郡千草は勇者である   作:音操

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お久しぶりです、作者です。
先日、勇者史外典の中に新しい巫女、それもぐんちゃん関係の巫女さんが登場しましたね。
その子についてどう扱うか、という部分で悩んでいた為、予定より投稿が遅くなってしまいました。

結果として、『現状書き溜めていた部分に干渉しない為放置する』、という事にします。
下手に触れて後々困るより、まだ触れない事で後に話の中に組み込みやすいようにします。
重要人物なので、本編に登場させてあげたいですからね。
登場などを期待されている方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありません。


第3話

「あまり綺麗ではないのですが、どうぞ」

「お邪魔します」

 

倒壊した神社で一息ついた後、大社に報告出来そうなことを纏め、私は郡様の家へと来た。

小さな貸家で、郡千草様が言う様に、あまり綺麗とは言い難い。

廊下を歩き居間へと入れば、ある程度整頓されているのが分かる。

 

「そこで待っていてください、何か飲むものを用意します」

「麦茶くらいなら、冷蔵庫に入っているわね……お菓子、何かあったかしら」

 

あっという間に、人数分の麦茶と、ビスケット類が机に並ぶ。

 

「その服装で外を歩くのは、大変ですよね。良かったら、どうぞ」

「ありがとうございます。お菓子の方は、どうぞ御二人で」

「では、お菓子の方は千景と一緒に」

 

麦茶を頂きながら、ざっと家の中を見渡す。

閉ざされた襖の奥は、私室だろうか。

見える範囲に置いてあるビニール袋の中には、アルコール飲料と思われる缶が沢山入っている。

良く見ると、箸が三膳しか無い。

その事について少し考えようとして、郡千草様が私に話しかけた。

 

「あの……私たちが拾った刃物の、確認をお願いしても良いですか?」

「本当に、勇者の証として確かなモノなのか、私たちには分かりませんので……」

「分かりました。どちらに?」

「あっちの部屋に。今、持ってきますので」

 

襖の奥の部屋に御二人が入って、何かを漁る音がする。

少しすると、御二人がそれぞれ1つ、ビニール袋で包まれたモノを落とさないよう両手で持って現れる。

床に置いて、包んでいたビニール袋を取ると、錆びた刃物が見える。

大社で神樹様を見て、神樹様に選ばれた巫女を見て、他の勇者の方々が得た武器を見た事がある私には分かる。

神聖なモノ。この刃は、見た目こそ錆びた刃であるが、確かに勇者の武器たりうるモノだ。

このままでは使えないだろうが、打ち直せば、バーテックスに対抗出来る武器として生まれ変わるだろう。

 

「……確認致しました。まさしく、勇者の方々が手に取られた武器と同じく、神聖なモノです」

「そうですか?」

「はい。このままでは武器として使えないかもしれませんが、打ち直せば、立派な武具になるかと」

「そう、ですか……私たちが、そのままこの刃を使うんですね?」

「はい、そうなるかと。他の勇者の方々は、手に入れられた武具をそのまま扱われていますので」

「……あの。神聖なモノと言っても、私たちには分からなくて……具体的には、どう違うんですか?」

 

郡千景様の言葉に、少し考える。

どう違う……銃火器などと違い、何故バーテックスに通じるか、という意味か。

 

「では、簡単にご説明を。銃火器とは違い、この刃には神々の武具の力、あるいは神々自身の力が宿っております。これがバーテックスに対抗出来る理由となります」

「そうなんですか?」

「はい。一例ではありますが、先日島根から香川にたどり着かれた勇者の方は、『生太刀』と呼ばれる、とある神様の神器の霊力を宿した日本刀を武器として扱われています」

「へぇ……この刃には、一体どんな力が?」

「申し訳ありません、私ではそこまでは分かりません。大社本部まで持ち込めば、詳しく分かるかと」

 

頭を下げる。

神樹様のお言葉を神託として受けられる巫女ならば、分かるかもしれない。

徳島から香川まで人々を守り通した勇者、その方を導いたという巫女様は、武器に宿った霊力が分かったと聞いている。

 

「そうですか……」

「きっと、我々の為に力を貸してくださるのですから、良い神様の力が宿っているかと」

「そうだと良いですね」

 

そう言うと、郡様御姉妹は丁寧に刃をビニール袋で覆い、襖の奥の部屋へと戻しに行く。

なんでも、押し入れに隠してあるとか。

……押し入れに隠してあると、ご家族に見つからないだろうか?

