相も変わらず胃を痛めながら、『本当にこれで良いのか?』と悩みながら、投稿までたどり着けました。
前書きを書いているこの瞬間も胃がキリキリと……
千草さんが病院に運ばれ、意識を取り戻してから3日。
私とひなたは、千草さんが入院している病院へと来ている。
「すみません、友人の見舞いに来た者ですが、郡千草さんの病室を教えて頂けませんか?」
「郡千草様、ですね?申し訳ございませんが、『関係者』の証拠を見せて頂けますか」
「こちらです」
「……確認いたしました。ご案内致します」
私達『勇者』の存在は、まだ公になっていない。
しかし、その重要度から、ヘタな政治家などよりも厚遇されている。
病院でもそう。
故に、見舞いに行くにもこうした手続きが必要だ。
看護師の方に案内されるまま、エレベーターに乗る。
カードキーを使ってから、病院の最上階へと向かう。
どうやら、最上階は勇者含めた大社関係者専用の階としているらしい。
階段なども封鎖して、簡単には入れない様にしているとの事だ。
そのまま案内を受けて、とある病室へとたどり着く。
「こちらです」
「ありがとうございます……申し訳ございませんが、ここからは大事なお話がありますので、人払いをお願いしても宜しいですか?」
「か、畏まりました!」
ひなたの言葉に、看護師が震えながらも頭を深く下げ、立ち去っていく。
……いや、まぁ、確かに大事な話があるのは事実なんだが。
「ひなた」
「言いたいことは分かります。けれど……これから聞こうとしていることを考えれば、必要じゃないですか?」
「……そうかもしれないが」
私達の予想が正しいのなら、という前提ではあるが。
これから聞きたい事は、郡さん達の辛い過去になる。
だから、人払いが出来るなら、しておきたい、というのは分かる。
「……若葉ちゃん、行きましょう」
「そうだな」
コンコンッ、とノックをする。
『どうぞ』という、久しぶりに耳にした声が聞えてくる。
「失礼します」
「あら、乃木若葉さんと、ひなたさん?」
「お久しぶりです。体調が回復したとお聞きしたので、お見舞いにと」
「こちら、大社御用達の青果店で買って来た果物です」
「ありがとうございます」
微笑む千草さんを見て、一安心する。
ふと部屋を見渡すと、少し奥で千景さんがこっちを睨んでいるのが見えた。
「おはようございます、千景さん」
「………おはよう、ございます」
千草さんが病院に運ばれてから、ずっと千景さんは千草さんの傍を離れようとしなかった。
だから、あの日から私は千景さんと会っておらず、今日久しぶりに顔をあわせた。
チラリ、とひなたの方を見る。
小さく首を縦に振ったのを見て、覚悟を決めた。
「千草さん、千景さん。申し訳ないが、時間を頂いても?」
「えぇ、大丈夫だけど」
確認をとって、深呼吸を1つ。
千草さんと目を合わせ、告げる。
「……先日、千草さんが倒れたあの日、なのですが」
「……心配をかけて、ごめんなさい」
「い、いや、そういう事を言いたいわけでは無くて……むしろ、その……あの時、躊躇わず私がやっていれば、こんな事には……申し訳ない」
「……難しいかもしれないけれど、気にしないで?危険を承知の上で、私が志願したのだし」
どこか困ったように微笑む千草さんを見ると、申し訳なさを感じる。
私に突き刺さる千景さんの視線も、それを助長しているのだが。
「っと、話が逸れてしまったな……あの日、あの時に、千景さんが物凄く動揺されていたのが、どうしても気になって」
「ッ……誰だって、大切な家族が倒れたら、ああなるモノでしょ?」
「その可能性は否定出来ない。だが……『姉さんが死んだら、私も死ぬ』という発言が、どうしても気になったので」
私の発言に、千景さんが目を見開く。
動揺、そして驚愕、といった辺りか。
「……あの時、そんな事、言って……」
「言っていましたよ。動揺していたからこそ、無意識のうちに本音が出ていたのかと」
「……どうしても気になって、残された全員でその意味について、その奥に隠された、2人が隠している事について、考えたんです」
「隠している事、ね」
千草さんの視線が、ひなたに向けられる。
先ほどまでの微笑みから一転した、能面のような無表情。
絶対零度の視線が、ひなたを貫く。
「……上里さん」
「信じて貰えるかは別になりますが、『私から特別話をした訳ではありません』と言わせて頂きます。皆さんの意見からたどり着ける予想を纏めただけです」
「……その発言を、信じても?」
「大社の巫女として、神樹様に誓いましょう」
「……………分かったわ。上里さん、私は貴方の事をある程度信用している……だから、今回は、信じます」
「ありがとうございます」
……ひなたは、今回聞きたい事について、何かを知っていた、のか?
