本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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第5-12話「剣士の友」

 そんな冗談としても笑えない一幕が終えた後。

 力加減など一切考慮しなかった炭治郎の拳骨をまともに喰らった善逸は今、なぜか珠世の医務室にいた。炭治郎としてはぜひとも道端に放り投げてしまいたかったのだが、何の事情も知らない久遠が大変だとばかりに連れて行ってしまったのだ。

 

「もうっ! いくら気心の知れてる友達だからって、気絶するほど殴りつけちゃ駄目だよ。まったく……」

 

 見上げれば、まるで弟を叱るお姉さんのような久遠。

 炭治郎は木板の床に正座し、そのお説教を聞き入る他ない。もちろん事情を話せば理解してもらえるかもしれないが、まさか善逸を「久遠さんを斬り殺しにきた同僚です」と紹介できるはずもない。だからこそ、彼女を知る前に放り出したかったのだ。

 

 気絶している善逸を除けば、この場で事情を理解しているのは炭治郎と鱗滝の二人のみ。となれば頼れるお師匠様の出番である。炭治郎はすがりつくような視線で鱗滝に泣きついた。

 

「……うおっほんっ! 久遠殿、いくら炭治郎に非があるとはいえ医務室に連れ込むのは問題があるのでは?」

 

 鱗滝がさりげなく善逸を追い出せと忠告する。久遠が手配してくれた義足にももはや慣れたようで、その動きに違和感は微塵たりともない。ここには患者であるとはいえ、鬼殺隊士の宿敵たる鬼達が横になっているのだ。正座する炭治郎も激しく頭を上下に振って鱗滝を支援する。

 

 だが、この神藤久遠という少女はどこまでも姉御気質であった。困った子を見れば助けずにはいられないのだ。本当にあの無惨の娘なのかと疑いたくなる一面である。

 

「炭治郎君のお友達なら鬼にも慣れたものなんでしょ? そんなの今更よ、いまさら」

 

 いや、今更でもなんでもないのだが。逆に知られたらとんでもないことになると言いたい二人であったが、なんとも言葉にしにくい雰囲気だ。

 

「ですが、おひいさま。鬼殺隊の隊士は鬼によって悲劇の運命を辿らされた者が多いと聞きます。……危険かと」

 

 援護射撃は意外なところから発射された。

 自身も鬼であり、久遠の理想に共感する珠世先生だ。自身も鬼殺隊に追われた経歴があり、炭治郎一行が鬼殺隊の中でも特殊な方だという見方をしていた。

 

「むー……。なによ皆して、私は善行を積んでいるはずなのにぃ」

「そのお心は稀有で、私達にとってもありがたいものです。私達はただ、おひいさまに身の危険が及ばぬよう危惧しているだけなのですよ」

「大丈夫、もし半人半鬼の私が斬られそうになっても未来の旦那様が守ってくれるわ。……でしょ?」

 

 向日葵(ひまわり)のような満面の笑顔を炭治郎に見せつける久遠。

 

 卑怯だ、そう思わずにはいられなかった。

 東京に来てからというもの、炭治郎達は久遠に甘えっぱなしだ。こんな時だけ甘えられては、応えないわけにはいかないではないか。炭治郎は顔を引きつらせながらも頭を縦に振った。

 そもそもが炭治郎は久遠との結婚を了承した覚えはない。最近の平穏な空気に毒されてはいるが、炭治郎は仇討ちという修羅の道を歩いている最中だ。まだまだ所帯をもって落ち着くなど許されるわけがないではないか。

 

 結局、善逸は明日の朝まで様子を見ることで決着した。

 さすがに屋敷から追い出したとなれば、外聞も悪くなる。そういう噂を気にしなければならないのも上流階級ならではの事情であった。

 

 ◇

 

 「………………」

 

 善逸による突撃を受けた夜。

 さすがに気になった炭治郎が様子を見に行くと、善逸の意識はすでに回復していた。医務室の外に付けられたベランダで一人星を見上げている。その表情は何か悩みを持っている人のそれであった。

 

「俺、誰にも言わないから」

「……善逸?」

「誰にも言わないから」

 

