郡千草は勇者である   作:音操

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ぐんちゃんの誕生日に間に合わせる為に気合と根性を振り絞りました。
早い事にこの小説も1周年を迎えました。
ここまで来ることが出来たのは、読者の皆様のお蔭です。
今後も頑張って書いていきます!


第14話

「過労、かと思われます。少なくとも、症状から判断出来るのは重度の風邪か、もしくは過労か。しかし、風邪というには急すぎる」

「故に、過労である、と」

 

かろう。

カロウ。

……過労?

お母さんが入院している病院、そのとある一室。

少し落ち着いたけれど未だに息の荒い姉さんがベッドで眠る横で、大社職員と医師の話を聞く。

 

「過労と言っても、身体的疲労と精神的疲労とがあると思われますが、医師としての見解は?」

「私達では判断しかねます、としか……『呪術班』の見解を聞いてもいいでしょうか?」

 

話を振られたのは、大社本部から呼び出された人。

私と一緒に病院へ来た人を『技術班』と呼んだ、『呪術班』という所の人だ。

 

「郡様の症状について、こうして実際に目にした事で得た見解ですが……まず、前提として、我々も発足して1月程しか経っておらず、神樹様の御力について一端程度しか掴めていない、という事を理解して頂きたい」

「それは、承知しておりますとも」

「それを前提に置きまして……私の見解としては、身体的、精神的な疲労とはまた違う、別の要因ではないかと考えます」

「別の要因、ですか?」

 

医師の方と、同じことを思う。

身体的疲労、精神的疲労は分かる。

けれども、それ以外の原因?

 

「仮に、そうですね……『霊魂的疲労』とでも仮名しましょう。我々の肉体、精神とは別の、もっと人間の根本的な部分の疲労と考えます」

「具体的には、どういう事ですか?」

「この度の実験で行われた、『神の力の付与』という行為……郡千草様は、神々の力を人間の身体で行使した。より高次の存在の御力に触れた結果、『人間』という存在の核、魂に負荷がかかったのでは、と」

「……もう少し、分かりやすく言い換えられますか?」

「ふむ……そうですね。人より高位、つまり格が上の存在である神々の力に、低位の我々が耐え切れずダメージを受けた、と考えられます」

 

『少し失礼』と言って、紙に何かを書き込む呪術班の人。

大きな丸と小さな丸、それぞれに『神々の力』『人間』と書かれる。

 

「仮に、ですが。我々が扱う事を許され、授けられた力の大きさがこれくらいとします。そして、我々が許容出来る範囲がこのくらいとして……」

「……神々にとってはほんの一端程度の力でも、我々人間では耐えきれない?」

「郡千草様がシステムを起動するのに成功した事を考えれば、少なくとも我々人間が扱えることは確かであります。しかし、強すぎる力に耐え切れない、というのは可能性として十分にあると考えられます」

「なるほど……医学的な観点では解明できない、未知の領域……これは、互いに情報共有する機会を多く設けなければなりませんね。今回のような出来事が、今後何度も起こる可能性が高い」

「それは勿論です」

 

『初の試みに危険は付き物』という姉さんの言葉を思い出す。

大社の人たちも言っているが、『神々の力』という未知の力について、手探りで探さないといけない現状。

こういう事も、起こってしまうのは当然の事、なのかもしれない。

 

「……すみません。姉さんの、その……霊魂的疲労?というのは、どうすれば回復しますか?」

「……申し訳ございません、郡千景様。現状我々からお伝え出来る事は、一般的な疲労状態からの回復と同様、安静にして休んで頂く事ではないか、と」

「そう、ですか」

「まず、本日はお休み頂き、明日の経過観察をもって今後の方針を決めさせて頂きたく思います」

「……わかり、ました」

 

『神々の力』について研究している人間でも分からない事を、ズブの素人である私がどうこう出来る筈もない。

それは、分かっている。

……分かっていても、悔しい。

姉さんが苦しんでいる時に、私は何も出来ないだなんて。

 

