郡千草は勇者である   作:音操

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本当に、本当に遅くなってしまって申し訳ありません。
上司が入院したり色々とありまして、ここまで遅くなってしまいました。
また、今回は書きたい内容を文章にする段階で悩みに悩んでしまいました。
スムーズに書けるようになりたいです……

今回、試験的に特殊タグでフォントを弄ってみました。
もしかしたら今後も使う可能性があります。
『こういうのは見にくくなるから止めてほしい』などありましたら、遠慮なく感想やメッセージなどで仰って頂ければと思います。


第11話

「勇者様、本日の訓練はこれまでとさせて頂きます。クールダウンを兼ねたストレッチを行いましょう」

「私はまだやれますが……」

 

郡さん姉妹が武具を受け取って、おおよそ1週間が経過した。

これにて全員の武具が揃い、バーテックスとの戦闘へと向けた訓練が本格的に始まった。

今日も行っていたが、思ったより体力が残っている内に終わってしまった。

私達の訓練を受け持っている神官へその旨を伝えると、首を横に振られる。

 

「乃木様。貴方様にまだ余力があるのは分かっております」

「でしたら……」

「ですが、あちらをご覧ください」

 

神官の視線が向けられた方を見る。

 

「あーんずー、大丈夫かー?」

「う、うん、大丈夫、だよ……」

「杏ちゃん、無理は駄目だよ?身体を壊したら、元も子もないんだからね?」

「うっ……すみません。正直な所、結構厳しいです……」

 

息を荒げ、膝に手を当てている伊予島さん。

見るからに限界が近そうであり、土居さんや友奈が背中をさすったりしながら声をかけている。

 

「お分かり頂けるかと思いますが、体力の限界が近い方がおられます。無理をして、怪我等に発展してしまえば、今後に支障が出てしまうでしょう」

「……分かりました。今日はここまで、という事で」

 

本音を言えば、それでももう少し、という気持ちはある。

鍛錬とは、『限界だ』と自分が思った、その一歩先に踏み込んでこそ先に進める物だと思う。

だからこそ、伊予島さんにももう少し頑張って欲しい、と思う。

しかし、神官が言う通り、怪我等に発展してしまう可能性があるのも事実。

なら、今は基礎が出来上がるまで無理をさせない方針に従おう。

 

そういえば、郡さん姉妹はどうなんだろうか?

ふと気になって、辺りを見渡す。

郡さん達は……居た。

土居さん達から離れた場所に居る。

 

「はい、千景」

「姉さん、先に……私は、もう少し落ち着いてからで、良いから……」

「そう……それじゃあ、先に貰うわね」

 

伊予島さんと同じくらいに息を荒げる千景さん。

そんな千景さんの背中をさすりながら、スポーツドリンクを飲む千草さん。

千草さんは、私や土居さん、友奈と比べると余裕は無さそうだが、千景さんや伊予島さんと比べれば余裕がありそう、といった具合か。

 

「では、少ししたらストレッチを行いましょうか。2人1組になって頂けますか?」

「杏、タマとやろう!」

「うん、お願いねタマっち先輩」

「姉さん」

「分かったわ、千景」

「若葉ちゃーん!」

「よろしく頼む、友奈」

 

 

 

ストレッチを終え、今日の予定は終了となった。

しかし、先ほども言った通り、まだ余力がある。

どうしようか、と考えていると、声をかけられた。

 

「乃木若葉さん」

「千草さん?」

 

意外だ、と思いながらも振り返る。

そこには、自然な笑みを浮かべる千草さんの姿があった。

 

「少し、聞きたい事があって」

「聞きたい事、ですか?」

「貴方は武道を修めていると聞いたので。体力をつける為に良い方法などあったら、教えて貰いたいのだけれど」

 

体力の付け方、か。

 

「体力の付け方、との事ですが……まず、近道はありません。これをまずは前提として覚えてください」

「えぇ。それは分かっているわ」

「その上で、ですが……基本は良く食べ、良く動き、しっかりと休養をとる事です」

 

