本当はあったかもしれない「鬼滅の刃」   作:みかみ

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 先日は久しぶりの更新にも関わらず、朝から沢山の方にお読みいただいたようで感謝の言葉もありません。
 引き続き毎日更新を続けていきますので宜しくお願い致します。


第6-2話「胡蝶しのぶ」

 超常な能力を体得した鬼殺隊士とて、別に(かすみ)を食べて生きているわけではない。

 それは鬼討伐のために遠征へ(おもむ)いた時とて同様である。多数の人員が動かざるをえない事態ともなれば尚更だ。であれば那田蜘蛛山近隣の村に本拠地を構え、対策を練る場所が必要だという理屈もまた当然であった。腹が減ったら戦はできないのだ。

 どこにでもある農村、という表現がぴったりの閑散(かんさん)とした集落だった。すでに住民は避難を完了させており、村の中には鬼殺隊の隊服があふれかえっている。かやぶき屋根が印象的な家屋にはどっさりとした食料が運び込まれ、田舎では珍しい瓦屋根によって雨風を守る村長宅には大本営が設置されている。

 

 かるく見積もっても二百人は居るであろうか。そんな中、炭治郎達は一人の顔見知りを発見した。

 

「うぬっ? お前等も呼ばれたのかっ!?」

 

 那田蜘蛛山事変対策本部と名づけられた村長らしき屋敷の前に上半身を(さら)け出した男が立っていた。あの特徴的な風貌は一度見たのなら忘れられないであろう、炭治郎と共に最終選別を突破した猪頭の嘴平(はしびら) 伊之助だ。

 

「……久しぶり、元気にやってたか?」

「テメエに心配される筋合いはねえよっ! 俺様はあれから、更に一段と強くなったからな。お前らはもう何匹の鬼を切り捨てた?」

 

 猪の鼻から荒く呼吸を繰り返す伊之助は自信たっぷりにそう、たずねてくる。

 

「いや、俺達はまだ……」

「ぶはははっ! じゃあ俺様の勝ちだな!! この伊之助様はもう五匹も鬼を切り捨てたぜっ!!!」

 

 まるで勲章を得たかのように自慢する伊之助に、炭治郎は複雑な感情をもって応対していた。

 その伊之助が切り捨てた鬼とて元人間で、あの鬼舞辻 無惨による被害者だ。以前の炭治郎であればそれを当然の事として受け止めていただろう。しかして東京の浅草で出会った半人半鬼の神藤久遠(かみふじ くおん)という少女の存在が、炭治郎の心に新しい光を当てていた。

 

 人と鬼が共栄する未来。

 

 そんな夢を鬼殺隊内で発言したのなら、おそらくは一笑にふされるだろう。鬼殺隊士にとって鬼とは殺すべき邪悪で、共に生きるなどという選択肢は最初から存在しない。もし久遠が今の伊之助の言葉を聞いていたらどう思うだろうか。怒るだろうか、悲しむだろうか。だが現実問題として人を襲う鬼が目の前に居るのだ。同情などしていたら自分達の首が飛んでしまう。

 炭治郎はそんな苦悩を心の中に仕舞い込み、改めて周囲を見回した。

 

「俺達のような(みずのと)の連中もかなりの数が呼ばれているんだな……」

「まあ、新米と言えども隊士には違いないし。きっと現場の空気を感じろって気遣いじゃないの?」

 

 炭治郎の疑問に、食いつき気味で都合の良い展開を願う善逸。しかしてそれは一人の柱の言葉によってあっさりと裏切られた。

 

「いいえ、違いますよ? 癸の隊士達にもしっかりと働いてもらいます。まだまだあの山には吐いて捨てるほどの鬼共が潜んでいるのですから」

「ひえっ!?」

 

 唐突に背後からかけられた言葉にビクリとしながらも、どこかで聞いたような声色に炭治郎は驚いた。

 振り向けば、やはり初対面の女性隊士である。だが顔つきといい、流れるような黒髪といい。やはり誰かの影が重なって映る。まったくもって違う点といえば、ニッコリとした笑顔でありつつも心の臭いは憎しみに支配されている点であろうか。

 これがもし、あの人ならば心の中から黄色い笑顔であったろうに……に? 炭治郎はその事実に気づき、瞳を見開いた。誰かに似ているかと思えば、間違いない。

 

 この人は――。

 

「姉とは面識があったようですね、竈門炭治郎君。はじめまして、私の名は蟲柱:胡蝶しのぶ。旧花柱:胡蝶カナエの妹で、この那田蜘蛛山討伐隊の大将を任ぜられています」

 

 ◇

 