いや、今はそれを考えなくて良い。
問題は、ここから先にある。
「……それで、皆は、どんな予想を?」
「……2人は、故郷で何かしらの虐めを受けていたのではないか、と。それも、私達が想像するよりも、酷いモノを。だからこそ、2人は周りを警戒していたんじゃないか、と」
「そう……」
千草さんが、チラリと千景さんを見る。
ビクリと身体を震わせ、狼狽する千景さんが、涙目で千草さんを見る。
「ご、ごめんなさい姉さん!私、私があの時……!」
「……貴方は何も悪くは無いわ。大丈夫、落ち着いて」
「でも、でも……!」
「大丈夫、大丈夫だから……」
……やはり、踏み込み過ぎたのだろうか。
涙を流しながら千草さんに謝り続ける千景さんと、そんな千景さんを、優しく慰める千草さんを見て、更に罪悪感を感じる。
正直、少し胃がキリキリとしてきた気がする。
「……乃木若葉さん、ひなたさん」
「は、はい」
「私が退院して丸亀城に戻るまで、その疑問への回答を待って貰えるかしら?伝えるなら、勇者全員に伝えるべき内容だから」
「……分かりました」
「ごめんなさいね?わざわざ足を運んでもらったのに」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。今更ではあるが、言いたくない事なら言わなくても大丈夫ですが」
「……いえ、伝えるべきと、私は思うの。だから、大丈夫」
千草さんの言葉を信じ、ひなたと共に病室を出る事にする。
出ようとする直前、千草さんが声をかけてきた。
「3日後よ、退院してから丸亀城に行くのは」
「はい」
「それと……1つだけ、覚えておいてほしい事があるの」
「それは、何でしょうか?」
私が振り向き聞くと、真剣な表情の千草さんが。
悩み、躊躇い……口を開く。
「これは……えぇ、そうね。私達姉妹にとっては、墓まで持っていきたいと思えるほどの、誰にも話したくない話。そういう話だという事だけは、覚えておいて」
「……分かり、ました」
『私達勇者以外には、大社にも告げるな』
そういう事なのだろう。
一体、彼女たちに何があったのだろうか。
……3日後が、少し恐ろしく感じる。
――――――――――――――――――――
「心配をかけてごめんなさい。今日からまた、皆と過ごせるわ」
「……姉さんに付きっ切りだったから、私も、ね」
あの日から3日後。
千草さんと千景さんが、丸亀城に戻って来た。
病院で休んでいたからだろうか、あの日よりも目元の隈はとれている様に感じる。
「……『色々と』聞きたい事はあると思うけど、後で、ね?」
そう困ったように笑いながら告げられて、私達は彼女達が話してくれるのを待つことになる。
授業中、訓練中、昼食……時間が過ぎていくが、まだ。
何時、話してくれるのだろうか。
授業等に集中出来ない状態が続く中で、遂には放課後になり……
「……放課後、時間を貰えないかしら?」
その言葉で、『来たか』と緊張が走る。
「それは、その……」
「………姉さん、1週間以上病院から出られなかったから……少し、外を歩きたい、って」
「もし良ければ、散歩に付き合って貰えないかしら?」
その言葉に、全員が首を縦に振る。
千草さんが居ない間に何があったのか、等を話しながら、丸亀城の外に出る。
久々の外を楽しんでいるようにしか見えない千草さんとは違って、千景さんは不安を隠しきれていない。
そんな2人に付いて行く形で歩いて行き、丸亀城からそう離れていない川沿い、開けた場所へとたどり着く。
「……ここなら、学生が集まっていても怪しまれないし、広い場所だから不自然に近づいて来る人にも気づける。多少大きな声を出しても、近くにはそれなりに交通量のある道路もある」
