果たして、"彼"は生き延びる事ができるか?
パラレルワールド、とある時空から分岐し、それに並行して存在する別の世界。
並行世界、並行宇宙、並行時空とも呼ばれる。極めて近く、限りなく遠い世界。
創作作品の題材としても用いられる、そんな世界。
もし、そんな世界が本当に存在するのなら、その世界は、どんな歴史を歩むのだろうか。
その世界の歩みを、"傍観者"としてながめてられるのならば、これ程面白い事はないだろう。
しかし、もしその世界の一員、"当事者"として世界の行方を目にする事になれば、これ程辛い事はないだろう。
そう例えば、画面の中だけに広がっていた世界の一員として、その世界の役者の一人として人生を歩むことを強いられる。
そんな摩訶不思議な体験の当事者となったと知った時。その時、当事者となった事実を、喜ぶだろうか、それとも絶望するだろうか。
喜ぶ者もいるだろう、しかし、絶望する者もいるだろう。
つまるところ、十人十色。
だが、少なくとも"彼"は、自身が摩訶不思議な事象を体験する事になった当事者に、突如として選ばれた事に、絶望を禁じ得なかった。
何故なら、"彼"は、自身が突如として一員となった世界の全容を知っていたし。
自身が演じる事となった役者の素性も、そしてその役回りも、"彼"は知っていた。
ラスティ・マッケンジー。
ロボットアニメの金字塔、機動戦士ガンダムを始めとした作品群。
その内の一つ、二十一世紀のファーストガンダムを標榜とし制作されたロボットアニメ、機動戦士ガンダムSEED。
同作品に登場する登場人物の一人、それが、ラスティ・マッケンジーである。
「はぁ……」
同作品の重要なキーワードの一つ、遺伝子工学による遺伝子調整によって強靭な肉体と優秀な頭脳を兼ね備えた新人類、通称コーディネイター。
その一人にして、端正な顔立ちとオレンジの髪が特徴的なラスティは、自宅に設けられた自室の一角。
勉強机の椅子に腰を下ろして、深いため息をついていた。
「はぁ……」
作品内では一七歳の青年として登場したラスティであるが、この世界での彼は、まだ六歳のあどけなさが残る少年であった。
そんな彼が、二度も深いため息をついた理由は、机の上に広げられた学習ドリルの内容が難しいからではない。
本来のラスティとは異なる、ラスティとしての役回りを演じる事になった"彼"が、ラスティ・マッケンジーという人物の行く末を知っているからだ。
「どうしてラスティなのかなぁ……」
折角将来は美形になるであろう片鱗をうかがわせる顔を、眉間にしわを寄せ、思い詰めたような表情を作るラスティ。
もし、両親が今のラスティの様子を目にしたのなら、一目散に駆け寄り心配の言葉をかけるだろう。
だが生憎と、ラスティの両親は今、リビングで仲良くテレビを見ている。
なので、必要以上に心配される恐れはない。
「はぁ、せめてアスラン……、いや、やっぱりイザーク。あ、でも顔に傷が……。いや、この際ラスティ以外ならもう誰でもいい」
思い詰め、もはや絶望に満ちたように独り言を零すラスティ。
ここまでラスティが、正確には、オリジナルであるラスティの精神と肉体を意図せず乗っ取る事になった"彼"がため息を零す程のラスティという人物の行く末。
それは、天寿を全うせぬ"死"の運命が待ち受けているからに他ならない。
"彼"が知るラスティ・マッケンジーという人物は、機動戦士ガンダムSEEDの第一話に登場し、そして、早々に死んだ。
機動戦士ガンダムSEEDの敵軍たるザフトの一軍人として登場するラスティは、第一話のバックボーンたるガンダム奪取作戦に参加し、ガンダムことG兵器の奪還を試みるも、凶弾に倒れ無念の戦死となる。
その後の話にも登場するものの、それらは写真、或いは他者の回想内での登場で、生者としてのラスティの人生は、本編第一話時点、
因みに、この世界の現在の年月日は、C.E.六〇年一月二五日であり。
仮にこの世界のラスティが、ラスティの中の人たる"彼"の知る通りの最後を迎える事になるとすれば、ラスティの人生は、あと一一年しかない事になる。