成程、と言いながらメモをとる千草さんを見る。

……少し、心を開いてくれたのだろうか。

少なくとも、初対面の時と比べると、警戒は緩いように感じる。

 

「また、『キツイな』と感じたらすぐに休憩を挟むのではなく、もう少しやる事が重要ですね」

「それは、何故かしら?」

「自分の限界を作らず、超える為です。『無理だ』と思い止めてしまっては、その先に進む事は出来ません。走っている場合はもう数メートルへ、回数のあるトレーニングなら1回でも多く、限界の先に進む気概……そうした気概は、成長には欠かせません」

「ある種の精神論、かしら?……いえ、否定はしないわ。確かに、今より上を目指すからこそ、トレーニングをするのだもの」

 

メモをとって少し悩む仕草をした後、千草さんがこちらを見る。

 

「……乃木若葉さん。貴方の考え方なのだけれど」

「なんでしょう?」

「自分の限界を決めず、先を目指す。確かにそれが重要なのは分かるわ……けれども、そういうのはある程度の水準まで鍛えた人の為のモノだと思うのよね」

「……そう、思いますか」

「そうね。私と千景、それと杏さんはインドア派の人間だもの。気力や体力の限界が来るのも早いし、そこから無理をして怪我をする確率も、貴方と比べたら遥かに高いわ」

 

神官の方と同じ意見、か。

 

「貴方の考えを否定する訳では無いわ。けれども、その段階に踏み込む前に、千景や杏さんの体力をある程度つける必要がある、そう思うという話よ」

「……先ほど、神官の人とも話をして、同じことを言われました。正直な所、『それでももう少し頑張ってみて欲しい』という気持ちはありますが」

「……貴方が何を理由に、そう思っているのかは分からないわ。けれども……千景に、無理はさせないわ」

 

そう、言葉を吐き出した千草さんの眼は、あの日、ひなたと共に戦う意志を聞いた時と同じ、真剣な眼差しで。

 

「……何度も言うけれども、何事も、段階を踏みましょう、というだけよ。あなたが言う『限界の先』にたどり着く前に、まずは『限界』へ怪我無くたどり着けるようになりましょう」

「……分かりました。先を急ぐ気持ちを抑え、堅実に一歩ずつ進んでいきましょう」

「えぇ……アドバイス、ありがとう。参考にさせて貰うわね」

 

『これ以上聞く事は無い』と言わんばかりに、あっさりと去ってしまう千草さん。

その先に居るのは、どこか不安そうな表情の千景さん。

しかし、千草さんと話す時は、とても楽しそうで。

 

「……やはり、千景さんの警戒心が、まだ……」

 

千草さんは、自分が聞きに行った事を必ず千景さんと共有する。

それは、恐らく他人と関わる事を恐れている千景さんの為だ。

千草さんを挟む事によって、千景さんは初めて他人と関わる事が出来る。

 

「……どうにか、出来ないモノか」

 

私の呟きは、幸か不幸か、誰にも届かなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「母さん、久しぶりね」

「千草……本当に、来てくれたのね。ありがとう」

「良いのよ母さん。入院した親を見舞いに来るのは、当然の事でしょう?」

 

千草と千景、娘と再会して暫く。

千草が、見舞いに来てくれた。

身体を起こして、頑張って笑顔を作る。

 

「母さん、紅茶が好きだった筈よね?それと……クッキーも、だったかしら?」

「え、えぇ、そうだけど……千草、これは、その」

「私のお金を、何に使うかは私が決める。そう言ったでしょう?」

 

笑顔で、紙袋を差し出す千草。

中には、彼女が言った通りのモノが入っているのでしょう。

でも、素直に受け取るには、私達の関係は歪んでいて。

躊躇う私に、千草がズイと紙袋を押し付ける。

 

