幾つか事情はありますが、1番大きな原因は職場の先輩が仕事出来ない状態(命に別状なし)になってしまい、大幅な人員のやり繰りが合った事にあります。
経験少ない私ですら色々と駆り出される程にドタバタしておりまして……ちょっとずつ書き出して、漸く投稿までたどり着きました。
次回は1か月以内に投稿出来るよう頑張りますので……(土下座
今回、少し長めになっております。
12月に入った。
『あの日』から、もう4ヶ月も経つ。
バーテックスを撃退しつつ農作業を行い食料確保兼生存者のメンタルケア、なんて生活にも慣れてきた。
時折行われる四国との通信には、大分心を救われているわね。
生存者の人達の前では晒せない、『白鳥歌野』で居られる瞬間。
同年代の女子だけ、と言うのも精神的に楽だしね。
『歌野さん、水都さん。久しぶりね』
「お久しぶりです、千草さん」
「お久しぶりです」
『歌野さん、水都さん。本日は私とひなたも居る』
『よろしくお願いします』
今日は千草さん、若葉、ひなたさんね。
最年長者であり落ち着いた性格の千草さん、四国勇者のリーダーである若葉、そして巫女の筆頭であるひなたさん。
バランスが取れている組み合わせね。
「前回の報告から、1回襲撃がありました。少し数が多かった気はしますけど、無事殲滅したわ」
『無事でなにより、ですね』
「えぇ。怪我もしてないし、生存者の方にも被害は無かったわ」
『それは、良かった……こっちは、特に襲撃は無しね。勇者システムの方は、体感で、そうね……変身して直ぐ解除する位なら、余り疲労などは起きない位には開発が進んでいるわ。このペースなら、来年の前半にはほぼほぼ形になりそうね』
「それは良いですね!」
四国で開発されている、『勇者システム』。
向こうの神様である『神樹様』の力を引き出し、勇者の力にする、そういうシステム。
開発初期は、使用すると気絶してしまう程の負担がかかっていたらしいけど、だいぶ開発が進んでいるみたいね。
『今、システムの開発班等が協力して、更なるシステムを導入できないか研究しているみたいです。ゲームで言う所の時限強化、みたいなモノが出来ないか模索しているみたいです』
「時限強化……時間制限があるけど、より強力な力を発揮出来るようにする、という事ですか?」
『そうみたいです。こちらの方はまだ検討段階ではありますが、もしこの時限強化システムが導入出来れば、よりバーテックスの戦いにおいて優位に立ち回れるようになるのではないか、と』
『バーテックスの中には、複数体が合体して生まれた強化体も確認されていますからね。奴らは、白く丸いあのバーテックスと比べ物にならない程に強い……そうした相手に対しても戦いやすくなると考えれば、後々必要になるでしょう』
ひなたさんと若葉の言葉に、少し考える。
バーテックスの合体した存在として、『アレかな?』と思うのは居た。
しかし、月に1、2回くらいの頻度で来ているバーテックスの襲来で、遭遇したのは1度のみ。
直線的に水を吐き出してくる、ちょっと面倒なヤツだった。
だから、向こうと私の間で認識の差がある、のかな?