そう考えると、一一年後に死ぬと分かっていて、素晴らしい未来を夢見て毎日を過ごす、なんて暢気な気分には、とてもなれなかったのだ。
「くそ、なんで俺がこんな事に巻き込まれなきゃならないんだよ……」
頭を抱え、肉体的には六歳だというのに、未来への絶望を零しまくるラスティ。
こんな事ならば、ラスティ・マッケンジーという人物の人格に成り代わらなかればよかった、そう思わずにはいられない"彼"であった。
そもそも"彼"は、ラスティという人格に成り代わる以前は、機動戦士ガンダムSEEDを始めとしたガンダムシリーズが商業作品として存在する世界の一員であった。
いつものように平日を過ごし、待ちに待った連休を過ごすべく、大好きなガンダムシリーズのアニメ作品を徹夜で視聴し。
そして、いつものように就寝して目を覚ますと、ラスティ・マッケンジーという登場人物に成り代わっていたのだ。
それが、二週間前の事であった。
"彼"の前世と言うべき世界で、他人に成り代わり、その者として第二の人生を経験する、所謂憑依転生。
そんな創作作品の題材としても用いられる出来事を自分自身が体験する事になり。
更には、その憑依先がラスティ・マッケンジーとなっている事に気付いた"彼"は、成り代わった人物の行く末を知っているが為に、次元を超えた転生に喜ぶよりも絶望せずにはいられなかった。
憑依転生したと理解した当初など、その憑依先の正体を知り、何度涙で枕を濡らしたか。
だが、この世で新たな両親となったラスティの父親と母親に、息子の中身が成り代わっているとも、その息子が一一年後に死亡するとも素直に発表できる筈もなく。
必要以上に心配され、あらぬ精神病等まで疑われぬ為にも、"彼"は、赤の他人であるラスティの両親や知り合いなどの前では、年相応のラスティを演じ、疑いの目をかわしていた。
それでも、一人となると、やはり涙で枕を濡らした。
幸い、両親に涙で枕を濡らしていると知られても、怖い夢を見た等と、肉体年齢相応の嘘で誤魔化す事は出来た。
「いや、でも……。もしかしたら、"この世界"では、生き残れるかもしれないしな」
そんな絶望に打ちひしがれていた二週間ではあったが、ただ、この二週間、単に枕を涙で濡らし続けた訳ではなかった。
ラスティが凶弾に倒れ死亡する、そんな未来に少しでも抗うべく、"彼"は出来る範囲で出来る事を行い始めていた。
その一つが、現在の世界情勢や国内状況等の、情報収集であった。
幸い、ラスティの父親であるジェレミー・マクスウェルは、行政の議員を務めている為、その手の情報を自宅にも持ち帰り、情報の入手先には困らなかった。
だが、突然六歳の子供が、世界情勢や国内状況などを積極的に知りたがるなど、幾らコーディネイターとはいえ、親からすれば不審に思わずにはいられない。
そこで、両親の目を盗んでは、コツコツと情報を入手し続けていた。
「だって、純粋なSEEDの世界じゃないしな」
そして、二週間の間に入手した情報を整理し、"彼"が見出した一つの希望の光。
それが、この世界が、"彼"の知る純粋な機動戦士ガンダムSEEDの世界ではない、という事実。
この世界の紀元は、機動戦士ガンダムSEEDと同様の
コーディネイターも、その対義語である、遺伝子調整成されていない人類、ナチュラルと呼ばれる人種も存在している。
また、砂時計型のコロニーの総称、プラントも存在している。
しかし、それ以外に、この世界には本来存在している筈のない、或いは本来とは異なる国家や組織などが存在していた。
その一つが、アジア・オセアニア共同連合、通称
原作では、本来北海道とそれ以外とでユーラシア連邦と東アジア共和国に組み込まれていた日本と、同じく東アジア共和国に組み込まれていた台湾。
更には、インドを除く赤道連合や大洋州連合、オーブ連合首長国であった地域を構成地域とする、地球を代表する一大勢力である。
因みに首都は、日本のメガロポリス。
なお、"彼"は気づいていないのだが、この世界の日本は、"彼"の前世の日本と比べると、幾分領土面積が大きくなっている。
A.O.C.U.の存在に伴い、原作において重要な国家の一つであるオーブ連合首長国、及び赤道連合や大洋州連合はこの世界では存在せず。
