本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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前回に引き続き、重い内容が続きます。ご注意を。


第4-14話「望まぬ再会」

「ごめんよ、かあちゃんっ! ……ごめんよ、ごめんよ……」

 

 鬼と化した母の頭部に、なんども何度も実の息子が斧を振り下ろす。

 

 その場の誰もが、少年の奇行に対して言葉もなかった。

 鬼と化しているとはいえ、自分の愛する、助け出したいと切望する母を相手にして暴行を振るい続ける少年の顔はいつしか、アザから流れる血により真っ赤に染まっていた。それはまごうことなき血の涙。赤い涙を流すことができない瞳の代わりに、額のアザが血の涙を垂れ流しているようであった。

 

 確かに累は自身で作り出した糸に血をからめ、相手の身体の内部から支配する血気術を使用していた。その糸は血管の隅々にまで行き渡り、筋肉を補強し、限界まで酷使させ続ける。この力によって累は那田蜘蛛山に鬼を集め、形ばかりの家族を作り上げたのだ。

 炭治郎の予測どおり、いくら十二鬼月の血気術とはいえ累の糸だけでは複雑な動きを無意識で行なう人体の動きの全てを掌握できない。それほどまでに人体の運動というものは、意識的な動きと無意識に動く動作が連鎖しているのだ。ならば人体の司令塔となる脳を操るのは当然の理である。

 累とてこの弱点を把握していなかったわけではない。

 だからこそ、盾として竈門兄妹の母を選んだのだ。情に弱い人間という生き物は同族、更に言えば血縁に対しては暴力を振るえない。これまでの経験からして、累はその事実を十分に理解していた。しかして目の前の息子は、母たる存在に謝罪しながらも斧を振るう手を決して止めようとはしない。

 

 そんな、誰もが声も出ない状況の中。

 

 初めに声を出したのは、この場で最年長たる竈門兄弟の師である鱗滝左近次だった。

 

「義勇、下弦の伍を討ってくれっ! はやく、一刻も早くだっ!! このままでは、……このままでは炭治郎の心が壊れるっ!!!」

 

 義勇にとっても師である鱗滝の口から飛び出た声は、悲哀に満ちている。二年ばかりの間とはいえ、竈門兄弟の親代わりであった鱗滝は気付いていた。

 今、炭治郎は自分の心を削りながらも最善の行動を続けていることに。そして、この行為を続ければ続けるほど、炭治郎の心が血のような紅に染まってゆく事実に。

 炭治郎とて、自ら望んで母の頭部を破壊し続けているわけでは決してない。自らの経験から鬼の動きを封じる方法がコレしかないと判断しての決断なのだ。だがその代償は想像を絶する。鱗滝は炭治郎の心がこれ以上耐えられないと確信していた。

 

「…………(コクリッ)」

 

 鱗滝の指示に無言で頷いた義勇の行動は迅速であった。

 義勇は即座に「拾壱ノ型 凪」を解除し、累へと駆け出す。拾壱ノ型はあくまで守りの技だ。足を止め、その場の全てに感覚を同調させ、自分に害をなす存在が入りこめば音速の抜刀術で全てを斬り伏せる刀の結界。自ら攻撃するのではあれば、壱から連なる拾までの型で十分だと義勇が判断し、その穴を埋めるために作り出した独自の型だった。

 

 水の呼吸、漆ノ型 雫波紋突き(しずくはもんづき)

 

 鱗滝から教わった型の中でも最速である漆ノ型をもって、義勇の日輪刀が累の首へと肉薄する。

 柱という役職に収まったばかりとはいえ、義勇の実力は柱と呼ぶに相応しいものだった。そもそもが鬼殺隊の柱とは十二鬼月、しかも長年その座が変わることなく座り続ける「上弦」に対して対抗できる実力を備えた者がなるものだ。その点から言えば、義勇にとって下弦の伍である累の首を狩ることは大した難関ではない。

 今までは累が用意した「竈門兄妹の母」という名の盾に阻まれていただけなのだ。

 

 義勇による突きが累の首へと刺さり、返す刀で跳ね飛ばす。

 

 この諍いはそれにて終了。

 残るは母たる紗枝の処遇さえ決めてしまえば良い。

 

 ほぼ確定された未来絵図を、冨岡義勇は確信をもって描いていた。

 

 ◇

 

 ギインッ、という金属音が義勇の日輪刀から鳴り響く。

 

 その音は間違っても首を切り裂く音ではなかった。どれだけ肉が固かろうが、肉は肉。金属のような音をもって跳ね返すなどありえない。

 現実を見ればやはりその通り。義勇の放った雫波紋突きを防いだのは、下弦の伍ではなく、上弦の弐であった。 

 

「あれぇ~? 苦戦しているじゃないか。累くん、無惨様の前で見せた自信はどこへいったのかな?」

 

