【完結】ヒソカは雑魚専? よろしい、ならば転生だ   作:虫野律

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長かったから分けた。これが前編的なやつ。後編書いてみてしっくりこなかったらこの話も消すかザックリ修正するかも。


淫乱探偵アラタの愉快な事件簿

 ヨークシンシティ東部のビジネス街の一角に位置する雑居ビルの7階にて数人が寛いでいる。その中の1人がパソコンと携帯電話を操作するベビーフェイスの青年に話しかける。

 

「例の呪いの品は見つかったか?」

 

「うーん。見つかったと言えば見つかったんだけど……」

 

「らしくないな。どうしたんだ?」

 

「場所はわかったんだけど、それが何かは分からなくて」

 

「その場所というのは?」

 

「んー。クロロも知ってると思うけど、あのペンドラゴン家の本邸のどこかにあるみたい」

 

 クロロと呼ばれた青年はそれを聞いて微かに嗤う。付き合いの長いベビーフェイスの青年でも、曖昧に理解することしかできない僅かな変化だった。

 

「十分だ。元々あそこの正妻が持つとされる念能力にも興味があったし、丁度いい」

 

 ベビーフェイスの青年が先を察する。いつも通り盗んで来るのだろう。クロロのこういう顔を何度も見てきた。その度に決まって色んな物を持って来て、皆を楽しませてくれる。ベビーフェイスの青年はクロロのそういうところが好きだった。

 

「暫く留守にするから、蜘蛛は自由行動だ」

 

「りょーかい。団長」

 

 クロロが部屋を後にする。 

 シャルナークはクロロが閉めた扉を静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

「もしもし、オレオレ」

 

「アラタさんどうしたんですか?」

 

 アラタのボケはナチュラルにスルーされてしまう。悲しいなぁ。

 

「いやぁ、ニコルんの実家って広いんだよね」

 

「まぁ、それなりには」

 

 それなり(都内の住宅地で最も広い)。

 

「試験で仲良くなったプロハンガスと一緒に遊びに行っていいかな。(修行が一段落するまでは無料(タダ)の)泊まりで」

 

「…………」

 

(ん? 急に無言になってどうしたんだ?)

 

「そのガスの性別はどちらですか?」

 

「ガスに性別なんてないぞ? 何言ってるんだ?」

 

 これは酷い。ボケに乗ってやったらこの対応。鬼畜の所業である。

 

「切っていいですか」

 

「ごめんごめん。謝るから切らないで。ガスは男だよ」

 

「それなら、まぁ大丈夫だと思いますが……」

 

(何か煮え切らないなぁ。ま! いっか! ここは素直に経費削減を喜ぼう)

 

「わーい! ニコルんや↑っさ↑し↓ー! 愛してる!」

 

 ガチャガチャ。バタバタ。ツーツーツー。

 

 何故か分からないが、電話が切れてしまった。何やら奇声のような、鳥を絞める時のような声が聞こえた気がしたが、ニヤニヤしているアラタにとってはどーでもいいことだから3秒後には忘れてしまった。

 

「相変わらずいい根性してるな。こりゃ扱き甲斐がありそうだ」

 

 ブラックさんことファルがしたり顔で頷く。

 

「か弱い乙女に何をするつもりだ」

 

「か弱いは認めてやらんでもねぇが、乙女は絶対に認めない。絶対にだ」

 

「ワロタ」

 

「それはそれとしてだ」

 

 ファルが急に真顔になり真剣な声でタメを作るように、ゆっくりと言う。

 

(な、なんだ? 何かやベーことやっちまったか?)

 

 むしろ、してないと思っているのか?

 

「先ずは最初に服と靴を買いに行くぞ」

 

「ワロタ」

 

 アラタはヨレヨレのスウェットに靴下という出で立ちだ。靴下に周をかけているのでそこまで不都合はないが、確かにビジュアル的には不味いかもしれない。下着も男物のボクサーパンツのみだ。上の方はハイテンポな(チラ)リズムでロックを奏でている。ちなみに胸はAとBの中間くらいだ。勿論、A2(ラ)とB2(シ)の中間という音階(?)の話である。女性にしては低音じゃないかって? 勿論、隠喩だ。

 

 

★★★

 