「……私達が話をしていても、怪しまれず、そうそう他人に聞かれない、と」
「えぇ。それに、大社関係者の目も無いわ」
私達の方を振り向いた千草さんは、とても真剣な表情だ。
それこそ、戦う覚悟について聞いたあの時と同じ位、もしくはそれ以上に。
「……これから話す事は、私と千景にとっては、誰にも知られたくなかった話。可能ならば墓まで持っていきたい、そういう話」
「……………正直、今朝まで……本当は、今でも、悩んでるの。話すのが……話した後が、怖いから」
「……約束を、して欲しいの。この話は、ここに居る人だけの秘密だ、って。誰にも……大社の人にも、内緒にする、って、約束を」
ギュウッ、っと千草さんの服の裾を掴んで、不安を隠さずに私達に告げる千景さん。
そして、そんな千景さんの前に立ち、私達に約束して欲しいと語る千草さん。
……答えは、決まっている。
「約束しましょう。この話は、我々だけが共有する秘密だ」
「大丈夫。絶対に守るから!」
「タマにだって分かるぞ。2人がたくさん悩んで、悩みまくって、話してくれることを決めたのは。安心しタマへ、タマの口は堅いんだ」
「不安に思うのは当然だと思います、けれど……信じて、ください」
「私は、何度でも言わせて頂きますよ。神樹様に誓って、必ず守ります、と」
それぞれが、それぞれの言葉で、本心を伝える。
約束する。約束は必ず守る。信じて欲しい。
その思いは、確かに伝わったのだろうか?
不安に思う中、千景さんの言葉が聞こえてくる。
「……ねえ、さん」
「千景?」
「わ、私……その……………信じて、みたい」
文字にすれば、10数文字にしかならない、その言葉。
それを口にするのに、どれだけの勇気が必要だったのだろう?
小さな、怯えが隠せていないその言葉に、千草さんが頷く。
「ありがとう、千景。その言葉で、決心がついたわ」
「……うん」
「……皆。少し長くなるけれど……話を、するわ」
「そうね、何処から話そうかしら?」
「思いつかないなら、タマが良い方法を知ってるぞ?」
「タマっち?」
少し悩んでいる千草さんに、土居さんが声をかける。
良い方法、と言っていたが……
「まずはどうでも良い事から始めよう。そうすると、後に残るのは大事な事だからな」
「他愛ない事を減らす事で、話したい事を整理する、という事ですか」
「……そう、ね。それは、良いかも」
「他愛、無い、事……」
確かに、一理あるな。
関心しながら、千草さんと千景さんの事を見る。
「じゃあ、他愛ない事から、始めましょうか」
「他愛ない、って言うのはなんか違うけど、前にやった自己紹介の補足とか、どうかな?結構話題を消費出来るかも」
「そうね……じゃあ、まずはそこから」
友奈の言葉で、話す内容は決まったらしい。
「えっと、あの時の自己紹介の補足として……高知県の田舎出身、って話はしたわね?山よりの田舎で、自然豊かな場所だったわ」
「……確かに、そうね。子供じゃあ、バスを使わないと街中に出られない、そんな田舎」
「あの村は、嫌いじゃない……って、胸を張って、言えないの。あの村の自然や、神社の境内の静かな雰囲気……木々のざわめき……そう言う所は、好きだったけど」
「……虫が多かったから、正直、あんまり。でも、静かな所が好き、っていうのは、姉さんと同じ」
「あと補足となると……自己紹介の時に話せなかった事、とか?」
「何があるかしら……」
「じゃあ、御二人の趣味とか、そういったお話はどうでしょう?」
ひなたの提案に、2人が首を傾げる。
