本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第4-7話「新たなる力(後編)」

「さぁさあ、坊主も嬢ちゃんも。刀を手に取ってみな? 日輪刀は別名を色変わりの刀って言ってなぁ、持ち主の色に応じて刀身も色が変わるんだぜぇ? 俺はこの瞬間が一番の楽しみなのさぁ!」

「はっ、はい!」

「うぅ――――♪」

 

 持ち主となる竈門兄弟より興奮を隠せない鋼鐵塚の前で、真新しい桐製の箱を開けてゆく。

 炭治郎は緊張を隠せない様子だが、禰豆子はまるで誕生日に贈り物をもらったかのようなご機嫌ぶりだ。大正の世では包装紙などないが、もしあれば周囲に飛び散るほど滅茶苦茶に破き散らしていただろう。

 パカリと蓋を開けたその中には、緩衝材代わりの布に包まれた真新しい日輪刀が姿を見せた。

 

「ふあああぁ……」

 

 ため息のような感嘆の声が炭治郎の口から漏れる。

 これまで使っていた間に合わせの代替刀とはまるで違う、匠の技がそこにはあった。鍔は実用性重視なのか武骨なまでの装飾だ。それに反して、鞘は漆を何重にも塗り重ねた漆黒。刀身を抜き放てば、これが本当にあのゴツゴツとした玉鋼から作られたとは信じられないほどの輝きを見せている。

 

「さてさて。赫灼の子ならば、さぞかし綺麗な緋色に染まるだろうなあ……。楽しみだなあ……」

 

 鋼鐵塚の視線が、炭治郎の持つ刀身に釘付けになる。これからの相棒となる炭治郎よりも真剣な目つきだ。

 

 その刀鍛冶の重すぎる期待は半分が実現し、もう半分は正反対の結果となった。

 

 炭治郎の握る柄からは燃えるような緋色が刀身へ伸びてゆく。逆に切っ先からは南の海を彷彿とさせる青が伸びていった。

 結果。刃部分の波紋は燃えるような緋色に染まり、刀背の部分である峰は真っ青な大海原の色合いに落ち着いたのであった。

 

「これは……、なんとも炭治郎らしい気熱の色合いだな」

 

 ポツリと鱗滝が新しい相棒をそう評する。

 

「こういう色合いって、めずらしいんですか?」

「珍しいというより、二つの型を併用するという時点でほとんどいない。基本、鬼滅の隊士は一つの呼吸を覚えるだけで精一杯だ。よほど才能のある隊士でも一つの型を極めぬく。あれもこれもと習得したとして、どちらも中途半端になるゆえに、な」

「中途半端……」

 

 鱗滝の言葉を受けて炭治郎の頭から血の気がサーっと降りてゆく。

 実は自分でも感じていたのだ。「気熱の呼吸」は水と火、その両方を絶妙な割合で成立させた呼吸である。そのどちらかが強くとも崩壊してしまう諸刃の刃でもある。

 炭治郎は自覚していた。自分に「水の呼吸」に対する才がないことを。だからこそ、自分の心に燃え盛る復讐の炎を追加して生み出したのが気熱なのだ。

 

 つまりは。

 

 自身が苦手としている「水」を高めなければ「気熱」の力は成長しない。「火」だけを高めてしまったならば、それはもう気熱ではなくなってしまう。炭治郎は自身の未来に暗雲が迫っている事実を自覚してしまった。

 

 それに今、気にかけなければならない事は目の前にもある。

 

「ちっ、ちっ、ちっ………………」

「……ち?」

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおぉ――――――っ!!!」

「ひゃあああああああぁ!!?」

 

 それまで怒りの炎熱を身の内にため込んでいた鋼鐵塚と言う名の火山が、満身の力を込めて噴火したのだ。

 

「てめぇ、二つの呼吸を扱う剣士だとお!? そんなどっちつかずな奴の刀を俺は打ったのかよおおおおお!!?」

「おっ、落ち着いてください!?」

 

 鋼鐵塚の顔が真っ赤に染まる。いやいや、顔はひょっとこの面に隠れているのだ。しかしてその面が更に赤くなるほどに息を荒くしている。

 もう我慢たまらんとばかりに、怒りの感情を抑えきれない鋼鐵塚は炭治郎に向けて飛び掛かった。

 

「おお、そうだな。その時点で変だなとは思っていたわ! 赫灼の子がなんで水の育手である鱗滝の子になったのか!? 火と水なんて正反対にもほどがあるだろ!!」

「ごっ、ごめんなさいっ!?」

「謝罪なんていらねえんだよっ! 気熱の呼吸? なんだそりゃ、聞いたことねえぞ!? 少しでも謝罪の意思があるんなら炎の呼吸でも会得してから顔をみせやがれえええええええええええっ!!?」