『アレ』であった場合、そこまで脅威には感じない。
しかし、向こうの知っているモノが『アレ』より強力な個体だった場合は……気を付けないと。
『バーテックスとの戦闘経験の無い私が言うのもアレだけど……時限強化システムには、期待と不安が半々、といった所かしら』
「期待と不安が、半々?」
『勇者システムの開発に携わったからこその不安なのだけど……今の段階でも、改良前は気絶するほどの負担を負った。なら、そこから更に神樹様の力を引き出したら、身体にかかる負担はどれくらいのモノなのだろうか?って』
『それは、確かに……』
『若葉ちゃん達が使う勇者システムは、神樹様の御力を必要最低限のみお借りするよう今では調整されています。それで漸く御し切れている現状から、更に御力を……まさか、また調整前の様に耐えられない程の負担が来る可能性もある、と?』
『……無いとは、言いきれないとは思うの』
『それを想定しての時間制限なのかしら』という千草さんの淡々とした言葉。
それに、私は、みーちゃんは……そして、遠く四国に居る若葉にひなたさんも、驚愕していると思う。
時限強化、というモノに隠されているだろうリスクに。
そして……それに気付いて、それをサラッと言えてしまう千草さんに。
「……大丈夫、なの?」
『……必要なら、使うしかない。必要なければ、使わなければ良い。そう言うモノだと認識しましょう。あくまで保険であり、常用するものでは無い……【あるけど使わない】と【使いたいけど無い】なら、前者の方が良いじゃない?』
「それはそうですけど……」
『備えあれば憂いなし、よ……何事においても、最悪への備えはしておいて損はしないもの』
どこか、重い、と感じてしまう発言。
不思議な説得力を感じる。
『──あぁ、御免なさい。妄想に過ぎない考えで不安にさせてしまって』
「いえいえ、気にしないでください」
『私、少し悲観的になりやすいから……心配し過ぎの可能性も高いわ。リスク無く使える可能性もあるから、ね?』
『……そう、です、よね。まだ、そうだと決まった訳ではありません、ね』
若葉の声が、どこか力無く感じる。
『ありえそうだ』と思ってしまったのだろう。
私自身、無いとは言い切れないと思っている。
「う、うたのん。そろそろ、時間みたいだから……」
「え、あ、うん!そろそろ時間みたいですけど……その、システムの開発が上手くいくと良いですね!」
『え、えぇ、はい。上手くいけば、若葉ちゃん達の力になりますから、ね』
『我々の力となり、それを白鳥さん達の為に使えれば、良いのですが……』
「……………四国の勇者が、うたのんを、助けてくれる、なら……………」
「みーちゃん?」
「な、なんでもないよ、うたのん」
……みーちゃん、何か言ってたような?
でも、慌てて否定されてしまう。
……気にしないでおきましょう。
「では、また次の通信の時まで、さようなら」
『えぇ、さようなら』
『さようなら、歌野さん。また次回に』
『藤森さんも、また次回に』
「は、はい!それじゃあ、さようなら」
「もしも、助けてくれるのなら……でも、四国から諏訪までは……………陸路で、大体500キロか600キロ……?」
「それは、流石に遠すぎる……途中まで来て貰って合流するとして……仮に名古屋で合流として、それでも200キロくらい……うたのん1人じゃ、避難民の人達を守りながら移動するには遠すぎる……」
「……守りながら、じゃあ、遠い……けど……………」
――――――――――――――――――――
「あ、あの、高嶋さん……」
「千景ちゃん?」
「少し、良いかしら……?」
放課後、千景ちゃんに呼ばれる。
珍しいな、と感じちゃう。
だって、千草ちゃんと一緒じゃない、1人だけで来たから。
「千草ちゃんは?」
「姉さんは、用事があって出かけるから……それで、その……」
「そっかー……それで、えっと最初の件だけど……」
「……少し、相談、したくて……」
「私に出来る事?なら、相談に乗っちゃうよ!」
「あ、あり、がとう……」
ぎこちないけど、笑ってくれる事にほっとする。
千草ちゃんが居ない時でも、ぎこちないとはいえ笑えるようになっている。
それは、千景ちゃんにとっては大きな変化だから。
「それで、相談だよね。えっと、何についてかな?勉強とかはあんまりなんだけど……」
「勉強ではなくて、その……姉さんとの事で、相談なの」
「千草ちゃんとの事?」
「えぇ、そうなの……」
首を傾げる。
千草ちゃんの事についてなんて、それこそ千景ちゃんが一番詳しいと思うけど……
「その……姉さん、何か隠し事をしてるように感じるの」
「千草ちゃんが、千景ちゃんに?」
「えぇ……それで、何を隠してるのか、きっとはぐらかされそうだから、どうしたら聞けるかな、って」
千景ちゃんの言葉に、少し考える。
千草ちゃんが千景ちゃんに隠し事をする、と言うのが想像出来ない。
けど、千草ちゃんについて一番詳しい千景ちゃんが言う事だから、当たっている可能性は高い、と思う。
じゃあ、それって何だろう……?
