第六章「那田蜘蛛山の決戦(前編)~人と鬼の狭間で~」を開始いたします。
これまで散々な目にあってきた竈門兄妹ではありますが、今回も中々の難関が待ち構えています。どうか最後までお付き合い頂き、竈門兄弟の結末を見届けてあげてください。
それでは、本編へどうぞ。今後とも宜しくお願いします!
第6-1話「那田蜘蛛山」
「……本当に気をつけるんだよ?」
「大丈夫だよ母ちゃん。俺と禰豆子はこれでも結構、強くなったんだから」
「じゃあこれは、お姉さんからの贈り物。お守りだと思って、常に左耳に付けているように!」
「……はい、ありがとうございます」
「そしてもう片方は私の右耳に。これでもう、炭治郎君は私のお手付きだよ♪」
「…………」
あれやこれやと心配する母や、おもちゃにしたりないと言わんばかりの久遠に振り回されながらも先を急ぐ。これから向かう戦場は文字通りの死地だ。どれだけ入念に準備しても足りるものではない。だが事態は一刻を争っていた。
正直、炭治郎の心の中は今だに義勇に対する気持ちが混雑している。それでも一度は命を助けられたという事実は確かである。ならば感謝の言葉にしろ、文句にしろ。本人が生きていなくては話にもならない。
「首根っこ掴んででも、……連れ帰ってやる!」
「う?」
ボソリと決意を口にする。
隣の禰豆子にも聞こえないような、ごくごく小さな呟きだった。それに反比例するかのような決意も炭治郎の表情からうかがえる。
世話をやきたがる女性陣から逃げ出すように、竈門兄妹は慌しく神藤邸の玄関へと歩を早めた。
が。
「ちょ、ちょっと待ってよ~。俺を置いて行かないでくれよ~」
先日の真面目さはどこへいったのか。そんな情けない声を上げながら、善逸が早足で追いかけてくる。
「同じ任務を負ってる同期のサクラだろぉ!? 最終選別でも言ったけど、個別に動いて戦力を分散させるなんて愚策だぞ!!」
「そりゃあそうだけど……。今から行く先には十二鬼月が居るんだぞ?」
「十二鬼月? なにそれ」
「ちょーつおい、十二匹いる鬼の一角」
「……は? はああああああああああああああっ!!?」
なんだか炭治郎の口調もおかしくなってしまったが、善逸が知らないのも無理はない。
炭治郎とて、狭霧山での一件がなければ十二鬼月の存在など今だに知りえなかっただろう。柱ならともかく、新米の
下弦の伍 累。
上弦の弐 童磨。
もうあの狭霧山での一件からすでに一月ほどの時が経過しているというのに、思い出すだけで鳥肌が立つかのようだった。もしあの場に冨岡義勇という水柱が居なければ、間違いなく炭治郎達は此処に居ない。そう確信できるほどの明確な実力差をひしひしと感じたのだ。
これから向かう那田蜘蛛山にも、奴等が待ち構えているだろう。最低でも自分の巣と豪語していた累は間違いなく居るはずだ。最悪を想定するなら童磨だって居るかもしれない。鬼殺隊本部は何の思惑があって炭治朗達新米隊士を向かわせるのだろうか。どう考えても初仕事には厳しすぎる相手だ。
善逸が悲鳴を上げるのもまったくもって無理のない話であった。いや、厳しいを通り越して殺意さえも感じられる本部の人材運用に、今度はひたすらゴネている。
「そういうのはさあ、柱が対処するべきなんじゃあ、ないのぉ!?」
一々声を張り上げるようにして繰り出された言葉の節々に、ありありと不満の色が塗りたくられている。まあ、その点に関しては炭治郎も同意せざるを得なかった。鬼殺隊はようやく入ってきた新人を殺そうとしているのだろうかと。
「……俺と禰豆子は一度戦っているから、この先に待ち受ける鬼の強大さも十分に骨身に染みてるけど……。指示された任務に対して、隊士の拒否権はないのか?」
「あるわけないだるおぉ!? 命令に背こうものなら『士道不覚悟』で処罰されるんだよ! まったく、幕末の新撰組かっての!!」
「はははっ」
ふと炭治郎の頭に浮かんだ疑問を口にしただけで、善逸はお得意の百面相を駆使して迫ってくる。それが逆に、不思議と炭治郎の心を穏やかにしていた。
(なるほど、久遠さんが俺をからかうわけだな。……百面相ってこんなに面白い顔なのか)
泣き叫ぶ善逸を見ていると口元が上がり、思わず笑いで吹き出してしまいそうになる。
これから死地に行くというのに、だ。戦力としては正直あまり頼りにはならなそうな少年ではある。でもまぁ、こんなヤツが一人居てもいいのかもしれないと思いながら炭治郎は
◇
もともと那田蜘蛛山という存在は名が示す通り、数年の周期で蜘蛛が大発生する山であったそうだ。
しかして別に、近隣に住む人々が迷惑をこうむっていたかと言われればそうでもない。昔から蜘蛛と人の生活は密接に関わってきたのだ。
蜘蛛の巣がはられた家は管理が行き届いていない。そんな印象を持たれがちだが、実はハエやアブ、ゴキブリなどの家屋に集まる害虫を食べてくれる益虫という側面も持つ。田舎の人間からすれば屋根下に巣を張られていようがお構いなしに放置するくらいだ。その奇怪な姿形を恐れ、忌み嫌うのは都会に生きる人々のみである。
事実、那田蜘蛛山近隣の人々は蜘蛛神様の住む神聖な山として代々
最初は蜘蛛神様の祟りかと思った人々が果物などのお供え物を捧げ、怒りを納めようとした。だが何の手掛かりもない失踪事件が相次ぐうち、自分達が信仰しつづけた山に恐ろしい化物が住み着いたと確信するに至ったのだ。
そんな迷信を今だに信じ続けているのか?
周辺の村長町長が一団となって県知事に討伐を嘆願するも、返ってきた言葉はけんもほろろ。寝言は寝てから言えと言わんばかりの対応だったという。
行政には相手にされない。ならば相手と同様に、こちらも不確かな存在にすがる他ない。
本部にも十二鬼月の一人が蜘蛛鬼であるなどという情報はこれまでなかった。かといって、怪しい場所があるというだけで主戦力である柱を出動させるわけにもいかない。もしかするなら、柱が向かった反対側に出没する可能性だってあるのだ。必然的に新人達が偵察任務をおび、鬼の餌食になるという悪循環が鬼殺隊に深刻な人材不足を併発させていた。
炭治郎と善逸が指名されたのもまた、偵察という任務のためであろう。とは出立前の鱗滝から聞かされた言葉だ。
だが今となっては下弦の伍、そして上弦の弐出現という一報はすでに
決して炭治郎や禰豆子、善逸の腕だけで解決できるような案件でもない。
なればこそ、冨岡義勇の命を救うため、那田蜘蛛山に今。
多くの鬼殺隊士が集結しているという予測も、十分な可能性を秘めていた。
最後までお読み頂きありがとうございました。
序盤とは違い、もはや起承転結の起と結がカケラほどしか存在しない本作ではありますが、作者本人は楽しく炭治郎達を苛めております(ゲス
投稿を停止していた二週間でプロットを練り直しーの、新たな設定をひねり出しーのな夜を繰り返してきましたが、その分読みごたえの有るものになったと思います。
中々外出もままならない世の中ではありますが、少しでも現実を忘れ、一時の娯楽として活用して頂ければ幸いであります(笑
ではではまた明日。
今後とも、お付き合いのほどを是非に。