盲目少女がニャルラトホテプを召喚したようです   作:零眠れい(元キルレイ)

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☆42話 盲目少女は信じたいから信じたくない

 ――そこは、雨生夢月という人物の、小さな――小さな記憶の保管所。

 喜怒哀楽の内の――哀しみを扱う場所であった。

 故にここは、赤く燃え上がってはいない。

 ……故にここは、明るくない。

 この空間の色も――少女の、表情も。

 朗らかとは無縁の面持ちで、少女は佇んでいた。

 その太陽のような髪色も、その星のような服も、まるで濁っていて。

 そこに立っているのは、夢月としての傷だ。

「――……」

 少女は何をするでもなく、じっと虚空を見つめていた。

 目には光なんてものは入らない。

 代わりに――視界に入ってきたのは、一つの色の付いた欠片。

 少女の前に、音を立てて上から降ってきたのだ。

 それは漆黒の床に跳ねて、転がり込む。

 いつもならそんなもの、素通りするのだが――少女は珍しくも、その欠片を手に取った。

「これ……あの時の……」

 物珍しそうに、辿るようにして呟く少女。 

「確か、そう……心ちゃんとの、大事な……大事な?」

 瞳をほんのりと反応させて、「そんな記憶だったような……気がする」と自信なさげに回想を始めた。

 ――そんな、忘れかけていた、思い出だ――……。

 

 

 

 

 

「さいきんね、こわいゆめをみるの」

 瞳を閉じる幼子は、不安そうに俯く。

「みたくないのに……なんども、なんども」

 いや、彼女は不安だけでなく、恐怖さえも抱いているようだった。

 だから唯一隣に座るもう一人の幼子は、優しく接する。

「そっか……それで最近、元気なかったんだね。……どんな内容なのか、訊いてもいい? きつかったら言わなくてもいいからね」

 判断を委ねる配慮を――だが瞳を閉じる幼子――夢月は、「ううん、だいじょうぶ。はなしたかったから」と首を振った。

「こころちゃんになら、はなしてもいいっておもえるの」

 そう、嫌な感情を安堵感で纏い、和らげる。

 心が近くにいるからこそ表に出せる、その姿。

 応えるようにして、同年代の彼女はやや頬を緩ませた。

「じゃあ、夢月ちゃんの期待を裏切らないようにしないとね。それで、どんな夢なの?」

 ――そんな風に。

 そんな風に彼女が返事をしてしまったから。

 夢月は無防備にも――最悪にも、伝えてしまったのだ。

「……おおきなかいぶつがね、でてくるんだ。あしがたくさんはえた、くろいかいぶつが」

 夢月は目が見えない。

 相手の心境を敏感に読み取るほど、精神年齢も成熟していない。

 だから気付かなかった。

 だからわからなかった。

 相手が発した、たった一音を。

 「――え?」という、その意味を。

「なんでかな……こわいはずなのに、わたし、そのかいぶつにてをのばすの。ついていきたいっておもっちゃって……ゆめのさいごには、しんじゃうんだ」

「……っ」

 夢月は何も知らずに語る。心が理解している“夢”を。

「まいかいまいかい、きえちゃって……ねぇ、なんであんなゆめ、みるのかな。よんだえほんには、あんなのでてこなかったよ」

 ――その時までは、まだ。

 まともで、いられたというのに……。

「……それ、は……」

「……?」

「その、夢は……」

 振り絞られた途切れ途切れの言葉が、だが夢月には意図を察せない。

「こころ、ちゃん……?」

 心の中で何が起きたのか、わからないからだろう。

 今心が抱いているものの形が、視えないからだろう。

 夢月は悪くない。

 何も悪くなんて、なかった。

 ただ。

 ただ――。

「……」

 いつまでもだんまりなものだから、「こころちゃん――」と、そう彼女の裾を掴もうとしたけれど。

「その夢の話は、もう……やめよう」

 裾に触れる前に。

 友達は、そう言った。

「やめた方がいいこと……だと思うから」

 拒絶するみたいに。

 諦めるしか――ないみたいに。

「だから……もうしないようにしよう」

 ――期待に沿うどころか、最大の裏切りに対して。

 幼子は――従順にも頷く。

 「うん、わかった」と。

 手を引っ込めて、持っていた恐怖を奥へ奥へと連れていく。

 夢月の顔つきは、いつも通りの晴れやかなものに戻っていた。

 ――あるいは、淡いとも取れるかもしれない。

 

