暑さで死んでいました。つらいです……最近湿気こそ減ってきましたが、気温が単純に高くて汗ダクです……汗っかきには辛い時期です。
私事ですが、スマホを買い替えた事で、遂にゆゆゆいが出来るようになりました!
早速プレイして、即座に3万円ぶち込んでURぐんちゃんをお迎えしました。
ぐんちゃんを愛でる為にも、少しずつ頑張っていこうかと思います。
さて、今回は、原作ではあまり語られなかった『あの方』との話です。
正直、受け入れて貰えるかどうか、という部分でずっと胃を痛めながら書いていました。
批評などが多い様でしたら、書き直しも視野に入れつつ投稿させて頂きます。
『この作品のこの人はこういうキャラなんだ』と受け入れて貰えたら幸いです。
「千草、千景!これから、予定は空いてるか?」
「もし良ければ、この間の本の感想を聞かせて欲しいのですが……」
放課後になって、土居と伊予島の声が聞える。
郡さん達に話しかけている様だ。
どうやら、2日前に一緒に本屋に行った時に薦めた本の感想を、伊予島が聞きたいらしい。
そんな2人の誘いに、千草さんが申し訳なさそうに言う。
「御免なさい、どうしても、行かなければならない場所が出来て」
「そう、でしたか……」
「感想は、またの機会で」
そう言うと、直ぐに2人で立ち上がり、教室を出ていく。
そんな2人を見て、土居と伊予島が話し始めた。
「……なんか、様子が可笑しかったような気が……タマっち――先輩は、どう思う?」
「なんか違和感を感じる、けど……なんだろうな?」
確かに、今日の2人は、どこか可笑しかった気がする。
心ここにあらず、とでも言うべきか。
何かについて考えている事が多かったように見えた。
「昨日話した時に、街の散策をするって言ってたけど……それとはきっと違う、よね?」
「あ、友奈。そっか、昨日はあの後話しに行ってたんだもんな」
「うん、色々話して来たよ!……っと、今はそれじゃなくて」
「……街の散策なら、『行かなければならない』というのはちょっとおかしいですよね」
「そうだけど……何処に行くんだろうね?」
何処かから、車が走る音が聞こえる。
それを意図的に無視して、2人が何処へ行ったのか考える。
が、結局教室に居る全員で考えてみたが、何も分からなかった。
……やたらと、ひなたの口数が少なかったから、大社関係の何かなのかもしれない。
が、あえて触れない事にした。
――――――――――――――――――――
「御二人は、『天空恐怖症候群』という言葉を耳にされた事はありますか?」
「授業で、触り程度なら……千景は?」
「私も、詳しくは知らないわ」
「では、詳しく説明させて頂きます」
放課後、迎えに来てくれた大社の車の中。
酔い止めに用意したガムを噛みながら、真鍋さんの話に耳を傾ける。
「7月30日、バーテックスが襲来し、多くの人が被害を受けました。その中で、あの件がトラウマになった方々は少なくないです」
「それは、確かに居るかもしれませんね」
「はい。その方々の中でも、バーテックスを、そしてバーテックスが降ってきた『空』を恐れるようになった方々が居ます。その、『空』に対するPTSD、つまりトラウマの事を『天空恐怖症候群』と呼ぶようになりました……最近になり、大社及び大社と協力関係にある病院の医師、PTSD等に関する専門家でそう呼称しました」
話を聞いて、理解する。
PTSDというのは……ゲームでそういう単語が出たので、少し記憶にある。
分かりやすく言うと、真鍋さんの言う様に『トラウマ』なのだろう。
そして、こんな話をしたのは、恐らく……
「真鍋さん。その、この話をしたという事は、つまり……」
「……はい。御二人のお母様は、天空恐怖症候群に……」
先日、大社と協力関係にあるとある病院で、『郡』の名字を持つ女性が運び込まれた、と電話があった。
調べた結果、同じ名字の赤の他人、という訳では無かったらしい。
数年前に私たち姉妹をあの人の元に置いて、浮気相手と村を出た、私たちの母だった。
最初は小さな病院に運び込まれたらしいが、天空恐怖症候群に陥った人の中でも酷い錯乱状態にあり、大きな病院の精神科に移されたらしい。
その大きな病院というのが、天空恐怖症候群について調べている大社と協力関係にある病院、だったわけだ。