見つけてから数日隠し通せているらしいが……

 

そういえば、ご家族の方……御二人のお母様は、いらっしゃらないようですね。

父親も母親も、どちらも家には居なかった。となると、共働きでどちらも居ないと考えるべきか。

それとも、町内会などの用事で出かけている?

聞いてみようか……いや、ご本人から聞くのは、気が引ける。

御二人の家庭事情に、深く関わる事だ。聞き出すのは容易ではないだろう。

ご家族の方は夜に帰ってくるという話なのだ、無理に聞く必要は無い。

そう判断し、大人しく時折郡様御姉妹から質問された事に返答しながら待つことにした。

 

 

 

家の掃除を手伝いながら、待つ事数時間。

家の外へと続く扉から音がした事で、ご家族の方が帰ってこられたのを認識する。

 

「ただいま、2人共……おや、どなたかな?」

「香川の方から来た人なの。話をしたいって」

「香川から?」

 

荷物を居間の隅に投げた後、ご家族の方……父親が、私の方を見る。

床に正座し、そのまま手をついて深く頭を下げる。

 

「初めまして。郡様御姉妹のお父様で、お間違いありませんか?」

「確かに、僕は千景と千草の父ですが……」

「私、大社と呼ばれる組織の者です。この度は、郡千草様、郡千景様にお話がありまして、香川より来ました」

「は、はぁ……」

「御二人の事についてお話したい事があり、お邪魔しております」

 

面倒くさそうに頭を掻きながら、お父様が座る。

 

「それで、お話と言うのは?」

「まず確認をしたいのですが、お父様は村の外の事情について、どれ位知っていますか?」

「村の外、ですか?すみません、あまり詳しくは……」

「でしたら、簡単にではありますが、私から説明させて頂きますね」

 

ある程度予想していたので、郡様御姉妹に説明した事の中から、話しても大丈夫な範囲で伝える。

村の外が…日本という国が、世界がそのような状態に陥っているとは思わなかったのか、顔を青くしている。

…職場の人から、話を聞いたりすることもあるだろうに。

もしかしたら、『あまり詳しくは知らない』どころか、『全く知らない』のかもしれない。

 

「今、この世界がどんな状況なのか、分かって頂けましたか?」

「え、えぇ」

「では、ここから本題に入らせて頂きます……先ほど話させて頂いた、我々大社がバーテックスと呼称している化け物。それに対抗出来る力を、郡千草様と郡千景様が有している事が分かりました。その為、御二人にはバーテックスに対抗するために戦う人材、『勇者』となって頂きたいと考えています」

「……えっ?」

 

理解し切れなかったのか、お父様はポカンと口をあけて固まってしまう。

 

「先ほど、バーテックスには通常の兵器は効果が無く、特殊な力を宿した武器を持つ選ばれた少女、『勇者』のみが対抗出来るとお話しましたね?」

「え、あ、はい。確かに、そう聞きましたが」

「貴方のご家族である郡様御姉妹に、『勇者』としての素質があると、先日神託がありました。私の方でも確認しましたが、御二人は勇者の証である武具を手に入れられている」

「素質?武具?僕は何も知らないぞ?……千草、千景、どういう事だい?」

 

お父様が、御二人の方を見る。

呆れたように、千草様が溜息をつく。

 