また、東アジア共和国は、日本と台湾を構成地域とせず。代わりに、インドや、原作においてはユーラシア連邦であったロシアのアジア地域を構成地域として有している。
この変化に伴い、ユーラシア連邦の構成地域が減少している他、ユーラシア連邦という国名も存在せず。
新ヨーロッパ共同体、通称
その他の地球上の国家に関しては、概ね原作と変わりはない。
だが、国家として表面上変化は見られずとも、その内情は、"彼"の知る原作とは大きくかけ離れていた。
だが、これ以上ここでの説明は割愛させていただく。
「そもそも、Zodiac Economy Organize Nation(黄道帯経済を組織する国家)、通称
だが何よりも、原作と異なる一番のイレギュラーと言うべき存在は、この
原作の基ともなったガンダムシリーズ記念すべき第一作、機動戦士ガンダムに登場するジオン公国と同じ名を持つ国家。
名前の由来は、地球周回軌道を黄道帯に見立て、そこに住まう自らが地球上の列強からの支配を脱し、自らの自治権確立と自由貿易圏設立を掲げたものとなっている。
端的に言って、地球の植民地支配からの独立を標榜したものだ。
その起源は、名前の一つと言うべき研究用コロニー"Zdiac"を中心とした、ラグランジュポイントの一つ、L5に建造されたコロニー群である。
新世代型コロニーであるプラントの足掛かりであると同時に、地球各国が当時抱えていた人口由来の諸問題を解決する為の実験装置、としての側面も有していた。
後に居住地よりも生産地としての機能を高めたプラントが提唱され、列強四天王と称される四か国、大西洋連邦・東アジア共和国・A.E.C.・A.O.C.U.の出資によりプラントが建造された後も。
同地点のコロニー群は、プラント理事国となった四か国が独自に進める宇宙開発、及びコロニー開発の際の先例として、その存在感を示していた。
しかしながら、後年のコロニー開発における移民政策と異なり、棄民政策を思わせる内情の違いや。
その特殊な成り立ち故、植民地扱いの如く、地球からの搾取に、市民は不満を募らせずにはいられなかった。
そんな最中、彗星の如く現れたのが、ジオン・ズム・ダイクンと呼ばれる人物であった。
宇宙生活者の自治権確立や、ナチュラルとコーディネイターの相互理解の可能性、更には"ニュータイプ"と呼ばれる、宇宙と言う名の新たなる環境に適応した新人類の概念等。
所謂ジオニズムを唱え、コロニーの市民のみならず、プラントの住民達からも支持を集めた。
そして、C.E.五八年。
質の高い生産品を輩出するものの、食糧の生産に関しては規制が設けられ自給自足が行えないプラント。
一方プラントに対し、食糧生産能力の拡大により自給自足以上の食料生産能力を手に入れたコロニー。
そんな両者が、地球の植民地支配からの独立を掲げ互いに手を取り合い誕生したのが、Z.E.O.N.であった。
Z.E.O.N.の政治体制は共和制を採用し、その初代元首は、首相に当たるZ.E.O.N.最高評議会議長に選出されたジオン・ズム・ダイクンが担った。
Z.E.O.N.は、その設立宣言と同時に、その主権を守るべき組織、国防隊の設立も発表した。
しかし、この宣言は当然ながら地球側からの反感を買い、両者の関係は、武力衝突も起こり得る険悪なものへと変化していった。
「でも待てよ、Z.E.O.N.が存在しているって事は、ザフトが設立されない可能性もあるって事だよな……。となると、ガンダム強奪も行われないかも知れないし。いやそもそも、ジンとかザフト系モビルスーツが開発されるのか? は!? まさか、Z.E.O.N.だけにいきなりザクウォーリアなんて事はないよな」
Z.E.O.N.と言う最大のイレギュラーの存在によって、"彼"はラスティの運命が変化する可能性に喜びを見出していたものの。
そのイレギュラーのお陰で、同時に自身が知る原作とはかけ離れた未来が訪れる可能性が大いにある事に、不安を抱かずにはいられなかった。
