郡千草は勇者である   作:音操

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投稿遅くなってしまい申し訳ありません……
新年早々職場にて無茶ぶりがあり、毎日3時間くらい残業してたりしたら時間がとれず……
書きたいことは頭の中にちゃんとあるのに、時間が足りない悲しみ。投稿頻度の高い方々の凄さを改めて感じます。

前回のアンケート、御協力ありがとうございます。
無理のないペースで番外編等をあげていこうと思いますので、時折活動報告を見て頂ければと……(土下座)
あと、今回もアンケート設置させて頂きます。
今後の展開を左右する重要なアンケートとなりますので、皆様の本音を教えて頂きたく思います。


第13話

「皆さま、本日はご報告させて頂きたい事がございます」

「報告、ですか?」

「はい。少しばかり、お時間を頂きたく」

 

皆でゲームをしたあの日から暫く。

丸亀城の一角、私達の教室で、大社の人がそう言った。

 

「先日、我々大社の本部にて、あるモノを開発いたしました」

「あるモノ?」

「『勇者システム』と仮名しております。神樹様の御力を科学的、呪術的に研究し、その力を勇者様に付与する為のシステムです」

「えっと、それは、どういった形で取り扱うんですか?呪術的とか、聞き慣れない言葉が出てきていますけど……」

「そこはご安心を。アプリケーションとして落とし込む事に成功致しましたので、皆様のお手持ちのスマートフォンにダウンロードして頂く事でご利用頂けます」

 

『メールを送らせて頂きますので、そちらからお願いします』という大社の人の指示の元、アプリケーションのダウンロードを済ませる。

 

「こちらのアプリケーションにつきましては、我々以外の誰にも存在を知られてはいけません。神々の力を人の手で扱う事は、世界の危機である今、勇者として選ばれた皆様と、その支援をする我々にのみ許されし事ですので」

「分かりました。使い方は、どうすれば?」

「アプリケーションを開いて頂き、表示されるボタンをタップするだけです。起動の条件は、勇者として選ばれた御方である事、そして戦う意志を抱く事です」

「戦う意志、ですか」

「はい。何かを守る為であれ、何であれ、戦う意志を抱く事。勇者システムを起動する為には、『それ』が必要です」

 

なんだか、凄い事をボタン一つで出来る、と言うのは分かる。

 

「現在、開発したての、所謂『β版』とでも言いましょうか……理論上、神樹様の御力を引き出し、勇者様へと付与する事は可能である、とだけの試作段階のようですが。今後も研究を重ね、より安全に、確実に勇者様をサポートできるようにしていくつもりとの事です」

「成程……こうしてアプリを配布したという事は、今日は起動実験、という事でしょうか」

「そうですね。実際に起動して頂いて、使用した感想などを頂きたいとの事です。なにせ、開発こそ出来ても、開発したアプリを起動できるのは勇者様のみですので、我々では試す事も出来ませんので」

「分かりました」

「開発チームの面々が来ておりますで、詳しい話はそちらで。これからご案内致します」

 

 

 

 

 

「勇者様、巫女様。こうしてお会い出来る日を、一日千秋の思いで待っておりました。私、仮名『勇者システム』の開発チーム、そのリーダーを務めさせて頂いております。どうか、よろしくお願いします」

「これはご丁寧に。乃木若葉です」

「勇者ではありませんが、挨拶を。上里ひなたです」

「高嶋友奈です!」

「土居球子だ!」

「い、伊予島杏です」

「郡千草です」

「……郡、千景、です」

 

丸亀城のある一室に案内される。

そこには、様々な機械やカメラ、そして白衣に仮面という中々凄い組み合わせの姿の人たちが居た。

その中の1人、女性の大社職員さんが頭をさげる。

ぼさぼさとした長い髪、手の荒れ具合から、もしかしたら結構無理をしているのかもしれない。

 

「本日はそちらの者から聞いておられるかとは思いますが、我々が開発致しました『勇者システム』の起動実験を、皆様のご協力の元行わせて頂きたく思います」

「神樹様の力を引き出す事が出来る、という話ではありましたが……」

「はい。と言っても、なにせ我々にとっても未知の力、初めての試みという事もあり、試作も試作ではあります。『システムの根幹が出来上がっている事の確認』こそが本日の目標ですので、引き出せる御力もほんの僅かです」

 

