死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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※時系列的には「ラスボス トワ編」の途中です
※本誌ネタバレを含みます
※作者は単行本派なので、最新情報については断片的なものを拾っています
※永遠たちが駄弁るだけの話です


反逆者達の雑談

「透ちゃん……。まさか裏切り者だったなんてひどいよ」

「え!? 永遠ちゃん、いったいなんの話!? 私、永遠ちゃんのおやつ勝手に食べた!?」

 

 日本からの独立を宣言し、人工島に移ってきてから数日後のある日。

 朝起きて、顔を合わせるなり抗議すると、透ちゃんはわかりやすく動揺してくれた。

 

「うん。まあ、二年くらい前にとっておきのプリンを食べられたのは恨んでるけど」

「恨んでるんだ!?」

「恨んでるけど、そういうことじゃなくて。昨夜の夢でね、そういうのを見たんだよ」

 

 刑務所から脱走してブイブイ言わせているAFO(オール・フォー・ワン)が、なんかやたら偉そうに自分の凄さを語る場面。彼は目指す目的のために幾つものルートを用意しており、そのための準備も数十年かけて進めてきていたらしい。

 で、そんなところでクローズアップされたのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「普通に考えたら透ちゃんでしょ?」

「いや、確かに私っぽいけど!」

 

 むにー、っと引っ張られる私の頬。

 

「夢じゃん!」

「夢なんだけどね」

 

 割と信憑性があるから困るというか。

 朝食の席につきつつ、せっかくなのでその話題を続ける私。

 

「外国式にトオル・ハガクレ──透葉隠にするとスパイって読めるじゃない?」

「スパイにするつもりの子にスパイって付ける親はいないと思うよ!」

「確かに。でも、A組の面子だけ見ても変な名前いっぱいだし」

「永遠ちゃんも人のこと言えないじゃん。っていうか、変な名前が普通なんだったら余計怪しむところじゃないし!」

 

 むう、なかなか手強い。

 強情にも容疑を否認し続ける親友を見つめつつ(もちろん着衣しか見えない)、どう言ったものかと思案していると、

 

「そもそも、どうして私がAFOをするのさ。敵じゃん」

「敵だね」

 

 この世界の透ちゃんは忍者の家系。一族の者は仕える相手を決めなくてはならず、一度決めた主人は生涯変えられない。透ちゃんは私に忠誠を誓ってくれているので、AFOを主人にはしていない。契約を結んだタイミング的に寮が建ったあたりまではフリーだったはずだ。

 でも、それはこの世界での話。

 

「例えばさ、透ちゃんが忍者じゃなくて、私がいない世界だったらどうだと思う?」

「それもう全然別の世界じゃん」

 

 と、透ちゃんはとても全うなことを口にしつつも「うーん」と腕組みをして、

 

「永遠ちゃんの言う設定だとしたら、私はAFO信者の家系だったりするかもね」

「やっぱり?」

「だって、透明になる個性なんて絶対怪しいじゃん。誰かさんにも怪しまれたし」

「その節はご迷惑をおかけしました」

 

 怪しいということは、それだけ諜報向きということだ。長く生きているAFOのことだ、一家総出で諜報員として運用できるように『教育』を施していてもおかしくない。

 

「それか、この『個性』を奪ってもらうために仕方なく協力してるとか」

「嫌なの?」

「だって不便じゃん! 私の場合はそういう一族だからって教えられてたし、今は私の素顔を見てくれる人ができたから、そこまで気にしてないけど」

「その人って、もしかして私のこと?」

「他に誰がいるのかなー、永遠ちゃん?」

 

 う、ちょっと照れくさくなってきた。

 数多くの個性を所持している私は、その気になれば透ちゃんの素顔を視認することができる。ちなみに彼女はなかなかの美人さんだ。太陽光の影響を受けないせいか肌とかめちゃくちゃ綺麗だし。

 

「美容って意味では透ちゃん得してるよね」

「不老不死の永遠ちゃんが言うことじゃないよね?」

「いや、不老不死は不老不死で大変なんだよ?」

「本当ですよ。私と永遠ちゃんは人類が絶滅しても死ねないかもしれないんですから」

 

