本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第4-6話「新たなる力(中編)」

 竈門兄弟のために日輪刀を作ってくれた鋼鐵塚 蛍という人物は、まごうことなき「ひょっとこ」であった。

 

 いや、その説明だけでは何のことやらと言われるかもしれない。

 後々の説明を聞けば、鬼殺隊を補佐する役目である育手や刀鍛冶は鬼に狙われる危険性を下げるために顔を面で隠すようだ。他にも特殊な効果があるらしいが、だからといって「ひょっとこ」の面を選ぶ嗜好はいかがなものかと炭治郎は首を傾げざるをえなかった。だが禰豆子はその珍妙な面をたいそう気に入ったようで、珍品を見るかのように鋼鐵塚の面をツンツンと指で突っつきまわしている。

 

「…………(つんつん)」

「こっこら禰豆子! お客様の顔をつんつんするのはやめるんだ!」

 

 今だに人の感情が戻らない禰豆子は、幼児のように興味のある物はとりあえず触って確かめる傾向にある。顔が面で隠れていてもなぜか浮かび出る怒り印を敏感に察知した炭治郎は、慌てて妹を止めにはいった。

 

「鱗滝、なんだこの娘は。まさかとは思うが……」

「お主の想像通りよ、この子が竈門禰豆子だ」

「こんなちんまいのが鬼殺隊士だと? ホントにあの最終選別を突破したのかよっ!?」

「ああ、見事にな。だが禰豆子の体格だと通常の日輪刀では長すぎる。だからこそ、小太刀の二刀という注文をしたのだ」

「……そうか。そこの坊主といい、まったく末恐ろしい子供達だな。だからこそ俺も鋼の打ち甲斐があるというものだが、なっと! ……ん?」

 

 基本的に日輪刀にしか興味を持たない男が急に、竈門兄弟へ顔を近づけた。正確には毛髪に、だが。

 

「お前ら兄妹、赫灼の子か。こりゃあまた珍しい!」

 

 両手で柏手をパンと叩きながら驚く鋼鐵塚。

 しかし炭治郎にとってはあまり聞き覚えの良くない単語だ。なぜなら、その言葉を最初に聞いたのは。すべての始まりであった、あの惨劇での出来事であったからだ

 

 ◇

 

 赫灼の子。

 その単語を聞いたのはこれが初めてではない。おそらく禰豆子は記憶に残っていないだろう。なぜなら、鬼になりたての上に飢餓状態も加わってそれどころではなかったはずなのだ。

 だが、炭治郎の脳裏には松脂のようにべったりと張り付いた記憶となっている。

 

 忘れたくとも、忘れられない。

 あの日から、竈門兄弟の運命は崖下へと転げ落ちていったのだ。

 

 その言葉は今でも鮮明に覚えている。

 

「赫灼の子……、ということは君もこの家の子か。あの男の血を十分に受け継いでいるのはこの娘だけではなかったか。……これは、良い」

 

 一体、何が良いというのか。

 

「他の兄弟は期待はずれでしたからね。私の血肉になってもらうとして……。一度に『稀血の子』と『赫灼の子』が手に入るとは、これは期待以上だ」

 

 一体、何が期待以上だったのか。

 

 今だにその言葉の真意を掴めてはいない。

 あの男。鬼舞辻 無惨はなぜ、自分達を放置してその場を去ったのか。なぜ、他の兄弟達を鬼へと変貌させて自分だけ人間のまま残したのか。冨岡義勇の乱入など、あの鬼からしたら大した問題ではなかったはずだ。その気になれば、無理矢理にでも自分達を連れ去れたはず。

 あの鬼は今でもどこかで、血まみれた運命に抗う自分達を見て楽しんでいるのかもしれない。将来、自分を滅ぼす可能性を残した危険な博打を楽しんでいるのかもしれない。

 炭治郎から見れば反吐の出そうな趣味ではあるが、なんとなくその楽しみも理解できるのが口惜しい。

 

 なぜそのような残虐な趣味を理解できるかと問われれば、答えは一言で事足りる。

 

 鬼舞辻 無惨にとっておそらく「竈門兄弟は虫のような存在だった」のだ。

 

