本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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只今、五章のプロット作成中です。
もしかすると、五章に入る前にお時間を頂くかもしれません……(汗


第4-10話「下弦の伍」

「ねえ、かあさんは僕の母さんなんだから。お願い、聞いてくれるよね?」

 

 鬼子の母となった葵枝は、少年の言葉にビクリと反応した。

 その白すぎる顔色に色が付き始める。だが決して喜びや興奮の赤ではない、恐怖や怯えといった青が顔面に広がり始めたのだ。そんな葵枝の顔色を、炭治郎は怒りと共に少しだけの安堵の感情を持ちながら見つめていた。やはり母は望んで鬼の母親を演じているわけではないのだ。むりやり、強制されているだけなのだ。

 

「……かあちゃんから、離れろ」

 

 ならば母が鬼だとしても関係ない。禰豆子と同じように、必ず自分が人間に戻してみせる。

 

「なに、お前? 他人が僕らの家庭事情に首つっこまないでよね」

 

 炭治郎の目指すべき目標は、なんら変わりない。結論さえ出てしまえば、あとはその目標に向かって突き進むのみなのだ。

 

「俺は竈門炭治郎。……竈門紗枝の、息子だっ!」

 

 言うべき台詞は、この一言だけで十分であった。

 これでもう迷いはない。まずは新しく得た日輪刀を構え、母に望まぬ意志を強要する鬼を斬るだけだ。

 見た目で判断するなら、目の前の鬼は炭治郎より背の小さい少年だ。油断は禁物だが決して敵わないとは思わない。それに今の自分は決して一人ではなく、お互いを守ると信じあった禰豆子がいる。あまり良い気分ではないが、鬼殺隊の最高峰である柱の一人、冨岡義勇もいる。これだけで三対一だ、もし母を盾に使うのならば炭治郎が拘束しても良い。そうしたとしても二対一、こちらの数の有利はどう足掻いても揺るがない。

 

 炭治郎の口から僅かながら笑みが零れた。

 

「……ナマイキ。何? もしかして、自分達の勝利を確信しているの? 僕も舐められたもんだねぇ……」

 

 自分が虚仮にされていると気付いたのか、鬼の少年「累」の気配が一変する。

  

「……累!? だめっ、手荒な真似はしないでっ!!」

「うるさいな。母さんは自分じゃ何にもできないんだから、子供の相手くらいはしてよね」

「そんなっ! 私が炭治郎達に手をあげるなんて――――っ!??」

 

 必死に新しい息子を静めようとする葵枝だったが、累は止まらない。真っ白な左手の中指をクイッと曲げると同時に、葵枝の身体も硬直した。それと同時に右手の五本指も何やらわさわさと動かしている。炭治郎は周囲に何か、見えない線が張り巡らされるのを臭いで察知した。

 

「なんだ、あれ? ……もしかして、糸??」

 

 自らの予想を口にした炭治郎の前に、義勇が陣取る。まるで竈門兄弟を守っているかのようだ。

 

「その通り、なのだろうな。……鬼殺隊の勅令にも案件があった。貴様、もしや那田蜘蛛山の蜘蛛鬼一家か?」

「へえ、鬼殺隊も中々の情報網を持っているよね。僕達の家がバレちゃってたか」

「こんな所に居て良いのか? 那田蜘蛛山には今、鬼殺隊の一団が迫っている。隊長は花柱だぞ?」

 

 どうやら冨岡義勇には、累という鬼少年が住まう巣に心当たりがあるようであった。しかもその口調は、決してここに引き寄せておこうという口ぶりではない。むしろ、自分の住処を守るために退却させるかのようだ。

 

 炭治郎は小声で問い詰める。

 

「……おい、なぜ此処で斬ろうとしないんだ。花柱って言ったらカナエさんだろ? あっちの負担を軽くするためにも、俺達で倒した方がいいじゃないか」

 

 一見、炭治郎の言葉は的を得ているかのように思われた。だが冨岡義勇の判断はその真逆であったのだ。

 