 

 

 

 

 友達の目を逸らす様が、ぼんやりと映し出された欠片を拾い取っ少女は。

 奥底に秘められた、“少女”の思いは。

 その時――もしかしたら、涙を流していたのかもしれない。

 流し続けているのかもしれない。

『――封じたかったのに』

 と、小さな口からこぽりと垂れ落ちるように、ひとりでに少女は呟いた。

『なんで今、それを思い出すの……?』

 ――その呟きが、夢月自身に響くのなら。

 まだ、救いようがあったのかもしれないのに。

 

 

 

 

 

「ん……ここ、どこ?」

 光を拒む瞳でさえも慣れてくるまでに少し時間がかかる暗い場所で、目覚めた夢月はまずそう首をかしげた。

 不思議そうに、そりゃあもう素直に。

 帰れなかったらどうしよう――悪い人がいたらどうしよう――などといった心配事が思い当たらないほどだ。

 ふぁ……と能天気にもあくびして、それからようやく、ここがどこなのかを調べようと立ち上がる。

 ……が、やっぱりやめた。

 少しずつ慣れてきた視界で、ある者を捉えたからだ。

 それはすぐ近くにあって、動かずとも視線を下げてみれば――やはりというべきか。

 佐藤心……夢月にとってはかけがえのない存在。見覚えのある友達が、そこにはいた。

 寝ているのか、気絶しているのか……ともかく彼女は、倒れている。

 数日ぶりに……いや、もっと長い間、会っていなかったような気がして、恐ろしい状況であるにも拘わらずほんのりと笑う夢月。

 純粋に、久しぶりに友達に会えて嬉しいという――そんな喜びだった。 

 ついでに、彼女ならここがどこなのかわかるかもしれないと、身体を揺さぶってみる。

「心ちゃん、心ちゃん」

 ……だが、自分の予想とは裏腹にまるで起きる気配がなく、またまた首をかしげる夢月。

 身を捩らず、呻くこともせず、呼吸音さえ聴こえてこないのは――いくらなんでも、不自然ではないか?

 その疑問は次第に――残酷な回答へと結びつけた。

 それでも夢月の顔色は、何一つ変わらない。

 ――やはりこの少女は、中途半端に壊れている。

「なるほど、夢月はその子と仲が良いみたいだね。ようやく合点がいった」

 唐突に聞こえてきた、馴染みのある声――前方へと振り向いてみれば、相変わらずの暗闇があった。

 やがて――夜空の月が顔を出したのだろう。後ろの窓から漏れ出る光によって、その輪郭を捉えることができる。

 ここが建物内であること。

 そして先程のセリフの主――ニャルラトホテプが距離をおいて座っていたことが判別できた。

 彼女の姿に、夢月の脳内に疑問が積み重なる。

 もう戦いは終わったのか?

 生きているということは、勝ったのか?

 ……様々なことが過るも、実際に夢月が口にしたものは、全くの別物であった。

「ニャルラトホテプ……心ちゃんは死んでるの?」

 死を理解していないようで――その実、誰よりも理解している問いかけ。

 その確認が――予期しない真実を暴いてしまうとも知らずに。

 ……あまりにこの少女は、無知すぎる。

 何を思ってか、ニャルラトホテプは表情を無色にして事実を述べた。

 平淡にも、冷淡に。

「死んだ……というのは、少し違うね。確かにその身体はもう動かないし、君は二度と心に出会うことはないけれど――その身体自体は生きてるよ。心臓は動いているし、脳も稼働している」