「えっと、どうして隠し事をしてるって思ったの?」
「……その……ここ最近、姉さん、部屋に入れてくれないの………」
「へっ?」
「……前までは、許可を取らなくても部屋に入れてくれたのに、最近は、確認をとっても入れてくれない事が増えて……見られたくない何かが、あるのかな、って」
「部屋の中、かぁ」
……何か、見られたく無いモノがある、のかなぁ?
でも、『あの』千草ちゃんが、千景ちゃんに隠すモノって、なんだろう?
首を傾げていると、若葉ちゃんが近づいてきた。
「千草さんの部屋が、どうかしたのか?」
「千景ちゃんが、最近千草ちゃんが部屋に入れてくれないから、なにか隠しているモノがあるのかなーって思ってたんだけど……若葉ちゃん、何か知ってる?」
「千草さんの部屋、か……この間、少しだけ入ったが、変わったものは見えなかったが……」
「姉さんの部屋に?それって、何時頃?」
「大体、2週間程前、だろうか……」
「……何か、変わったものは、あった?」
2週間前、か。
結構前の話になるけど、千景ちゃんとしては気になるらしい。
身を乗り出して、若葉ちゃんに話を聞こうとしている。
「変わったもの……本が、山になっていましたけど……」
「本?」
「えぇ。栄養学、スポーツ学、それに……見間違いで無ければ、心理学などの本が、10冊程、でしょうか?」
「……そんなに?」
思わず聞いてしまう。
内容的に、薄っぺらな本という事は無いと思う。
そんな本が、10冊も?
「……1か月前には、無かったはず……」
「……1か月よりも短いに、あの本を10冊程勉強している、という事に……?」
「1冊、どれくらい厚かった?」
「たしか……そう、ですね、指2本よりは、厚かったような……」
私達と放課後を過ごしたり、千景ちゃんとゲームをしたり。
そうした後に、勉強時間を設けているとして……
かなりのハイペース、もしくは……夜遅くまで、勉強している?
「……………姉さん、もしかしたら……」
「千景さん?」
「少し、確かめてみるわ。合鍵は持ってるから……姉さんが居ない、今なら……」
チャリッ、と取り出された鍵。
一体、何を気付いたのだろう。
不安を隠し切れないその表情が、どうしても気になってしまう。
「……千景ちゃん。私も、付いて行って、良い?」
「高嶋さん?」
「私も気になるし……千景ちゃん、辛そうだから」
「……………ありがとう、ございます」
「私も、同行させて貰えないでしょうか?一番最近の室内を知っているのは私です、更に変わっている場合はその違和感に気付けるはずです」
「そう、ね……お願い、します」
3人で、千草ちゃんの部屋の前に移動する。
千景ちゃんが鍵を空けて、中に入っていく。
若葉ちゃんと2人で顔を合わせ、頷き、一緒に入っていく。
「……見当たらない、わね」
「机の上に、置いていたはずですが……」
「うーん……」
10冊以上にもなる、本の山。
しかし、『何処にも見当たらない』。
前に入った時と同じ、些か以上に殺風景な部屋のままにしか見えない。
「……本、ね」
「千景さん?」
「多分、ここに……あったわ」
「えっ!?」
千景ちゃんが漁ったのは、服を収納している筈のタンスだった。
衣服の下に、本が見える。
「一発で分かるんですね……」
「姉さんの事だから、何となく分かるわ……栄養学、スポーツ学、心理学……護身術に、料理レシピ?」
「本当に一杯あるね」
「………ちょっと、待って」
千景ちゃんがタンスから離れ、次に向かったのはベッドの方。
下を覗いて、手を伸ばすと、段ボールが出てきた。
中を開ければ、そこにも沢山の本が……
「って、多くないかな!?」
「……合計で、28冊、だけど……これは、ちょっと……」
「何それ!?」
「ろ、六法全書……法律について纏められた本だとは聞いた事がありますが……」
辞書なんかじゃ比べ物にならない程に分厚い本が現れる。
ドスンッ!と1冊の本からして良い音じゃない音が聞こえる。
「六法全書は置いておくとして、他には……株と、投資?なぜこんな本が……」
「千草ちゃん、勉強の為に買ったんだよね……?」
「………まさか」
何かを察したのか、千景ちゃんが机を漁り始める。
取り出されるのは、勇者御記?