「そういえば、Z.E.O.N.もジオン・ズム・ダイクンもいるって事は、当然あの一家もいるんだよな……。Z.E.O.N.でもコロニーの連中はナチュラルだから、多分あの一家の面々も含めてジオン側のキャラは当然ナチュラルだろうな。ま、ガルマ様はコーディネイターでも通用しなくはないだろうが、特に厳つい三男とか、紫……。いや、前世でもジオンには美形もいたし、いやでもそれ以上に濃……、否、個性的なお顔立ちの方もいたような気がする」
作品によって登場人物の差別化を図る方法は様々だ。
口調や仕草など、様々な方法はあるが、一番分かり易いのは、何といっても個性的な外見だろう。
派生作品を含めれば、機動戦士ガンダムから派生し、それらに登場する登場人物の数は、他のガンダムシリーズ作品群に比べ、かなりの数を誇る。
その為、必然的に登場人物の差別化の為、個性的な外見を有した登場人物の数もまた、比例して多くなる。
設定上ジオン公国に属してる人物が、Z.E.O.N.にも同様に存在しているかどうかは現時点では分からない。
ただ、もし仮にそうした人物の幾人かがコーディネイターだった場合、"彼"の脳内に浮かび上がった幾人かの原作同様の外見を有していると考慮すると、一体コーディネイターとはなんなのだろうかと頭を抱えずにはいられなかった。
「ふぁ……。考え過ぎたら眠くなってきたな」
眉間によっていたしわが、欠伸により久々に伸びる。
精神は齢二十数年を数えるが、肉体はまだ六歳なのだ、この年頃の者にとって、十分な睡眠は発育の観点からもとても大事だ。
まだ見ぬ未来に備えて考えを巡らせるのは、今日はここまで。
ラスティは机の上を片付けると、自室を後に就寝前の歯磨きや、両親へのおやすみの挨拶を経て、再び自室に戻り。
自室のベッドに横になり瞳を閉じるラスティ。
程なくして、睡魔に身をゆだねると、夢の世界へと飛び立つのであった。
Z.E.O.N.の一部となったプラント。
この事態に反感を覚え、Z.E.O.N.に対する圧力を強化を率先して行ったのが、プラントへの出資の際に残りの二国を抜いて多額の出資を行っていた、大西洋連邦と東アジア共和国の二カ国である。
四カ国中最低額を出資しているA.O.C.U.や、平均的な額にとどまっているA.E.C.に比べ、上記の二カ国は、互いの意地とプライド、更には互いに主導権を得ようと牽制しあった結果。
大西洋連邦と東アジア共和国の二カ国は多額の出資を行い、それを回収すべくプラントへの依存度も、残りの二カ国以上に深いものとなっており。
故に、出資とその恩恵を根本から破壊する今回の裏切り行為には、心底怒り心頭であった。
そんな二カ国を中心として、Z.E.O.N.設立宣言以降、プラント理事国四カ国の宇宙軍部隊を中心とした合同軍のL5宙域駐留開始等、同国に対する有形無形の圧力がかけられていた最中のC.E.六二年。
この日、コロニーやプラント、更には地球上の各国、それはもはや地球圏全体に緊張をもたらす衝撃的なニュースが流れた。
それは、議会での演説の最中、ジオン・ズム・ダイクンが急死を遂げるという、衝撃的なものであった。
この風雲急を告げる事態にいち早く行動したのは、ジオン・ズム・ダイクンの側近であったデギン・ソド・ザビとその一族、通称ザビ家。
ザビ家が有する人脈を巧みに使用し、このダイクンの死をプラント理事国側による暗殺である、かのように流布し、Z.E.O.N.とプラント理事国との対立を更に掻き立てると共に。
自らがダイクン本人より後継人として指名されていた為、二代目のZ.E.O.N.最高評議会議長の座に座る事となったデギン・ソド・ザビは。
優秀な子供たちや支持者たちを用いて、ザビ家がZ.E.O.N.の全権を掌握すべく、同時に行動を開始した。
だが、その翌年のC.E.六三年。
プラントのエネルギー生産部門が、近年活動を活発化させていた、反プラント・反コーディネイター、更には同じナチュラルならが両者と協力姿勢を見せるZ.E.O.N.のコロニー市民達すらも裏切者と敵視する、そんな思想主義集団。
"ブルーコスモス"と総称される一派と思しき者達によるテロにより破壊される出来事が発生し。
その際、視察に訪れていたザビ家の次男であるサスロ・ザビがテロに巻き込まれ死亡、三男のドズル・ザビも負傷した他。