「この間、1日中地震が続いた日があったでしょう?」

「あぁ……確かに、あったな」

「貴方が家に居るって言って避難しなかった時、私と千景で神社に避難したの」

「神社?学校に行くんじゃなかったのか?」

「誰が行くのよ、あんな所……自分から針の筵に飛び込む趣味は無いわ」

 

針の筵、か。

確かに、この村の住民の態度を見れば、そうも表現したくなるか。

 

「で、神社に避難して、そこにずっと居たけど……一際大きな地震が起きた時に、社が倒壊したわ。その時、社の中に何かがあるって気付いて、千景と一緒に社を漁ったの。そしたら、大きな刃物を見つけたわ」

「姉さんと1つずつ見つけたその刃物が、勇者が持つ武具だったらしいの。手に持っていたら、何か温かなモノが流れ込んできて……それが、勇者としての力だったらしいわ」

 

御二人の言葉に、どういう事が起きていたのかを理解したらしい。

少し考えるように目を閉じ、また私の方を見た。

 

「どういう事があったのかは、分かりました。それで、えっと……大社、でしたっけ?大社としては、今後どうしたいんですか?」

「我々としては、御二人には大社本部がある香川へと来て頂きたいと考えています」

「香川に、ですか?」

「はい。他の勇者の方々と生活を共にし、戦闘訓練などを行って頂きます。本部の近くであれば、大社の巫女が受けた神託をすぐにお伝えする事も出来ますので」

「はぁ……」

 

娘さんの話だというのに、どうでも良さそうに対応されてしまう。

 

「もちろん、それだけではありません。御二人には香川で暮らす間の生活面のサポートもさせて頂きます。生活に必要な費用は大社で全て負担しますし、ある程度ではありますが、御二人が自由に扱える金銭の支給も考えています」

「……へぇ」

「また、ご家族の方にも援助金が支給されます」

 

『家族への援助金』という単語を口にした瞬間。

お父様の表情が少し明るくなったのを、私は見逃さなかった。

 

「そう、ですか」

「はい。娘さんが命懸けの戦いに身を投じられるのですから、せめてそれ位は、と」

「なるほど……千草と千景は、行くことに納得しているんですか?」

「御二人には、勇者として香川に行くことを承諾して頂きました」

「そうですか……2人が納得しているなら、自分から言う事は何もありません」

 

自分の娘が、命懸けの戦いに身を投じる。

それを、とてもあっさりと、お父様は承諾した。

…普通、自分の娘が命懸けで戦うとなれば、親は反対したりするものではないのか?

私なら、そうするだろう。

 

「宜しいのですか?」

「えぇ」

「……分かりました。それでは、細かい話をさせて頂きたい」

「分かりました」

 

不思議に思いながらも、郡様御姉妹にも参加して頂いて話を続けていく。

何時頃香川へと行くのか、交通手段はどうするのか、荷物はどう持ち込むのか。

転校の手続き等についても、この村から香川へと行くにあたり必要な事は全て話す。

それについて、お父様は何も思わないのか、二つ返事で承諾していく。

ある程度話が終わった頃に、それを見ていた郡千草様が口を開いた。

 

「……予想はしていたけれど、本当に何も言わなかったわね」

「郡千草様?」

「少し、ほんの少しだけ、期待していたわ。命が懸かるような話になれば、流石に心配してくれるんじゃないかって……でも、そんな事無かったわね」

「……千草?」

「親権を押し付けられないが為に、未だ離婚し切れていない……子供の事を、自分の生活の邪魔にしか思っていない人だも、当然の事よね」

 

語られた事を、頭の中で整理していく。

浮気をしていたと言うお母様と、浮気をされたお父様。

離婚の話が出て来るも…郡様御姉妹の親権をどちらが持つか、という事で争う。

そして、今だ決着は出ず、離婚にも至っていない、と。

 

「何が言いたいんだ、千草?」

「……いえ、貴方には何も。ただ、決心がついたわ」

 