 ちゃっかり、ヒソカと、ついでにギタラクルとも連絡先を交換したアラタ・クソビッチは服と靴を(ファルが)買って、飛行船の旅とシャレこんでいた。

 

「ねぇ。暗黒大陸って楽しいのかな?」

 

「おい。バカやめろバカ」

 

「大事なことなんですね、分かります」

 

 アラタは地雷原を見るとついタップダンスを踊りたくなるオチャメさんだ。

 道中何があったか知らないが、ファルは疲れているようだ。 

 

 

★★★

 

 

「ニーコルん! あーそびましょー!」

 

 身体精密操作と莫大なオーラによる頭の悪い強化でよく通るけど、割れてはいない綺麗な大声が閑静な住宅街に響き渡る。門から豪邸というか、城まで何メートルあるか分からないから、これでも聞こえていない可能性が高い。

 

「バカやってないでピンポン押すぞ」

 

 ファルのスルースキルが急成長を遂げている。

 

「様式美というのを知らんのか」

 

 ファルは、アラタの突っ込みを無視してポチっとやる。すると直ぐに応答があった。

 

「お待ちしておりました。アラタ様とジョン・スミス様ですね。只今、迎えの者がご案内いたします故、少々お待ちください」

 

 どうやらファルは偽名を名乗っているようだ。やや高めの若い男性の声が確認した名前を2人は肯定する。

 

 アラタは、はっ、とした顔と仕草をして辺りを見回し、危機迫った表情でいい放つ。

 

「貴様! 見ているな!」

 

「勿論でございます。お客様の身に何かあるといけませんので、しっかりと警備させていただいております」

 

「あ、はい」

 

(ニコルん家の使用人強すぎわろえない)

 

 本当に少々の時間でメイドが1人で迎えに来た。無口無表情属性の青髪メイドだ。

 

(なんという強キャラ感。きっと暗殺の達人とか元Sランク冒険者とかの裏があるに決まっている)

 

 アラタがじろじろ舐め回すように見るが無反応。

 

(真紅の口紅もいいな。アイメイクじゃなくて口紅で抜け感を演出しても良かったかもしれない)

 

 メイドの口紅を見て、アラタらしくないことを考えている。数日前まで男物のスウェット、素っぴんで人前にいた奴と同一人物とは思えない。これでは本当に女の様である。

 

 さて、ここで今日のアラタのコーデを見てみよう。

 

 ボトムスは淡いブルーのフレアスカートで落ち着いた女性らしさを演出し、トップスに着ているグレーのタートルネックニットと黒のショートブーツが洗練された都会的なテイストを加え、更に半差し色的遊び心として、深紅の靴下をブーツから少しだけ覗かせ、危なげな少女の様な魅力まで放っている。桜色のロングヘアーとの親和性から、純粋な差し色ではないものの、却ってそれが全体の調和を促し絶妙なバランスが見る者に安心感を与える。

 

 メイクも抜かりはない。前世のとある経験からメイク技術に覚えのあるアラタは身体精密操作を用いて、フォーマルな落ち着いた、悪く言えば地味なメイクをベースにしつつもアイメイクにやや明るめの赤系統を気持ち広めに用いることで、所謂、『抜け感』を醸し出し、『穏やかな大人らしさ』の中にも、『遊び人』のような取っ付きやすさ、つまりは、『隙』を造り出している。

 

 勿論、ヘアセットも本気だ。ストレートの持つ美しさをベースにヘアアイロンで毛先に少しだけ巻きを加え、ワックスで若干の無造作感を演出し、こちらも、今回、アラタセルフプロデュースのテーマである『落ち着いた大人らしさ』や『知性』の中に『隙』や『少女らしさ』を少しだけトッピングすることをうまくこなしている。

 

 トドメは人気ブランドのシルバーアクセサリーからネックレスをチョイスしていることだ。このアクセサリーはヨルビアン大陸の各地で根強いファンを持つ、俗な言い方をすればロングセラー商品だ。しかし、それ故にこのネックレス誕生時に、『永遠の愛』が2人を祝福するようにと、今は亡き伝説的デザイナーが願いを込めて完成させたという逸話は余りにも有名だ。転じて、このネックレスを贈ることは『未来』を見据えていることを意味するようになった。

 

 総額、(税抜き)194,000ジェニーの買い物だ。勿論、全額をファルに負担させた。アラタは無一文であるから、やむ無しである。

 

 さて、場面をニコルの家の客室に移そう。アラタと正妻が向かい合って座っている。ニコルやファル、使用人も居るようだ。

 

 もうお気づきだろうか、アラタが今からやらかそうとしていることは……?

