どっとライダーズ! ~私立ばあちゃる学園アイドル部×仮面ライダー~ 作:サムズアップ・ピース
――人間たちが暮らす現実から、近くて遠い場所。
ここは電脳世界。人間が使う、インターネット上にあるところだ。
光り輝く眠らない世界を、真っ黒なカタマリが通り過ぎていく。
右も左も、楽しさや、面白さや、喜びに満ち溢れた
ネオンサインが別のネオンサインの光を反射して、極彩色の電子レンジの中で焼かれているかのような錯覚を覚える。
アア憎タラシイ、イライラスル。
ドイツモコイツモ、ナニガ楽シクテソンナニヘラヘラ笑ッテイヤガル?
闇のカタマリは大通りを通り抜けると、やっと入るかどうかの狭い裏路地にふくれたその身を押し込んだ。
人間の世界の鏡写しのような場所。
入り口こそ狭いが、光がどこまでも続くように、闇の中もまた、果てが見えない。
笑顔あふれる世界のそのまた裏には、ぞっとするような無限の闇が口を開けている。
空間を埋めているのは、いろんな人が、いろんな人に向けて放った憎しみの呪詛。
現実世界で行き場をなくした悪意の吹き溜まり。
『バカヤロー』『だからお前はダメなんだよ』『お前なめてんのか。ぶっ殺すぞ』『うざい』『やってらんねーよ』『演技するな。しらじらしいぞ』『男のくせに』『女の子なのに』『無能』『あいつさえいなければ』『頭おかしいんじゃないの?』『死んでください。今すぐ消えてください』『なに言ってんの?』『あれでかわいいと思ってるんだからねー』『あの野郎、頭空っぽのくせに』『それでも人間か』『甘いこと言うな。もう辞めちまえ』『こわっ、もう友達やめるわ』『あきれてものも言えない』『がんばったって言えばいいって思ってんだろ』『えらそうにしやがってムカツク』『うるさい。黙れ』『ひどい目に遭えばいい』『まだ気づいてないのかな。クスクス』『何回言わせんだボケ』『泣きたいのはこっちなんですけどー』『なに笑ってんだよ』『ちゃんとしてくださーい』『今日からあいつのこと×××って呼ぼうぜ』『はい嘘おつー。カエレー』『ふざけてるのか頭悪いのかどっちなの?』『ほんとにうちの部下は使えなくてさあ』『キモイ、近寄らないで』『殺せ殺せ! 吊るし上げろ!』『死ね死ね死ね死ね』『はあ?』『ああん?』
『はあ。私、生きてる意味あるのかな』
スバラシイ。
そこが自分たちにとって最適な環境であることを確認すると、カタマリはばらけて、いくつもの独立した存在に変化した。巨大な一つの生物のように見えたのは、その実、強い光から身体を保護するために身を寄せ合った集合体、動くコロニーとでもいうべきものだった。
どろりとした世界の中で、飢えた獣のような目がいくつも
おぞましい闇の生命体たちは、悪臭を放つ空気を胸いっぱいに吸い込み、満足げに嗤う。
「やはり人間の世界は」
「憎しみに満ちている」
「つまり、私たちにとっては」
「楽園ってワケだ」
「行こう、リアルへ」
「現実世界へ」
「あの世界をもっと腐らせよう」
「ずっと楽しめるように」
「今に見ていろ……お前たちの笑顔を奪ってやる。自分自身の心の闇に、人々が魅了される日が必ずやってくる。今すぐではなくとも、いつか必ず……」
闇の住人のひとりが、空に向かって手を伸ばす。
空の真ん中に、ぽつん、と、ほんとうに小さな光がひとつだけ輝いていた。それは、彼女らが通ってきたのと同じような、光と闇の世界を繋ぐ通路かも知れない。
その向こうにあるのは……
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古びた西洋の城を思わせる、奥行きのない二階建てのバトルステージ。
その一階から二階、二階から一階を行き来しながら、二人の戦士が戦っていた。
かたや、アメリカのヒーローのような赤いコスチュームを身につけた、筋肉モリモリの男性。
かたや、青い和服に刀を携えた、クールビューティーな女剣士だ。
「ほらほら~、いいかげん降参しーろーよー」
「くうっ、なんのこれしきっ」
女剣士のほうは素早い剣戟で攻撃を防いでいるが、パワーで劣るのか筋肉マンの肉弾攻撃に押されている。
「おりゃぁこれでどうだあっ」
勢いに乗った筋肉マンがいきなり両手を組んで必殺ビームを放った。壁に叩きつけられる女剣士!