「千景さん、何を……?」
「姉さんの考えが、ここに纏まっているはず。それを知りたいの」
無言で、穴が開く程真剣に読み始める千景ちゃん。
私と若葉ちゃんも、慌てて覗き込む。
――――――――――――――――――――
勇者御記、と名付けられた日記を頂いた。
日々の些細な事でも良いから、毎日書くようにとの事。
忘れないようにしないと。
あの村から、漸く千景を連れ出す事が出来た。
辛い目に遭ってばかりであったあの子が、幸せになれるよう、努力しないと。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
乃木若葉さんは、少し真面目すぎる傾向にあると見える。
此方も誠意をもって対応すれば、特に問題はないと思う。
上里ひなたさんは、現状要注意。
私達の秘密を知る数少ない人物であるのもそうだけど、聡い人であるからだ。
同じ理由で、伊予島杏さんも警戒すべき。
しかし、どちらかと言えば物静かな性格であるのを考慮すると、上里ひなたさんよりは問題ない。
土居球子さんと、高嶋友奈さんは、上記の人物とはまた別で警戒すべき対象。
話しかけてくる頻度を考慮して、言動に気を付けないといけない。
これらを踏まえて、今後の対応を考えないといけない。
考える事は多いが、千景の為にも、頑張ろう。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
乃木若葉さんと上里ひなたさんに、戦う意志について問われた。
彼女の生真面目さが、私達にとって悪い方向に働いてしまったと思われる。
思った事をそのまま伝えて、今回は事なきを得た。
千景の為に、私は戦う。
世界とあの子を天秤にかけられたら、私は千景に手を伸ばす。
その過程で、世界も守る。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
土居球子さんと、伊予島杏さんと遭遇した。
向こうの事を知る為にも、接触する方向で行動したけれど、千景に負担をかけてしまった。
反省しなければならない。
2人とも、勇者として選ばれただけあって、良い人であるらしい。
しかし、警戒は続けなければならない。
ほんの僅かでも隙を晒してしまえば、弱みを握られてしまえば。
その先に待つのは、『あの村』と同じ状況なのだから。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
友奈さんが、接触を図ってきた。
何と言うか……見ている此方が心配になってくる程に、良い人であった。
疑ってしまうのが、申し訳なくなってしまう程。
幸いな事に、ゲームという共通の話題が出来た。
彼女との接触を通じて、千景の人間不信が改善されていく事を願う。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
――――――――――――――――――――
「千草さん、このような事を考えて……」
若葉ちゃんの言葉を聞きながら、少し考える。
と言うのも……『千景ちゃんの事ばかりで、千草ちゃん自身の事が少なすぎる』。
千景ちゃんの事を思って行動しているのは良く分かるけど、それ以上が分からない。
「……もっと、先かしら」
千景ちゃんも、同じことを思ったのかな?
更に先を読もうとして……さっきの部分、その先を見て、千景ちゃんの指が止まった。
一体、何が………
――――――――――――――――――――
母さんが見つかった。
見捨てられた事に恨みこそあれど、それを表に出してはいけない。
怒りに身を任せてはいけない。寛容さを示さねばならない。
模範的な人というのは、そうだろうから。
――――――――――――――――――――
「千草さん達の母親が、見つかった……?」
「……浮気相手と村を出て行ったお母さんが、天空恐怖症の状態で病院に運ばれた。同じ名字の人間って事で身元調査されて、特定されて、姉さんに連絡があったの」
「そう、なんだ」
千景ちゃんの話を聞きながら、考える。
これは、どういう事なんだろう?