「御二人は、今まで御二人自身の事を隠されていましたので……色々と、知りたいじゃないですか?」
「そうだなー。話しにくい部分は後回しにして、趣味とか、好きなモノとか?」
「そうですね。私、本の趣味くらいしか知らないですし……」
「そうだな、確かに気になるところではある」
私達の言葉に、更に首を傾げる2人。
やがて、千草さんが何かに気付いたような反応を見せる。
「……あぁ、友奈さんが言っていたわね。仲間の好きな事は、大切なんだ、って」
「覚えててくれたんだ!そうだよ、仲間の……うぅん、友達の好きな事は、大切な事だよ!!」
「……実はね、『友達』って呼ばれたの、とても久しぶりなの」
その言葉に、郡さん達以外の全員が首を傾げる。
いや、良く見たら、ひなたは険しい表情をしている。
「この話は、また後で。それで、私達の好きな事、となると……共通するのはゲーム、かしら」
「そうね。それと、姉さんは読書も、よね」
「好きな事、って言えるほどではないけどね」
「……姉さんと一緒なら、私は読書も好き」
「それは、私も。千景と一緒なら、何でも」
穏やかな笑みを浮かべる2人。
「そっか、2人はお互いの事を大好きなんだね」
「……えぇ、勿論」
「大切な家族だもの……」
…?
友奈の発言は、何もおかしいモノではないと思うが……
何故、ああも複雑そうな表情を、千景さんは……
「……そろそろ、隠し事をしながら話すのは難しくなってきたわね」
「そう、ね……姉さん」
「千景……大丈夫。きっと、ここに居る皆は受け入れてくれる。分かってくれるわ」
「……………うん」
「……そろそろ、本題に入りましょうか。私達の過去……ずっと隠したいと思っていた事について」
穏やかな雰囲気は一変する。
皆が、千景さんと千草さんの言葉を待つ。
「……私と千景は、余り裕福とは言えない家庭で生まれたわ。ただ、ね……親、というか父親が、どうしようもない人だった」
「……それって、どういう事、ですか?」
「あの人は、自分の事以外はどうでも良い、そう思っている人だったの。母さんは、結婚するまでそう言う所に気付かなかったみたい」
そう語る千草さんは、心底嫌な事を思い出したと言いたげな、苦々しい表情を浮かべる。
「家事の1つも手伝わない、子供の誕生日どころか母さんの誕生日も、結婚記念日も忘れて会社の飲み会に参加して、酔った勢いで母さんと喧嘩して……休日はお酒を飲んで寝ているか、テレビとかを見ているだけ。家庭の事をほったらかしにして、自分勝手に生きている、そんな人」
「それは……」
「……私と姉さんは、あの人を家族とは認識してないわ。住居と生活費を提供してくれる赤の他人、とでも言い換えられるわね」
これが、隠したかった事、か。
そう感じていると、千草さんが言葉を続ける。
「……そんなあの人に、母さんは愛想を尽かしたの」
「愛想を尽かした、って……」
「……母さんは、村のとある人と浮気したわ。心が耐えられなかったのよ……母さんは、あの人の事を好きだった。けど、何も返してくれないどころか、暴言を吐かれるそんな日々に、耐え切れなかったのよ」
語られる事実に、目を見開く。
「私達の事を置いて、家を空ける日が増えていった。浮気相手と過ごす時間が増えて……相対的に、私達と一緒に居てくれる時間は、減ったわね」
「そして……浮気が村の人たちにバレて、全てが変わったわ」
「たった1日にも満たない、そんな時間。目を離した隙には、全てが変わったの」
2人の言葉に、土居さんが「あっ」と何かに気付いたような声を上げる。
しかし、それも2人の言葉の衝撃に流されていく。