 

「ニコルさんと結婚を前提にお付き合いさせていただいております、アラタ・ルシルフルと申します。以後お見知りおきを」

 

 ちなみにルシルフルは、ラストネームを考えてなかったアラタが咄嗟に口から出てしまった名だ。

 この茶番は、アラタからすればちょっとしたイタズラ(?)だが、客観的に見るとそうではない。タチの悪い害虫が大事な跡取りに財産目当てで近づいているようにしか見えない酷い絵面である。

 というか、ぶっちゃけニコルの魅力の半分は一族のカネとコネと権力だとアラタは思ってるから、別に誤解はない。

 

 一瞬で殺気が広い客室を支配する。ファルが人知れず冷や汗を流す。職業がら殺気には慣れているが、このレベルは中々無い。

 この部屋に居るのは正妻を名乗る20代半ば位の見た目の女、先程のメイド、インターフォンの声の主らしき銀縁メガネの青年、壁に背を預け腕を組みながら静かに佇むベリーショートの女、ニコル、アラタ、ファルだ。おそらくは正妻を除き、全員が念能力者だ。それぞれが種類や方向性は違うがヤバイオーラを帯びている。

 ファルの見立てでは、自称正妻がある意味一番ヤバイ。死後の念の様な禍々しさを垂れ流しているのだ。彼女は非念能力者である可能性が高いが、それにしてもオーラがヤバすぎる。そして、彼女こそが、この部屋に充満する殺気の主だ。

 アラタは大丈夫だろうか。一応、師匠として監督責任が……ないことにしようかな。

 ファルはひよりつつも自らの膝に落としている視線をちらりと一瞬だけアラタに向ける。

 

「ニコルん久しぶり! 7日も逢えなくて寂しかったよ!」

 

「アラタさん……何やってるんですか? というか貴女誰ですか?」

 

 ニコルはアラタらしからぬ格好を見て、偽物か疑っている様だ。

 

「ひっどーい。私の思い(オーラ)を受け入れた(精孔を開いた)のにもう、飽きちゃったの? 最初はあんなに激しく(力を)求めてくれたのに」

 

 アラタは甘ったるい声でシナを作っている。身体精密操作のせいで無駄に洗練されたそれは邪悪そのものである。ファルは、何かもう帰りたくなってきた。

 お家帰ってホットケーキ食べたい。むしろ、ホットケーキになりたい。

 

「貴女、一体なんなの? ふざけたいなら帰って下さらない?」

 

 とうとう自称正妻がキレ出した。そりゃそうなるよ。

 

「何って聞いてるよニコルん」

 

 まさかのキラーパスにニコルも困惑だ。 

 

「うーん。何て言うか師匠みたいな?」

 

 ニコルもニコルでのんびりとした物だ。

 

 ニコルの言葉に思案顔を浮かべる者、興味深そうに好奇心を見せる者、感情を見せない者、そして真っ向から対立する者、様々な反応がある。

 

「貴女が師匠!? 貴女みたいな頭の悪そうなピンク女に何が出来るって言うのかしら?」

 

 対立したのは自称正妻だ。と言うかネテロ会長といい、この女といい、よっぽどアラタがお馬鹿さんに見えるようだ。

 

「何って、エロいことに決まってるでしょ?」

 

 壁際のベリーショートの女が笑いを堪えられずに吹き出す。

 

「マジもんの淫乱ピンクじゃねぇか!? こりゃレアモノだぜ!?」

 

 ベリーショートの女まで会話に参加してきた。茶化す気満々だ。 

 

「そんなぁ↑? 酷いで↓すぅ↑。私、ニコルんしか知らないのにぃ↑!」 

 

 ファルは蜘蛛の大群が全身の骨の内部から這い出てくる様な不快感に襲われる。もうやだ転職しようかな。

 ベリーショートの女は、アラタのぶりっこにすかさず反論する。

 

「はぁ? ヤることしか考えてない面してるくせに何言ってやがる」

 