「郡千景様、申し訳ありませんが、我々は1度退室させて頂きます。関係各所へ連絡をする必要もありますし、今後の方針を話し合う必要もありますので」

「はい」

「……恐らく難しい事かと思いますが、これだけは言わせてください。どうか、郡千景様御自身も、少しお休みください。郡千草様の事を心配に思われるのは当然の事でしょう。ですが、我々が最善を尽くしますので」

「……………ありがとう、ございます」

 

取りあえず、気遣ってくれた事のお礼だけは言う。

でも、大社の人や医師の方が言ったように、休む気になんてならない。

少し持ち直したとはいえ、姉さんの事が心配なのには変わりない。

いつ姉さんの体調が悪化するのかも分からない現状、目を離すなんて選択肢はとりたくない。

……ほんの僅かな時間で、状況は変わってしまうモノ。

それを、私は身をもって知っているのだから。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「皆、ちょっと良いか?」

「どうしたの、タマちゃん?」

 

千草が病院に運ばれて、千景がそれに同行して。

残された皆が、取りあえず教室に待機、って事になった今。

大社の人も居ない今だからこそ、話が出来ると判断して声をかけてみる。

 

「その、千景と千草について、話をしたいんだ」

「千草さんと千景さんについて、ですか」

「そうそう……千景の混乱してる姿、皆も見ただろ?あれを見たら、どうしても気になってな」

「そう、だね。あの取り乱し方は、只事じゃないよね」

 

タマと杏の言葉に、皆が頷く。

 

「千景ちゃん、凄く混乱してたよね……」

「私達や大社の人が近くに居るのに、『一人は嫌』と言っていた……周りが気にならなくなる程に動揺していた?」

「そこも気になりますけど……皆さん、覚えていますか?大社の人に向けていった、千景さんの言葉」

 

ひなたの言葉で、思い出してみる。

人形の方が表情豊かに見えるレベルの真顔で、大社の人に向けて言い放った言葉。

 

「……『姉さんが死んだら、私も死にます』って、言ってましたよね……」

「……冗談、じゃない、よな。タマにだって分かるぞ、アレは本気だよな……」

「……千景ちゃん、ホントに辛そうだったよ。傍に居たけど、ずっと震えて、怖がってた」

「皆気付いていなかったかもしれないが……大社の人に付いて行くとき、千景さんの手から、血が垂れていた。手を強く握りすぎて、爪が喰い込んでいたのだろう」

「それに自分で気が付かないくらいには、動揺されていたんですよね……」

 

あの時の混乱っぷりは普通じゃない、っていう共通の認識はあるな。

なら、話もしやすい。

 

「……タマの想像なんだけど、2人って、昔いじめられてた、とかなのかな」

「タマっち!?」

「いや、想像だぞ?想像なんだけどさ……2人の反応とか見てると、そう思っちゃうんだよ」

「私も、そう思うよ。辛い目に遭ってたのかなって事を前提にすると、2人の反応に納得しちゃうから」

 

友奈の言葉に、全員の視線がそっちに向けられる。

 

「友奈、それはどういう事なんだ?」

「その……私が千景ちゃん達と遊んだ日なんだけどね?色々と話してる時に、そう思ったの。警戒されたり、嫌な事を思い出したのか辛そうな表情になったり……なんでだろう?って考えた時に、『虐められていた』事を前提に考えたら、そういう反応をしちゃうのかなって納得出来たんだ」

「タマもだな。杏と一緒に街中を歩きまわった時にそう思ったんだ。愛媛の学校で、本を読むのが好きで身体を動かして遊ぶのが苦手な人が居たんだけどさ、『暗い』って理由で虐められていたんだ。もしかしたら、あの2人もそういう経験があるのかも、ってさ」

「……千景さん、千草さんと一緒なら大丈夫だ、って話をされてました。それって、逆に言うと千草さんが居ないと……そういう事、だったのかな」

 