今までとは違って、恐らく千草ちゃん自身の事だと思う。
けど、分からない。
3人揃って首を少し傾げながらも、続きを読むことを選ぶ。
――――――――――――――――――――
母さんと、話をした。
後悔していた。謝ってくれた。
それだけで、十分。
―――勇者御記 二〇一五年八月 郡千草―――
――――――――――――――――――――
余りにも簡潔すぎるこの部分に、違和感を感じてしまう。
けれど、違和感を感じるだけで終わってしまう。
――――――――――――――――――――
武具の受け取りの為、大社本部へと向かった。
その先で、私達の巫女、花本美佳さんと出会った。
千景の事を勇者として敬ってくれる、良い子だ。
彼女は、きっと裏切らず、千景の助けになってくれる。
そう言う面を除いても、良い人そうなのは確か。
彼女の私達への信頼が消えない様、気を付けないと。
―――勇者御記 二〇一五年九月 郡千草―――
身体の鍛え方について、乃木若葉さんから聞いた。
参考になる部分もあるが、他の見解も知りたい。
そういう本を買う事も検討しよう。
――――――――――――――――――――
「乃木若葉さん、これは……?」
「確かに、聞かれた事がありますね。武道を修めるモノとして、何か教えてくれないか、と」
「ふぅん……」
若葉ちゃんの言葉に、少し不機嫌そうな千景ちゃん。
ちょっとこの場の空気が悪くなりそうな流れに、不安を覚えてしまう。
けど、その雰囲気も、先の文章を見て、色んな意味で消えてしまう。
――――――――――――――――――――
母さんから、千景の事を任された。
私が、実の母から、託されたのだ。
千景を支え、見守り、良き人となれるよう、全身全霊を賭して導く。
私は、託された役目を、必ず果たして見せる。
―――勇者御記 二〇一五年九月 郡千草―――
――――――――――――――――――――
「千景ちゃん、これ、って……?」
「知らない、知らないわ、こんな事……姉さんが見舞いに行った、あの日?だとしても、何、これ……お母さんが、託した?姉さんに、私の事を任せた……?」
「千景さん、落ち着いてください。深呼吸を、ゆっくり……」
わかる範囲で、考える。
千草ちゃんは、1人でお母さんの所に言った。
そこで話す中で……千景ちゃんの事を、任された?らしい。
でも、何だろう?『支え、見守り、全身全霊を賭して導く』というこの言葉は?
深呼吸をして、少し落ち着いたらしい。
千景ちゃんが、御記に手を伸ばす。
「千景さん」
「もう、大丈夫、だから……先を、読みましょう」
「……うん」
少し震える指で、千景ちゃんがページを捲っていく。
――――――――――――――――――――
球子さんの提案もあり、全員で遊ぶ事になった。
不安だったのは千景の事だけ。
あの子の為にと、今までよりも積極的に、明るく振る舞ってみたけれど、それが功をなしたのか、千景が今までよりも会話に参加する頻度が増えている。
ゲームの話題という事もあったかもしれないけど、嬉しい事だ。
他の人達からお礼を言われたけど、良く分からなかった。
千景以外の誰かから感謝されるなんて、随分と久しぶりだったから。
どう返せば、正解だったのだろ?
―――勇者御記 二〇一五年九月 郡千草―――
私のなすべきことを、見つけた。
あの子の為に、私が出来る事。
私ではあの子を導けない。
しかし、あの子の為以外に私は動けないでしょう。
ならば、やれることは1つでしょう?