 まるで累の窮地を見ていたかのように、第四の存在が声を放つ。その臭いは、母の頭を潰し続ける炭治郎の鼻にだって嫌がおうにも届いていた。

 間違いない。始めに鱗滝が言った「逃げろ」という言葉の意味。その対象は紗枝でもなく、下弦の伍である累でもなく。

 

 この男のことを刺し示していた。

 

 そもそもが、鬼殺隊の柱が居ると知った上で差し向けてきた刺客が下弦の伍という時点でおかしかった。鬼殺隊の柱ほどの実力者ならば上弦の鬼でなければ実力的に対抗できない。この事実は、鬼舞辻 無惨とて十分に承知している。いくら紗枝という「盾」を持たせたとしても、戦力不足は当初から想定されていたのだ。

 

 まるで遊びに来たかのような笑顔で、新たな鬼があざ笑う。

 

「ここに居る鬼殺隊の皆様には初めまして、だね。俺の名前は上弦の弐 童磨。万世極楽教の教祖さま、なんても呼ばれてるよ?」

「……上弦の上番!?」

 

 鱗滝が息を呑むが、竈門兄妹はその意味が理解できない。見た目の上では、今までの食欲の塊のような鬼とはまるで違う落ち着きを持っていたからだ。その意外にも口調が柔らかい点も、この鬼への危機感を増幅させない原因だろう。

 髪の毛先は白く、毛根にいくほど黄色く、赤く。まるで脳天から血をかぶったかのような毛色だ。

 しかしそれより印象的なのは瞳。瞳孔を中心として七色に広がる煌めきはこの国で生まれた人間では有り得ない色合いだ。手持ち無沙汰の両手には二本の金色に輝く鉄扇を弄んでいる。まるで殺気(におい)を感じられない妙な鬼であった。

 

「邪魔するなっ、此処にある肉は、僕の肉だっ!」

 

 九死に一生を得た累が、息を荒くしながらも童磨を牽制する。その声は苛立ちの中にも僅かばかりの恐怖が入り混じっていた。

 

「よく言うよぉ、無惨様から頂いた『盾』も奪われちゃってさぁ。俺が来なかったらそこの柱に首を飛ばされちゃってたくせにぃ」

「うるさいっ!」

「まあ、どうでもいいよ。累くんはあの方のお気に入りだもんね? よく言ってるよ? 『鬼なのに愛情を求める、人間みたいな鬼』だって」

「――――っ!」

 

 その言葉は累にとって最大級の侮辱であったらしい。下伍の文字が遠目にもハッキリと見えるくらい怒髪天をついている。どうやら累をからかって遊んでいるようだ。

 

「まあまぁ、俺が来た目的はね? 累君に差し入れを持ってきたんだよ。君が更なる高みへと登れるようにね? ほらっ、僕って教祖だから。良い事するなあ」

 

 常に笑顔を絶やさない童磨の顔は、身体は成人のようでもまるで無邪気な子供のようだった。脳天と同じように、これまた血をかぶったかのような着物から人の頭ほどの物体を取り出している。

 

 いや、頭のような、ではない。

 

 それは真実、人の頭であった。

 

 黒く艶光る黒髪を長々と伸ばし、元は肌白かったであろう顔色は死人らしく本当の純白へと染まってしまっている。

 

「本当はとった僕に食べる権利があるんだけどね? まあ、累君の家に来た獲物だし、俺がみんな食べちゃうのも悪い気がしてさ。一番美味しい頭だけ残してあげたんだぁ。ねえ、俺って教主様らしくて優しいでしょ?」

 

 その場にいる人間に、童磨の声は聞こえていない。聴覚よりも、目の前の現実を見定める視覚の方に意識が集中していたからだ。

 

「かっ、……カナエ、さん?」

 

 あまりの出来事に母へと振り下ろす斧の手を止め、炭治郎が呆然と呟く。

 

 そう、その首の主は。

 

 炭治郎に鬼殺隊へと入るように促し、最終選別の際には禰豆子を継子として迎え入れた花柱。

 

 胡蝶カナエ、その人だった。




最後までお読み頂きありがとうございました。

これまで出没しなかった十二鬼月の鬼達がなぜ、突然二人も現れたのか。それは今まで無惨による呪いの影響を受けていなかった禰豆子が「ある行動により」呪いを再び受けてしまったことにあります。
原作でも呪いを外せたのは禰豆子と珠世のみ。二人の共通点から考察し、独自に設定しました。……予想できますでしょうかね?^^;

さて。
若干もったいなくもありますが、カナエさん退場の回となりました。まぁ、原作でも上弦の弐に殺されていますし、このまま生き続けると万能キャラとなりそうでしたのでこの辺りにて。
何よりも、保護者枠が鱗滝と被るんだよなあ。。。(ヒドイ

酷く重い章となりましたが、もう少々お付き合いください。

ではまた明日っ!
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