『ですが』と、強く拳を握りしめる大社の人。

 

「あの日から、我々は全力をもって開発に挑んできました。皆様方の助けになれるようにと、心血を注いだと、断言出来るほどに」

「……皆様の気持ち、確かに受け取りました。起動試験、やらせてください」

 

若葉ちゃんが頭をさげたのを見て、他の皆と一緒に頭をさげる。

なんというか、大社の人の思いが籠った言葉だった。

 

「では、まずは私から」

 

何事も無いかのように、若葉ちゃんがスマホの画面を操作する。

けど、スッとひなたちゃんが手を伸ばし、それを制した。

 

「若葉ちゃん、少し待ってください」

「ひなた?」

「まだ、この人の話は終わっていません……そうですよね?」

「えぇ、はい」

 

ひなたちゃんの、初めて見る鋭い視線。

その先で、大社の人が話し始める。

 

「先ほどお話させて頂きましたとおり、このシステムは我々では起動する事も出来ません。そして、取り扱うのは、神々の力……人の常識を超える、未知なる力です」

「……つまり?」

「ほんの僅かな力でも、皆様の身体に、どの様な影響を及ぼすか、分かっておりません」

 

ゾクリ、と背筋を何かが走る。

 

「人々に力をお貸しくださる神々の事を、疑っている訳ではありません。しかし、人の身に、神々の力を耐えられるのか……保障出来ないのです」

「……そう、ですか」

 

千草ちゃんの視線が、とても冷たいモノに感じる。

 

「えっと……つまり、どういう事だ?」

「アプリを起動した場合、私達の身に何かが起きても可笑しくない……そういう、事ですか?」

「……はい」

 

怖い。そう、感じてしまった。

考えれば、確かにそうだ。

未知の力。それがどんな影響を及ぼすのか、取り扱える私達にしか分からないんだ。

 

「……恐らく大丈夫だと、そう信じています。神樹様から引き出す力は、システムとして必要な最小限に抑えました。しかし、それでも……」

「……正直、私は、怖いです。でも……」

「起動しなければ、どうなるんですか?」

「神樹様の力を引き出す方法を、失ってしまう事になります。代用案は、現在ありません」

 

恐らく、皆少なくない程度には恐怖を感じたんだと思う。

若葉ちゃんの手も、止まった。

 

「……なら、やるしかないわね」

 

スッと、千草ちゃんがスマホを操作し始める。

余りに自然な動きにあっけにとられる中、千景ちゃんだけが反応を示した。

 

「ね、姉さん……?」

「代用案は、無い。なら、試す以外の方法は無いわ」

「でも、危ないかも、って……」

「歴史上、初の試みに危険が付き物なのは、変わらないわ。ただ、たまたまその場面に私達が立ち会うだけ」

「でも、でも……ッ!!」

 

千景ちゃんが、ギュウッと、千草ちゃんに抱き付く。

その瞳には、涙が浮かんでいて。

聞いていて胸が苦しくなる、そんな声で叫ぶ。

 

「姉さんの身に何かあったら、私、私……!」

「……大社の医療班、及びに医療器具はここに揃えてあります。この場で対応出来ない場合、迅速に病院へと搬送する手筈も」

「……千景。大丈夫、きっと大丈夫よ」

「ねえ、さん」

 

大社の人の言葉を聞いて、千草さんが千景ちゃんの頭を撫でる。

危険な目に遭うかもしれないと言うのに、とても優しく微笑んで。

千景ちゃんの耳元で、何かを囁く。

私達には、何も聞こえない。

しかし、千景ちゃんには確かに伝わったんだと思う。

不安そうな表情のまま、だけど千景ちゃんが抱き付くのを止めた。

 

「すみません、お待たせしました」

「……申し訳ございません。危険を伴う実験に協力して下さること、感謝致します」

「先ほども言った通りです。初の試みに、危険はつきものですから」

「……もし。もしも勇者様の御身に何かあった場合、私共一同、責任を取る覚悟はしてあります」

「責任を、ですか」

「遺書を、全員書いております」

 

その言葉に、千草ちゃんを除く全員で目を見開く。

この人達、今、何て……?