 同じ言葉を二度、善逸はボソリと口にした。

 そこまで言われれば炭治郎とて何を言っているか気付こうものだ。善逸は気を失ってはいなかった。あの会話を、瞳を閉じながら聞いていたのだ。

 

「あの人、少しだけだけど鬼の音がしてた。けど、嫌な音じゃない。……本部はなんで、こんな指令を出したんだろうな」

「…………」

 

 善逸の問いに答えることなど出来ない。

 そもそもの話、炭治郎だって好意をもって鬼殺隊に入ったわけではない。それしか仇を討つ未来が提示されなかったというだけの話なのだ。将来、いつの日か。鬼殺隊は竈門兄妹の敵にまわるかもしれない。禰豆子の素性が明るみになり、命を狙われるなら。炭治郎はその時、再び人へと刀を向けるだろう。

 そんな自分に何かを言う権利などない。炭治郎は本気でそう思っている。

 

「けど、それじゃ任務を達成できないぞ?」

「チュン太郎には狩ったってことで報告してもらうよ。気付いてたか? 鎹鴉(かすがいがらす)ってな、本部への連絡役と共に監視の役目も負ってるんだと。敵地から逃げ出したり、鬼殺の剣士が鬼に同情して取り逃がさないように」

 

 そういえば炭治郎にも鎹鴉は割り当てられた。東京に来る間も頭上を飛び回り、決して自分達から離れようとはしない鳥。あれは監視のためでもあったのか。炭治郎の表情が自然と険しくなるが、その緊張感を解き放ったのも善逸だった。

 

「あんな美少女を斬れなんて、本部も酷いこと言うよなぁ。もったいないにもほどがあるよ」

「もったいないって、……お前なあ」

「そうだ思い出した! お前、あんな美少女がお嫁さんになってくれるのか!? どうやって口説いたの? お願いだから教えて!!」

「いや、口説いてなんていないし」

「じゃあ何だよ。勝手に好きになってもらえたとか言うつもり!? お前、色恋沙汰に興味ないふりして、とんだスケコマシだなっ!!? いいか、本来女性に受け入れてもらうにはだな……」

 

 決して正解とはいえないであろう口説き方を永遠と教授される炭治郎。

 だが血まな臭い話題よりかは全然マシである。善逸もそのあたりを気遣って話題をそらしてくれたのだろう。その気遣いと久遠を斬らないという宣言に、炭治郎は心の中で感謝した。

 

「とりあえず押しだっ! 自分の想いをありったけ籠めて泣き付けば、どんな女の子だって――」

 

 まあ、それでも。

 善逸の恋愛術はなんの役にも立たないと、炭治郎は確信をもって心に刻み込んだのである。 




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 予定通り、明日の更新で第五章が終わり、少しだけ時間を頂きます。
 今現在の進捗状況を報告すると、第六章は10話ほど書き終えている状態です。「結構書いてんじゃん?」と思われるかもしれませんが、物語がようやく動き出した程度でしかありません。

 私の作品の書き方は特殊で、本当に大まかなプロットしか作りません(作れません)。キャラクター達に舞台を用意し、出来事を用意し。本文を書きながらキャラと一緒に物語を書き進めていきます。
 その場そのばで「炭治郎、君はどうする?」と問いかけながら書いている感じですね。

 このやり方の長所は「キャラクターが勝手に、しかも縦横無尽に動いてくれる」と言う点です。物語が進むにつれ、キャラが暴走し始めるのです。第四章で母を斧で殴りつけたシーンなんて正にコレです。作者の方が「大丈夫?」と心配になるほどですね(汗

 逆に短所といえば勿論「プロット通りにまず進行しない」という点ですね。一応、最初と終わり、それと中盤の要所は押さえますが中々思い通りに動いてくれません。
 ある程度書き溜め、その後このまま投稿しても良いのだろうかと検討する時間が必須となるのです。

 そういった理由で、もうちょっと先が見えるまで書き溜めたいというのが正直な理由です。

 再開告知は本作の「あらすじ」に掲載します。週末あたりにでも一度覗きにきてみてください。
 おそらく皆さんが忘れる前には再会すると思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
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