本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第5-11話「鬼殺隊士の勤め」

「ごめんくださ~い!」

 

 鬼となってから始めての、人間らしい食事に禰豆子が歓喜してから一週間後。

 夕日がもうすぐ沈もうという中、どこかで聞いたような少年の声が玄関にて響き渡った。もちろんお城のような建物である神藤家の玄関で誰が叫ぼうと、久遠に用意してもらった自室からなら聞こえるはずもない。だが炭治郎は日課としている修練を玄関脇の庭で励んでいる最中であった。

 貿易商を生業にする神藤家は朝から千客万来だ。久遠は取引に関する打合せに忙殺され、さすがに昼間ばかりは炭治郎の隣に陣取るわけにもいかない。一方、鬼である葵枝や禰豆子も昼夜が逆転しているため客室で静かに寝息をたてていた。ならば一行で動けるのは炭治郎と鱗滝以外に居ない。

 

 これはある意味好都合とばかりに、この先に控えた鬼との殺し合いを生き抜くため、鍛錬に汗を流すのは至極当然と言えた。

 

 そんな折、どこかで聞いたことがあるような声が聞こえてきたのだ。

 

「ねえ、たのも~ってば~」

 

 どうやら何度声を張り上げても応答がないらしい。

 ならば多少の案内役を買って出るくらいはやるべきである。なんと言っても炭治朗達は、久遠の好意で何の金銭も払うことなく滞在させてもらっているのだ。ただ飯喰らいと比喩される前に役にたった方が良いだろう。そう思った炭治郎と鱗滝は、手拭いで汗をぬぐいながら玄関先へと歩を向けた。

 

「はいはいー。今執事さんを呼んできますので、もう少々お待ちくだ……さ……」

 

 最後まで言葉を紡ぐ前に、炭治郎の瞳がまん丸に開かれる。神藤家の玄関先に立っていた少年は、炭治郎の知る顔だったからだ。

 

「えっと、竈門炭治郎……だっけ? 久しぶりだな~」

「お前は……、逃げ回るだけで最終選別に合格しちゃった。……なんて名前だっけ?」

「善逸だよっ、我妻 善逸っ! 同期の名前くらい覚えとけよなー。あと逃げ回るだけって言うなっ!!」

 

 もうすでに懐かしい突っ込み漫才だ。

 実際はそこまで久しぶりというわけではないのだが、いかんせん炭治郎の方では色々ありすぎた。炭治郎の頭からすっかり抜け落ちていたとしても無理のない話である。だがそんな事情を善逸が知るわけもない。久しぶりの友人を訪ねたかのような表情であった。

 

「お前、どうして此処に? 確か、修行のやり直しを言い渡されたんじゃなかったっけ??」

 

 段々と記憶を取り戻してきた炭治郎が疑問を口にする。善逸は最終選別において、一切の戦闘をせずに棚からぼた餅な合格をもぎ取ったのだ。その点を指摘され、再修業を言い渡されたはずである。

 

「……俺の育手だったジジイから、手に負えんって勘当された」

「……………………はっ?」

「だからっ、勘当されたの! じゃあしょうがないってんで本部からチュン太郎に指令がきて、実戦形式で鍛えなおせって言われたの!!」

 

 自らの恥部を赤裸々に語る善逸の顔には、すでにもう涙が浮かんでいる。

 

「最終選別に合格しておいて勘当とは、前代未聞だの」

 

 とは鱗滝の言だ。ある意味すごい逸材なのかもしれない。……得体の知れないという意味であれば、だが。

 

「そういえば俺も、東京で鬼が居るって話で来たんだっけ」

 

 さすがに色々ありすぎて、本部の指令なんて忘れていた炭治郎である。それに、鬼なんて探さなくとも……。

 

「俺も一人じゃ心細いしさ、同期のよしみと思って一緒に行動してよぉー。頼むからさぁ~」

 