 

「そう、遺書を……」

「……この開発チームは皆、バーテックスの襲来により、家族や大切な人を失い、失意のうちに暮れていた所を大社にスカウトされた身です。このシステムは、私共の希望であり、願いです。それが人類の希望である勇者様を害したとなれば、責任を取ります」

「……皆さんの覚悟、確かに受け取ります。しかし、後を追う必要はありません」

「……しかし、それは」

 

千草ちゃんの言葉に反論しようとして、制される。

穏やかな表情で、千草ちゃんが口を開いた。

 

「……もし、私の身に何かあった場合、その身命を賭して代用案を考え、実現させてください。1月程で試作とはいえ神樹様の御力を引き出すシステムを開発されたその技術力と執念は、大社に無くてはならないモノ。6人も居る勇者、その中でも実戦経験の無い私とは違って、替えの効かないモノです」

「そんなことは決してありません!私共のようなモノは、この四国に何十、何百では聞かない程居ます!!ですが、御身はこれ以上探しても見つからない、選ばれた6人の勇者様の1人!!」

「……そう言ってくださって、ありがとうございます。ですが、私にとっては、皆さんの方が大社にとって益となると、そう思っています」

 

そう言うと、千草ちゃんが大きく深呼吸をする。

そして、大社の人たちの事を真っ直ぐみて、宣言した。

 

「勇者、郡千草として、皆さんに命令を。この身に何かあった場合、後を追う事を禁じます。私が望むのは、より安全な代用案の作成です……どうか、お願いします」

「……………かしこまり、ました」

 

『勇者としての命令』には逆らえないのか、大社の人が頷く。

奥の方では、嗚咽が響いている。

視線を向ければ、私達に見られない様背中を向けて、仮面を外して目元を擦っている人たちが。

視線を戻せば、千景ちゃんが千草ちゃんに近寄っているのが見えた。

 

「姉さん……………本当は、姉さんが1番手なんて嫌よ」

「ゴメンね、千景。でも、ね?」

「……………約束よ?」

「千景との約束、破った事は1度でもあった?」

「……………無い。だから、嫌だけど、我慢するわ」

「ありがとう、千景」

 

名残惜しそうに、千景ちゃんが一歩下がる。

それを確認して、千草さんがこっちを見た。

 

「ごめんなさいね。そういうわけだから、私からやらせて貰うわ」

「しかし、千草さん……」

「……なんだかんだ、1番の年長者だから。恰好つけさせて?」

 

さっきまでの真剣な表情や、千景ちゃんに向ける優しい微笑みとはまた違う、少しお茶目な感じで。

何でも無いように、千草ちゃんが笑う。

 

「……っていうか!千草!自分の事を替えがきくみたいな事言ってたけど、そんな事言うなよ!」

「……あぁ、ごめんなさい。千景が私にとって一番の大切で、他の勇者の人は実戦経験を積んでいる。1番どうでも良いのは、私だって判断しただけだから」

「ッ!冗談でも、そんな事言わないでよ!」

「友奈さん?」

 

きょとんとする千草ちゃん。

思わず息を荒げてしまったけれど。

でも、その言葉は、聞き逃せない。

 

「確かに、私達は実戦の経験はあるよ?でも、それだけなんだよ!それだけで、自分の事をどうでも良いだなんて言わないで!!」

「……そう、かしら?」

「友奈の意見に完全同意だ!というか、実戦経験って言っても、タマがやったのはがむしゃらに戦う位で、ほぼ未経験と変わらないんだ!差なんて殆ど無い!」

「わ、私もその……タマっちの後ろに隠れてばっかりで。御二人と、殆ど変わらないと言いますか……」

 

私達の言葉に、でも、千草ちゃんは首を傾げる。

そして、困ったように笑った。

 

「……ゴメンなさい。そう言ってくれるのは嬉しいけれど、ね?」

「……この一月の間で、貴方がとても良い人だというのは分かっています。千景さんの事を大切に思われている、優しい人だと」

「それに、一緒に遊んだ友達じゃないですか。どうでもいい、だなんて言えません」

「……………とも、だ、ち?」

 

ひなたちゃんの言葉で、千草ちゃんの表情が変わる。

……写真で見た能面の様な、無表情に。

 

「一緒に学校行って、ご飯も食べて、一緒に遊んだ!タマ達は友達だろ?」

「……………え、っと、その……………そう、なの、かしら?」

「少なくとも、私はそう思ってます。本の事を語れる、同じ趣味を持った友達だ、って」

「……………そ、う、なの」

 

俯いて、何かを考え込む千草ちゃん。

ほんの数秒、何かを考えて。

 

「なら、尚更私がやらないとね」

 

顔を上げてそう告げる千草ちゃんは、優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

ともだち。

トモダチ。

友達。

 

その言葉を聞くのは、いつ以来だろう。

言われた時、理解出来なかった。

『あの日』以来、居なくなってしまったモノだったから、時間が経ち過ぎて思い出せなくなっていた。

 

友達って、なんだっただろう?

