佇まいの鱗滝家。しかして、その色合いだけが様変わりしていた。六畳もない屋内に敷かれた畳は、真紅の液体によって支配されていたのだ。だが周囲の壁には血の飛んだ跡が一滴さえもない。明らかに襲撃の跡ではなかった。言うなれば、鱗滝が何の抵抗もせずに傷を負ったか、あるいは――――。

 

「ギリギリではあったがな。……間に合ってよかった。……禰豆子や、もう腹は膨れたか?」

 

 信じられない光景に、喉からまともに音が出てこなかった。

 

 

 鱗滝の左足が、ない。

 

 太ももの中ほどから、バッサリと切断されている。まるで鋭利な刃物で斬られたような綺麗すぎる断面だ。

 

 左足は何処へいったのだろうか?

 

 炭治郎のそんな疑問は、囲炉裏の横で背中を丸めた妹の存在で明らかになった。

 

 ぐちゃぐちゃ、ぐぐぐっ……ぶちんっ!

 

 禰豆子が一心不乱に、肉へかぶりつき、引きちぎっている。

 

 もう、予想なんてついていた。この情景が、あまりにも藤襲山での一件と似通っていたからだ。あの時は鬼である藤華を。そして、今は。

 

「禰豆子……。お前いったい、何を食べているんだ?」

「うっ?」

 

 例え、こんな悲劇を何度も目撃すると覚悟を決めても。

 

 やはり、見たくはなかった。信じたくなかった。認めたくもなかった。こんなに早く二度目が来るとは思いもしなかった。

 

 だが、現実は目の前にある。

 

 自分の妹が、二年間もの間。

 

 面倒を見てくれた恩人の左足を、禰豆子は一心不乱に食い散らかしていたのだ。




最後までお読み頂きありがとうございました。

この世の全ては私の食料よっ! な禰豆子さんです。せっかく炭治郎と義勇の心が少しは近づいたと思った矢先にコレもんですわぁ。
しかして被害者の鱗滝さんはそれほど驚いていない様子。

事実は明日の更新にて。よろしければお付き合いくださいなー。
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