友奈、タマ、杏。

3人が感じた、千草と千景の話。

それを聞いて、皆で考え込む。

少しして、ひなたが口を開いた。

 

「……千草さんと千景さんは地元で虐めを受けていた。それも、恐らく私達が想像しているよりも酷い虐めだと思われます。その中で千景さんの事を千草さんが庇っていく生活が続き、千景さんにとっては千草さんの存在が救いになっていた……そんな存在が、目の前で意識不明に陥った事で混乱した、と考えれば、全ての辻褄が合いますね」

「……確かに、そうですね。千草さんは千景さんの事を守っていた。守る為に周りを警戒されていた……千景さんは千草さんが自分を守ってくれると分かっていた。だから傍を離れようとしなかった……そう考えれば、確かに」

「……本屋で千草と離れた時、必死になって千草を探してたのは、そういう事か」

 

ひなたと杏の考察で、あの時の千景の必死さの理由が分かる。

人にぶつかりそうになっても気にならない位に必死に、千景は千草の事を探していた。

 

「……千草さんと『何故バーテックスと戦うのか』という話をした、というのは覚えているか?」

「そういえば、言ってたな。それがどうかしたのか?」

「千草さんは、千景さんを守る為に戦うと言っていた。それも、自分の命よりも、世界よりも優先して守ると言っていたんだ」

「自分の命よりも、世界よりも……」

 

……目の前で、証明されたな、それは。

危険のあるモノを千景に使わせない為に、自分が真っ先に使ったんだ。

 

「なぁ、これ、2人に直接聞いてみるか?」

「……難しい、よね。きっと、知られたくない事だろうから」

「そうですよね。でも……」

 

タマの言葉に、友奈と杏が続く。

正直、気になってしょうがない。

けど、内容が内容だから、聞きにくい。

どうするか、と悩むと、若葉が真剣な表情で呟く。

 

「……私が、直接聞こう」

「若葉ちゃん?」

「千草さんを呼び出して話をしたのは私だ。今回の件を聞きに行ったとしても、前例があるから行動を取ったこと自体に不審に思われないだろう」

「ですが、それは……若葉ちゃんが、郡さん達から今後警戒され続ける事になるのでは?」

「それも承知の上だ」

 

そう言う若葉は、眉間に皺を寄せて呟く。

 

「……あの時、私が起動しておけば、こうはならなかったかもしれない」

「いや、それはどうなんだ?千草の代わりに若葉が倒れてたかもしれないし……」

「郡さん達は実戦経験が無い。それはつまり、私達とは違って神樹様の力に触れた事が無い、という事にも繋がるはず。私達は1度でも触れた事で耐性のようなモノが出来ている可能性があるが、郡さん達にはそれも無いんだ」

 

若葉の言葉に、納得してしまう。

危険な力とはいえ、勇者として戦ったタマ達は1度触れている事になる。

身体がそれに慣れているかも、っていうのは、確かにある。

けど、千草と千景には、それもない。

 

「特に、私は島根県からずっと、人々を守る為に勇者としての力を振るった経験がある。恐らくだが、この中で最も長く神樹様の力に触れていた筈だ。耐性のようなモノが出来るのなら、私が一番可能性が高いはずなんだ」

「……確かに、そうですけど」

「だから、あの場で志願するのは私が最善だった筈……なのに、私は、我が身惜しさに止まってしまった」

 

何が起きるか分からない。

大社の人に言われたその言葉に、もう少しでボタンをタップしていた若葉の指は止まった。

そこで、千草は志願して、起動した。

 

「……けじめをつけねばならない事なんだ。だから、私に行かせてくれ」

「若葉ちゃん……分かりました。若葉ちゃんがそこまで言うのなら、私も止めません……ですが!」

「ですが?」

「若葉ちゃんだけが憎まれ役を買うのだけは許容出来ません」

 

ひなたが、こっちの方を見る。

 