(まぁ、確かにそういうコーデにしたつもりだから、いいんだけどさ。なんか納得いかねぇ)

 

 アラタは単に気分で場と人間関係を混乱させて遊んでいるわけではない様だ。意外である。

 

 アラタの今日のコーデの裏テーマは『落ち着いた女を気取った淫乱腹黒あざとうざい』だ。要するに腹黒い淫乱が清楚系を気取っている風、ということだ。

 

「おい、ルイ。男のお前から見てこの女どう見える?」

 

 ベリーショートは銀縁メガネの青年にいきなり話をふる。しかし、銀縁はノータイムで即答する。

 

「赤の靴下は少しわざとらし過ぎる気来があるかと。靴下は暗めの色にして、例えばアイラインをもう少しだけ攻めてみるのはいかがでしょうか?」

 

 ベリーショートはまた吹き出す。ちょっと唾が汚ない。

 

「ちょ、おま、何なん、そういう奴だったのかよ!」

 

「そういうというのが、何を指すのか分かりませんのでご質問にお答えいたしかねます」

 

 クイっとメガネを上げる仕草は非常に様になっている。

 

「それで! つまるところ貴女は何しに来たの!?」

 

 仕切り直す様に自称正妻の女が強引に言う。

 

「本当にニコルんを愛しているんですぅ。お義母様にも祝福してほしいだけなんですぅ」

 

 元々ヤバイオーラが、シャレにならない位になってきた。

 

「まぁまぁ、奥様。ここは少しだけ彼女にチャンスを与えてみてはいかがでしょうか?」

 

 助け船を出したのは意外にも、無反応無表情を貫いてきたメイドだった。

 

(お? これは……?)

 

「いくら、貴女がそう言ってもこんなのを近くに存在させるなんて耐えられませんわ」

 

 凄い言い草だ。

 

「しかし、奥様。このタイプの女は自分の身の程をしっかりと叩き込む必要があります。そうしないとストーカーや猟奇的犯罪に手を染めかねませんよ」

 

(本人を前にして凄い会話だ)

 

「ですので少しだけ近くにおいて、現実を思い知らせましょう」

 

「そうだそうだ!」

 

 アラタのキレのあるヤジが飛ぶ。

 

 ピクリと正妻が反応する。カップに口をつけ、上質なダージリンの香りをゆっくりと染み込ませる。

 

「分かりました。修行か子作りか知りませんがルシルフルさんの滞在を認めます。ユナフィに感謝しなさい」

 

 さて、そろそろ此度の茶番の目的をお話しよう。時はアラタとファルが試験会場を出た後まで遡る。

 

 

 

 

★★★

 

 

「淫獣?」

 

(エロゲ展開キター!)

 

「そういう風に俺たちは呼んでいる」

 

「俺たち(・・)?」

 

(エロゲ愛好家の紳士(イケメン)たちのことかな?) 

 

「ああ、ブラックリストハンター業界での通称だ」

 

(エロゲじゃない……? そんな! 期待させて裏切るなんて! 酷すぎる!)

 

 アラタの思いなど知らないファルはシリアスな雰囲気で語り出す。

 

「パドキア共和国の首都で同一の殺害方法による女の惨殺事件が、数年前から断続的に発生しているのは知っていると思う。一部では都市伝説的に噂されることもある」

 

(エロゲかと思ったらサスペンスだったでござる。解せぬ)

 

「一応、確認の為に事件を説明するぞ。知識のズレがないとも限らないからな」

 

 アラタは神妙に頷く。そんな事件知るわけないから、ノリでそれっぽい空気を出してるだけだ。

 

「殺され方は刃物で滅多刺し、特に女性器、乳房及び子宮が執拗に攻撃されている。それこそ挽き肉みたいに原型を留めない程だ」

 

(サスペンスかと思ったらサイコホラーもワンチャンあった件)

 

「被害者の年齢は13歳から47歳まで幅広く、逆に被害者の共通点は、皆、性に奔放、ざっくり言えば淫乱と言うことと抵抗した形跡がないことだ」

 

(まだだ! ホラーにエロは憑き物! 美味しいとこだけ首突っ込んで、ヤバくなる前にどんずら戦法ならあるいは……!)

