本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第4-15話「誓いを果たす時」

 上弦の弐 童磨の持つ首へ、全員の視線が集中していた。

 

 この人物の話題はそう、つい先ほど水柱である冨岡義勇が口にしていたのだ。

 カナエさんは、鬼殺隊の花柱は下弦の伍の本拠地である那田蜘蛛山へ向かったと、他でもない義勇がそう言っていた。累がこの場にいることで、カナエさんは強い鬼と戦わず無事に任務を終えるだろうと、誰しも信じて疑わなかった。

 

 しかして現実は予想の遥か上をいく。

 

 自らが生み出した鬼でさえも群れるのを嫌う無惨がなぜ、腹心たる上弦に鬼助けを命じたのか。胡蝶カナエの向かった先には下弦ではなく、上弦がいたのだ。

 

「ほらほらぁ、綺麗な死に顔でしょ? しかも柱っていうオマケ付きっ! 累君もこれを食べれば新米の柱なんて敵じゃないさぁ!!」

 

 まるで祝杯でも掲げるかのように、静かに瞳を閉じたカナエの首が高々と持ち上げられる。だが鬼にとっては祝杯でも、鬼殺隊の人間からすれば悲しみの象徴にしかなり得ない。特にカナエと沢山の時間を共にした義勇の顔からは悲しみや怒りといった感情の臭いが連続で立ち上る。

 普段の義勇からしたら、考えられもしないほどの百面相であった。

 

「……その人を放せ」

 

 もはや下弦の伍など眼中にないとばかりに、冨岡義勇の歩が累の横を通り過ぎる。

 新米の柱であるなんて侮辱は義勇の頭の中に残っていない。ただあるのは鬼殺隊の暗黙からなる不文律。

 

 鬼殺隊士、特に「柱」を喰らった鬼は決して見逃すな。たとえ共倒れになろうとも、確実に滅せ。

 

 それは強固な絆で結ばれた鬼殺隊士の中にある鉄の掟である。

 大切な仲間が食われたという怨恨だけではない。鬼は、強い人間を喰らうほど、その力を増す。その脅威を決して野放しにしてはならないという意味でもあるのだ。鬼殺隊の柱は、鬼にとって稀血を上回る最高のご馳走であった。

 

「えっ、もしかしてコレが欲しいのぉ? 駄目だよぉ、コレは。俺達()だけのご馳走なんだからっ♪」

 

 上弦の弐が楽しそうに語りかけてくる。一方、カナエの首をコレ扱いされた義勇は一直線に駆け出した。

 使うは水の型で最後にして最強の拾の型 拾ノ型 生生流転(せいせいるてん)。上弦、しかもその上番ともなれば一撃で首を落とせない。ならば絶えず連撃を繰り出し、最強の一撃で首を斬り落とす。力では岩柱に及ばす、速さでは同じく柱になり立ての蟲柱には及ばない。水柱:冨岡義勇の長所は「技」であった。

 数ある呼吸の中でも特に数の技が多い水の呼吸。会得しやすいという観点からも初心者に最適の呼吸とも呼ばれていた。だからであろうか、水の呼吸には「奥義」が存在しない。義勇が独自に拾壱の型「凪」を編み出したのもそんな理由からだ。

 

 壱、弐、参、肆。

 

 まるで滝壺をうねりながら登る龍がごとく、水の剣士の証である青みがかった日輪刀で周りながら、義勇は待ち受ける必殺の一撃へと力を溜める。

 都合九度、義勇は自身の遠心力を乗せた後に最後の一撃を放つ。それが叶うなら、この型は水のみならず鬼殺隊最強。たとえ鬼の頭たる鬼舞辻 無惨の首さえ跳ねられると義勇は確信していた。

 

 だがその難しさもまた、水柱は知っている。

 

「…………っ!?」

「あれれぇ、どうしたのぉ? せっかく威力が上がってたのに、やめちゃうの?」

 

 六度目。

 それが今の義勇に許された上弦の鬼に対する生生流転(せいせいるてん)の限界であった。この技の使用中は水の型の特徴である変幻自在の歩法が使えなくなる。並の鬼であれば防御で手一杯になってくれただろう。しかし今、目の前に立つは上弦の鬼。他でもない、鬼舞辻 無惨の腹心である。そんな鬼が悠長に待ってなどくれないのだ。

 