 と、トガちゃんが朝食を食堂へと運んできた。

 他の仲間達もぞくぞくと集まってきて、私と透ちゃんのしていた話がなんだか注目されてしまう。

 

if(もしも)の世界の話ですか。……なかなかに興味深いですわね」

「でしょう?」

 

 私は内心で「本当はこの世界の方がifなんだけど」と思いつつ、八百万百(おねえちゃん)に調子を合わせた。

 

「私もAFOを手に入れた後、あいつの残留思念みたいなのに攻撃されかけたし。他の人が継承者になってたら、乗っ取られててもおかしくないと思うんだ」

 

 よっぽど意思が強ければ別かもしれないけど、じわじわと進む侵食を跳ねのけ続けるのはかなり大変だ。気づいたら人格変わってました、が普通にありえる。

 そんな風に、ちょっとしたボタンの掛け違いで状況は大きく変わる。

 なら、私のいない原作の世界はきっと全然違ったはずだ。

 

「お前がAFOを手に入れたから良かったが、死柄木に渡って暴れられてたらヤバかっただろうな」

 

 と、配膳された味噌汁をすすりながら轟君。

 

「AFOに『崩壊』。『超再生』に他の個性までありやがる。そんな相手、並のヒーローどころかトップ層だってやられかねないだろ」

「そうだね。……まあ、OFA(ワン・フォー・オール)ならそれでもなんとかなるかもだけど」

「オールマイトの個性か。確かにありゃあ規格外だからな」

 

 兎っぽいことならなんでもできる、という、普通に考えたら十分強い個性を持っていた元プロヒーロー・ミルコが懐かしむようにしみじみと言う。

 

「しばらくの間だけめっちゃ速くなる個性持ちにも会ったことあるけど、オールマイトは早いのがデフォだからな。全盛期のヤツにはあたしでも勝てるかわかんねぇ」

「さすがにオールマイトには勝てないと思いますけど」

「あ? なんか言ったかクソガキ?」

「ごめんなさい調子に乗りました」

 

 へこへこと平謝りする私。

 しかし、実際問題全盛期のオールマイトには誰も敵わないと思う。プロヒーローになってからあらためて調べて実感したことだけど、昔のオールマイト──つまり、AFOとの決戦以前、身体を壊す前のNo.1ヒーローは本当に、馬鹿みたいな強さだった。

 本拠地から文字通り射出されて飛んできて、到着するや否やほんの数秒の間に複数の(ヴィラン)を成敗、更に横断歩道を渡るおばあさんをエスコートし、木に登って下りられなくなった猫を救出する……なんていうのがザラなのだ。

 単に身体能力を蓄積して継承するだけの個性で何故そこまでできるのかと言いたい。百歩譲って視覚や聴覚も身体能力なんだとしても、高速での行動について行けるだけの思考速度が必要になる。ミルコが言っていた速くなる個性持ち、かつてのプロヒーロー『オクロック』にしても加速できる時間には制限があったとみられているのだ。

 

「個性ってのはホント、なんでもありッスよね」

「白雲君、どうして私を見ながら言うのかな?」

「そんなもの、君の個性が特に反則だからに決まっているだろう」

 

 うるさいジェントル。

 一見すると老紳士に見える青年……いや、中年男性? を睨みつけつつ、私は「まあそうだよね」とも思う。私の『不老不死』も大概チートだ。AFOと組み合わせることで無数の個性所持が可能になっているあたりとか、支配系の能力が効かないところとか。攻略する側だったら「大概にしろ」と文句を言っていると思う。

 

「でも、反則っぽい個性持ちならいくらでもいるじゃない。ほら、アメリカのプロヒーローとか」

「アメリカのヒーローはダイナミックな個性が多いよね!」

「ほんとにね。飛行するだけの個性かと思ったら攻撃が効かないわ、自分から攻撃する時の威力が上がるわ、なんてヒーローもいるし」

 

 正確には飛行の個性じゃなくて、自分に都合のいい力場を形成する個性らしい。その力場を使って無敵状態になったり高速飛行したり、便利にあれこれできるというわけだ。

 同じく力場系と言えば日本の自警団(ヴィジランテ)に地面あるいは構造物を高速で滑走したり、威力・速度を調節可能な遠距離攻撃をしたり、空中で二段ジャンプをしたりできる個性持ちもいたらしい。ヒロアカにスピンオフ作品があったら主人公張っていそうなスペックである。