「……躊躇う気持ちは分かるけど。関係をやり直したい私としては、受け取って欲しい、かな」

「……ありが、とう、千草」

「えぇ、どういたしまして」

 

絞り出すように言葉を吐き出した私に、千草が柔らかな笑みを浮かべる。

……この子は、どうしてこうも自然と笑ってくれるのだろうか。

自分の事を見捨てた親を相手に。

 

「……千景は、来ないわよね。私の事を、とても憎んでいるから」

「……もう少し、時間が必要ね、千景は。ゴメンね?」

「良いのよ……千草、貴方も、無理はしていない?」

「無理?」

「えぇ……憎まれて当然だと、思っているわ。私は、貴方達を置いて逃げた人間だもの。好きで会いたい訳では、ないでしょう?」

 

私の考えを、千草に伝える。

しかし、千草は首を横に振るった。

 

「好きで、と言うのは少し難しいかもしれないけれど、私は自分が望んでいるから、母さんに会いに来ているのよ」

「そう、なの?」

「えぇ、そう」

 

笑顔を絶やさない千草が、私の顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「確かに、貴方は私達を置いて去っていった事実は変わらない。けど、それを悔いているのは分かる。なら、向き合いたいと思ったの」

「千草……」

「私はね、母さんが私と千景にどう向き合っていくのか、それを見たいの」

 

千草の手が、私の手を優しく包む。

そして、優しい笑みでは無く、悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべる。

 

「だから、まずは元気になってね?元気になった後、どう向き合ってくれるのか……嘘は分かっちゃうからね?他人の事を探るのは、得意なんだから」

「……そう。それは、頼もしいわね」

 

『他人の事を探るのは得意』、か。

そうなる程に、周りを気にしなければならない生活を送って来た、という事だ。

そして、その原因は、私とあの人。

 

「でしょう?千景の為なら、一杯頑張れるんだから」

「……無理は、しちゃ駄目よ?」

「していないよ、大丈夫」

 

そう笑顔で答える千草。

……どうしてだろうか。

安心するべき場面の筈だ。

なのに、不安を感じてしまう。

 

「……母さん」

「な、何かしら?」

「心配しないで。私は大丈夫……だから、千景の心配をしてあげて欲しいかな」

「千景の……」

「えぇ。千景は、その……母さんが居なくなってから、私以外に対して、心を閉ざしているから。仕事仲間の子達と円滑な関係を築きたいとは思っているのだけれど、千景の事を思うと、近づきにくくて」

「……そう、なのね」

 

先日の事を思い出す。

千草の後ろを歩く、千景の姿。

 

「あの子なりに、頑張ってくれている。それが分かるからこそ、無理をさせないように気を配ってはいるのだけれども……」

「……御免なさい」

「……悪いのは、私もよ、母さん」

「えっ?」

 

千草の言葉に、素で驚いてしまう。

この子は、何と言った?

『悪いのは、私も』とは、どういう事かしら?

私の驚愕を他所に、一変して笑顔が消えて無表情になった千草が言葉を吐き出す。

 

「……母さんが居なくなって、千景の傍に居る人間として残ったのは、私とあの人になった。そして、あの人が千景の支えになる可能性なんて、全く考えられなかった」

「え、えぇ……」

「だから、私が千景の心の支えとして寄り添って、あの子が立ち直れるよう見守らないといけなかった。学友も教師も信用出来ないから、一緒に遊び、考え、学び、教え、良き人として成長出来るように導かないといけなかった……でも、駄目だった。私に出来たのは、心の支えとして寄り添う事だけだったの」

 

理解、しきれなかった。

娘の言葉を、何度も、何度も思い出し、読み解いていく。

そして、正しく理解して―――私は、ゾッとした。

 

「見守る事が出来なかった。立ち上がるのを見守るには、あの村の環境は酷すぎた……周りの悪意が、あの子に立ち上がる時間すら与えてくれなかったから。見守るだけではいけなかったの……直接動き、守ってあげないと、あの子の身体も、心も、耐え切れないから」