そう言うと、郡千草様が、私の方を見る。

今までのどんな時よりも、真剣な表情だった。

 

「大社の人……名前を伺っても良いですか?」

「私の名前、ですか?」

「えぇ」

真鍋(まなべ)暢彦(のぶひこ)、と申します」

「真鍋さん…ありがとうございます。では、改めて……真鍋さん」

 

郡千草様が、目を閉じて一度深呼吸をする。

そして、まっすぐ私を見た。

 

「私と千景の2人と、この人の……親子の縁を、切りたいんです。手伝って頂けませんか?」

 

郡千草様の発言に、私とお父様が目を見開いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「親子の縁を、切る……ですか?」

「はい」

 

私の発言に、大社の人…真鍋さんはとても驚いているようだ。

まぁ、仕方ないとは思うけど。

急に、親子の縁を切る手伝いをしてください、なんて言ったのだし。

 

「……理由を、聞かせて頂けますか?」

「……真鍋さんも、先ほどまでのやり取りで感じているかとは思いますが、あの人は自分の事以外に関してはとても関心が薄い人です。家族への思いやりなんて、全然無い」

 

ギュウッと、膝の上で拳を握る。

 

「母は、優しい人でした。ですが、家事もろくにせず、自分の趣味を優先して生きる父に段々愛想を尽かせて……浮気をして、浮気相手と村を出て行きました」

「……そう、でしたか」

「えぇ。先ほども言いましたけど、今でも離婚はしていません。親権をお互いに押し付け合って、まだ決められていないから……両親にとって、私と千景は邪魔者以外のなんでもない……!」

 

苛立ちと憎悪を込めて、あの人を一度見る。

完全に固まってしまっているようだった。

自分を落ち着かせるために一度深呼吸をして、また真鍋さんを見る。

 

「私は、あの人が嫌いです。この村も、大嫌い。何時か、この村から出られる日が来るのを、ずっと耐えて、待っていた」

「それが、今であると」

「はい。村の外から来たばかりの真鍋さんでも、分かってくれると思います……この村は、私と千景にとって、ただの地獄でしかない、って」

「……それは、確かに」

 

私たちと村の人間の間に起きた事を、真鍋さんは何度か見ている。

だからこそ、分かってくれるはず。

あの人やこの村が、私たちにとっては辛いモノだという事を。

……そうなるように、わざわざ村の中を歩き回ったり、あの人と話す場を設けたのだけれど。

教室でのやり取りを見て貰えたのが、一番印象に残っているだろう。

あれは予定外だったけど、私たちにとって、良い方向に働いた。

 

「……村を出ても、また戻って来るなんて考えたくも無い。この村に戻る理由を無くしたい……そう考えたら、縁を断ち切るくらいしか、思いつかない」

「わ、私からも、お願いします……真鍋、さん」

「千景?」

 

千景の発言に、私が驚く。

この話をするときは、私に任せて欲しいと言っていたのだ。

怯えているのが分かる。

でも、私の服の端を掴みながら、真鍋さんから視線を逸らさず、千景が口を開く。

 

「この村で過ごす中で、辛い事が沢山ありました。物を盗まれたり、罵声を浴びせられるのは日常茶飯事。机や椅子は傷つけられたり落書きをされ、モップや雑巾を洗った後の汚水をかけられ、服やランドセルは燃やされた」

「それは……とても、お辛かったでしょう」

「えぇ……」

 

そう言うと、千景が左耳にかかっている髪を左手であげる。

そこにある左耳、そして大きな傷を見て、真鍋さんが目を見開いた。

 

「姉さんがトイレに行っている時、でした。囲まれて、無理やり髪を切られて……この傷は、その時に」

「なんと、そこまでとは……!」

「……姉さんにも、未だに傷跡が残っているんです」

 

そう言うと、千景が私を見る。

何をして欲しいのか、私は察する。

右手で、右目にかかっている髪を避ける。

右目のすぐ近く、眉の横から右耳へと伸びていく傷が露わになる。

 