「……現在、医師や専門家の中で、『天空恐怖症候群』について様々な議論が交わされています。その中で、症状によりステージを分ける、という意見があります」
「ステージ、ですか?」
「はい。トラウマの深さ、『空』に対する恐怖の度合い、とでも言い換えられます」
ステージ1、空を見上げるのを怖がる、外出を怖がる程度。
ステージ2、バーテックス襲来時の記憶が蘇る事があり、精神的に不安定になる。
ステージ3、記憶のフラッシュバックの頻度が多くなり、時に幻覚が見える。ここまで来ると精神安定剤や睡眠薬と言った薬が手放せなくなるレベルになるようだ。
そして、ステージ4。記憶の混濁が起こり、自我の崩壊、発狂へと繋がる。
「御二人のお母様は、ステージ2とステージ3の間に区分される、と医師が言っておりました」
「そう、でしたか……」
「……昨日、千草様に電話をした際、会う事を勧めたのは私ですが……正直、断られるかと思っておりました」
申し訳なさそうに、真鍋さんが言う。
そう、昨日真鍋さんが電話をかけて来たときに、私にこう言ったのだ。
『千草様。一度、お母さまに会われてみてはいかがでしょうか』、と。
様々な感情に襲われながらも、一度千景と話すという選択肢をとり、共に考え……会う事に、決めたのだ。
「……断る事も、もちろん考えました」
「でしたら、何故?」
「……思ったんです。恨みはあります、嫌悪もあります。それでも、会う事を拒んだら……『家族から逃げる』という選択肢をとったら、私も千景も、母と変わらないって」
「それは……」
数年前のあの日、母は私たちを置いて、浮気相手と逃げた。
本人の考えは、分からないけれど。『家族から逃げた』という事実は、確かに残っていて。
そんな人に、なりたくないと思った。
「だから、会ってみたいんです」
「……お強い方ですね、千草様と千景様は」
「……私は、別に。姉さんが居なかったら、たぶん、逃げていたから……」
「だとしても、ですよ」
真鍋さんの言葉に、頷く。
千景には、『辛かったら私1人だけで行く』と伝えた。
それでも、付いて来ると言ったのだ。
噛んでいたガムを面倒なので呑み込み、新しいガムを噛む。
酔い対策をしながら、真鍋さんの話を聞く。
「……御二人のお母様は、先ほども話した通り、天空恐怖症候群のステージ2とステージ3の間程に位置されます」
「そういえば、間の辺り、というのはどういうことなんですか?」
「判断出来るほど、御二人のお母様の様子を伺えていないのです……今の病院へ移られて数時間したら、ずっと眠っているとの事でして」
「そう、なんですか?」
「はい。医師も首を傾げているのですが……」
「……病院に行っても、起きているかは分からない、という事ですね」
「正直に申し上げますと、そうなります」
これは、どうなることやら。
……眠っていてくれた方が、会いやすいのかもしれないけれども。
出来るなら、言葉を交わしたい。
そう思いながら、母が居るという病院へと向かった。
――――――――――――――――――――
夢を、見ているのでしょう。
もう、何年も前の事。
『あの人』と出会って、恋をして。
家族の声を振り切って、駆け落ちして。
小さな貸家を借りて……あの子達を、私は産んだ。
あの村の環境に潰されず、今も生きていてくれているのなら、11歳、かしら。
小学校の最高学年になるだろう、2人の娘。
娘たちとの何気ない日々を、第三者の視点で私は見ている。
『おはよう、母さん。何か、手伝う事はあるかしら?』
小さいながら、気遣いの出来る姉。
『お母さん、おはよう……私も、手伝うわ』
そんな姉の後ろについて歩く、物静かな妹。
仲が良い、2人の娘たち。
黒くて綺麗な髪を、長く伸ばした娘たち。
『私そっくりね』と言ったら、笑って喜んでくれた娘達。
……村に置いて行った私が言っても、誰も信じないでしょうけれど。
あの子達の事を、愛していた。
母さん、と呼んでくれるあの子……千草の事も。
お母さん、と呼んでくれるあの子……千景の事も。
大切な娘だと、そう思っていた。
時に優しく、時に厳しく……今思うと、優しくした比率が、だいぶ多かったかしら。
2人の母として、子供を支える大人として、愛していた。
愛していたのです、2人の娘の事を……
どこから、狂いだしたのだろう?