 

 アラタは内心をおくびにも出さずにシリアス顔で問う。アラタもいい年なので空気が読めるのだ。

 

「で、それを私に何で教えたの?」

 

 ファルはもったいつけるように口角上げて、一拍置いてから告げる。

 

「もう一人の弟子候補の実家に居る人物の内の誰かが犯人だからだ」

 

 これはとあるスジからの確かな情報だ、とファルは補足する。

 ハンター業界に長く身を置いていると清濁様々な繋がりが出来る。時には煩わしく感じることもあるが、ファルはそういうものを悪くないと思っている。人生は余計なことが沢山あった方がずっといい。ファルはそう信じているのだ。

 

「その言い方だと特定の個人を犯人だと断定はできていないんだよね?」

 

「そうだ。分かっているのはペンドラゴン家に居ることと念能力者であることの2つだ」

 

 ニコルのラストネームはペンドラゴンだ。アラタは初耳である。

 

「でも念能力者なんて滅多に居ないんだから簡単に特定出来るんじゃない?」

 

「確かに地元名家の本邸と言っても念能力者は多くても10人程度だろう。しかしな、問題はそこじゃない。何が問題か分かるか?」

 

(んー? 問題なんてあるか? ちょっと順番に考えてみよう。普通、殺人事件で起こり得る問題は、動機や証拠が無く容疑者が不明とか、殺人のトリックが分からないとか、アリバイが崩せないとかじゃないか? でも念能力で容疑者はかなり特定されている。最悪、ニコルん家の念能力者を全員、操作系能力で操って自白させればいい。まぁ念能力頼みになっちゃうけど…………あ! わかった)

 

「念能力の説明無しに逮捕、起訴、有罪を正当化する証拠を集めなきゃいけないことでしょ?」

 

「正解だ。社会は念能力を前提に作られていないし、念能力は秘匿しなければならない以上一般人基準で証拠を揃えなければならないんだ。それがなければどんなに怪しくても表立っては逮捕できない。勿論、例外はあるがな」

 

 ちなみにだが『有罪足らしめる証拠が自白のみの場合は何人も罰せられない』という法理はハンターハンター世界でも成立している。従って、少なくとも建前上は操作系能力で自白させても、それだけでは有罪にできない。

 

「つまりは、ファルは私やニコルんに証拠集めを手伝えってこと?」

 

 プロハンターには警察と同等の権限が与えられている為、正式に捜査、逮捕が可能だ。それ故に、法に縛られるとも言える。法により認められた権限の行使には、法の遵守が大前提だ。

 

「またまた正解だ。少しは考える頭があるじゃねぇか」

 

「ひでー」

 

 アラタは顎に手をやりカッコつけて知恵を絞る。とりあえず形から入るつもりだろうか。しかし、意外にも、アラタの腐った頭脳に電流が走る。

 

 ポクポクチーン。

 

(いいこと閃いたぞ!)

 

 アラタに何か考えが浮かんだ様だ。とてもいい(悪い)顔をしている。

 

「私に考えがある。何、心配いらないよワトソン君。すぐにお手柄が舞い込んでくるさ」

 

 ワトソンて誰だよ。

 ファルは気になってしまうが、アラタの楽しげな顔を見て野暮な突っ込みは勘弁してやることにした。

 

「時にワトソン君。等価交換という言葉を知っているかい?」

 

 魔女の様に妖しく笑うアラタはまるで透明な童女の様だ。少なくともファルにはそう感じられた。

 

 

 

★★★

 

 アラタの作戦は簡単だ。クソビッチっぽい格好とノリで淫獣を一本釣りする囮作戦だ。証拠集めんのも、令状取るのもメンドクセーなぁ、と考えたアラタは自分を襲わせて現行犯逮捕しちゃえば解決や! とミステリーに喧嘩を売るかのごとき力技を選択したのだ。現行犯逮捕は逮捕令状が不要になる例外に該当する。つまりは令状発布の根拠になる証拠なくして合法に逮捕できる。

 

 殺人未遂で逮捕してしまえば、長期的に身柄を拘束する手段などいくらでもあるはず。その間に余罪に関しても有罪にする為の証拠を集めればいいじゃん! 