 しのぶに連れられて大本営たる村長宅の玄関をくぐりぬけた炭治郎一行は、壁一面に作戦書が貼り付けられた一室へと招かれた。そして一家が食卓を囲むような大きな机には、那田蜘蛛山の地図らしき絵が描かれた紙が置かれている。おそらくはこれまで幾度となく攻め入ったのであろう痕跡が、注釈として乱雑に書きなぐられていた。この那田蜘蛛山討伐戦はこれから始まるのではない、今この瞬間にも継続しているのだ。

 

「さて、まずは現状の説明からね。アオイちゃん、お願いできる?」

「了解です、しのぶ様」

 

 蟲柱たるしのぶの側近であろうか。炭治郎とそれほど年の変わらない少女が控えていた位置から一歩、前へと進み出る。

 

 アオイ曰く。

 この那田蜘蛛山討伐隊は当初、花柱:胡蝶カナエを頭にして編成されていた。事前に立案されていた作戦通りに事は進み、もう少しで制圧といった場面で「上弦の弐 童磨」が立ち塞がったらしいのだ。上弦の上番の名は伊達ではなく、それまで順調だった作戦は吹き飛ぶように崩されてゆき。結果、若い隊員を守ろうとした胡蝶カナエは殉職した。

 それは炭治郎と禰豆子が最終選別に合格してすぐの出来事だったらしい。

 予定通りに進む作戦肯定に満足しつつも、カナエは何か不安を覚えていたそうだ。だからこそ最終選別にまで有望な新人を探しに来たのだ。禰豆子を継子に指名しつつも炭治郎の元へと置いたのは、彼女なりの気遣いであると同時に那田蜘蛛山にかかりきりで当分は面倒をみれないと判断したからである。

 

「現状に置いて、那田蜘蛛山に潜む蜘蛛鬼共は沈黙を守っています。こちらに攻め込む隙を見せず、持久戦を覚悟しているかのようですね」

 

 アオイがそう説明を締めくくる。そんな長ったらしい説明にイライラを募らせた伊之助が声を張り上げた。

 

「……面倒くせえな。そこに鬼が居るって分かってるんだろ? なぜ攻めこまねえ?」

「それが出来れば苦労はしません。見た目の上ではそれほど高くもなく変哲(へんてつ)のない山ですが、那田蜘蛛山は下弦の伍が作り出した城です。無謀に突撃すれば此方の戦力が減るばかりか、相手の戦力が増すばかり。……何も考えずに突撃した隊士は皆、蜘蛛の操り人形となって捕らわれてしまいました」

 

 アオイの補足を聞きながら、炭治郎は母である葵枝のことを思い出していた。

 狭霧山での戦いにおいて葵枝は確かに、下弦の伍に操られている。そこに自分の意志はなく、鬼としての強ささえも数段階にまで強引に引き伸ばされていた。

 

 あれは、あの時は。

 

 まだ累が自分の山城から出た状態だったからこそ、あの程度で済んだのだ。今回はあの時と状況が違いすぎる。きっとあの山にはいたるところに蜘蛛の糸が張り巡らされているのだろう。うかつに攻められないというアオイの言はもっともである。

 

「今現在においては状況を見守る他ありません。せめて、何か。均衡を変化させる存在が来る、もしくはあの山城に隙ができるまでは……」

 

 そうは言うが、アオイとてこの現状に満足しているわけではない。それどころか状況は悪化し続けるとさえ考えていた。

 以前も言ったが、鬼殺隊は非政府組織だ。必要であったとはいえ、村民に官憲であると虚偽の身分を伝えて避難させているらしい。その事実が国に知られれば、更に事態はややこしくなるのだ。

 

 現状においては八方ふさがり。

 

 討伐隊の大将たる胡蝶しのぶは、あの山に憎き仇が居るにも関わらず。

 

 辛酸たる日々を無駄に送り続けていた。




 最後までお読み頂きありがとうございました。

 本作の那田蜘蛛山編は原作とは違い、最初から蟲柱である胡蝶しのぶが部隊の指揮をとっています。山攻めということもあり、動員されている人数も比ではありません。
 それは私の大好きな某戦記小説の格言から来ています。

「一人の勇士は、けっして一部隊の指揮官に敵わない」

 というものです。
 いくら柱であるしのぶが居ようとも、山城を攻めるには手が足りません。雪崩のように襲い掛かる鬼達と対峙するなら勝ち目もありません。数の暴力というものは、決して一人の技量を下回らないのです。

 そんなわけで基地をもうけ、本格的な戦争へと乗り出していく鬼殺隊。

 隊士達は無事、那田蜘蛛山を攻略できるのでしょうか?

 今後ともご愛読、よろしくお願い致します。
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