「あの日から、村ぐるみでの虐めが起きた。あの人は『妻に見限られる程のロクでない』、母さんは『阿婆擦れ』『淫売』『淫乱女』……そして、私達は、その2人の間に生まれた子供だから、って」
「……かつて居た友達も、教師も、誰もが私達を見限った……あの人たちの子供だからって、私達は何も、何も、悪くないのに……!」
……………なんだ、それは。
「罵倒されるのは当たり前。石を投げつけられ、モノは盗まれて……集団で囲まれて服を脱がされて、焼却炉で燃やされた事もあるし、給食にゴミや虫の死骸を混ぜ込まれた」
「……姉さんと離れた時に、髪と一緒に耳を斬られた。戻ってきた姉さんが怒った時は、何故か私達が教師に怒鳴られて、私の耳を斬った連中は無罪放免……2人で階段を上っている時に突き飛ばされて、私を庇って姉さんの額には消えない傷が出来た……」
スッ、と2人が髪を手で避ける。
千景さんの耳にも、千草さんの額の右側も、大きな傷跡が残っている。
「村の大人たちは、私達とすれ違うたびに罵倒した。理不尽に暴力を振るわれた事も、何度もある」
「……買い物に行っても、『お前たちのようなヤツに売るモノは無い』って拒否された事だってあるわ。売って貰えたとして、訳あり品をわざと渡されたりした」
怒りで、どうにかなりそうだ。
ひなたが、私の事を察してくれたのか、そっと手を握ってくれる。
それで僅かに落ち着きが、それでも苛立ちは収まらない。
「……そんな日々に、先に耐え切れなくなったのは、母さんだった」
「……それ、は」
「浮気相手と、村を出て行ったの……私達を置いて、ね」
絶句。
「そこからは更に、『子供を置いて逃げるような白状者の子』っていうのも、罵倒に追加されたわね」
「……残されたあの人は、『アイツは俺に押し付けて逃げた』って喚きながら、お酒に逃げるようになったわ」
「あの人は家事も何もしないから、私達2人で家の事をするようになった……慣れない家事に苦戦して、日々罵倒と暴力を受けて……そうして、数年間私達は生きて来た」
ギリ、と音が聞こえた。
自分の口の中、歯が擦り合わさった音だと、今更気付いた。
そうなる程に力を入れて絶えないと、私はこの怒りを叫んでいただろう。
「……なんだよ、それ!千草も千景も、何も悪くないじゃないか!!」
「そうです!なのに、なんで、なんでそんな……!」
「……閉鎖的な環境だったから、かしらね。人間、自分より下の立場の人間が居たら、日々の苛立ちなどをぶつけたくなるモノだと思うから」
「酷過ぎるよ!もし自分が言われる方の立場ならって、考えないの!?」
「……考えないわよ、ああいう連中は。自分がスッキリすれば、どうでも良いの」
何処か、諦めたような、そんな表情で。
吐き捨てるように、2人は言う。
「……私達は、他人を信じられなくなったの。たった一晩で、手のひらを返されて、ずっと存在を否定され続けて……」
「……姉さんさえ、私を肯定して、必要としてくれるなら、それで良かった」
「千景が居てくれる。私を必要としてくれる……傍に居てくれて良かった、そう言ってくれるたった1人の家族だったの」
「そうやって、私達は生きて来たわ……私は姉さんが、姉さんは私が居れば、それでいい、って」
「他人なんてどうでもいい。2人で生きて来たのよ」
……だからこその、あの狼狽だったのか。
ひなたの推測の通り。いや、それ以上に。
彼女達の繋がりは、深く、強い。
「……だから、今まで隠していたのよ」
「私達の過去を知って、また……また、あの村の人たちの様に、私達を責めてきたら、って……それが、怖かったから」
身体を震えさせる千景さんを、千草さんが優しく抱きしめる。
「……私達の過去を知って、どう思った?」