『あの人』が、私の誕生日を忘れて上司と飲みに行った時?
『あの人』が、娘達の運動会や学芸会を面倒だと言って見に来なかった時?
……いや、それは切っ掛けに過ぎない。
全ては、『あの人』に振り回される日々に疲れてきた、あの日に……
あの日、とある男性に声をかけられた時に、全てが狂った。
眼の下に隈を作り、顔色も悪かった私を気遣い、声をかけてくれた人。
その優しさに、少し心惹かれてしまい……
ふと出会った時に挨拶と少しの談笑をするようになり、連絡先を交換しお互いに愚痴を零す関係になり。
そして……その果てに、友人の域を超えて、浮気の段階へと踏み込んでしまった。
家の事を放り出し、彼に会う機会を作るようになった。
人目を気にしなくていいように、彼の家にお邪魔しておしゃべりをするようになった。
優しくされるのが嬉しくて……優しくされている間は、『あの人』の事を忘れられて、それがとても嬉しくて。
それでも『あの人』の事を思い出し気分が悪くなった時に、彼はより優しくしてくれて……
それで、より心惹かれてしまい……
『辛いなら、逃げてしまいましょう。何もかも、此処に置いて行って』
その言葉に、残された良心が『娘を置いて行くのはどうなのか』と待ったをかけて……
それでも、逃げる事を選んでしまった。
……娘を愛していたのは本当。
だけど、娘達への愛を上回ってしまい程に、私は『あの人』から離れたい気持ちを持ってしまっていた。
娘達を置いて、あの場所から彼と逃げた。
罪悪感に襲われ、体調を崩す事が多くなった。
夢の中で、泣き続ける娘達が現れることも増えた。
私の事を気遣ってくれる彼の優しさに縋り、生きる日々が続いた。
その日々の中で、ふと唐突に、とある方向が気になるようになった。
地図を開けば、その先にあるのは、高知県のあの場所で。
日に日に、その方向を見ながら『ごめんなさい』と泣きながら謝る頻度が増えていった。
あの子達に呼ばれている、そんな気がしたから。
そんな生活を続けて、数年。
私の事を楽しませようと、彼が外出を提案し、一緒に遅くまで遊んだ。
そして、その帰り道で……星が綺麗な、夜で……
くらいそらから、しろいほしが、おち、おちてきて
それで、ふふ、ふたりでひっしににげ、にげてでもだめでわたたしをつきとばしたかれははほしにのまれれてそれでほしにかこまれれれれれ
『勇者ぁ、パーンチッ!』
『大丈夫ですか!?』
『高嶋友奈さん、彼女を気遣うのは後です。今はまず、奴らを倒して安全の確保を』
『あ、そ、そうですね』
『安心してください。もう、大丈夫ですから!』
「ねむ………みたい………」
「そう………本当………」
声が、聞こえる。
聞いたことのない、ような、何処かで聞いたことがある、ような……
「ずいぶん、やつれて………」
「目の隈も……」
意識が少しはっきりとしてくる。
それにより、声もよく聞こえるようになる。
身体は、何故か金縛りにあったかのように動かないけれども。
「……そのままに、してあげましょう」
「姉さん、でも」
「休ませて、あげましょう」
「……姉さんが、そこまで言うなら……」
「ありがとう、千景」
ちか、げ?