 滑らかに、常識の如く非現実的な状態を説明する。

 それを受けて――“夢月にしては”、大げさな動揺だった。

 本気で混乱していると、あくまでもそう主張する。

 主張しようと、する。

「な……なにそれ、意味わかんないよ。なんで、心ちゃんが、そんな状態に……」

「『なんで』? よりにもよって、夢月がそんな言い方をするの?」

「っ! ……――」

 追い詰めるように発せられた、たった一言に――少女は胸を射抜かれたようにすら感じた。

 それでも、言い訳を探す――信じたくなくて。

 逃げたくて、“信じたい”から。

「あ、当たり前じゃんっ。いくらバカなわたしでもおかしいなって思うよ。だって、心ちゃんは……聖杯戦争に関わりのない、ただの――」

「ただの、何?」

 言おうとして、彼女に遮られて。

 思考する時間を……与えられてしまった。

 もう逃げ場なんてないことを、諭せるほどの思考を。

「……ひどいよ、ニャルラトホテプ……」

 悪態をつくその空気感は――しかしいつもの溌剌さなんてものはなく、とても静寂で。

 今少女の頭に蘇るのは、眠りに落ちる寸前に聴いた、あの知らない声。

『あなたは――私を、知らない』

 そして。

 その人物に対して、戸惑いながらも自分の中に浮かんだ名前。

『心、ちゃん……?』

 ――最後に。

 夢月が言いかけようとした『ただの子供』というキーワード。

 なぜ、人間という単語にしなかった……?

 ……その答えが、じわりじわりと彼女を蝕む。

「……ねぇ……本当、なの?」

 顔を伏せて、裏切れ裏切れ裏切れと念じるように紡ぐ疑問符を。

「さてね、夢月が何について指しているのかさっぱりだから、なんとも」

 だがニャルラトホテプは、その“期待”に応えない。

 これまで何度かイタズラ彼女に苛立ちを感じていたようで――本気で舌打ちしかけたのは、これが初めてだった。

「じゃあ……答えて」

 故に夢月は。

 彼女――ニャルラトホテプに向かい合わなければならない。

「心ちゃんは、何者……?」

 座り込みながらも、はっきりと見上げる人間の瞳に。

 ――無理矢理に決意するも、ぐにゃんぐにゃんなそれに。

 見下げる邪神は、まばたきした後に告げた。

「佐藤心は人間ではない」

 もはや反応しなくなった、小さな子供に。

「彼女はイースの大いなる種族――まぁ要するに、私やショゴス、ミ=ゴと似たようなものだ。時間旅行したり、他種族と精神を入れ替えることができる。その肉体は――察するに、この世界で人間社会に溶け込めるよう持ってきた人形といったところだろう」

(……ああ、そうだろうね)