 

それは、小学生の少女がたどり着いたにしては、立派過ぎる考えだ。

 

「導く事が出来なかった。あの子を導くには、私自身が未熟すぎた……参考にするとしても、あの村の大人を参考にしてはいけない事くらい分かった。遊んであげる事は出来た。一緒に考えてあげる事も出来た。一緒に学ぶ事も出来た。あの子が分からない事を教えてあげる事も出来た……でも、『人としての成長』については、駄目だったの」

 

そう、『立派過ぎた』。

 

「……私には、あの子を自立させてあげる事が、出来なかったの」

 

千草の頬を、涙がツゥと伝う。

 

「干渉、し過ぎちゃったの。そうしたら、千景は、自立する事よりも、私に依存する事を、選んじゃった」

 

『違う』、と言ってあげたかった。

干渉しすぎたのではない。

そうせざるを得ない環境にいたのだから、貴方の行動は正しいのだと、言ってあげたかった。

 

「駄目、だったの。『甘えるな』って言って、自立出来るように支えるのが、正しかったのに」

 

『それも違う』、と言ってあげたかった。

間違いではない。

もし拒絶したら、それこそ千景は耐えられなかったのだから、貴方は正しいのだと、言ってあげたかった。

 

「でもね、出来なかった。突き放せなかったの」

 

でも、言えない。

そうなったのは、私のせいだ。

頼る事など出来ない『あの人』の元に置いて、逃げた、私のせいなのだ。

全ての元凶である私が、何を言ってあげられるのだろうか。

 

「選べなかった。『家族を突き放す』選択肢を考えただけで、胸が苦しくなって、涙が溢れて、息が苦しくなって……駄目だった。耐えられなかったの」

 

私のせいだ。

私の行動がどんな事を引き起こしたのか、一部始終を見ているこの子が、同じことを出来るはずが無い。

この子は、優しい子なのだから。

見捨てて逃げ去る事と、見守る為に少し距離を置く事。

全く違う行為でも、『伸ばされた手を掴まない』事ではある。

だからこそ、この子には出来なかった。

 

「私の甘さが、千景を私に依存させた……いいえ、違うわね。私こそが、あの子に依存していたのね」

 

自嘲する千草に、私は何をしてあげられるのだろうか。

 

「私が……そう、私が、そうしたのね」

 

悩んでいる間に、千草が、何かを確信する。

絶望した表情で、千草が、私の方を見ながら口を開いた。

 

「私が―――――千景を、依存させたのね」

 

優しいこの子は、千景を冷たくあしらう事など出来なかった。

責任感のあるこの子は、千景を支えなければと立ち上がることが出来てしまった。

姉である自覚があるこの子は、千景に負担をかけまいと我慢出来てしまった。

賢いこの子は、『良い人』というモノを、参考に出来るものが周りになくても想像出来てしまった。

 

そして、この子は、私が押し付けてしまった保護者としての役目を…『守り、導く』という、父や母が自分の子に行う事を、1時間にも満たない僅かな時間自分より後に生まれた妹に、行ったのだ。

親に見捨てられ、かつて友達と呼べた存在に蔑まれ、味方など誰一人居ない中で。

出来る限りの事を、唯一『家族』と呼べる妹の為に。

 

千草の行った事が千景の事を守ったのは、見れば分かる。

千草の前だけとはいえ、辛い目に遭った千景が笑顔で居られるのは、千草の努力の賜物でしょう。

 

「やっぱり、私じゃあ、駄目なのね」

 

しかし、彼女の理想には、及ばない。

大人でさえ難しい事なのだ。『過度に干渉せず見守り、良い人に育つよう導く』なんて事は。

 

「人生経験も、何もかもが足りない私には、無理だったのね」

 