私は、あの子の為に生きる。
あの子の為に、なんでもする。
この身は、全てあの子の幸せの為に。
―――勇者御記 二〇一五年九月 郡千草―――
――――――――――――――――――――
「……ここ、何か書いてあったのかな?」
書いてある内容に驚きつつも、疑問を口にする。
不自然な空白に、首を傾げる。
すると、千景ちゃんがシャーペンを取り出した。
「……あとで消しやすいように、薄くこの辺りを塗ってみるわ。姉さん、少し筆圧高めだから、浮かび上がるはず……」
サラサラ、と空白部分を塗りつぶす千景ちゃん。
そうすると、確かに、浮かび上がって……
私は、あの子の為に生きる。
あの子の為に、なんでもする。
この身は、全てあの子の幸せの為に。
千景ちゃんの手からすり抜けたシャープンが、机の上で転がる。
その音で、漸く私達は動き出す。
それ位に、衝撃を受けてしまった。
「……なに、これ」
「……『あの子』というのは、千景さんの事でしょう、けど……」
「千景ちゃんを導けない、千景の為にしか動けない……千景ちゃんの為に生きる、千景ちゃんの為になんでもする……この身は、千景ちゃんの幸せの為に……」
千草ちゃんの、生きる目的、なのかな……?
だとしても、これは……
「………ねえ、さん」
「千景ちゃん?」
「姉さん、の……姉さんの、生きる理由は、私……?」
震えている千景ちゃん。
どうしたのか、と聞こうとして……
千景ちゃんの頬を、涙が伝っているのが見えてしまった。
「千景ちゃん、泣いて……」
「千景さん、大丈夫ですか?」
「私は、私は大丈夫……でも、姉さんが……」
「千草ちゃんが?」
「だって、このままじゃ、姉さんが……!」
ポロポロと涙を零す千景ちゃんを、若葉ちゃんと2人で落ち着かせる。
10分程だろうか?
少し落ち着きを取り戻した千景ちゃんに、話を聞いてみる。
「それで、さっきの事なんだけど……」
「……日記を読んで、多分だけど、分かったわ。姉さんが、私に隠してあれだけ勉強していた理由」
「それは、その……千景さんの為、との事でしょうか?」
「それは……表面的、とでも言いましょうか。簡単に表現したら、そうなんだと思うの」
俯いて、とても辛そうに。
でも、私達に、千景ちゃんは言葉を選びながら話してくれる。
「……姉さんは、私の為に頑張っている……それも、たぶん、その……『姉』として、だけじゃない、もっと他の………そう、言うなら、『教える立場の者』として、『支える者』として、『見守る者』として……」
「それは、つまり?」
「……姉さんは、『あの村』で私達が頼れなかった人達が、本来であれば与えてくれた全てを、代わりに私にくれようとしているのよ……………自分の事は、一切気にせず……!」
理解、しきれない。
辛い目に遭ったという、2人の故郷。
そこで頼れなかった、多くの人達。
『教える立場の者』……教師。
『支える者』……友達とか、そう言う人。
『見守る者』……保護者。
そう言う人たちが、与えてくれなかったものを、千景ちゃんに、1人で、全部?