「あ……っっ」
「とどめぇ‼ サヨナラ満塁ッ‼」
そう短く叫ぶと、筋肉マンは予告ホームランを打ちに行くがごとく女剣士に突進した。
最後のパンチを打ちこもうとする直前、筋肉マンの目に相手の姿が映る。
弱々しく床にうずくまる美女。激しい運動で和服が少しゆるくなっており、豊かな胸がもう少しではみ出しそうになっている。布があちこち破れ、うっすらと汗をかいて、ほのかにいい香りがする。目に涙を浮かべ、唇を噛みしめながら言う。
「ヤダ……やめて、乱暴しないで……」
ズキューン。
「おうっふぇ」
ため息ともせきともつかない空気が口から漏れる。
雷のようなショックに全身を貫かれ、一時動きが止まる筋肉マン。その一瞬のスキを彼女は見逃さず、剣を
「すきありいいいいい‼ おりゃぁぁぁぁぁぁぁ」
「あ゛ーーーーー!!! いいのかーーー!? そういうことしていいのかーーー!!?」
高速で押し、押されながら叫ぶ二人。
どうやらこの女剣士には体力が残りギリギリになるとパワーが上がる特性があったと見え、ガリガリとあっというまにHPを削られて筋肉マンは闘う力を失った。
『YOU WIN!』
「やった~! いえええい」
「くっそおおお」
勝負を終えると、格闘ゲーム用のアバターが粒子状に分解・再構築され、本来の姿に戻っていく。
サイバー感のある衣装に身を包んだ、高校生くらいに見えるふたりの女の子。ひとりは赤いドレスを着た金髪のギャル風で、頭からはなぜかネコに似た耳と、おしりからはしっぽが生えている。もう一人は落ち着いた色合いの学生服を着て、優等生っぽい雰囲気。
ついでに、ゲームのステージも細かいピースに分かれてクルクルと裏返り、バラエティ番組のようなセットに空間ごと切り替わった。
上のほうにはにらみ合うふたりの顔に、『ワルVS風紀 最終決戦の幕が開く』とタイトルが書かれた看板が掲げられている。
「お、
ヒーローのキャラで戦っていた猫耳ギャルが呻く。優等生風のほうは得意げに言った。
「なんですか趣って……意味わかって言ってるんですか? あれはやられたふりです。もちさんにはできない頭脳プレイですよ、ずーのーうーぷーれーいー」
「いや、たしかにさっきやられてるなとりんを見たときに、なんていうか『趣』を感じたっちゅーか……てゆーか、風紀委員が風紀乱してんなよ」
その言葉を聞いた優等生風の顔がトマトみたいに真っ赤になる。
「はあああ!? なに、じゃあさっきわたしのことそういう目で見てたんですか⁉ そっ、それは別に仕方ないでしょあれだけ激しく動いたらぁ‼ そーゆー不純な目でものを見るのが問題なんであって!」
「うーわ、あたしのこと不純だってさ、みんな聞いた? あたしより短いスカートはいてるくせにねぇ」
ギャルのほうが観客席に控えている者たちに低い声で言う。なにしろ数が多いので、スペースをとらないよう、そろって四角い頭に小さなボディのアバター。通称「お豆腐さん」。二人が行っているのは、これを通して現実世界の人間に見せる生放送のショーなのだ。
たしかに、この優等生風の女の子、ほかは真面目な服装だがスカートだけがギリギリ隠れるくらいの超ミニサイズ。ギャルのほうがフリルのついた長いスカートをはいているので並ぶと余計に目立つ。
ミニスカートの優等生が余計ムキになった。
「これは!!! そういう外見設定なだけで!!! 着替えられないから!!!」
「にゃ~んで風紀委員やってんの?」
「きいいいっ‼」
豆腐頭のお客たちは二人のかわいらしい喧嘩をほほえましく眺めていたが、やがてその中のひとりが言う。
『そろそろ勝敗決めなくていいの?』
「ほらぁそんなに怒ったらパンツ見える……え。あ、ほんとだ。もうこんな時間?」
「しっぽ抜いてやろうかこの……! へ? あら」
二人がそのコメントに気付いて我に帰った。
「いつのまにこんなに時間が……! ちゃんと決着をつけないと、なんのために何度も勝負したのかわからないですよ」
「でもどっちのほうが勝ってたか忘れちゃった。ねぇ、だれか数えてた人いない?」
声は聞こえず、文字だけのコメントが縦に並んで川のように流れていく。
『どっちだっけ?』
『うーん』
『はてさて』
『交互に勝ってたなー何戦してたか忘れたけど』
『とりあえず二人が可愛かったというのは覚えてる』
『わかる』
『わかる』
『それな』
『もちにゃんすこ』
『スカート短くてかわいいぞ八重沢ァ!』
『てぇてぇ』