でも、それが彼女には分からない。

まともに育てられた事が無い彼女には、分からなかったのでしょう。

私と『あの人』しか参考例が無いあの子には、『あの人』の接し方は駄目なのだという確信しか無かった。

そしてその確信と、『見捨てて逃げる事も駄目だ』という私の事を見て得た確信が合わさった。

その結果として、『見捨てず、しっかり接することこそ必要だ』という考えに至ったのでしょう。

 

「……ごめん、なさい」

 

ポロポロと、千草が涙を流す。

 

「ごめんなさい、母さん。ごめんなさい、もっと私がしっかりしてたら……千景の事、もっとしっかりと……」

 

優しく、真面目な千草は、自分の理想を、辛い環境の中でも必死に求め続けてきた。

『千景の事を、姉として、家族として支え、導く』という理想を……自分の事を蔑ろにしてでも、必死に。

『自分の存在意義は、千景の為にあるのだ』と自然と考えてしまう程に、千草はなってしまって。

 

そして今回、己のしてきた事とそれがもたらした結果を、見てしまった。

私が、見させてしまったのだ。

不穏な空気を感じた時に、無理やりにでも話題を変えれば、こうはならなかっただろうに。

何もしなかった結果、千草が考え直す時間を生んでしまった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

―――――あぁ、これが、私の犯した罪。

浮気をした事。愛していた子を置いて逃げた事。

そして―――――愛していた子に全てを押し付け、その責任で押しつぶしてしまった事だ。

 

「千草……」

 

震える手を、必死に伸ばす。

近づく手に、千草がビクリと反応する。

それでも、千草の方に手を伸ばして、優しく触れる。

 

「千草」

「かあ、さん」

「……謝るのは、私の方。貴方は、貴方の出来る精一杯をしてくれたわ」

「でも、私」

「良いの。全ては、私とあの人が原因だもの」

「……母さんは、何も」

「いいえ、悪いのは私なの」

 

逃げるな。目を逸らすな。しっかりと向き合え。

己の罪から、逃げ出す事を許すな。

自分に何度も言い聞かせ、千草の手を離さないで語りかける。

 

「全ては、誰が見ても愛想を尽かすような人間性を持っていたあの人と、そんなあの人から逃げる際に、2人を置いて行ってしまった私の責任だもの」

「……『あの人を選んだ私の責任』って、言わないんだね」

「言えないわ……言ってしまったら、あの人との間に生まれた貴方達を否定する事になるもの」

「……そう、思ってくれるの?」

「えぇ……貴方達2人は、私の娘だもの」

 

ギュウッと、千草の手を握る。

 

「千草」

「うん」

「あの日、全てを押し付けてしまって、ごめんなさい」

「……うん」

「貴方達の手を取らず、逃げてしまって、ごめんなさい」

「…………うん」

 

文字にすると、たったの2文字。

千草のその反応に、どんな意味が込められているのか。

怒っているだろう。憎悪と言っても良い程の感情を抱いていても、可笑しくない。

でも、決して目を逸らさない。

伝えるのだ。私が思っている事を、全て。

 

「あの人の面倒を見させてしまって、ごめんなさい」

「……うん」

「……辛い目に遭わせてしまって、ごめんなさい」

「……うん」

 

手が、震える。

それは、私だけでは無い。私が握っている千草の手もまた、震えていた。

 

「千草」

「……」

「千景の事を、精一杯守ってくれて、ありがとう」

「……そんな、事、ないよ」

「いいえ、貴方は千景の事を、確かに守ってくれたわ」

 

私の言葉を、弱弱しくも千草は否定する。

先ほど顧みて、己の理想とは違った事が、千草の事を傷つけている。

なら……今の私に出来るのは、こうだろう。

 

「千草。千景の事を見れば、貴方が頑張ってくれた事は分かるわ」

「えっ……?」

「千景は、貴方の傍を離れない。確かに、それは依存なのかもしれないわ」

「……そう、よね。やっぱり、私なんかじゃ……」

「でもね。それは『貴方なら守ってくれる』という信頼の表れ。貴方が千景の事を守れている証拠なのよ。貴方がもし千景の事を守れてなかったなら、千景が頼る事はないでしょうから」