その名前は、まさか。
いやでも、私の知っている『ちかげ』は……私の娘は、高知のあの村に。
私が、自分で、あの村に置いて行ったはずなのに。
でも、数年で変わっている事を考慮しても、聞こえてくるこの声は……
『千景』と、もう1人の私の娘、『千草』の声のように、聞こえる。
「真鍋さん。せっかく連れてきて貰ったのですが、眠っているようですので……」
「もう少し、待ってみる事も可能ですが?」
「……いえ。私たちが居ると、きっと休めないでしょうから。静かな部屋で、ゆっくりさせて……」
いや、間違いない。間違えるはずが無い。
あの日、私が置いて行った娘の声だ……
確信を得たその瞬間、涙が溢れてくる。
「……母さん、泣いているの?」
そっと、私の頬を誰かが拭う。
いや、誰か、ではない。千草だ。
「……真鍋さん。やっぱり、今日は帰ります」
「そう、ですか。」
「えぇ」
行かないで、と言いたい。
しかし、身体は動いてくれない。
「姉さん、良いの?」
「うん、良いのよ……もう、良いの」
手を伸ばし、引き止めたい。
しかし、身体は動いてくれない。
足音が聞こえる。少しずつ遠ざかっていく。
扉が開く音が聞こえて……
「さようなら、母さん」
千草の声に、確信を持つ。
『ここで何かしないと、この子は2度と私の前に現れないだろう』、と。
お願い、動いて!
何処でもいい、顔でも、腕でも、足でも!
目を開けるだけでもいい、反応を示せ!
頼むから、動いて!動いてくれ!
『どうして、そこまで願う』
時が止まったかのように、辺りの音が消える。
その中で、暗い視界にぼんやりとした白い人影が浮かび上がる。
『どうして、そこまで願う?』
オウムのように繰り返される、その言葉に。
私は、こう考える。
──どのような結果になるとしても、逃げ続けて来た過去を終わらせる為に──
『何故、終わらせる?逃げ続ければ良いのに』
──今の私が出来る、あの子達の為になる事だから――
『……本心か?』
――……それは、分からないけれども。でも、思いついたのは、これだけだから――
『……………よかろう』
白い人影が、軽く手を振る。
そうすると、少しずつ、少しずつだが、身体が動くようになるのを感じる。
『良く考え、良く悩みなさい、人の子よ』
「ちぐ、さ」
動くようになった身体を、急いで動かす。
振り絞って出したその声は、か細く、聞き逃されても仕方の無いモノだった。
「……母さん?」
千草の声。
それに一安心し、重く感じる腕を挙げていく。
2人の居る、その方へと伸ばしていく。
「ち、かげ」
「……お母さん」
なんとか、目を開く。
駆け寄ってくる、記憶にある姿よりも美しく育った、しかし娘たちだと確信を持てる2人の少女。
その姿を見て、涙が溢れてくる。
「……おはよう、母さん。久しぶりね」
「……………久しぶり、ね」
「……そう、ね。久し、ぶり、ね……」
伸ばした手を、千草が優しく握る。
そんな千草の後ろで、睨むように私を見る千景。
そして、千草が、困ったように笑いながら、私に言う。
「……ここで言うのも、あれかもしれないけれど」
「?」
「……………おかえりなさい、母さん」
「……ちぐ、さ」
あぁ、『言葉も出ない』、とはこの事なのでしょう。
この子は、自分を置いて行って逃げた親を。
自分たちが虐げられる理由を作った人間を。
まだ、親として認めてくれて、『おかえりなさい』と言ってくれるのか。