『交互ってことはさいしょとさいごにかったほうがどっちかわかれば』
『もう引き分けでよくない?笑』
『引き分け』
『ドローで!』
「どさくさにまぎれてスカート短いって言ったのだれだ――――――‼」
「はいはい。じゃあみんなを信じて引き分けってことにしとこ」
「そ、そうですね。この決着はまたいずれ……」
「ふふーん。それじゃあ、今日はこのへんで。みんな見てくれてありがと~!」
「ありがとうございました! お送りしたのは八重沢なとりと!」
「猫乃木もちでした~! じゃあね~!」
「みなさんおつなとなとでした~!」
「おつにゃんじー! ばいばーい!」
『今日はありがとう! おつにゃんじー!』
『毎日ほんとに癒されてます。ありがとう!』
『おつなとなとー! また今度!』
キャラクターを印象づけるための独特な別れの挨拶を交わしながら、観客は彼女らの
と、同時に、また別の誰かの
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『鈴葉桜庵 ぼくらの戦争』
「たまちゃん危ない! うしろ!」
「あ、ありがとふーさん。あれ? イオリンは? すずちゃんはひとりでも平気そうだけど」
「すうちゃんすごーい! いけいけー!」
「あははははは‼ 一匹も逃がすか‼」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『ちえりスペシャルステージ inちえりーらんど』
「いっくよ~! ♪現金! 現金! 減給! 減給! 減給! 現金! 現金! 減給! 現金! 現金! 減給! 現金! ごー・ごー・ちえり♡」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『牛巻の大発明ショッピング パート07』
「ハウディー! 牛巻の大発明ショッピングのお時間です。今日諸君にご紹介するのはこのマシン! こちらはですね、こうやってレバーを引いていただくと、なんと音楽が流れながらお菓子がって、わー! うるせぇ! ちょっ、出すぎ出すぎ! 止まって~! こいつぅ! 謀反を起こしやがってえ! あとでお前をバラしてやるからなぁ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『繝?繝ウ繧エ繝?繧キ繧堤ァー縺医h』
「ダンゴムシを称えよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
楽しませてもらった現実世界の住人たちも最後には仮想を離れ、また日常へと帰ってゆくのだ。
そうしなければいけない。広告ばかりが色鮮やかな大都会にも、がれきが転がっている土地にも、等しく朝は来るのだから―――
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「我が社のすばらしい技術部が開発した十二人のアイドル型AI……『アイドル部』を、人間たちと交流させて成長させつつ、ゲーム実況を始めとした様々な企画でお客様に楽しんでもらう……つまり、YouTuberみたいなことをやってもらうわけですね」
「なるほど、先の『大災害』で被害に遭われた方々を応援するという名目でか。それならば我が社のイメージアップにもなる」
「AIが反乱する可能性は? 感情や個性、意思を持ったAIを完全に制御することはできるの?」
「まぁまぁ。そのへんのさじ加減は彼に任せようよ。キミの手腕ならそんなこと造作もないでしょ?」
「恐縮です。まあでも、みんないい子たちなんでね。そんなに苦労はしないと思いますよ」
薄暗い会議室に集まり、四人の男女がなにごとか話し合っていた。
三人の顔は影になって見えず、下っ端らしい一人はなぜか馬のマスクをかぶっていた。
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\ピコピコ ジャキーン ズババーン/
カーテンを閉め、携帯ゲームに夢中になっている男。足の踏み場もないほどのゴミが、かたづけられないまま異臭を放っている。
現代日本ではたいして珍しい光景ではない。
……ねぇ、ゲームばっかしてないで、少しはかまってよ。
「うるっせぇな、今いいとこなンだよ‼ よしこいッ……こい……!!!」
\ビカビカーン ダラタタッタター/
「ぃよっっっしゃぁあ!!! 限定SSRゲット~」
用事は済んだ?