これにより生じたエネルギー危機の抗議の声に対し、プラント理事国は駐留戦力による威嚇を行うという顛末を迎え。
このテロによる事の顛末により、Z.E.O.N.独立の機運は更に高まり。
同時に、身内の犠牲を糧にZ.E.O.N.の世論を味方につけ、名実共にZ.E.O.N.全権の掌握をザビ家は。
政治体制を共和制から、ザビ家への権力集中を容易とする公王制へと移行。
最高評議会は存続するものの、その実態はザビ家の傀儡であり、半ば形骸化する事となる。
加えて来るべき真の独立を勝ち得るべく、軍備の拡大を進めると共に、圧倒的国力を有するプラント理事国を打倒する為の革新的な兵器の研究開発、そして実用化を、極秘に進めている事になる。
こうして世界がきな臭い様相を呈し始めた中。
ラスティの身近でも、風雲急を告げる事態が発生していた。
「どうして! 結婚前に約束したじゃない!?」
「仕方ないだろ! 好きなんだからさぁ!!」
リビングから漏れ聞こえる両親の言い争う声。
自室のドアを少し開け、隙間から耳を立ててその声に耳を傾けるラスティ。
ラスティの身近で起こった風雲急を告げる事態、それは、両親の離婚危機であった。
「家族の為に、そんな女は捨ててくれるって約束してくれたじゃない!?」
「あの時はそう言ったけど、だけど、やっぱり私には無理なんだ! 諦めきれないんだ! なぁ頼む、理解してくれ!」
「何が理解してよ! 私達家族の気持ちはどうでもいい訳!? そんな自分勝手、通じると思ってるの!!? そんなに好きなら、とっととあの女と一緒に出て行って!」
「な、ならせても、少しだけ、少しだけでも置いて……」
「嫌よ!! 一個だってあの女のものなんて、私は目にしたくないの!!」
声を荒らげる両親の様子に、耳を傾けていたラスティは不安の様子であった。
そしてそれは、"彼"も。
と言うのも、現在のラスティはラスティ・マクスウェルとなっており、原作に登場した際のラスティ・マッケンジーとは苗字が異なっている。
これは、両親が離婚し、後に引き取られた母親の性であるマッケンジーを名乗る、という設定が存在しているからだが。
このまま両親が和解せずに離婚するという事になれば、この世界でのラスティも、原作同様になる可能性が高くなることを意味していた。
(あぁ、このままじゃ名実ともにラスティ・マッケンジーになっちまうよ、不味いなぁ……。と言っても、この問題、俺が口出しした所でなぁ)
原作の設定では、離婚の理由としてナチュラルに対する考えの相違が挙げられていたが。
この世界では、プラントはナチュラルと手を取り合って誕生したZ.E.O.N.の一員という事で、コーディネイターのナチュラルに対する確執は原作程はなく、その為"彼"には両親が離婚しないのでは、との油断があった。
だが、コーディネイターであろうとなかろうと、男女の間柄が拗れる原因は、幾らでも存在していたのだ。
(にしても、まさか親父がなぁ……)
この世界でのマクスウェル家離婚危機の原因、それを思い出し、"彼"ことラスティは感傷に浸らずにはいられなかった。
「なぁ頼む! "カノかっち"のグッズ、いや、グッズが駄目ならせめて"ポップ★ソーダ"のコンサートに行かせて……」
「だから!! アイドルファンは卒業するって約束したじゃない!!」
「私にとってポップ★ソーダは生き甲斐なんだ!! カノかっちはマイラブリーエンジェルなんだよ! 天使なんだよ!! 応援したっていいじゃないかぁ!!」
(おやじぇ……)
マクスウェル家離婚危機の原因、それは、ラスティの父親であるジェレミー・マクスウェルの趣味であった。
どうやら、結婚前からアイドルの魅力に惹かれていたジェレミーは、結婚を機にアイドル趣味を卒業する誓いを立てていた様だ。
所が、最近、何らかの拍子でアイドル熱が再燃したのか、再びアイドル趣味を再開したジェレミー。
だが、誓いを破り、裏切られたと感じたラスティの母親は、ジェレミーに再度アイドル趣味を諦める様に言うも。
ジェレミーの再燃したアイドル熱は以前にも増して強く、両者は折り合いを付けられないでいた。