昔、そうであった人たちと、どう過ごしていただろう。

 

もしかしたら、何気ない談笑を楽しんでいたのかもしれない。

もしかしたら、放課後に一緒になって遊んでいたのかもしれない。

もしかしたら、時には頼り、時には頼られていたのかもしれない。

 

そんな、あったはずの出来事。

でも、思い出せない。

……いや、思い出したくない、と言うのが正しい?

思い出したら、辛くなるだけだから、無意識に思い出さない様にしてるだけ?

……分からない。

 

でも、もしも、だ。

もしも、彼女たちが。

上里ひなたさんが。

乃木若葉さんが。

高嶋友奈さんが。

土居球子さんが。

伊予島杏さんが。

千景の事を、『友達』だと思ってくれている。

もしもそれが、本当なら。

 

それは、なんて嬉しい事だろう。

千景の事を、大切に思ってくれる人が居る。

なんて喜ばしい事だろう!

 

私だけでは、駄目なのだ。

私なんかでは、千景を導けない。

それは、この間母さんと話したあの時に、嫌と言う程理解した。

だから、私以外の『誰か』が必要だ。

 

千景の『友達』。

千景の事を気にかけてくれる人。

……傷つけさせる訳には、行かない。

 

 

 

「なら、尚更私がやらないと」

 

決めれば、後は簡単だ。

開いていたアプリケーション、画面に表示された大きなボタン。

迷いは、無い。

軽く、タップする。

 

フワリと、花の香りが、した気がした。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

眩しさの余り、手で光を遮ってしまう。

姉さんが、スマホの画面をタップした、その瞬間溢れて来た光。

それがおさまったのを確認して、恐る恐る、姉さんの方を見る。

 

「……姉さん、それ……」

 

飛び込んできたのは、鮮やかな『赤』だった。

赤を基調とした、変わった衣装を身に纏った姉さんが、そこには立っていた。

 

「……綺麗……」

 

思わず、そう言葉が零れる。

私の言葉に反応したのか、他の人も姉さんの方に視線を向ける。

 

「勇者システムにより形成される服……成功、したんだ!」

「主任、やりました!神樹様の御力を、具現化出来たんですよ!!」

「……………よか、った……成功、したぁ……!」

 

開発チームの人たちが盛り上がっている。

心血を注いだ、とまで言ったシステムが、取りあえず起動に成功した。

それを見て、安堵しているらしい。

 

しかし、私にとってそこはどうでもいい。

問題なのは、この先にあるのだ。

 

「姉さん……ねえ、さん?」

 

反応が、無い。

私の声に、反応してくれない。

恐る恐る、近づいてみる。

 

「姉さん?」

 

そっと、頬に触れる。

触れて、異変に気付いた。

 

熱い。

異常なまでに、姉さんの頬から熱を感じた。

 

「ぁ……………ち、かげ?」

「姉さん、大丈夫、なの……?」

「ぇ、え、えぇ。だい、じょうぶ、よ?」

 

何が、大丈夫、なのか。

いつもなら逸らされる事の無い視線が、定まっていない。

近づいて気付いたが、汗もかいている。

 

「大社の人!解除の方法は!?」

「は、はい!?」

「今すぐに解除する方法を教えて!早く!!」

「も、もう一度ボタンを押して頂ければ!」

「姉さん、直ぐに解除して!」

 

私の声に反応して、姉さんの手が動く。

しかし、その動きは緩慢で、スマホを持つ手も震えている。

落とさない様支えて、姉さんの手で押しやすい位置まで持っていく。

表示されているボタンに指が触れた瞬間、眩い光と共に着ていた服が戻った。

ガクリ、と力が抜けて倒れ込んでくるのを受け止める。

 

「千草さん!?」

「だ、大丈夫か千草!!」

「千草ちゃん!」

 