「……千景さん。それは、その……」
「不可能、と言いたいのよね?」
「……えぇ」
「否定は、しないわ……でも、姉さんはそれを成し遂げようとしている……いえ、正確には……ずっと、あの日から、与えてくれていたの……」
あの日……それは、多分、2人のお母さんが居なくなった日、なんだと思う。
「思い返せば、どうして気付かなかったんだろうって思うくらいに……姉さんは、ずっと、たくさん、多くの事を私に教えてくれていた……言葉で、行動で、示してくれていた……」
「……………」
「時折、姉さんの考えている事が分からない時があったわ……こっちに来たばかりの頃、姉さんがどうして周りと接触を図ろうとするのか、分からなくて……母さんが見つかった時、母さんがどう私達と接するか見守ると言った時も、なんでか分からなかった………きっと、行動で示してくれてたの。『自分以外の頼れる人を作って欲しい』って……『相手を憎むだけじゃなくて、赦す事も必要だ』って……言葉と行動で、教えてくれていたのよ……」
千草ちゃんのしてきた事は、確かに良い方向に働いたんだと思う。
最初に会った時よりも、千景ちゃんは明るくなったように思う。
「でも、それは……姉さんが怖いのを我慢して、苛立ちや恨みを心の中で抑えて、無理をして示してくれていた……考えれば、そうよ。姉さんだって、私と同じ苦しみを、痛みを味わって来たんだもの……怖くて当然で、母さんへの怒りを抱いて当然で……それでも、『私の姉だから』って、それだけで、全てを隠して……!」
でも、千草ちゃんがしてきた事は、千草ちゃんが自分を蔑ろにして成し遂げた事。
私達には分からないだけで、千草ちゃんの心には、傷が沢山ついているのかもしれない。
その傷を、千景ちゃんが見えない様に、ずっと隠してきたんだ。
「姉さんが居て、安心して……姉さんだって苦しいのを、理解していなかった……!姉さんなら大丈夫なんだって、勝手に思い込んでた……!!私は、私は……姉さんに依存して、姉さんの事を理解する事を、放棄していたのよ……!!」
それを、御記を読んで、千景ちゃんは分かってしまった。
「姉さんの為にも、周りとの壁を取り払おうとは思った!でも、それは、姉さんが安心してくれるかなってだけで……姉さんの負担になってるって知ってたら、もっと……もっと、頑張って……!!」
「千景ちゃん……」
「姉さん、ごめんなさい……ごめん、なさい……!!」
なんと、声をかければ良いのだろう。
私と若葉ちゃんは、千景ちゃんに言葉を投げかける事が出来なかった。
部屋の中で、千景ちゃんのすすり泣く声が、ずっと響いた。
――――――――――――――――――――
「烏丸さん、話というのは……」
「まぁ、まずは座ってくれ。お茶、飲むか?」
「え、えぇ……頂きます」
夜、急に烏丸さんから、部屋に来るよう連絡が来た。
部屋に入ると、少し難しそうな表情を浮かべた烏丸さんが居た。
差し出されたお茶を飲み、一息いれたところで話しかける。
「それで、話がある、との事でしたけど」
「……夕方、友奈から連絡があった」
「高嶋様から、ですか?」
「お前の勇者……郡千草について、でな」
千草様について。
一体何があったのだろうか。
もしや……勇者システムの開発時に倒れられたと聞いたが、また?
「多分だが、お前が考えている事とは違う。体調を崩したとか、そういう話じゃなかった」
「そう、ですか……」
「……むしろ、それよりも厄介そうな話だったが、な」
それは、どういう事だろうか?
視線で話の先を要求する。
重い溜息を吐いて、烏丸さんが話を続ける。
「……花本。郡千草という人物について、どれ位知っている?」
「……貴女以上には、とだけ」
「黙秘、か……まぁ良い。友奈から、相談を受けたんだよ。随分と言葉を選んでいたようだから、相談したい事を理解するのに時間がかかったが、ざっくり纏めると『郡千草が何か隠し事をしている。それを知りたいが、上手く聞き出す方法を教えて欲しい』とな」
「千草様が、隠し事を……?」
「話によると、妹の……郡千景にも、隠している事らしい。それを知りたいんだそうだ」
千草様が、千景様に隠し事をされている?
それは、よっぽどの事なのではないだろうか。
直接お会いしたのは、1度だけ。
その1度だけでも、千草様が千景様の事を大切に思っている事は、理解出来た。
それほど大切に思っている相手にすら、隠している事。
……いや、それほど大切に思っている相手『だから』、隠している事なのだろうか?