自分の中で、ナニカが決壊したのが、分かってしまった。
「ごめ、ん、なさい……」
「ッ」
「御免なさい、千草、千景……私は、貴方達を……!!」
「……一番辛かったのは、母さんだもの」
「それでも、私は貴方達の母親で、守らなくちゃいけなくて……それでも、私はッ!」
そう、本来ならば、親である私は、この子達を育て、守るモノだ。
しかし、それを放り出し、私は逃げてしまった。
縋っていた『彼』が居なくなり、目を逸らす事が出来なくなった罪悪感。
それに、耐え切れなかった。
パンッ、と音と共に感じる、頬への痛み。
「千景!?」
「……ち、かげ」
「……………」
右手を振り抜いたまま、千景がこちらを見る。
憎悪によって暗く淀んだ、見ているだけで吸い込まれそうな瞳。
「……もう、遅いのよ」
「千景……」
「今更、今更謝られたって、もうどうにもならないのよ。貴方が居なくなって、私たちがあんな目に遭った事には、何も変わらない」
「そうだけど、だからって……」
「姉さんは優しすぎるのよ」
そう言うと、千景が自分の左耳にかかっている髪を手で上げる。
見えるのは、大きな傷。
「ねえ、貴方が居なくなってから色々あったのよ?モノを盗まれ、燃やされ、壊されて……暴言を吐かれて、存在を否定されて……!消えない傷まで負わされて!全部、全部!!貴方達の娘だったから!!!」
そう叫ぶ千景に、私はなにも言い返せない。
「……逃げるなら、私たちも連れて行ってくれれば良かったのに。置いて逃げたのなら、戻って来なければッ」
「千景、それ以上は駄目」
千景の言葉を、千草が遮る。
「……私たちも連れて行ってくれれば良かった、というのは同意するわ。でもね、後半は駄目よ」
「姉さんッ!!」
「本人の意思は分からないけれど、再び会えた……私はね、嬉しいのよ」
「………姉さんは、それでいいの?」
「……良いのよ」
「そう、なのね……分かったわ、姉さん。今は、これで終わりにしておくわ」
「ありがとうね、千景」
千景に微笑みながら感謝を告げると、千草がこちらを見る。
「ねぇ、母さん」
「千草……」
「……私たちの事を置いて行った事、許す、なんて言わないわ」
「……えぇ、それは当然の事よね」
当然だ。
千景の言った事が本当なら、彼女たちは心にも、身体にも、消えない傷を負った。
その原因は、私と『あの人』。
そして、それが、私が逃げた事でより大きくなったのでしょう。
許されるだなんて、思わない。
「……だから、やり直しましょう」
「それは、どういう……」
「母さん。此処はね、高知のあの場所じゃないわ。香川県の病院なの」
「そ、そうなの?」
「えぇ、そう」
千草の言葉に、驚く。
締め切られたカーテンの向こうには、見知らぬ光景が広がっているのだろうか。
……外を見るのを、とても恐ろしく感じてしまう。
だから、その見知らぬ景色を見ようとは思わないが。
「私たち、『あの人』から離れて生活してるのよ」
「それって、どういう……」
「まだ詳しくは言えないけれど、真鍋さん……あぁ、白装束のあの人と一緒に、とある仕事をしてるのよ。その代わりに、香川県で生活出来てるの」
「……危ないお仕事、なの?」
「大丈夫よ。きっと、母さんが想像しているような仕事とは、違うわ」
千草の話に、なにか危ない仕事をしているのではと疑ってしまうが、違うと言われる。
信じるしかないけれど……小学生に出来る仕事なんて、一体何なのかしら?