(まぁ、親父の気持ちも分からなくはないけどさ……。一回卒業するって約束したんなら、一言言ってから再開した方がよかっだろうに)
ジャンルは違えど、趣味に没頭する父親の気持ちも分からなくはない"彼"ではあったが。
せめて、家族の理解を得てからでもよかったのではと思うのであった。
「ならいいわ! もう離婚よ! そんなに私達家族よりもアイドルが好きなら、いっその事、そのアイドルと再婚すればいいのよ!!」
こうして、原作の設定とは多少異なるものの。
この後、ラスティの両親は正式に離婚、そして、母親に引き取られることになったラスティは、母親の姓を名乗る事になり。
ここに、名実ともに、この世界でラスティ・マッケンジーが誕生したのであった。
それは、ラスティ・マッケンジー十歳の時であった。
そして、C.E.という時代に大きなうねりが到来しようとしていた。
C.E.六八年。
この年、一つの隕石がZ.E.O.N.コロニーの食糧生産区画に衝突、食糧及び少なくない人命が失われるという事件が発生する。
この出来事に対するプラント理事国側の対応に端を発し、Z.E.O.N.とプラント理事国との関係が一触即発の様相を呈す事となり。
更に翌年のC.E.六九年。
先の出来事により食糧生産能力が低下したZ.E.O.N.は、遂に、規制によって生産が行えなかったプラントの一部を穀物生産の為に改装し、プラントでの食糧生産を開始した。
このZ.E.O.N.側の行動に対し、プラント理事国側は実力行使を伴う排除も辞さないと、半ば恫喝の如く勧告を行い。
遂に、プラント理事国側は、威嚇行動に出る。
この時、誰もがプラント理事国側の勝利を疑いはしなかった。
だが、この威嚇行為の顛末は、人々の、特に地球に住まう者達の予想を上回る結果を迎えた。
それは、プラント理事国側の駐留部隊を、数で劣るZ.E.O.N.が排除したからである。
地球の人々が予期していなかったZ.E.O.N.の勝利。
後に、L5宙域事変、或いはZ.E.O.N.側で呼ばれた"暁の蜂起"とも言うべき一連の事件。
この事件において、Z.E.O.N.側の勝利の要因となったのが、プラント理事国側の有するモビルアーマー、通称MA等の既存の兵器とは一線を画する革新的な兵器の存在。
全高一八メートルの、人間の如く四肢を有する巨大人型兵器、その名を、モビルスーツ、通称MS。
今回の事件において実戦投入されたMS、Zeon Autonomous of Knight Undaunted(ジオンの自治を守護する不屈の騎士)、の意味が込められたその名は、ザクI。
プラント理事国側のMA隊よりも数は少なかったものの、その性能差で終始MA隊を圧倒し、Z.E.O.N.の勝利に大いに貢献した。
このMSの有効性をまざまざと見せつけられた事件の結末に、プラント理事国側の一部では、独自のMS開発が行われていく事となる。
また、同事件では、Z.E.O.N.コロニー出身者などで構成された国軍軍人の他。
プラント出身の、所謂コーディネイターのみで構成されたZ.E.O.N.正規部隊の一つ、Zeon Affiliation Function Tissue(ジオンと共に働く組織)、通称
同組織は構成人員がコーディネイターのみという特殊性故、その階級制度も他の軍隊とは異なっており、最下級の階級は"少尉"となっており、将校のみで編成された軍、ともいうべき異質さを有している。
しかしながら、コーディネイターの軍隊であるZ.A.F.Tは、同事件において国軍軍人のエース達に引けを取らぬ目覚ましい活躍を見せたため。
後に、ザクIでは生かしきれないコーディネイターの能力を遺憾なく発揮できる、Z.A.F.T専用のMS開発・配備が進んでいく事となる。
暁の蜂起を経て、両者の対立はより一層先鋭化し。
もはや、外交解決は不可能なほど、両者の間に出来た溝は深いものであった。
そして、コペルニクスの悲劇と呼ばれる事件が、遂に、その引き金を引いてしまう事となる。
コペルニクスの悲劇を契機に"地球連合"が発足した数日後の、C.E.七〇年二月一一日。
この日、地球連合はZ.E.O.N.に対して宣戦を布告。