「……烏丸さんは、何と?」
「まぁ、一般的な手法を幾つか教えたくらいだ。話して良いと思える程度に信頼を勝ち取るか、向こうが話してくれるまで気長に待つか……最終手段だが、脅迫するか、といった具合にな」
「……まぁ、確かに一般的に思いつく方法では、ありますが」
「友奈も、まぁ駄目元の連絡だったんだろうな。最後のヤツについては触れずに、信頼を勝ち取る方向でなんとか頑張ると言って電話は終わったが」
面倒くさそうに、また大きく溜息を吐いて、私の方を見る。
「……花本。ここからは、私の勘に基づく話になる」
「は、はぁ……」
「多分、一悶着起きるな。一ヶ月か、二ヶ月以内、と言った所かな」
「それは、どういう……」
「話から察するに、郡姉妹というのは、とても信頼しあっているんだろう?そんな2人の間で、隠し事なんて出来たんだ。どっかで拗れるのは想像に難くない」
少し考えてみて……烏丸さんの言葉に、否定出来ない。
御二人は、とても信頼しあっている。共依存、と言い換えても良い程に。
全てを共有しあってきたからこその、強い絆。
そこに、初めて出来た綻びとなるのだろう。
「……何故、私にその話を?」
「その方が良いと考えたんだ。お前は、2人の巫女だろう?それも、大社内でも噂になる程の熱心な巫女だ」
「そのつもりではありますが」
「だから、だ。後々拗れた事実だけを知ったら、お前も気に病むだろうと思ってな」
……親切心、だろうか?
未だこの人については把握しきれていないが、今回の『これ』は、恐らくただの親切心なのだろう。
今は、それで良い。
「で、どうする?」
「……少し、考えてみます。時間は余り無いでしょう、けど逆に言えば、少しはあるんですから」
「まぁ、頑張ってくれ……私も、これ以上は特に出来そうにないからな」
「この事を伝えて下さっただけでも、ありがたいです」
「貸し1、って事にしておいてくれ。何か適当に菓子類をくれれば良いさ」
「えぇ、分かりました。烏丸さんの好きそうなモノ、選んできますよ……ありがとうございました。それでは、また明日」
「あぁ、また明日」
郡様御姉妹の、仲違い。
避けられるならば、避けねばならないだろう。
御二人は、まだ互いに助け合わねば前に進めない、と考える。
御二人が支え合うのを止めて自立するには、早すぎる。
「まずは、そうね……上里さんに、話を聞いて……………千景様にも、お話を伺う事は、出来るかしら……?」
やれることを、出来るだけ急いで行わねばなるまい。
確実に話を聞けるだろう上里さんに連絡を取りつつ、自分の部屋へと急いで戻る。
脳裏で、最悪の事態――郡様御姉妹の仲違いと、それに伴う勇者様方の雰囲気悪化を避ける為に、出来る事を必死に考えながら。
『互いを思う、故に起きる不和……これもまた、人の業、なのでしょうね』
『良く考え、良く悩みなさい。この不和を乗り切るか、乗り切れぬか……』
『その過程を、その果てを……どのような結末であれ、私は見守りましょう』
前回触れていた不穏な要素に触れていきました。
色んな所に不穏な要素をばら蒔き、肥大化させていくのが今回のお話でした。
改めて、この度は投稿が大幅に遅れてしまいました事、誠に申し訳ございませんでした。
投稿ペース元に戻せるよう、頑張りますので……(土下座
以下、筆者のゆゆゆシリーズに対するちょっとした持論語りです。
興味ない方は飛ばしてください。
ゆゆゆ系には不穏要素が必要不可欠、というのが私の持論です(私個人のモノですので、他の方がどう思っているかはわかりませんが)
不穏な要素無しで、皆で和気藹々としながら日々を過ごし、一致団結してバーテックスに立ち向かう!最後は倒して大団円!というのは何か違う気がどうしてもしてしまいまして……
本作においては、のわゆ原作に置ける不穏要素、『郡千景とその過去』について、大幅に軽減する事が執筆する上での大前提であります。
そうすると、上記した『個人的に必要不可欠な不穏要素』が少なくなってしまう。
なら、それに代わる不穏要素を用意しなくては!と思って追加しているのが、『郡千草』という少女の存在から生まれる諸々です。
今現在焦点を当てているのは、『郡千草と郡千景の関係性』と言うべきモノ。
他にも色々考えておりますので、これで不穏要素を尽きさせないようにしたいと考えてます。