 知ってるよ。知ってたよ。気付かないフリをしてただけだ。

 だって……それで全部、説明がつく。

 全部……ぜんぶ。

 ――ニャルラトホテプは、やや関心を帯びた視線を夢月の隣へと移す。

「彼女は相当お人好しな性格のようだ。わざわざ空っぽの人形を用意するなんてさ。他のイス人は、そんな面倒で効率の悪いことしないよ」

 ニャルラトホテプがする分析に、しかし夢月にとってはそんなこと……どうでもいい。

 その程度、昔から身をもって実感していることだったからだ。

 ――泣き出す夢月をあやすのは彼女で。

 ――わからない文字を教えるのは彼女だった。

 悩みを聞いてくれて、気分を楽にしてくれるのは、いつも。

 助けてくれたのは――彼女。

「……そっか」

 夢月に唯一手を差し伸べた友達は。

 人間ではなかったのだ。

「……」

 じっくりと受け止めるように、重く――けれど幼い少女には、重すぎるようで。

 未だに、足掻こうとする。

「ねぇニャルラトホテプ、わたしの正体はなんなの?」

 酷く落ち着いたトーンを繕えても、内包された嘆きまでは繕えず。

 だけど、訊かずにはいられなくて。

 半ば自暴自棄に、なっていて。

 ――受けたニャルラトホテプは、わざとらしく目を丸くした。

「ん? 正体もなにも、君はにんげ――」

「やめてよそんな嘘……人間なわけないじゃん。だって本当に人間だったら、わたしを助けてくれるのも人間のはずだよ」

 目線を下げたまま、なのにその口は絶えず不気味に続ける。

「森の中で独りだったわけじゃない。わたしの周りにはたくさんの人がいた。家族だけじゃない。先生たちだって……」 

 それが最も避けたかった、気づきたくないことに繋がるとしても。 

 ――その先に待ち受けるのが、深い悲しみだとしても。

 言わなければよかったのに……なんて、そんな配慮すらも、夢月にはもはや必要なかった。

 とっくに……認識していたことだからだ。

「なのにそんな中、人外である心ちゃんにだけ助けられるなんて、そんなの――」

「そんなの、“夢月を同情する者が神話生物しかいなかった”から」

「――……」

 無造作に流していた勢いは、止まる。

 朧げで幼い少女は、その覇気のない瞳の先を床からニャルラトホテプへと移した。

「……それ以外に、考えられないよね」

 ――神は言い渡す。

 これ以上なく静かに――無慈悲にも。

 認識していたこと……気づきたくなかったこと……理解を拒むことを。

 夢月は――何の力も入らないとばかりに、口端から独り言をこぼした。

「……なに、それ」

 顔を伏せながら、溢れ出る涙と共に、こう落とすのだ。

「わたし、狂ってなんかないのに……」

 普通の人間――だったのに。

 ……彼女が狂ったのは――壊れたのは、心と関わったからで、それだけだ。

 少女は人間に見捨てられ。

 それ故に、“見捨てざるをえない”思想を持ってしまった。

「……もうやだよ」

 良い人もいるって、信じさせてよ……。

 

 

 

 

 

 スラリと高く細い長身の腰にまで届く赤髪は夜色に染まり、冷たい印象を抱かせる肩にかけられた上着は夜風に揺れて、鋭利と儚さを伴わせた面持ちを夜に溶けさせるその女は――小高い丘を上っていた。

 穏やかな彼女にしては珍しい顔つきであり、それ故にどれほど真剣なのかを理解させられる。

 目指すのは、この丘の頂上に建てられた建物――早歩きで向かっている最中、赤髪の女はポケットから携帯電話を取り出し、どこかへと連絡するために数字をプッシュした。

 慣れているかのようになだらかに指を動かし、着信へ――十秒ほど経てば、相手が出る。

「……もしもし、ユリ?」

 その声色は――またも、彼女にしては濃ゆい。

 だが、彼女の目的を知っている者からすれば、その態度は当然といえた。

 ――呼びかけられた相手は、それとは対象的に豪快という表現が似合う女性声を返す。

『よぉ心、どうだった?』

 開口一番に、彼女は心にそう問いかけた。その言い回しから、電話先の相手が今回の作戦に一枚噛んでいることはいうまでもないだろう。

 スピーカーは活発な女性声と共に、カタカタという音を拾う。ユリがスマホを耳と肩で挟み、両手でキーボードを操作しながら話しているためだ。

 彼女はいつもそうだった。それほどまでに、地球で生まれた文化――ゲームにのめり込んでいる。

 そのことをよく理解している赤髪の女は、大して物音を気にすることなく今回の作戦の末路について、端的に報告した。

「失敗したよ。ユリに作ってもらった魔力を遮断する空間には連れて行けたけど、殺そうとした瞬間にあいつが来て、阻止された」

 心の様子が少々げんなりとしていることと、以前より鋭さが増しているのは――電話口であろうと、長年の付き合いであるユリにも伝わっていて。

 違和感を感じるも――先に件を片付けてからにしようと、手軽な調子のままで応じる。

『あーりゃりゃ、そりゃ“運の悪い”ことに。ってことは、例のアレも作った方がいいわけ?』

 確認すると彼女は、節々から切羽詰まっていることを察せられる雰囲気で頷いた。

 ――本当に、何があったのだろう?

