「あああああああああああああ!!!!!」
刃を入れる時の叫びが私と彼女、どちらの物だったのか、今となっては分からない。でも今更それがどうだろうと変わらないのだ、小さく嘆息した。
落ちた頭が熟れた林檎のように見えた。
彼女の特徴的な、頭頂部の癖毛が枝。脳漿が飛び出し、濁った赤に染まった頭蓋が実。スローモーションのように見える光景の中、ニュートンはこうやって万有引力を発見したんだろうな、なんて思った。
酷い耳鳴りの中、数刻遅れてどさりと鈍い音が響いた。感覚が鈍くなっている。彼女の命はとうに潰えていたはずなのに、たった今死んだみたいに錯覚してしまう。わかっている、これはあくまで余韻に過ぎない。林檎が落ちたのも、枝がへし折れているのも、幹が180度ねじ曲がっているのも、すべては終わった後に起こったことなのだから。私が──彼女を手に掛けた後に起こしたことなのだから。
「はあっ、はあっ…………」
女の細腕では扱うのに難儀だった、重いチェーンソーを乱雑に投げ捨てる。衝撃で誤作動したのか一瞬、ウィーン……と甲高い動作音が、異臭の漂う部屋の中に染みていく。気づかぬうちに頬に付着していた彼女の中身を舐めて、彼女の赤く染まったパーカーのポケットから一本煙草を取り出した。この部屋に本来染みついていたはずの匂いは、既に腐臭と異臭で塗り替えられている。上書きするように、紫煙を昇らせた。一息のうちに彼女の愛した煙が、肺いっぱいに広がっていく。身体全体に染み渡らせるように、深くもう一呼吸。すべてが混ざり混ざった味は、意外と悪くないと思った。
「………………」
彼女の胸元をまさぐる。べっとりと血に塗れたペンダントを乱雑に奪い取る。その中には、笑顔の彼女たちが写っていた。それを上書きするように、塗り潰すように。二人の血液で優しく、優しくなぞっていく。
「……………………」
目を閉じる。想起する。この部屋で彼女と過ごした日々。帰ることはない幸せな日常。
彼女の透き通るような白い肌。身体を重ねた夜。柔らかな唇、キスする度に感じたこの煙草の香り──脳裏で、すべては煙のように溶けていった。瞳を開く。煙草の先端に未だ火が点っているのを確認して、既に撒いておいたガソリンの中へと放り投げる。私たちを囲むように、炎は一気に燃え広がった。
「ずっと一緒だよ、アイカ」
林檎を抱き抱え、頬ずりした。乾ききった唇に、そっとキスを落とす。火の手が優しく、背中を撫でていった。