 だれしも子供の頃に経験した、無邪気な残酷行為を覚えているだろうか。

 蜻蛉を捕まえ、羽根をむしってみたり。脱皮途中の蟹の皮を剥いてみたり。あるいは兜虫と鍬形虫を無理やり戦わせてみたり。決して悪意があったわけではない。罪悪感も覚えない。ただただ、虫達は人間の子供が持つ「好奇心」の被害者となったのだ。人間と虫が、鬼と人間に置き換わっただけの話である。

 圧倒的強者は、弱者を弄び楽しむ権利がある。残虐非道と言われようとも、それがこの世の理でもあるのだ。炭治郎は自覚している。今だ、自分達があの鬼の手の平で足掻く虫のような存在であることを。

 

 だが人間は成長する生き物だ。

 無抵抗な虫とは違い、牙を磨き爪を研ぎ。乾坤一擲な一刺しで鬼をも滅ぼす「剣」を手にすることも可能だ。

 

 炭治郎は知識を手に入れ、鬼を滅する力を手に入れる。

 

 これはその、記念すべき第一歩なのだ。

 

「赫灼の子って、どういう意味なんでしょうか?」

 

 手のかかる妹を叱りつける兄の顔から、自分の生い立ちを探求する顔へと変わった炭治郎。その表情の変化に気付いた鋼鐵塚もまた、真面目そうな雰囲気の中で口を開いた。

 

「そうさなぁ、一般的な伝承で言えば火仕事をする家庭において稀に生まれる吉兆の証だな」

「では、お主の所属している刀鍛冶の里にも赫灼の子は居るのか?」

 

 鋼鐵塚の言葉に鱗滝が問いを投げかける。ただの一件しか存在しない炭屋より、多くの鍛冶師が居る里の方が確立が高いのは当たり前の考えだ。

 

「いやいや、そうそう生まれるもんじゃない。だからこそ吉兆の証だと言われるのよ。だが……」

「……だが?」

「昔、古い文献を読み漁ったことがあってな。本来の目的は鍛冶の研究だったんだが、妙な文献に行き当たった」

 

 鱗滝と炭治郎、二人の視線が鋼鐵塚に集中する。もう間に言葉を挟む必要などないからだ。

 鋼鐵塚は一口、炭治郎の入れたお茶で喉を潤すと。再度、口を開いた。

 

「男子の赫灼は『日の御子』、女子の赫灼は『日の巫女』となるってぇな記述があったな。意味はしらねえ、あまりにも思わせぶりな文だったんで記憶の片隅に残っていたってだけよ」

 

 どうやら鋼鐵塚から得られる知識はこれで終わりらしい。

 結局、竈門兄弟の底知れぬ謎が深まっただけなのだ。今後、鋼鐵塚の住処である刀鍛冶の里へ行く機会があるならば。更に詳しい知識を得られるかもしれない。

 

 だがその前に、やらなければならない事が山積みだ。

 炭治郎は今の会話を心に書き留めながら、鋼鐵塚が鍛えてくれた新しい日輪刀に手を伸ばした。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 いや~、ようやくの日曜日ですね(歓喜
 先週は仕事が仕事が忙しくて書く暇がなかったので、この一日を大切にしたいものです。

 原作での「赫灼の子」とは炭治郎の事を指します。赤目赤髪が特徴だそうですが、鬼となった禰豆子にも毛先が赤く(オレンジ色?)に変色し、目も赤い(桃色?)です。初対面の人が見るなら、二人とも同じに見るのではないかと設定に入れ込んでみました。次話の日輪刀を含めて、このお話では重要なポイントとなります。
「日の御子」「日の巫女」もそんな二人を差別化する為という一面もありつつ、それぞれに個性を持たせる言葉として登場させました。
 もちろん、きちんと役割はもたせていますが、それはまだまだ先のお話の予定です。よろしければそこまでお付き合い頂ければ嬉しいです。
 
 しっかしアニメ26話まで進めたら終わろうと思っていた今作ですが、何やらそこで終わりきれない予感がしてたまりません。

 精一杯書いていくしかないですね(笑
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