「……そうできれば良いのだがな。俺一人ならともかく、ここには足手まといが多すぎる」

「俺達が、足手まといだと!? あんなちっこい鬼一匹に何を怖がってるんだ!!?」

「……お前達は知らないのも当然だ。先日、数十人からなる鬼殺隊の軍団が那田蜘蛛山へと赴き、全滅した。本部はその山に『十二鬼月』が居ると判断したばかりだったのだ。そして、おそらく」

 

 途中で義勇の説明が止まる。その先の結論は、目の前の鬼を見れば分かると言わんばかりに。累という鬼の少年に視線を戻せば、前髪に隠れた左目が怪しく光っている光景が見て取れた。

 

「へぇ、僕は鬼殺隊に面割れしていない筈なのに。さすがは水柱だね、この短い時間の中で見破ったんだ?」

 

 月明かりが照明を当てたいかのように累へと降り注ぐ。まるでこの場の主役が彼であるかのような情景である。

 ゆっくりと前髪をかきあげ、現れた左目には太い筆で書いたような漢字が二文字。

 

 下伍。

 

 炭治郎は知る由もないが、その文字こそ累の強さを示す象徴。

 

「十二鬼月」の証であった。

 

 ◇

 

 それまでの臭いはいったい、何だったのか。

 

 炭治郎は先ほどまで自分を形作っていた概念が、ガラガラと根本から崩壊する音を確かに聞いた。何が三対一? 何が悪くとも二体一? 目の前に居る累という名の鬼は、炭治郎がこれまで感じたこともないほどの煉獄の赤を体現している。その余りの赤さに炭治郎の身体はもはや、怯えを表す痙攣を始めていた。

 これまでも、鬼との死闘を経験してきたつもりではあった。

 最終選別にいた数手の大鬼。その大鬼を喰らった藤の鬼少女、藤華。そして炭治郎の傍にいつも居てくれた禰豆子。どの存在とて手に負えないながらも、必死に抵抗すればなんとかなる。鬼とはそれくらいの存在なのだと、認識してしまっていた。

 しかしそれが本当に「つもり」程度なのだと、こんなにも早く思い知ることになろうとは。

 

 目の前の蜘蛛鬼「累」は今までの鬼とは正に格が違った。根本的に鬼と人の間にはこれほどの差が存在するものなのかと、思い知らされた。

 人間は腕が千切れても再生しない。一方、鬼にとってはかすり傷でしかない。それだけでもあまりに反則的だ。だからこそ鬼殺隊は徒党を組み、仲間の屍を踏み抜いて先を目指すのだが。それさえも入隊して間もない炭治郎には理解できない。

 

 炭治郎の決意には、まだまだ甘えがあったのだ。

 

 いつの日か、あの鬼舞辻 無惨から鬼を人間へと戻す方法を暴き出し。禰豆子や母と一緒に人間の世界へと戻るのだという決意。

 しかしてそれは「自分も五体満足で達成する」という大前提がある。人間、誰とて死にたくはない。大切な家族を守ろうとしても、自ら死を確定させる状況に身を投げ出す行為には尋常ならざる覚悟が必要だ。言うなれば「死の覚悟」を当然とでも言うように受け入れている鬼殺隊士達の方が異常であるとも言える。

 

 目の前に明確に存在する「死への扉」

 

 それは炭治郎に新たな覚悟を突きつけるモノであった。




最後までお読み頂きありがとう御座いました。

原作19巻の時点でも炭治郎君は五体満足です。もちろん、主人公の身体を傷物にするなどかなり勇気のいることですが、ハッピーエンドにするためには傷を付けられないという、シガラミもあるのです。
もし炭治郎が片腕、もしくは片足を失ってでも鬼舞辻 無惨を倒したとして。
人間に戻った禰豆子は本当に喜べないでしょうからね。

しかしてこのお話は二次創作です。
始めてのホラーで、キャラを苛める快感に目覚めた変態作者の作品でもあります。
さてさて、どう致しましょうかね?(毒顔

また明日の更新でお会いしましょう!
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