「すみません、皆さん。若葉ちゃんが聞きに行く時ですが、私を含めたこの場の全員が気にしていたから、という事を千草さんや千景さんにお伝えしても良いですか?」

「えっと……若葉さんだけが気になったから、ではなく、私達も気にしていたから代表して自分が聞きに来た、という事にしよう、という提案……で、良いんですよね?」

「えぇ、そうです」

「あれ、フツーにそういう流れじゃなかったのか?」

「そう聞こえたでしょうけれど、若葉ちゃんは1人で背負い込む予定でしたね?」

 

ひなたの視線から、若葉が顔を逸らした。

 

「若葉ちゃん、責任を感じているからと言って、なんでも背負い込む必要は無いんですよ?」

「……ひなたには敵わないな。すまない、皆」

「良いんだよ、若葉ちゃん」

「千草にも言ったけど、若葉だってタマ達の友達だ。もっと頼りタマえ!」

「なんでも、とは言えませんけど、出来る事なら協力しますから」

 

……全く、放っておけない奴らばっかりだなぁ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『姉さん……姉さん……』

 

声が、聞こえる。

 

『一人は、嫌……』

 

千景が、泣いている。

 

『姉さん……』

 

―――あぁ、起きないと。

あの子が泣いているなら、慰めないと。

不安を取り除いて、笑ってくれるように、いっぱい構ってあげなきゃ。

それが、私の―――

 

 

 

 

 

「あ、れ……こ、こは……?」

 

ぼんやりと視界が、見覚えのない景色を映している。

何度か瞬きを繰り返す事で、少し視界が定まってくる。

……どうやら、ここは病院のようね。

 

「私は、確か……勇者システムを、起動、して……」

 

重く感じる身体を起こして、考える。

上半身を起こした事で変化した視界の端、私の右手に、誰かの手が添えられている。

……いえ、誰か、なんて分かっている。

 

「千景……」

 

私の手を優しく握りながら、眠っているらしい。

……あぁ、涙の痕が頬に残っている。

泣かせてしまった。

その事実が、重くのしかかる。

 

「……ごめんなさい、千景」

 

千景を起こさない様に、そっと、出来る限り優しく左手で頭を撫でる。

しかし、気付いてしまったらしい。

 

「ん……ぁ、ねえ、さん?」

「……おはよう、千景」

「姉さん……姉さんッ!!」

 

ガバッ、と起きた千景が、私の頬に触れる。

 

「姉さん、熱は……大丈夫、みたい?具合は?」

「熱は、多分大丈夫。少し身体が重く感じるけれど、他は大丈夫よ」

「……よか、った。よかったよぉ……!」

 

ギュウッと抱き付いて来る千景を、拒みなどしない。

こちらからも優しく抱きしめる。

 

「心配かけてゴメンね、千景」

「本当に、心配したんだから……!あれから、2日も眠ったままで、このまま起きないんじゃないかって、怖くて、怖くて……!」

「……2日も?」

「うん……怖かった。姉さんがこのままだったら、って考えたら、凄く怖くて……」

 

そう言う千景の事を良く見る。

目元に隈が出来て、髪もボサボサとしている。

あぁ、本当に、いくらでも褒めてあげられる程に綺麗な髪が……

 

「……ずっと、傍に居てくれたのね」

「だって、手を握って、姉さんの脈を感じてないと……そのまま、姉さんが死んじゃうんじゃないかって、思って……」

「……ありがとう、千景」

 

そこまで、不安にさせてしまうだなんて。

己の不甲斐なさに苛立ちながらも、それを表に出さず微笑む。

 

「眠っている間、貴方の声を聞いたわ」

「私の声を……?」

「えぇ。きっと、手を繋いで、声をかけてくれたから起きられたのね……ありがとう」

「……姉さんの力になれたなら、嬉しいわ」

 

漸く笑ってくれた千景を見て、少し落ち着く。

 

「……私が眠っている間に、何かあった?」

「そう、ね……姉さんの様子を見に何人か大社の人が来た位、かしら?」

「そっか」

 

大きく変わった事は起きていない、のかしら?