「うん、お願い……サーヴァントの魔力を増強させるアイテム、できるだけ沢山」

『軽く言うなぁ、まぁいいけどさ。溜めてたアニメを消化しながらでも作ってやるよ』

 率直に、前向きな意見を伝えれば――しかしそれでも、心の必死さは収まらない。

「……ありがとう。この埋め合わせは、絶対にするから」

 そのお礼の仕方は、彼女らしいといえば彼女らしいが、言い方がいつもと異なる気がした。

 まるで……そう、追い詰められているみたいだ。

 あの邪神に何かされたのだろうかと、ユリは訊いてみることにした。

『……おい、さっきからどうしたんだよ。やけに落ちこんでるじゃねぇか。この策が失敗するのは想定の内だろ? この前の銃殺だって失敗したし』

「……」

 その指摘は――心も、予想はしていたのだろう。

 しばし返答がなかったが、ため息を一つついた後に、語り始める。

「別に、そのことについてはもう割り切ってるよ。相手はあのニャルラトホテプだしね――偶発的な何かがない限り、成功しないと思ってる。ユリが思い出させてくれたこと、ちゃんと覚えてるよ」

 そこだけ聞けば、特にこれといって事は起きてなさそうだった。

 ――そこからは。

 「……だけど」と継いだ次の内容は、彼女を沈ませるには十分だった。

「夢月がね、言ったんだよ。……『心ちゃん?』って」

 それだけは、絶対に避けたかったと。

 まだ間に合うと――そう思いこんでいたことを懺悔するように、彼女は発露する。

「あの小さい方の身体じゃない。今の私の姿を視て……元の身体とは、正反対な――しかも私、何も喋らなかったのに、確かに言ったんだ――確信していた、あれは」

「……」

 そりゃあ――重くもなるだろう。

 夢月を“人”として育てたかった彼女としては、急がずにはいられなくなるだろう。

 それだけじゃない……己を激しく、責め立てる。

「どうして“こっち側”に来させちゃったかな……どうしてあの子に人としての人生を歩ませてあげられなかったかな……」

 自らの選択を悔み、そして、次に呼び覚まされる感情は――

「なんで肝心なときに、あの子を助けられないんだ……っ」

 ……それはいつも、決まって怒りだ。

 痛々しくなるほどに、彼女は自らに、憤る。

 ……五年も前から、引きずっている。

 夢月が“夢”を見た、あの日から……。

 それは他人思いな心だからこその苦しみともいえて。

 ――同時に、報わせてやりたいとユリに思わされるほどだった。

 あれだけ鳴っていたカタカタというキーボードの音が、そのときピタリと止む。

『この前も言ったけどよ。聞く限り、夢月のことは救えてる方だぜ。お前なりにやれることはやった。ただ――これが限界だっただけだ』

「……」

 心は沈黙する。それを肯定するのは――甘えだと。

 しかしなおも、ユリは口にした。

 彼女の功績は……決して、詰られるものではないから。

『更なる人としての救いは、イースの大いなる種族としてのお前が許さねぇよ』

 諦めきれない心には、これは慰めにすらなっていないのかもしれない――一段と傷つけるかもしれない。

 だが、それらを承知の上でユリは言葉にする。

 彼女はあまりに……自分を痛めつけすぎだ。

 もういいだろう。

 もう……泣いたっていいだろう、と。

『お前を許さず、罰する――そして受けるのは』

「夢月、でしょ――わかってるよ。そんなの」

 ――だけど本当は、彼女は何もわかってなくて。

 ただただ、自分を許せず、自分を罰したくて。

 なんとしても、助けきりたいという思いを捨てられない。

 捨てることは、“心が”許さない。

 ……かける内容が間違えていることはわかっていながらも、どう変えればいいのかがユリにはわからなかった。

 心は勘違いしたまま――いや、わざと勘違いして、最後に告げる。

「だからせめて、私の手で償う。あの子にはこれ以上、何も背負わせない」

 ――ピッ。

 それからすぐに、ユリが何かを言う前に電話を切った。

 目的の建物の前まで来たから――何より、この覚悟を鈍らせたくないから。

 気を引き締められて良かったと感じる彼女は。

 ――視点を変えれば、支えを切り捨てているだけなのに。

 心は疲れを見せない顔つきで、“教会”の扉を開ける。

 (こんな形で英雄に会いたくなかったな……)なんて、思いながら――。




・ニャルと地球

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・……ごめんね

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・ミゴさん描き直し

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