「階段から突き落とされた時に、私は軽傷で済んだけど、姉さんには、この傷が……」

「……学校内での出来事と思います。教職員は?」

「……何も、ありません。逆に、私たちが文句を言われました。『先生に迷惑をかけるな』、って」

「そう、ですか……」

 

私たちの身に、どんなことが起きたのか。

語られた事を理解して、真鍋さんは肩を震わせる。

…やっぱり、この人は優しいんだ。

私たちの境遇を、可哀想だ、って。そう思ってくれる人なんだ。

この村の人とは、全然違う。

 

「姉さんと、この村から出たい。そして、二度とこの村には帰ってきたくありません……どうか、お願いします」

「私からも、お願いします」

 

千景が頭を下げたのを見て、私も頭を下げる。

真鍋さんが、下を向いたり、天井を見たり、色々考える事数分。

改めて私たちを見た時、今までのどんな時よりも真剣な表情をしていた。

 

「郡千草様、郡千景様」

「あ、あの、千草、だけで大丈夫です」

「あ、私も……千景、だけで良いですよ?」

「そうですか?では、改めて……千草様、千景様」

 

様、も要らないんだけど……

でも、真鍋さんの立場上、付けておかないといけないんだろう。

 

「御二人には、申し訳ないのですが……私個人では、どうしようもない事です。この場でどうにか出来る話では、ありません」

「……そう、ですよね……」

「ですが、この事は必ず、大社本部にお伝えします」

 

力強く、私たちの事を真っ直ぐ見つめて、真鍋さんは言葉を続ける。

 

「ご家庭の状況、村の状況、郡様御姉妹の周りでどんな事があったのか……本日聞いた事、私が見た事、全てを大社本部、上層部へとお伝えします。私個人では何も出来ませんが、大社という組織の力があれば、必ずや郡様御姉妹の力になれるでしょう」

「真鍋さん……」

「千草様、千景様。後ほど、何かしらの文章として、御二人のお願いを纏めて頂けますでしょうか?そちらを大社本部へと持ち込めば、より確実に、御二人の力になれるかと思います」

「……はい!」

「この場で解決出来ない事、申し訳ありません。ですが、どうにか出来るよう、協力する事を誓います」

 

深く頭を下げる真鍋さんの姿に、視界が潤む。

唐突な願いに、協力してくと言ってくれる。

それが、私にとって……私たちにとって、どれだけ有難い事か。

千景の方を見ると、千景も少し泣いている様だ。

目を擦っているのが見える。

私が見ているのに気づいたのか、千景も私の事を見る。

千景が、泣きながら笑った。

 

「姉さん……良かった、良かったね……」

「えぇ……えぇ!」

 

思わず、千景を抱きしめる。

千景も、私の事を抱きしめてくれた。

そして、2人で一緒に、思い切り泣いた。

 

その後のその日の記憶は、大部分が曖昧だ。

確か、私たち2人のお願いを、紙に書いてはずだ。

どんな事を書いただろうか、それさえも曖昧だけど。

あの人が何か言っていたような気がするし、それに対して、真鍋さんが何かを言い返していたような気もする。

あの人の怒鳴り声が聞こえても、守ってくれる人が居たからか、落ち着いて文章を書けた気がする。

はっきりと覚えているのは、迎えの車が来た時に家の外まで見送った事。

真鍋さんがとても優しい表情で、『出来る限り早く、ここに来ます』と言ってくれた事。

そして、全てが終わった後、私と千景は何もかもを後回しにして、糸が切れたかのように眠りについた事だけだ。

 

 

 

翌日から、家の空気は最悪だった。

あの人が、縁を切りたくない、だなんて戯言を抜かしたからだ。

大方、援助金が欲しいからだろう。

元から許す気など全くない。千景と共に、適当に流して家を出ていく。

 