 なんとも感情表現が豊かな少年だ。さっきまで怒っていたかと思えば、今度は炭治郎に泣きついている。よっぽど一人で鬼と対峙するのが恐ろしいのか。それとも結婚するまえに死ぬことが耐え難いのか。おそらくは両方なんだろうな、と炭治郎は嘆息をつく。

 

「で? 本部からの指令で狩る鬼ってどこに居るんだ?」

「それがさ~、なんでも『鬼の頭に娘が居るから探し出して斬れ』って言うんだぜ? こんなの新米隊士に課す指令じゃないよね? ねえ、そう思わない!?」

 

 炭治郎の裾に縋りつきながらも、善逸は無茶な指令を出した本部への文句を忘れない。

 

 しかして、問題はそこではなかった。

 

 鬼の頭、鬼舞辻 無惨。

 

 その娘を、斬れ?

 

 善逸は此処が誰の屋敷か、知っているのだろうか。そして、鬼殺隊本部はなぜそんな命令を下したのだろうか。

 

 炭治郎の脳裏に、姉のような少女の笑顔が映り込む。

 

 無惨の娘なんて存在は、神藤久遠以外にありえないではないか。

 

 ◇

 

「あらっ、もしかして炭治郎君にお客さん?」

 

 玄関の大扉から聞こえた声に、炭治郎の背中がビクリと反応する。半人半鬼である久遠は、日の光が弱まった夕刻であれば外出しても問題ないらしい。だが最悪極まる間で、もっとも会わせてはいけない両人が出会ってしまった。瞳孔が開き、口がだらしなく開いた善逸の表情からは、さすがの炭治郎とて何も読み取れるはずもない。

 

「あらっ、その隊服は……。炭治郎君の同僚さん?」

「えっと、そうではあるんですけど……。今、追い返そうとしていたって言うか……ええと、打ち合わせは終わったんですか?」

 

 なんとも支離滅裂な返答である。

 まさか、久遠を斬りに来た同僚です。なんて紹介するわけにもいかないではないか。なんとか時間をかせぎ、二人を引き離さなくては。瞬時にそう判断した炭治郎だったが、心に口がついてこない。竈門炭治郎という少年は嘘をつくという行為が破滅的に下手糞だ。

 

「ええっ、ちょっと前に帰って行ったけど。なぁに、その顔? この前の百面相よりずっと酷い顔してるわよ?」

 

 喉元でくすくすと笑いながら言葉を返す久遠。それが炭治郎の気遣いであるとは思いもよらないらしい。

 しかして予想通りというか、何と言うか。この場でもっとも早く反応したのは、鱗滝でも炭治郎でもなかった。

 

 音さえも置き去りにする速度で近寄った善逸が跪き、どこから出したとつっ込む前に薔薇の花束を頭上に掲げ。

 

 こう、のたまったのだ。

 

「一目惚れしましたぁ! 俺と結婚してくださ、うぼぉ!!? 」

「………………はい?」

「…………」

 

 突然の告白に久遠は言葉もない。そして炭治郎は一瞬でも最悪の事態を想定した自分が恥ずかしいとばかりに、色の落ちた頭髪に鉄拳を落としていた。




最後までお読み頂きありがとうございました。

久しぶりの善逸登場で更に画面が明るくなりました(笑
ですが本部の指令は「久遠を斬れ」というもの。ようやく展開が動き出します。

ちなみに、勘当されたというのは善逸の思い込みです。育手の雷お爺さんは自分の手にあるより世の中を知れと送り出してくれたのです。それでも家にしがみ付こうとした善逸が被害妄想をこじらせているのです。
善逸もまた、動かしていた楽しいキャラですね。正直アニメを見ていた時には、下野さんの演技がすごすぎてウザイなあとしか思っていなかったのですが。

キャラが立っているというのは重要な要素だなと改めて思いました。

さてさて、この五章も残り二話。
以前お話したとおり、その後は暫くお時間を頂きます。早くて一週間、遅ければ……(汗
皆様に忘れられる前に、なんとか復帰しようと思います。
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