「でね、母さん。大きな仕事だから、それなりにお金が貰えているの。きっと、母さんの入院費だって払えるわ」
「にゅう、いん……そう、ここは病院だったのね」
「えぇ、そうよ。それで、母さん……ここで、香川で、『あの人』を除いた3人で、家族としてやり直しましょう」
それは……とても、とても魅力的な提案だ。
でも、それは、それを受け入れてしまうのは……
「……千草、良いの?」
「良いのよ、母さん。母さんが、辛い中私たちを育ててくれたのは、分かってるから。だから、今度は私が、母さんを支える番よ」
「でも、そのお金は貴方が得たモノで、貴方が自分の為に使うモノで……それに、私は、貴方に、貴方達に……」
「えぇ、確かにこのお金は私が得たモノ。だから、何に使うかは私が決めるわ」
アッサリと、千草は答える。
「それで……どうかしら?」
「……どうして、そこまでするの、千草?」
「……言ったでしょう?」
私の疑問に、握っていた手に少し力を込めて、千景が優しく微笑んだ。
「一番辛かったのは、愛した『あの人』に振り回された母さん。そんな母さんが、辛い中でも私と千景を育ててくれたのは分かってる……だから、今度は私が、母さんを支えたいのよ」
その言葉に、私は耐えられなかった。
俯き、泣きながら『ごめんなさい』と言い続ける私を、千草は優しく抱きしめてくれた。
私が泣き止むまで、ずっと。
私が泣き止んだのを確認して、千草が話しかけてくる。
「母さん。暫くは入院生活が続くかもしれないけれど……時折、顔を出すようにするわ」
「え、えぇ……」
「お見舞いの時には、なにか買ってくるから。母さん、好きなモノって何だったかしら?何年も会ってなかったら、忘れちゃって……」
「そ、そこまで気を遣わなくて良いのよ、千草。入院費まで払って貰う立場なのに……」
「そう?」
「えぇ」
千草の提案を、断る。
優しい子ではあったが、ここまで優しかっただろうか?
身体の成長と共に、元から持っていた優しさまで成長したのでは、と思えるほどに、彼女は優しかった。
「こんな私に、また会ってくれる……それだけで、十分よ」
「……そう。何か必要なモノとかあったら、言ってね?」
「えぇ、ありがとう」
千草と話をしていると、視線を感じる。
千草の陰に隠れている千景の、恨みがましい視線。
「……………姉さんの優しさに、甘えないでよ」
「えぇ、分かっているわ。本来、こうして言葉を交わす事すら……」
「当然よ……あの人の方が悪いとはいえ、貴方も私たちに酷い事をしたって事には変わりないんだから」
千景の言葉が、鋭く心に突き刺さる。
『あの人』と同じ、という言葉……
えぇ、そう。忘れてはならない。
守るべき子を蔑ろにしたのは、私も変わらない。
「……母さん。今日は、そろそろ行くわね」
「え、えぇ。分かったわ…………ありがとうね、千草、千景」
「良いのよ。久しぶりに会えて、良かったわ」
「……感謝されるような事じゃないわ」
2人に、私に会おうと思ってくれた事、そしてこうして言葉を交わしてくれた事への感謝を告げる。
千草は微笑んで、千景は呆れたような表情を浮かべる。
「真鍋さん、お待たせしてすみません」
「いえ、お気になさらず……」
「それじゃあ……またね、母さん」
「……………さようなら」
「えぇ……また、ね」
また、泣きそうになるのを堪えて、手を振る。
2人と白装束の人……真鍋さん、という人が出て行ったのを確認して、ベッドへ身体を預ける。
一気に眠気が襲ってくる中、ふと思った。
(そういえば、あの白い人影と会話をしてから、妙に落ち着いているような)
そんな事を思ったが、眠気に抗えず、考えるのは止めて眠る事にした。
『 ……悔い、改める。それが選んだ選択か』
『 言葉にすれば易い事。しかし、それが正しく行えるか、となると……』
『 良く考え、良く悩みなさい。その過程を、その果てを、見守りましょう』
――――――――――――――――――――
「姉さんは、優しすぎるわ……」
「……そうかしら」
夜、姉さんの部屋で。
2人、同じベッドで、薄手のタオルケットに包まりながら、話をする。