村の人たちの対応も、なんだか変わった気がする。

けど、もう少ししたら出ていく村の事なんて、もうどうでも良かった。

ゲームに逃げる必要すら感じない。本当に、どうでも良い事。

気にする事も無く、日々を過ごしていく。

 

そうして、2日後。

その日のお昼、またも校内放送で呼び出された私たちは、来賓室に来ていた。

校長先生と、真鍋さん、私たちの4人が、部屋の中に居る。

 

「真鍋さん、お久しぶりです」

「千草様、千景様、お久しぶりです。大変お待たせいたしました……早速、お話をさせて頂きますね」

 

真鍋さんはそう言うと、大きな封筒を私たちに差し出す。

開いてみると、長く難しそうな話がかかれた紙が何枚もある。

しかし、注釈やふりがな、要点などが書いてある。

きっと、私たちの為に、わざわざ用意してくれたのだろう。

 

「まず、村からの引っ越しですね。先日事前に話していた通り、こちらについてはあの日から5日後……今日からですと、3日後ですね。3日後の朝、大社の方で手配した業者の人に荷物を持っていって貰います。御二人につきましては、我々が香川までお連れいたします」

「はい」

「転校の手続き、住民票などにつきましては、全て我々の方で手続きを行わせて頂きます」

 

その発言に、校長先生がピクリと反応する。

それを一切無視して、真鍋さんは話を続ける。

 

「3日後の引っ越しを持って、御二人は香川にある学校の生徒として編入、住民票はこの村から、香川県へと移されます」

「はい」

「引越し先は大社で用意した寄宿舎になります。お荷物はそこまで多くは無いとの事でしたので、搬入なども問題なく行われるかと思います」

「はい」

 

先日確認していた事と間違いないか、記憶をたどって比べていく。

今のところ、大丈夫。

問題は此処からだ。

 

「では、次に移ります。御二人の要望であった、ご両親との縁について……こちらについてなのですが、法的に家族との縁を切る方法というのは存在しませんでした」

「……そう、ですか」

「しかし、様々な方法をとれば、限りなく近い状況に持っていく事は可能ではないかと判断しました。後半の書類に纏めてありますので、どうぞご確認を」

 

言われるままに、書類を見ていく。

相変わらず難しい単語が続いているが、要点が纏められた紙を見れば大体分かる。

あの人に引っ越し先の情報等を告げない、裁判所等で相手に住民票と戸籍の閲覧制限などをかける、等の複数の手段を行う事で、出来る限りあの人と関わる事の無い、あの人が関われない状況を作る。

そうすることによって、『縁を切る』という状況に限りなく近づける。

これが、大社の人が提示してくれた、私たちの願いに対する回答だった。

 

「必要な措置に関しましては、我々が全面的に協力致します……こちらが、我々が用意できる、出来る限りの物となります」

「……ありがとうございます。真鍋さんが、大社の人が、色々調べてくださったのが、分かります」

「私たちの願いを聞いて、叶えようとしてくれた……それだけでも、本当に嬉しいです」

 

2人で、頭を下げる。

大社と言う組織について、私たちは全然知らない。

けれど、法律について詳しい組織なんかじゃないだろう。

わざわざ、私たちの為に、法律とかそう言う事を調べてくれて、私たちの願いを叶えようとしてくれたのだ。

 

「どうか顔をあげてください……実は、話はこれだけでは無いのです」

「これだけじゃない、ですか?」

「はい。我々大社に、御二人の後見を勤めさせて頂きたいのです」

「「こう、けん?」」

 

首を傾げる私たちに、真鍋さんが説明をしてくれる。

簡単に言うと、財産管理とか、医療行為の同意などを、あの人に代わって行う立場らしい。

 

「御二人が成人されるまでの間、我々が財産管理などを責任をもって行わせて頂きます」

「お金の管理、ですか?」

「管理と言っても、口座を用意し、誰かが勝手に御二人のお金に手を出さないようにする、程度の物ですが」

「は、はぁ…」

「こうした管理は、本来ならば保護者……つまり、親権を持つ人間に許されるモノです。ですが、御二人のお母様は行方不明、お父様は……あくまで私の主観とはなりますが、財産管理を任せると危険ではないかと、判断させて頂きました」