他の人達が駆け寄って来る。

が、そんなのどうでも良い。

荒く呼吸をする姉さんが、虚ろな目でこっちを見る。

 

「ち、かげ」

「姉さん!」

「……………だい、じょうぶ。わたし、は………」

 

何かを伝えようとして、途中で目を閉じて。

そのまま、姉さんの反応が無くなる。

 

心臓が、締め付けられるように痛くなる。

手の震えが止まらない。

考えたくもない事が、勝手に頭の中を過ぎっていく。

 

「いや、いやよ、姉さん……ねぇ、返事をしてよ!!」

 

そんな、まさか。

そんなはずはない。

 

「医療班、迅速に準備!病院への搬送も手配しておいて!!」

「はい!」

 

やくそくをしたのに。

ねえさんが、やくそくをやぶるはずはないのに。

 

「ねえさん!!おねがいだから、めをあけてよ!!!」

「千景ちゃん……」

「いや、いやだよ……ひとりはいやぁ……!!」

 

なみだがあふれて、とまらない。

こわい。

こわい。

こわい。

 

「勇者様、申し訳ございませんが、勇者様の御身体を診察させて頂きたく」

 

たいしゃのひとのことばに、そっちをふりむく。

『ヒィッ』とおどろかれたけど、どうでもいい。

どうしても、つたえるべきことがある。

 

「………おねがいします。おねがいします。おかねならかならずはらいますわたしにできることならなんでもしますだからどうかねえさんをたすけてくださいすくってくださいおねがいしますおねがいしますおねがいします……………ねえさんがしんだら、わたしもしにます」

「……必ず!!」

 

なにもできないじぶんがにくい。

ねえさんをとめられなかったじぶんがにくい。

たいしゃのひとたちがねえさんをはこんでいくのを、ながめることしかできないじぶんが、にくい。

 

「神樹様、どうか千草さんの無事を……」

 

うえさとさんのこえが、きこえた。

 

「千草、大丈夫なんだよな……?」

「分からない、けど……大丈夫だって、信じたいよ」

 

いよじまさんとどいさんのこえも、きこえた。

 

「千草さん……やはり、あの時私が……!」

 

のぎさんのこえも、きこえた。

 

「医療班、頼む、勇者様を……!」

「お願いします神樹様、勇者様をお救い下さい……!」

 

たいしゃのひとたちのこえも、きこえる。

ふと、だれかにかたをたたかれた。

 

「……たかしまさん?」

「千景ちゃん。千草ちゃんの傍に、行ってあげたらどうかな?」

「ねえさんの、そば……」

「うん。その方が千景ちゃんも落ち着くだろうし……千草ちゃんも、大好きな千景ちゃんが傍に居てくれる方が、すぐ元気になってくれるよ!」

「……そう、だといいけど」

 

……ねえさんだけじゃなくて、わたしのこともきにしてくれた?

 

「ほら、行こう?」

「……えぇ」

 

てを、にぎられる。

……ねえさんいがいで、てをつないでくれたのは…………いついらいだろう?

 

「すみません。千草ちゃんは、その……」

「現状、脈拍は高いながらも数値は安定しております。発熱や発汗などの症状はありますが、逆に言えばそれらの症状以外は出ておりません」

「……ねえさんは、だいじょうぶ?」

「少なくとも、命に別状は無いかと。念のために病院へ搬送させて頂き、精密検査を受けて頂こうかとは思いますが……」

 

……ほんとう、だろうか?

 

「……そばにいても、いいですか?」

「えぇ、勿論です」

 

ねえさんのそばにたって、ねえさんのことをみる。

あらく、あさいこきゅうをくりかえすねえさんをみるだけで、胸がさけそうになる。

ねえさんのみぎてを、つよくにぎる。

 

「ねえさん、おいてかないで……ひとりに、しないで……」

 

ねえさんのいないなか、ひとりでいると、おもいだしてしまう。

かみとともに、ひだりみみをきりさかれたあのひ。

ズキリと、きずあとがいたむ。

 

「……ち、かげ……?」

「ッ、姉さん!!」

 

聞き逃しそうなほどに小さく掠れた声に、意識が覚醒する。

聞き間違えるはずが無い。聞き逃すはずが無い。

顔を上げれば、うっすらと目を開けた姉さんが居る。

周りを見渡し、静かにするように手で制してから、声をかける。

 