「威力は申し分ないけど……、せめて四度目くらいに終わりを出せないと駄目だよぉ。その技は俺に通じない。それにほら、なんだか息苦しくなぃ?」

 

 相変わらず童磨の声には緊張感というものがまるでない。

 それもまた当然であった。そもそもが上弦の上番ともなれば、古参の柱が命を賭して戦う存在だ。残念ながら新米柱である義勇が相手をするには厳しすぎる相手である。

 

 義勇とて気付いていた。

 

 自分では上弦の鬼に手が届かないことを。

 

 それでも、やらねばならぬ。柱という存在が命を賭けずして新米の竈門兄妹に何が言えるか。

 

 義勇は誓ったのだ。他ならぬ、昔の親友の墓前で、誓ったのだ。

 

「もう二度と、鱗滝さんの子を死なせない」

 

 と。

 

 ◇

 

「竈門兄妹っ! 水柱として再度、冨岡義勇が命ずるっ!! 二人を連れて、逃げろっ!!!」

 

 狭霧山の隅々まで轟きそうなほどの大声で、水柱は新人の(みずのと)へ指示を飛ばした。

 冨岡義勇という人物と知り合ってから、この人がこれほどの大声を出したことなど炭治郎の記憶にはない。それほどまでの決死の覚悟から出た叫びであった。

 炭治郎の眼前にある母の頭部は再生を繰り返しているが、その速度は目に見えて遅くなっている。行動するならば確かに今だ。再生を完了し、再び操られるようになるまでに少しでも遠くへ連れ出すのが最善の一手である。

 

「炭治郎、済まぬっ」

「今は謝っている場合じゃありません!」

「う――――っ!」

「禰豆子……、ごめんなぁ。……ありがとうなぁ……」

 

 そんな謝罪を聞く間もなく、炭治郎は鱗滝の身体を背に乗せる。禰豆子もまた、念仏のように謝罪を繰り返す母を背負い込んだ。

 背中の向こうからは城が崩れ落ちたかのような轟音が鳴り響いている。他でもない、下弦の伍、上弦の弐を自らの内に収めた水柱が再び拾壱の型を展開しているのだ。

 

 拾の型が威力重視であるならば、拾壱の型は数の手を重視した型である。

 

 音速の抜刀術が二人の十二鬼月を掴んで離さなぬよう、その場に縛り続けている。決して新米達の元には行かせぬと、水柱は自身の死地を此処と決めていた。

 

「炭治郎、禰豆子っ! 何処へでも良い、とにかくこの場から一里でも遠くへ逃げ延びるのだっ!! いかに十二鬼月とはいえ、遠く離れたならお前達の母を操れぬっ!!!」

「はいっ!」

「ううう――――っ!!」

 

 鱗滝の指示に従い、竈門兄妹は走り出す。

 今だけは、あの男が兄妹達の仇であることは忘れよう。

 他人の考えを見透かせない炭治郎ではあったが、その臭いで心持ちだけは理解できる。あの無表情な顔から浮かぶ臭いは間違いなく「黄色い」。二つの血溜のごとき赤い臭いを、一つの暖かな黄色い臭いが押さえ込んでいる。

 

 他ならぬ、自分達を助ける為。

 

 親友に代わり師である鱗滝を守る為。

 

 そして、せめて。

 

 自分が首を跳ねてしまった兄妹達の代わりに、母である紗枝だけは竈門兄弟から奪わぬよう、日輪刀を振るわんとする水柱を。

 

 この場だけは。

 

 信じよう。

 

 それは、

 

 決して本人は肯定しないであろうが、

 

 炭治郎が水柱:冨岡義勇を許した瞬間であった――――。




このお話で第四章が終了となります。

ストックが少なくはなっていますが、続けて第五章を投稿していきますのでよろしくお願いします。

最後は義勇さんのカッコイイ姿を見せて〆。
4-1で今はなき錆兎と真菰に鱗滝の子を死なせないと誓っていました。たとえ自分を恨んでいる竈門兄妹とて例外ではありません。

そして心の中で、炭治郎が義勇を許してしまいました。
本当はこんな予定ではなかったのですが、義勇さんが「俺に格好つかせろ」と叫んでいたのです(汗。本当にプロット通りにいかないのが私の未熟な点ですね。
まあ、こっちの方が面白いと思うのでよいのですが。

それではまた明日、第五章の開始をお待ちください。

新キャラもでるよ!
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