 

私に今出来る事。それは、客観的に見た事実を伝える事だ。

貴方は千景の事を守れている、と。

そう伝えてあげる事こそ、今私が出来る事。

 

「千景にとって、貴方はたった一つの確かな寄る辺なのよ」

「……だとしても、それは私以外に誰も居なかったから、だよ。仮に、私よりもっと上手くあの子を導いてあげられる人が居たら……」

「だとしても、きっと千景は貴方を選んだわ」

「……どうして、そう思うの?」

 

怯えるような瞳で、千草が私を見る。

今出来る精一杯の笑みを浮かべながら、千草に言う。

 

「だって―――私が知っている貴方達2人は、互いの事を大好きだもの。違うかしら?」

「……私は、千景の事、大好きだよ。私は、そう、だけど……」

「大丈夫。千景もまた、貴方の事が好き。この間の数分程度しか見ていなかったけど、それでも分かるくらいに、貴方の事が大好きよ」

 

好きでも無い人間の事を、あそこまで信用なんて出来ない。

好きでもない人間の制止で、己の激情を抑えるなんて出来ない。

少なくとも、自分ならそうだ。

 

「……そう、かな」

「きっとそうよ……だから千草、自信を持って。貴方は、千景の事を、貴方の出来る精一杯で守った。そして、千景は確かに守られたの」

「……………そう、かな。そうだと、良いのだけれど」

 

少し、持ち直してくれたかしら。

少なくとも、手の震えは、止まっている。

 

「……母さん」

「何かしら?」

「………今日は、話を聞いてくれて、ありがとう。お見舞いに来たのに、私の話に付き合わせて、ごめんなさい」

「良いのよ、千草。今更どの面下げて、って話だけど……私はね、貴方のお母さんなのよ。子供の悩みを聞くのも、親の大切な役目なの」

「……ありがとう」

 

握っていた手が、するりと抜ける。

少し下がってから顔をあげた千草は、頬を涙で濡らしながら笑った。

 

「母さん。今日は、もう行くね」

「えぇ、分かったわ」

「今度は、出来れば千景と一緒に来るわ。その時もまた、お土産は持ってくるね」

「……これからも千景の事、お願いね」

「―――――えぇ、任せて」

 

 

 

 

 

 

『ちゃんと、向き合っているみたいですね』

『子の悩みを聞くのも、親の役目……成程』

『良く考え、良く悩みなさい。複雑に考える事、それこそ人間らしい事』

『私はその過程を、その考えの果てにたどり着く結末を、見守りましょう』

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

今日は、姉さんが1人で母さんの見舞いに行った。

不安ではあったが、どうしてもと姉さんが言うので、見送った。

帰って来た姉さんは、何と言うか……『憑き物が落ちた』と言うべきかしら?

なんだか、ちょっと何時もより自信に満ち溢れていた、そんな気がする。

 

姉さん曰く、『母さんと話をして、元気が出た』、らしいけど。

母さんに関する事については、どうしても、姉さんの考えが分かりにくい。

 

どうして、姉さんはあの人を許せるの?

どうして、姉さんはあの人と向き合えるの?

私達は、同じはずなのに。

同じはずなのに、姉さんの事が分からない。

分からないのは、怖い。

 

どうして

 

 

どうして

 

 

 

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして

 

 

 

 

勇者様の部屋から出されたゴミから回収

 

許可のない者の閲覧を禁ずる

 

持ち出し等を一切禁ずる




今回は郡母との絡み、千草ちゃんの掘り下げ回となりました。
フォントを弄った事で不穏な感じが出てくれると嬉しいな、と思いつつも、こういうのに頼らず不穏さ等を描写出来るようになりたいなと強く感じますね。

12月中には12話を投稿します(土下座)
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