「否定しません」

 

自分の事のみを優先し、他人への気遣いが出来ない、そんな人。

もし任せたら……まぁ、何時の間にか私たちのお金が消えている可能性が高そうだ。

 

「……話は、分かりました。これらの件について、私の方から大社の皆さんにお願いします」

「わ、私からも……お願い、します」

「かしこまりました。家庭裁判所などにも連絡を入れますので、こちらについては日付などが決まり次第、改めて連絡致しますね」

 

そう言うと何やらメモをとり始める。

数分メモを書いた後、真鍋さんがこっちを見た。

 

「ここまでの話で、何かご質問などありますか?まだ話していない内容も少しありますが……」

「……1つ、良いですか?」

「なんでしょう?」

「その、香川の学校、と言うのは、勇者だけの学校、なのですか?」

「勇者様と、巫女様が1人の特別クラスを設けております」

「巫女さん、ですか?」

「はい。勇者様の付き添いとして、先日島根から香川まで人々を守り通した勇者様を導いた巫女様が、御二人を含めた勇者様方と生活を共にされます」

「そうなんですね」

 

勇者と巫女だけのクラス、か。

…人が多くない、というのは安心出来るかな。

そう思っていると、真鍋さんが申し訳なさそうに口を開く。

 

「千草様、千景様。その巫女様について、お話させて頂きたい」

「なんですか?」

「巫女様にだけ、御二人の境遇を、詳しい部分はぼかしてお伝えしようと考えております」

「……何故、でしょうか」

 

真鍋さんの事を真っ直ぐ見ながら、質問する。

過去を切り捨てて、新しい生活を得る予定なのだ。

自分たちと生活を共にする人には、知って欲しくない。

 

「……御二人のように、家庭の問題を抱えている方は、他の勇者様にはいらっしゃいません」

「そう、ですか」

「はい。ですので、本人に悪気は無くても、御二人が余り話したくない話題を聞こうとする方も、いらっしゃるかもしれません。そうした場面を回避できるよう、話を誘導出来る人が居る方が、御二人にとって良いのではと思います」

「なるほど……」

 

少し、考える。

私たちが話したくない話題…つまり、家族の事、元住んでいた場所の事、学校の事、等だろうか。

悪気はないけど聞いて来る人、というのは、確かに居るかもしれない。

そして、もしそういう人が居たとして…怪しまれることなく、断り切れるだろうか?

…私のコミュニケーション能力を考慮すると、難しい気がする。

そう考えると、1人くらい、私たちの境遇を知っているからこそ、そういう話題を避けてくれる人が居ても、良いのかもしれない。

 

「千景は、どう思う?」

「……出来れば、知っている人は居ない方が良いとは思うわ。でも、1人だけなら……」

「そうね。1人だけなら、まだ……真鍋さん」

「はい」

「誰にも言わない事。これを条件に、その人に、詳しい事は除いて、大まかな話だけ……これで、お願いできますか?」

「かしこまりました。そうですね……これで、私の方からお話する事は全て終わりました」

 

紙を確認しながら、真鍋さんがそう言う。

どうやら、話すべき事は話し終わったらしい。

……やれるだけの事は、やったしやって貰ったと思う。

あとは、なるようになるだろう。




3話目にして原作からどんどん離れていってしまっていますね。
ここまでかっ飛ばして良かったのだろうか、という不安……胃が痛いです(プレッシャーに弱い男)
ですが、この話は必要だと思っているので、思い切って書いてみました。

本編中にある『縁を切る』という部分に関する事は、ネット等を利用して調べてみてはいます。
ですが、やはりネットの情報ですので、間違っていたりする可能性はあります。
法律などに詳しい方、間違っていたら申し訳ありません……
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