思い出すのは、病院でのやりとりだ。
「……姉さんは、どうして、母さんにあそこまで優しく出来るの?」
「?」
「……いくら『あの人』が悪いとはいえ、自分の子供を放置して浮気して、最後には1人逃げ出した人なのよ、母さんは。なのに、なんで……」
そう、姉さんは優しすぎる。
普通なら、もっと恨んで良いだろうに。憎んで良いだろうに。
姉さんは、『辛かったのは母さんだから』と微笑み、支えようとしている。
何故なのだろう。
「……千景。貴方が思っている事は間違ってないと思うわ。あの人がした事は、悪い事よ」
「えぇ」
「でも……あの人は後悔していた。それが分かったら……償う機会を、あげても良いかな、って」
「償う?」
姉さんの言葉に、首を傾げる。
償う、と言う言葉の意味は知っている。
知っている、けれども……
「……どう、償うっていうの、お母さんが」
「それは、母さん自身が決める事よ。この機会をどう活かすのか……そこに、母さんを許す、許さないを決める要因がある」
「……そう、かしら」
……最近。時折、だけれども。
私でも、姉さんの考えが……分からなくなる、そんな時がある。
怖いはずなのに周りに接触を図ったり……今回の、お母さんの件だったり。
私達は、同じのはず。そのはずなのに。
姉さんの考えが、理解し切れない。
「今すぐ許す訳じゃないわ。ただ、償おうと……変わろうとする母さんを、見てあげましょう」
「………うん。姉さんが、そう、言うなら……」
でも、姉さんが、そう言うのなら。
きっと、それが良いのだろう。
姉さんは、私達にとって不利益になる事をしない。
それだけは、絶対なのだから。
きっと、どれもこれも、私たちの為になる事なのだろう。
うん、そうよね……ホッとしたのと共に、眠気が襲ってくる。
「おやすみなさい、姉さん」
「……えぇ。おやすみなさい、千景」
寝る前の、いつものやりとり。
目を閉じる寸前、最後に見えた姉さんの表情は……どこか、悲しそうだった、気がした。
大社と呼ばれるこの組織で暮らすようになって、2週間程。
少しずつ生活には慣れてきたけれども、今までの違いには、まだ慣れない。
『巫女』とは呼ばれるけれども、神社の巫女とは違うのだし。
大社の巫女は、神託を受け、それを伝える者。
安芸先輩も、烏丸さんも……今はこの施設には居ない、上里さんも。
私と同じで、あの日、直接神託を受けた、そういう人。
なのだけれども……彼女たちに、どうしても劣等感を抱いてしまう。
彼女達と、私。
同じ巫女だが、決定的な違いがある。
他の3人は、直接『勇者様』と会っている。
けれども……私は、私だけは、勇者様にお会い出来ていない。
『郡千草』様と『郡千景』様、という名前は、教えて貰った。
2人を見出した巫女であるという事を利用して、『必ず、どのような事があっても、他人に漏らしてはならない』という条件の下、詳しい情報を教えて貰った。
私に御二人の情報を教えてくれた大社の人……真鍋さんの語ったことが本当なら。
とても辛い目に遭われて、しかしそれでも、世界の為に戦ってくださるのだという。
『とても心優しいお方です』という真鍋さんの言葉は、正しいのだろう。
まさしく、勇者と呼ぶにふさわしいお方なのでしょう。
窓の外、雲の無い空に浮かぶ月を見ながら、思う。
私が見出した、私の勇者様。
心優しいお方。勇者として崇められるに相応しいお方。
どうか、一度でも良いから、お会いしたいです。
郡母との物語でした。
語られていない部分がとても多いので、色々と好きに書かせて頂きましたが、いかがでしたか?
どんな反応があるか、考えるだけで胃痛が止まりません……(汗
そして、次に絡ませるキャラクターにも触れてみました。
出会いの時点で既に原作から離れてしまっている為、『あの子』らしさを保たせつつ本作オリジナルの出会いを描写しなければならない、というまたもハードルが高く胃が痛くなる状況。
頑張って書きますが……暑さのせいでまた遅れるかもしれません。
実家に帰れなくなった盆休みを利用して頑張って書きますので……(土下座