そして、C.E.七〇年二月一四日。
聖バレンタインデーを迎えたこの日、遂に、地球連合とZ.E.O.N.との間で開戦の火蓋が切って落とされた。
後に血のバレンタインと呼ばれ、地球圏の人々の記憶に深く刻まれる事となる出来事を合図に、巨大な戦渦が、地球圏を飲み込まんと広がり始める。
世界樹攻防戦と呼ばれる緒戦の一大決戦。
同攻防戦でZ.E.O.N.が初めて投入した新兵器、ニュートロンジャマー、通称Nジャマーの地球への降下。
Nジャマー降下に伴う混乱に乗じ、事前交渉により協力を確約した反プラント理事国組織の協力のもと、地上に戦力を降下させ、諸地域を制圧し、個別に撃破し後に単独講和を測り地球連合の力を削ぐ。
オペレーション・ウロボロスと呼ばれる地球侵攻作戦、重力戦線の幕開け。
こうして世界が、多少の差異はあれど、"彼"の知る機動戦士ガンダムSEEDの第一話に向けて徐々にその背景を整えていく頃。
一六歳となった"彼"ことラスティ・マッケンジーは、Z.A.F.Tの軍学校、通称アカデミーに入学し、原作の重要人物であるアスラン・ザラ等の同期と、立派な軍人になるべく座学や実習等を励んでいた。
「あー、何でこうなるんだよ……」
そして現在、ラスティはアカデミーの食堂でため息をつきながらうどんをすすっていた。
もともと、"彼"としてはアカデミーに入学する事は望んでいた訳ではなかった。
アカデミーに入学し、軍人となる事は、"彼"にとってはラスティ・マッケンジーという人物の行く末に大きく近づく事を意味していたからだ。
だから、軍人以外の職業に就職するつもりでいた。
だが、結局アカデミーに"彼"は入学した。
地球連合との戦争がはじまり、民間と軍とで平時とは待遇の差が逆転した為、普通の職業に就いても、離婚後、女手一つで育ててくれた母親への手助けにあまりならない事と。
二年前、元父親であり現在Z.E.O.N.最高評議会の一員でもあるジェレミー・マクスウェル氏が、本当にアイドルのカノかっちと再婚を果たしたことにより、世間からの体裁を鑑みて、であった。
そして、もう一つ……。
「おやじぇ……」
「お父さんがどうかしたのか?」
「あ、あぁ、アスランか。いや、何でもない」
と、そんな自身の境遇を嘆いていたラスティのもとに、トレーを持った、同期のアスラン・ザラがやって来て、対面の席に腰を下ろす。
因みに、アスランとは、片親、そして同じく父親で苦労している境遇と言う親近感から、原作同様に仲が良かったりする。
「なぁ、アスラン」
「ん? どうした、ラスティ?」
「例えどんな酷い奴でも。……血を分けた、血のつながった両親は、大切にしろよ。この世に、たった二人しかいなんだからな」
それは、"彼"がアスランの事を思い発した言葉であった。
「っと、神妙な事言ったら妙な空気になっちまったな。じゃ、空気を変える為に、いつものとっておきのラスティ語録をと。……『プラモでね、原作シーンを再現しようと"はんだごて"を下手に使うと、ミンチよりひでぇ事になる』」
「……ぷ、くく、な、何だよそれ」
空気を変えるラスティ語録なるものを聞いたアスランは、そのくだらなさか、或いはツボにはまったのか、声を殺して笑い始めた。
そんなアスランの様子を見たラスティ・マッケンジーを演じる"彼"は、静かに、心の中で決意を新たにする。
それは、"彼"が長年考えた末に一つの答え。
それを実現するために、それに必要な"力"を手に入れる為に、"彼"はアカデミーの門を潜った。
その考えとは、即ち救済。
俺がこの世に生を受けたのも何かの運命なら、俺の手の届く範囲だけでいい、その範囲の人たちを悲劇から救える手を差し伸べる。そうすれば、救われたその人たちが、更に新たな救いの手を差し出す筈だから。
そうすれば、連鎖はやがて、大きな変化となる筈だ。
その変化が、俺自身を生かす運命に導くと信じて。
果たして、このイレギュラーな
それは、神のみぞ知る。
本作品をご愛読いただき、本当にありがとうございます。
因みに、Z.A.F.Tは賞与年二回、託児所等完備で、子育て中の方でも働きやすく笑顔の絶えない職場です。