鋭い視線が、私達に向けられる。
……返答は、もう決まっている。
「千草さん、千景さん」
「ッ!」
「……安心してください。私は……私達は、貴方達を害したりしません」
「貴方達は何も悪くありません。巻き込まれた被害者……責められるような事は、一切していないんですもの」
「酷い奴らに囲まれ、辛かったんだな……だが、これからは安心しタマへ!」
「御二人は、私達の大切な友達で、大切な仲間ですから」
「少しずつ、信じて貰いたいな……もう、大丈夫だって!」
私に続いて、皆がそれぞれの答えを伝える。
千草さんと千景さんは、何も悪くない、と。
貴方達の味方である、と。
私達の言葉を聞いた千景さんが、ポロポロと涙を零す。
「……本当、に?私達を、虐めない?」
「本当だよ、千景ちゃん!」
怯える千景さんに対して、そっと近づいて手を握る友奈。
どうすれば良いのか、と千草さんと友奈を交互に見る千景さんに対して、友奈が微笑む。
「辛い経験をした後だから、直ぐには信じて貰えないと思うけど……でも、何度でも、信じてくれるその日が来るまで、そして、信じてくれたその後も、何度でも言うよ。私達は、友達だって!私達は、2人を傷つけないって!」
満面の笑みと共に言われたその言葉。
それを聞いて、千景さんの涙が止まらなくなる。
「あ、あぁ………うあああああ………!!!」
「今まで辛かったんだね……泣いて、泣いて、ため込んでいた辛さを少しで吐き出しちゃって」
優しく抱きしめながら、友奈が千景さんを慰める。
そんな2人を見る千草さんは、どこか嬉しそうな表情だ。
「……千景の事を、大切に思ってくれてありがとうね、友奈さん」
「当然だよ!……それに、大切なのは千草ちゃんもだよ?」
「……えぇ、ありがとう」
――――――――――――――――――――
日記をつけるようになって、かれこれ2ヶ月くらいかしら?
みーちゃんがあの化け物が来るのを察知したら私が退治する、そんな日々にも慣れて来たわね。
畑を作ったりして、皆の元気を取り戻す作戦も上手くいった。
少なくとも、あの日と比べれば大幅に落ち着きを取り戻しているのは分かる。
ここからが本番。
助けが来るまで耐えるか、何処か避難できる場所へと行くか。
みーちゃんが言うには、四国にたどり着けば暫くは大丈夫、だったっけ。
そう言えば、今度、その四国への通信を試してみるのよね。
上手くいって、諏訪の外の情報とか聞き出せると良いのだけど。
まぁ、何事もトライしないとね!
10月1日 白鳥歌野
本作では、郡千景(一緒に郡千草)の過去を受け入れてくれる人たちが序盤から現れる事になりました。
恐らく、原作とは最も違いが生まれる分岐点となります。
どう影響していくのかは、次回以降を待って頂けますと……(土下座)
そして、次回以降登場する人物についても最後に触れました。
彼女についても、大きく原作と違う展開になる事が確定しております。
頑張って書いていきます……!
話は変わりまして、私事ではありますが、今話題のウマ娘のアプリを初日からやっております。
プレイされている方、推せる娘と出会えましたか?
私はライスシャワーというウマ娘に一目惚れしました。
現実のライスシャワーについて調べて、もっと好きになりました。
私が好きになるキャラクターの傾向として、『幸せになって欲しいと切に願えるキャラクター』というのがありまして……ブッ刺さりましたね、ライスシャワーは。
目指すはライスシャワーでストーリー完走!なのですが結構難しいです……
ファイナルまで進めたのは現在バクシンオーのみです。
中距離~長距離キャラの育成が難しすぎる……