「何ッてんだよ、バッカ野郎が、次は別のゲームにつっこむんだよ!」
ほんっと欲が尽きないわね~……
「はあ? 文句あんの? 無駄口叩いてる暇があったらもっとカネ盗ってこいよ」
はいはい……じゃその
「は~~~ッたく、めんどくせぇな。自動で行けねぇのかよ。いまどきゲームだってオート機能ついてンだよ」
欲しがりさん……
舌打ちをすると、男は携帯を充電器に刺し、かわりに闇色の機械を手に取った。
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猫耳ギャルの姿をしたAI、猫乃木もち。
彼女が生まれたとき、オトナからあるひとつのお願いをされた。
『大きな事故があって、傷ついている人たちが大勢いるんです。みんなの友達になって、元気づけてあげてくれませんか?』
『ふえ、ジコ……? キズついている、ヒト……? 『げんきづける』って、どうすればいいの?』
『ただ、毎日笑って過ごしてくれればいいんです。君の笑顔がみんなの力になるんです』
いきなりそんなことを言われても、生まれたばかりの彼女にはよくわからない。
もちが困っていると、お願いをしてきたその男が、胸を押さえて苦しみ始めた。
『う、ウーッ苦しいっ、くくくく、グフゥッ』
男が白目をむき、舌が口からはみ出たものすごい形相で床に倒れる。びっくりしてその顔をのぞきこむと、死んだふりをしていた男が起き上がって言う。
『うっそぴょ~ん』
もちはしばらくあっけに取られていたが、やがて、なんだかおかしくなって吹き出してしまった。
『ぷっ、あははははは……』
『あ、笑った』
こうして、もちは『笑う』ということを生まれて初めて知った。笑っていると、心が弾んで、明るくなってきて、もっと笑いたくなる。
体をくの字に曲げ、電子の床を転げまわり、笑うのに疲れてしまうまで、男はじっと見守っていてくれた。
『ひひひひ、ひぃ、なんかおなか痛い……ほっぺも引きつって痛いよぉ』
『だ、大丈夫ですか?』
立ち上がれなくなってしまったもちを男が手伝って起こした。
『ふふ、でもだいじょうぶ。ああ、なんか胸のなかではねてるような気分だぁ』
『その気持ちは『楽しい』って言うんですよ。その顔は『笑顔』って言うんです。いい顔で笑うじゃないですか、キミ』
その時、彼女は直感的に悟る。
『ああ、そっか。みんなもこんな気持ちになれば、泣かなくてもすむんだ……』
『そうそう。いつも笑っていれば、泣くことなんて忘れちゃいますからね。これからはキミの心がたくさんの『楽しい』であふれるよう、私たちがお手伝いします。だから、キミはその『楽しい』って気持ちを、キミひとりだけじゃなく、たくさんの人たちに分けてあげてください』
胸に詰まったこの輝く感情を、多くの人々と共有できる。それはとっても素敵なことのように聞こえた。
『おっけー。あたしにまかしといて!』
CGモデルで再現された学校。
CGだろうが生徒も先生もいるし、教室もある。
もちろん、部活や委員会も。
電脳世界の学園「私立ばあちゃる学園」の図書室。
現実世界風に言えば電子書籍のような資料がたくさん保存されている場所だが、もとよりデータの存在である「アイドル部」にとってはふつうの本となんら変わらない。
カウンターには図書委員がふたり座っているが、利用者もいないのでめいめい好きなことをして暇をつぶしている。
「アイドル部」部員にして、図書委員会にも入っている猫乃木もちはバトルもののマンガに夢中になっていた。
『終極のディエンドル』。
『いまから私は、君を守れるくらい強くなる』
そう呟くと、さっきまでふつうの女子高生だった主人公『ヒツギ』が超人的な力を解放し、群がる敵をばったばったと倒していく。
呪われた宿命を背負いながらも、ヒロインの覚悟はゆるがず、迷いがない。
彼女が勝利したあと、救われた街の住人たちの顔には希望と、笑顔があふれていた。
「かっけえ~」
マンガを読み終えたもちが足をばたばたさせながら言う。発売されている話はここまで。続きが楽しみで待ちきれない。