 

「……姉さん。もうちょっとこうして……姉さんが大丈夫だって事、もっと感じさせて……」

「勿論よ、千景。貴方が満足するまで、ずっとこうしてあげる」

 

―――実に5分程。

頭を撫で、背中をさすり、言葉を囁いて。

千景が、名残惜しそうに離れていく。

 

「……ずっと、こうしている訳にもいかないわね。姉さんが起きた事、伝えなきゃ」

「そう、ね。千景、お願いしても、良い?」

「えぇ、分かったわ。姉さんは、安静に、ね?辛かったら、寝ちゃっても良いから」

「ありがとう、千景。お願いするわ」

 

最後に涙の痕を拭いてあげて、千景が部屋を出ていくのを見送る。

……さて、ここからどうなる事やら。

 

 

 

「千草様、意識を取り戻されたと聞きましたが……」

「えぇ。その節はご迷惑をおかけいたしました」

「いえ、我々の至らぬ所があり、御身を危険な目に遭わせてしまった……申し訳ございません」

「謝らないでください。危険を承知の上で、起動を志願したのですから」

 

深く頭を下げる大社の人に、そう告げる。

 

「体調は如何でしょうか?」

「少し身体が重く感じますが、それ以外は問題ありません」

「そうでしたか。それを聞いて、少し安心しました……食事はとられますか?すぐに用意させますが」

「そう、ですね……少しだけ、軽く食べられるモノを頂けますか?2日も眠っていたようですので、何も食べないというのは……」

「分かりました」

 

病院の人が部屋から出ていくのを確認し、大社の人がこちらを見る。

 

「食事を用意して貰う間に、身を清められては如何でしょうか?」

「……それも、そうですね。2日もお風呂に入っていない、というのは、その……」

「畏まりました。手伝いの者を手配致しましょうか?」

「それは、その」

 

言い淀んだ私の事を見て、千景が代わりに答える。

 

「いえ、私が姉さんの手伝いをしますので、大丈夫です」

「そう、ですか?」

「はい。ただ、着替えを用意して頂いても良いですか?……えっと、私の分も、出来れば」

「畏まりました」

 

視線を千景に向ければ、優しく微笑む千景の姿。

微笑み返す事で、無言で感謝を伝える。

私達にとっては、これで相手に感謝を伝える事は十分出来る。

 

「それでは、各種準備と、関係各所への連絡をさせて頂きます。暫くしましたら、また此方に」

「宜しくお願いします」

「……郡様。そちらのコードの先についているスイッチなのですが、ナースコールとなっております。病院関係者を呼ぶときは、そちらでも可能ですのでご活用下さい」

「あ、ありがとうございます……」

 

……もしかしたら、千景が少し無理をして声をかけたのが、分かっているのかもしれない。

出ていく大社の人を見送り、千景に声をかける。

 

「……お風呂、案内してくれる?」

「えぇ、大丈夫よ」

 

少し重く感じる身体を千景に支えて貰いながら、病院内の浴室へと向かう。

途中病院の人たち……看護師の方が『お手伝い致しましょうか?』と声をかけてくれたけど、丁寧に断った。

手を貸して貰いながら服を脱いでいると、千景が恥ずかしそうに声をかけてくる。

 

「その……姉さん。『お願い』をしたいのだけど」

 

『お願い』というのは、千景と私の間で何時の間にか出来ていた約束だ。

私が千景に何かを『お願い』した時、私は千景の『お願い』を必ず叶える。

現状、土居さん達と街を回る事を決めた時に1つ、アプリ起動の前に1つ、私は『お願い』をしていた。

その1つを、この場で使いたいと千景が言っている。

 

