本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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予告どおり、第六幕を投稿させて頂きます。

※あらすじにも書きましたが今話からホラーな展開となってゆきます。14歳未満の良い子は読んじゃ駄目だぞっ♪


第1-6話[鬼の本能(前編)]

 妹は、禰豆子は一体どうなってしまうのだろう。炭治郎は絶望と共に、そんな不安を(ぬぐ)えずにいた。それでも目の前の光景を見続けるしか、今の自分にできることはない。

 そんな炭治郎の心配をよそに男は今だ、高笑いを周囲に(とどろ)かせている。

 

「……素晴らしいっ。かつて、ここまで私の血を受け入れた鬼は存在しないぞ! さすがはあの男の娘、というわけかっ!! さてさて、他の兄弟はどうかな?」

 

 男の視線が血の臭いが充満している家の中へと移る。

 もしかして、母ちゃんや他の兄弟達も生きているのだろうか? 炭治郎の中に淡い期待感が浮き上がる。勿論、一体どのような理屈でこの現実感のない光景が起こりえているのかは理解できていない。だが、どんな形であれ最悪の事態を回避する事ができたのは事実なのかもしれないのだ。

 炭治郎の表情に一瞬、笑みが戻ろうとした。

 

 が。

 

「……騙されるな。鬼だ、みんな、……鬼になっちまったんだ」

 

 幸せな幻想なんてものは長くは続かない。普通の人間であれば到底聞き取れないような小声で、玄関口に倒れた三郎爺さんの口が開いた。

 

「逃げろ、炭治郎。……お前だけでも、……竈門家の血を絶やしちゃあ、ならねえぞ。――――ガっ!!」

 

 必死に口を動かしてはいるが、誰が見ても致命傷である事実は変わりない。この場で一番の被害者なのかもしれない三郎爺さんの苦しそうな顔が、更に激痛を与えられて(ゆが)んだ。

 竈門家の玄関口から頭を出したような格好で倒れこんでいる三郎爺さん。その姿は上半身の胸までが見えるくらいで、残りの下半身は家の中に隠れている。その家の中から、ガリガリ、ベキボリと何か固い物を咀嚼(そしゃく)するかのような不気味な音が響いている。

 

 まるで、仕留めた獲物を骨ごと(かじ)り尽くす熊のような咀嚼音(そしゃくおん)。三郎爺さんは最後の気力を振り絞って、家から()い出ようとしている。

 

 腕のみでの歩みをもって一歩、二歩、……そして三歩。

 

 それが自分の命の終焉が訪れるまで足掻(あが)き続けた、英傑の最後だった。

 そして、その三歩のお陰で彼の下半身が軒先の下へと(さら)け出される。その光景を見た炭治郎は、再び(うめ)き声を上げざるをえなかった。

 

 なぜなら。

 三郎爺さんの下半身には、炭治郎が愛してやまなかった、四人の兄弟が喰らいついていたのだから。

 

 ◇

 

「…………ああっ。……竹雄、茂、花子、六太ぁ…………」

 

 竈門家の軒先から雪面となった庭、そして炭治郎の耳へと、ガリッ、ボキッ、メリッという身も凍るような怪音が行き渡る。

 人ほどの大きさの骨と肉を噛み砕く音など日常生活において聞く事などありえない。現実的に、人間の歯とアゴでは不可能なのだ。辛うじて、獲物に喰らいついている熊に遭遇した猟師が耳にするくらいだろうか。

 ましてや自分の愛する家族が隣人の人肉を喰らい、骨を砕く音など聞けるはずもない。

 すでに三郎爺さんの足は(ひざ)から下が千切れ、無くなっていた。他でもない、率先して人肉にむさぼり付く竹雄と茂が膝上、太ももの先端に噛り付いていたからだ。そして千切れた膝下の足を一本ずつ、宝物のように抱えた花子と六太が肩をくっつけ、二人仲良く(むさぼ)っている。

 炭治郎がこれまで必死に育んできた家族は、目の前の男と同様に瞳が充血し犬歯が伸び、肌は死人のように色白くなっていた。

 

 

 

 地獄絵図だ。

 炭治郎は頭の中で、見た事もない地の底の情景を思い浮かべていた。

 愛する家族の変わり果てた姿を見て、少年の身体が細かく痙攣(けいれん)している。その震えは両足から始まり、数歩前に歩いたところで限界がきた。自分の体重を受け止めきれなくなった膝がガクリと地面へ落ちる。

 

「ふむ、まだ朝食が済んでいなかったようだ。だが四人分にしてもこの量はいささか多いか……。よろしい、君もご相伴(しょうばん)に預かることを許可しよう」

 

 炭治郎の頭の上から、そんな言葉が降ってきた。

 この男の言葉を炭治郎はキチンと受け止められずにいた。一体何を言っているのか、そしてこの状況は一体なんなのか。なぜ自分の大切な家族が三郎爺さんの身体を(むさぼ)っているのか。

 もしかして、自分の兄弟達は本当に鬼になってしまったのか? 炭治郎の身体に一層酷い痙攣(けいれん)が襲い掛かり、指一本さえも動かす事ができない。更に言えば、頭上の男が放った言葉は、炭治郎にむけての発言ではなかった。

 ぽたり、ぽたりと炭治郎の顔に水滴が落ちる。生暖かく、それでいて不純物の無い水滴は、禰豆子の口から垂れている。

 

 よだれ、だった。

 

「やめろっ! 禰豆子っ、それだけは……ダメだっ!!」

 

 変わり果てた我が家の長女。

 その姿を見上げて、炭治郎は先ほどこの男が口にした「ご相伴(しょうばん)」の意味を理解してしまった。下の兄弟達の起こす惨劇を目にしただけで震えが止まらないのだ。この上、禰豆子までこんなになってしまったら、おそらく自分さえも狂ってしまう。

 ダメだ。なんとしても止めねばならない。

 頭では理解しているというのに、身体は依然として動きだす兆しを見せない。炭治郎は自分の情けなさに絶望していた。俺は長男なのに……、一家の大黒柱として亡き父に、兄弟達を立派に育て上げると約束したのに。

 

「ウウ、ウウウゥガガ……」

 

 頭の上で、今まで妹の口から聞いた事のないような声が漏れている。

 炭治郎の目の前で、他の兄弟達と同じような血走った眼光へと変貌(へんぼう)してしまった禰豆子が一歩、前へと足を踏み出す。

 相変わらず口からは大量の(よだれ)が流れ落ち、明らかに「食料」を求めているのは炭治郎の目から見ても明らかだ。

 

 何が、人智を超えた大いなる力だ。鬼になることが幸せへの道だとでも言うつもりなのか。

 そんな炭治郎の想いは、この場の誰にも理解されるはずもなく。

 

「さあ、何の遠慮もいらない。この世界は強き者が弱き者を喰らうからこそ、輪廻が巡るのだ。それは人とて、鬼とて変わりない。生きたければ殺せ、喰らえ。己の本性のまま略奪を繰り返せ!」

 

 仇たる男は、恍惚(こうこつ)恍惚の表情で鬼と化した妹の禰豆子に語りかけていた。




最後までお読み頂きありがとうございました。
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