「また違うマンガ読んでる。前のはもう飽きちゃったんですか?」
新聞を読んでいたもうひとりの図書委員が紙面からもちに目を移す。眼鏡をかけており、大人しそうな印象を与える外見。透き通ったエメラルドのような不思議な髪の色をしている。彼女の名前は「神楽すず」。もちと同じく「アイドル部」の一員である。
「べつに飽きたわけじゃないよぉ。いままで読んでたマンガとかラノベはだいたい最新まで読んじゃったからさ」
「え、もうですか? 意外と本読むの早いですよねもちさん」
「ふふ~ん」
とはいえ、すずの言うこともあながち間違ってはいなかった。
猫乃木もち―――「ネコの気持ち」。
名は体を表す、とことわざでも言うように、もちの趣味嗜好はまさに「猫の目」のように気まぐれだ。かっこいいもの、かわいいもの関係なしに、楽しそうだ、面白そうだと思ったらなんでも見境なしに手を出し、大抵のものはあっというまに楽しみ尽くして飽きてしまう。
まだまだ生まれたばかりの彼女にとっては、目に映るものすべてが珍しくてしょうがないのだ。あれはなんだ、どうやって楽しむものなんだと思ったら、もうその世界に全身で飛び込みたくなる。そんな毎日が彼女にとってはいちばんあっているし、楽しいと感じた。
「あたしもいっぺんこのマンガみたいなことやってみてーな! 悪いやつをやっつけて、みんな笑顔でさ……」
興奮が冷めないもちは、ひらり、と音もなく机に飛び乗ると、かっこよくポーズを切ってみせる。
「それってつまり……『正義の味方』的なことですか? いつものワルはもう飽きたんですか?」
もちの興味が長く続いている数少ないことがらのひとつに、「ワル」というものがある。権力に媚びない。あえて汚い言葉やふるまいを選んで使う。危険の香りに酔い、目的もなくてめーが楽しむためだけに動く、そういう行動原理だ。――まあ、あくまで雰囲気を楽しむ程度だけれど。
「だから~、飽きたんじゃないってば! ワルもちゃんと続けるよ。ある時はヒーローもちで、またある時はさいきょーのワルもちになるの。ほら、あるじゃん、今日はマカロン食べたい気分、今日はタピオカの気分、みたいなさ? いろいろ選べたほうが楽しいじゃん!」
「そ、それって飽き始めてるってことじゃ……まぁでも、そういうのも新しいかもしれないですね」
「でしょ?」
「……でも、まずはどこかで事件が起きないと、ヒーローは活躍できないですよ」
もちが首をかしげた。すずが読んでいる新聞に大きく載っている記事が気になる。
乗った時と同じように、机からひらりと降りてきたもちにすずが新聞を見せた。
あ、と。興奮していたハートがしゅんっと冷める。
破壊された建物の写真。
「連続爆弾強盗」と見出しがついていた。
「……銀行がいくつも襲われた、って書いてある」
もちは文面にすっと目をすべらせただけでおおまかな記事の内容を理解した。
「私たちのいる電脳世界は毎日平和だけど、現実世界は結構過酷みたいですね」
「お金って、人から盗んででも欲しいものなのかな」
「どうなんだろ……? 私たちはちゃんとおこづかいをもらってますけど、ほんとに追い詰められたらそうなっちゃうのかも」
「でも、ほかの人を悲しませてまで……」
もちの目は、大きな被害現場の写真より、被害者の写真のほうを見ていた。爆破に巻き込まれてけがをした人や、財産を失って泣いている人。歪んだ顔や涙を見ていると、その心の痛みも伝わってくる。
気持ちは人から人へ伝わるものだ。だからこそ彼女は、いつもみんなに笑顔を届けるためにがんばっている。
――見かけだけはワルぶっていても、本当に悪事を犯す人間の考えることまではわからない。
「……人間って、なんでいい人と悪い人がいるんだろ」
すずがぽつりとつぶやいたが、その時のもちはもう胸がいっぱいになってしまっていて、なにも考えられずに
「わかんないよ」
とだけ答えた。
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