 

 アラタはこのように考えたのだ。一応、理屈は通っているが、アラタの厭らしい顔からも根性のひん曲がった悪ふざけであることは議論の余地がない。

 

 第1段階として、ファルが前もって正妻と連絡を取り合い、此度の滞在は修行だけでなく調査の意味合いもあると伝え、茶番の打ち合わせをする。

 ここで問題は2つある。

 1つは正妻が淫獣であった場合、前もって目的を伝えてしまえば、尻尾を見せないだろうという点。しかし、これは他の容疑者が白と確定した時に消去法で真犯人であると判断できる。特定してしまえば、じっくり監視し証拠集めをすることができる。逃亡に関してだが、顔も性別もオーラも年齢も分かる相手を見失う程、ハンターは甘くない。従って、こちらはそれほど大きな問題ではないのだ。

 2つ目は念能力者が非能力者と同様にオーラを垂れ流し、偽装している場合だ。そして、ファルやアラタに警戒して滞在中はずっと本性をひた隠しにするパターンだ。これに関しては100%の解を提示するのは困難であるが、近似値は算出可能だ。

 やることはいたってシンプルだ。則ち、警戒されない為にアラタとファルは非念能力者に成りすます。オーラ垂れ流しの状態を維持するのだ。当然、ファルはお手のものだが、意外、というより、必然としてアラタも可能である。むしろ、凄く得意だ。今までオーラとは無縁の使い方をしてきた身体精密操作であるが、今回は精孔を少しだけ隙間を残し、ほとんど閉じることに使用する。精孔は意思でコントロールできる身体の一部であるからこの特殊技能の効果範囲なのだ。演技による感情に合わせて隙間を微調整する事で、あたかも自然体と同様に感情と連動して漏れ出すオーラ量が変化している様に見せる芸の細かさである。

 こうしてアラタは跡取りの婚約者を名乗る淫らな一般人に成りすます。ちなみに、ファルはハンター試験で知り合い意気投合した友人という設定で、念能力によりよく居る青年に容姿を変化させている。友人にしては少し年齢が離れているが、精神年齢が高めのニコルならばそう珍しくない、というかこの世界では年齢の垣根を越えた友人はアラタの前世よりは珍しくない。明確な理由は分からないが、年齢による能力差より、個人個人の才能や環境による能力差の方が大きいからかも知れない。年上だからといって相手より優れるというケースが少なくなれば、年齢に関係なく対等な友人関係も築きやすいであろう。

 

 話を戻そう。このように淫獣の好み(・・・)の一般人を偽装すれば、淫獣が本性を現す可能性を上げられるはず。少なくともプロハンターを含む2人組よりはましな筈だ。ベストではないが、ベターと言っても差し支えないのではなかろうか。

 

 また、アラタ達からすれば、早い段階から屋敷に居る念能力者を全て把握する必要がある。その中に居ることが分かっているのだから、逃亡されても追跡しやすいように顔、身長、性別、声、そして、オーラ、その他個人識別情報をしっかりと知ることが重要なのだ。 

 正妻が念能力者を見分けられれば話は簡単だったのだが、彼女にそのような芸当はできなかった。そこで、アラタは、少なくとも5年以上風邪をひいていなくて、身体能力が高く、更に怪我の治りが普通より早い人間又はこれに近い人間を、分かる範囲でいいからアラタ達の訪問時に揃えてほしいと追加で正妻にリクエストした。結果が先程の濃い面子になる。いいセンスと言えよう。

 

 そして、怪しい奴が居たらアラタがヤジを飛ばすことになっていた。そう、アラタの見立てでは無口青髪メイドが淫獣。あんな訳分かんない淫乱(アラタ)を屁理屈で屋敷に招き入れようとするなんて通常の思考回路からは有り得ないからだ。どんな異常性を抱えているか知らないが怪し過ぎる。アラタはそう判断したのだ。

 容疑者を見つけてしまえば、客室での問答により念能力者の中からの怪しい奴探しを続ける必要がいったんは無くなるので、アラタのヤジを聞いたら、正妻が場を閉める手筈になっていた。それであのタイミングでアラタの滞在を認めたのだ。

 ちなみに、ヤジが不自然なパターンや怪しい奴をあの場で見つけられなかった時の合図もあったが、今回は日の目をみることはなかった。

 

 何はともあれ、こうして、クソみたいな方法での囮捜査(笑)が始まってしまったのである。




とりあえず、ピンク髪に合う服なんて分かんなかったからテキトーっす。
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