「言ってみて?」

「……一緒に、お風呂に入りたいの。姉さん、具合が悪かったりするなら、無理にとは言わないけど……」

「いいえ、大丈夫よ……そんな事で、良いの?」

「良いのよ」

 

大社の人に着替えを用意して貰ったのは、そう言う事か。

納得しながらも、一緒に浴室へと入る。

シャワーで汗を流して、私は千景の後ろへとまわる。

 

「それじゃあ、触るわね」

「お願い、姉さん」

 

千景の髪に触れる。

一緒にお風呂に入る時は、私達は互いの髪を洗いあう。

特に決めた訳では無いけど、自然とそうしていた。

優しく、丁寧に洗うと、ボサボサとしていた髪が綺麗になっていく。

 

「やっぱり、千景の髪は綺麗ね」

「姉さんの方こそ」

 

そんな他愛の無い事を話しながら、千景の髪を丁寧に洗う。

私達は、2人とも髪が長い。

丁寧に洗っていると、結構時間がかかってしまう。

10分近くかけて、千景の髪を洗い終える。

 

「じゃあ、交代ね、姉さん」

「お願いね、千景」

 

少しくすぐったく思いながらも、されるがままになる。

数分経ったとき、不意に後ろから抱き付かれる。

 

「……姉さん」

「なぁに、千景?」

「……姉さん、痩せたね」

 

ツゥ、と、泡にまみれた手が私のわき腹を撫でる。

少し浮いているあばら骨を撫でられて、くすぐったさと共に、ばれた事に対する後悔が湧き上がる。

 

「……何時から、気付いていたの?」

「大体、そうね……全員集まってゲームをした、あの日からかしら」

 

そんなに前から、気付かれていたのか。

驚く私の肩に、千景が顎を乗せる。

 

「目の隈も、前より濃くなった。少し、顔が細くなった……いいえ、違うわね。頬がこけた、って言うのだったかしら?」

「ち、千景……?」

「姉さん、最近あくびをする事が多いの、気付いている?目元を擦る事も、随分増えたわ」

「……隠してる、つもりだったんだけどね」

「姉さんの事だもの。分かるわよ、それくらい」

 

そう言うと、抱き付く力が強くなる。

少し息苦しさを感じるけれど、拒まないで甘んじて受け止める。

 

「……姉さん。ごめんなさい」

「貴方が謝る理由なんて、何も無いわ」

「謝る理由しか、ないわ……だって、姉さんが無理をしてるのは、私のせいじゃない」

 

肩に、少しだけ温かな水が伝う。

シャワーのお湯ではない。

わざわざ見る必要もない。

それが何かなんて、分かっている。

 

「私が周りを怖がるから、姉さんが前に出てくれる。姉さんが頑張る事で、妹である私の価値を高めようとしてくれる。常に周りに気を配って、私が危ない目に遭わない様に警戒して……疲れても、それを無理やり我慢して」

「……千景の為になってるって思うと、つい、ね」

「……ごめんなさい、姉さん。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、なさい……!」

 

耳元で響く鳴き声に、胸が締め付けられるような感覚を感じる。

千景の為、と思って頑張ったのに。

 

「……私こそ、ごめんなさい」

「姉さん?」

「貴方を不安にさせてしまう、駄目な姉で、ごめんね」

「違うの、姉さんは悪くないの。悪いのは私で」

「私が、悪いのよ……ごめんなさい」

 

 

 

 

 

私のなすべきことを、見つけた。

あの子の為に、私が出来る事。

私ではあの子を導けない。

しかし、あの子の為以外に私は動けないでしょう。

ならば、やれることは1つでしょう?

 

私は、あの子の為に生きる。

あの子の為に、なんでもする。

この身は、全てあの子の幸せの為に。

 

―――勇者御記 二〇一五年九月 郡千草―――




私の考えている中での序章、これにて完です。

アンケート、ご協力頂きありがとうございます。
皆様の回答を元に、全力で頑張っていきたいと思います。

明日は活動報告にて番外編を投稿させて頂きます。
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