 

 胸倉をつかまれた炭治郎の頭部が強烈に揺さぶられる。

 はっきり言って滅茶苦茶だ。炭治郎とて隠していたわけではない。むしろ隊士の型を刀鍛冶に報告する義務があるわけでもない。鋼鐵塚が勝手に期待し、勝手に怒り狂っているのだ。それでもここまで怒られると、なんとなく自分が悪いようにも思えてくる。

 

 そんな刀鍛冶の暴走を諫めたのは頼りになる竈門兄弟の師であった。

 

「まぁまあ、落ち着け鋼鐵塚。お前が持ってきた刀はそれだけではないだろう? 炭治郎の他にも禰豆子が、ね……ず、こ。……が?」

「うっ?」

「ねっ、ねずこ。……その小太刀の色って……」

「う――――っ♪」

 

 炭治郎と鋼鐵塚の取っ組み合いをよそに、禰豆子はさっさと二本の小太刀を持ちながら遊んでいた。本人は新しい玩具をもらって上機嫌この上ない。だが鱗滝も、そして炭治郎も次の言葉が出てこない。

 なぜなら、禰豆子もまた。世にも奇妙な色彩を小太刀に表していたのだから。

 

「おっ俺の、刀が………………。(ぱたり)」

 

 興奮のあまり、鋼鐵塚の身体が怒りを通り越して痙攣し始める。

 そして、きっと。身体が耐え切れなくなったのだろう。大噴火をおこした鋼鐵塚火山はその猛りを沈め、ぱったりとその場に倒れ込んでしまった。

 

 ◇

 

 それからがもう、一言では言い表せないほど大変だった。

 

 ぱたりとその場に倒れ込んでしまった鋼鐵塚を介抱するべく鱗滝は布団を敷き、炭治郎は落ち込む間もなく近くの川へ水を取りに走る。もちろん、熱が持ち過ぎた身体を冷やすためだ。

 緊急の野戦病院と化した鱗滝邸は、その慌ただしさを落ち着けるまでに周囲が夕闇へと落ちていた。

 

 炭治郎は時折、布に冷たい水を含ませて鋼鐵塚の額に当ててやる。

 鋼鐵塚はひょっとこの口から今だ荒く、熱の籠った息を噴き出していた。ほとんどは自身の思い込みによる結果とはいえ、自分の日輪刀を作ってくれた人が寝込んでしまっては申し訳ない気持ちにもなる。

 

「鱗滝さん、俺の作り出した気熱は……」

「お前が気にすることではない」

「……でも」

「トドメは禰豆子の一件だったのだしな」

「むう……」

 

 鱗滝の必死の慰めにも、どこか炭治郎は納得できなかった。

 確かに自分の刀を見た時には怒っていたとはいえ、寝込むほどではなかった。ということは、それほどまでに禰豆子の持った小太刀が衝撃だったということになる。

 新しい小太刀で遊び疲れたのか、禰豆子はもう自分専用の布団へと潜り込んでいる。となればこの場で会話しているのは炭治郎と鱗滝の二人のみだ。

 

「鱗滝さん。禰豆子の小太刀は……」

「うむ、儂とて鬼殺隊士の日輪刀は数々を見てきたが……。あのような色合いは初めて見た」

「やはり、禰豆子が鬼であるというのが関係しているんでしょうか?」

「分からぬ。分からぬが、あの色合いで連想するモノと言えば一つしかあるまい」

「……はい。しかも、禰豆子は最終選別で――」

「そうか……。まったくの偶然とは思えぬな」

「……はい」

 

 外から訪れる夕闇を、一本の蝋燭が火の光をもって抵抗していた。

 その燭台を挟むかのように、二人の会話は続いてゆく。改めて禰豆子が鬼であると、あまりに特異な鬼であると証明されたのだ。

 

 柄から鍔までは、葉や茎を連想させる若葉色。

 

 刀身の根本からあざやかな紫色が走りはじめ、切っ先に至るまでに桃色から白へと移り変わってゆく。

 

 それはどう見ても、花瓶に活かされた一本の花を連想させた。

 

 鬼を退ける毒の花。しかして人間にとっては鬼を近づかせぬ厄徐の花。

 

 炭治郎の脳裏に、最終選別で戦った鬼を連想させる。

 

 禰豆子の小太刀は、藤の花を表現しているとしか思えない色合いだったのだ。




最後までお読み頂きありがとうございました。

ある程度は予想がついたかもしれませんが、二人の新しい日輪刀はこんな感じです。そのまんまと言えばそのまんまですね(汗

さて。
武器も手に入れたことですし、明日のお話からはまた急展開です。序盤から居るはずなのに居なかった人が初登場します。
よろしければお付き合いください。

宜しくお願いします。
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