「姉さん、無理はしないで」

「……ないて、いるのね……なか、ないで……」

「今は、私の事は気にしないで。それより姉さんが」

「ち、かげは、わたしが、まも、る、から……だい、じょうぶ、だから……なかない、で……」

「……姉さん」

 

私を見ているようで、私を見ていない。

意識が朦朧としているなか、私の声から、私が泣いているのを察して、無意識に慰めてくれている。

それを、理解した。

 

「いじめ、られても……さみしく、ても……わたしが、そ、ばに……」

「……うん。大丈夫。姉さん、大丈夫よ」

「……よ、かった……」

「だから、今はゆっくりと休んで。ほら、手を握って、一緒に寝ましょう」

「えぇ、そう、ね……おやすみ、なさい……」

「おやすみなさい、姉さん」

 

姉さんが安心出来るように、言葉を紡ぐ。

私が泣いていては、この人はこんな時でも無理をしてしまうから。

涙を拭って、握っていた手の力を少し抜いて。

姉さんが眠る様に意識を手放すまで、優しく手を握る。

目を閉じて、姉さんが僅かに込めていた手の力が完全に抜けたのを確認して、手を離す。

 

「……すみません、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。郡千景様のご助力がなければ、郡千草様の意識が戻った事に気が付かなかったかもしれませんので」

 

そう言う大社の人の奥では、何かをメモに書きなぐる人や、僅かに得られた診察結果から意見を交わしあう人たちが見える。

……姉さんを助けたい、と。そう思ってこの人達は行動している。

そう、信じたいと思える位には、必死になって行動してくれている。

電話をしていた人が私の前に居る人に何かを伝えて離れていく。

目の前の人が、私に話しかけてきた。

 

「郡千景様。病院へと搬送する手筈が整いましたので、これから郡千草様を……」

「私も、同行させてください」

「……こちらからお願いしようと思ってはいたのですがね。では、同行をお願いします」

「はい」

 

目の前の人の後ろをついて行こうとして、ふと、さっきまで一緒に居てくれた高嶋さんの方を見る。

何か考えているように見えたけど、私の視線に気付いたのか、こっちを見た。

 

「千景ちゃん、どうしたの?」

「あ、あの……その……」

「……落ち着いてからで、いいからね。何も無かったら何も無いで、大丈夫だから」

 

怖がらせない様に、落ち着いて欲しいのだと、私に言い聞かせるような……そんな笑み。

その笑みは、どこか姉さんに似ていると感じてしまう。

だからだろうか、すこし落ち着いてきた自分が居る事を自覚する。

 

「……その、さっきは、ありがとうございます」

「ん?」

「……手を、繋いでくれた事……それに、私の事を、気遣ってくれた事」

「気にしなくて大丈夫だよ!千景ちゃんが少し元気になってくれた事が嬉しいから!」

「……それでも、お礼は、言わせて。あの時は、ありがとうございました」

「じゃあ、どういたしまして!!」

 

……姉さんに似ていると、感じてしまったからだろうか。

なんというか、警戒心を削がれてしまう。

『少し気を許しそうになった』という事実から目を背けるように、大社の人たちと、運ばれていく姉さんの後を追った。




勇者システムについて、作者なりに考えた「こういう話があっても可笑しくないのでは?」というお話でした。
どのようなものであっても、試作段階というのは存在するはず。まして、それが未知の力を取り扱うなら……と思いまして。
西暦勇者の初陣(諏訪陥落直後)を100としたら、5か10位の完成度。付与出来る力はごく僅かなのに対して、身体への負担が大きいという設定。
独自設定感マシマシな部分ですので、受け入れて頂けるか不安で胃が……胃が……!

前書きにて書かせて頂きましたが、アンケート設置させて頂きます。
のわゆ原作との、とても大きな乖離が発生する可能性のある重要な事ですので、皆様の本音をお聞きしたいと思いまして、アンケートを設置するという行動をとらせて頂きました。
作者としては、「時間があるならどちらの話も書きたい」「それぞれの展開に魅力があり、決めきれない」と言うのが本音です。
優柔不断な作者で申し訳ありません。皆様の声で後押しをどうか……(焼き土下座)

【重要】諏訪の勇者と巫女(及び諏訪の人々)

  • 救済+四国組と共闘
  • 救済(共闘せず)
  • 救済せず
  • その他(感想、メッセージ等で作者まで)

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