 

「でも、チートと言えばアメリカNo.1ヒーローですよねえ」

「ああ、『新秩序(ニューオーダー)』ね。あれは本当にわけがわからないと思う」

 

 いわば「ルールの書き換え」を可能にする個性。物理法則を捻じ曲げることさえ可能で、使用者の想像の及ぶ限り、思いつく限りで思いっきりやりたい放題できる。

 一度に設定できる「新しいルール」が二つまでという制限が痛いものの、やりようによってはあらゆる相手を封殺することができる。

 

「永遠ちゃんだったらあの人どうやって倒す?」

「いきなり後ろに現れてAFOで個性を奪う」

「うわぁ……」

「うわぁ……」

「うわぁ……」

「だってそれが一番手っ取り早いじゃない!」

 

 まあ、「私に向かってくる生体のベクトルは反転し、その上で一千倍に強化される」とかあらかじめ設定されてたら自分で自分を思いっきりぶっ飛ばす羽目になるんだけど。

 逆に真っ向からやり合う場合、向こうが私を対象としたルールを定めてきても『不老不死』で効かない可能性がある。あと、名前設定の際に『八百万永遠』と指定した場合、もしかしたら効かないかもしれない。私の本当の姓が綾里なのか、それとも最初の母親の姓なのかは自分でもわからないけど。

 

「強い個性と言えばコンパスキッドさんもそうだよね。……生きてるうちに会いたかったなあ」

「永遠ちゃんが雄英入学する前に死んでますから、難しかったですけどね」

 

 うん。

 これも後々になって調べて存在を知ったプロヒーローなんだけど、すごい個性を持っている人がいたのだ。故人なので正確には「持っていた」なんだけど。

 彼の個性は探し物の方向を自分の身体で指し示すことができる、というもの。

 方向しかわからないのでお互いの距離が遠いほど精度が落ちる、という欠点があるものの「この事件の犯人」といった曖昧な指定であっても正確に機能する。

 ぶっちゃけこの人が生きていてくれたら「AFOの潜伏場所」とか「死柄木弔の居場所」とかで原作ブレイクできていたかもしない。なんで死んじゃったんだろう。生きてると原作が壊れるからだろうか。

 すると、そこまで話に加わっていなかったお茶子ちゃんとホークスが顔を見合わせて、

 

「強い個性強い個性って永遠ちゃんたちが言うことやないよね」

「鏡を見てから言って欲しいでスよね」

「二人とも人のこと言える!?」

 

 不老不死+AFO。

 変身+不老不死。

 透明化。

 万物創造。

 氷炎。

 無重力。

 剛翼。

 etcetc……。

 ぶっちゃけ、この場にはチートな個性持ちしかいないようなものだ。この面子でチートだチートだ言いあってもどんぐりの背比べである。

 

「不毛だから止めよっか」

「そうですね。せっかく作ったんですから冷めないうちに食べて欲しいです」

「そうだね。いつもありがとう、トガちゃん」

「いえいえ。永遠ちゃんからはちゃんとお礼をもらってますから」

 

 トガちゃんと微笑み合う。

 そんなところで、寝坊したのか、レディさんが食堂に入ってきて、トガちゃんに告げる。

 

「おはよー。トガちゃん、ホットワインかなんかない?」

「レディさん、朝から飲む気ですか」

「いいじゃない。こういう時でもないとなかなかお酒飲めないんだから!」

 

 確かに、プロヒーローには九時五時なんて概念はないから大変だ。

 お酒が飲めないから、なんていう理由でヒーローから敵に堕ちる人間がいたりしないか、少し不安になった私だった。

 ちなみに、まともにご飯が食べられなくなったら私は敵に堕ちるかもしれない。

 オールマイトは食事をする暇もなかなかなかったらしいが、そんな風にはなりたくないものである。




某キャラが内通者濃厚になった記念です(ぇ
後から知った情報を元に振り返ると、AFOを移植された永遠はわりと綱渡りしてましたね……。
不老不死のお陰で残留思念がぷちっと倒れましたが。
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